化学装置材料の基礎講座

第10回 ステンレス鋼の弱点に「鋭敏化」という現象があるそうですが、これについて教えてください。

   ステンレス鋼は、金属中のクロム(Cr)を主成分とする不働態皮膜が、金属表面に生成することにより耐食性を示します。耐食性を示す不働態皮膜は、ステンレス鋼中に最低13%程度のCrを含む場合に、安定的に生成すると言われています。

    代表的なステンレス鋼であるSUS304は、18%Cr、8%ニッケル(Ni)、鉄(Fe)基で構成されています。ステンレス鋼はCrを金属内に均一に分布させるために、一般に溶体化処理(高温から急冷する熱処理)された状態で市販されています。この状態で、14%から16%程度のCrが金属内に分布していると言われています。Cr濃度が18%より低いのは、Crの炭化物等が生成するため部分的にCrが凝集されているためです。

   ステンレス鋼が、材料として成分が適切に管理されていない(例えば炭素濃度が高い)とか、材料出荷前の熱処理が適切でないとか、機器として製作される過程で不適切な熱処理を受けた場合に、「鋭敏化」と呼ばれる耐食性の劣化現象が生ずることがあります。

   「鋭敏化」は、図1に模式的に示す様に、不適切な熱履歴等により金属内の結晶粒界に沿ってCr濃度が13%を下回る、Cr欠乏部(Cr濃度が13%以下となる部分)が生成する現象です。これは、不純物である炭素が結晶粒界に存在し、不適切な熱履歴等によりCrを含む炭化物(例えばCr23C6)が粒界に生成、成長するため周囲のCrを集めてしまうためです。

鋭敏化状態の説明(Cr濃度の分布)

図1.鋭敏化状態の説明(Cr濃度の分布)

   溶体化処理されたステンレス鋼を、種々の高温で保持した場合に、特定の条件で「鋭敏化」が生じます。その条件を模式的に図2の実線(□部分)に示します。この図に示す様に、およそ600℃から800℃弱で、最も短時間で鋭敏化が生じます。また低温側(500℃から600℃)では、長時間側で鋭敏化が生ずる条件に入りますが、高温側では、長時間側で鋭敏化から回復することもあります。

鋭敏化発生条件の模式図

図2.鋭敏化発生条件の模式図
(A:炭素濃度の低い材料へ変更した場合、B:塑性変形を受けた材料の場合)

   この鋭敏化は、Aで示した様に炭素濃度の低い材料へ変更する(SUS304からSUS304LなどのL材の採用)と、Cr炭化物を作る炭素自体の濃度が低いために鋭敏化発生条件が長時間側にずれ、鋭敏化自体が生じにくくなります。また、SUS304の場合に、Bとして示した様に塑性変形を受けると(で示す)鋭敏化域が低温側に拡大し、容易に鋭敏化が生ずることになります。このため、溶接等の軽度の熱履歴によっても鋭敏化する可能性が生じます。

   以上より、鋭敏化を回避するためには、以下の対応策が考えられます。

  • 低炭素(L材)もしくは安定化ステンレス鋼(SUS321、SUS347)を採用する。
  • 材料購入時の溶体化処理の確認や、製作時の熱履歴や溶接入熱を管理する。
  • 機器や配管の製作後に、10%シュウ酸電解エッチング試験法などの非破壊検査により、鋭敏化していないことを確認する(もしくは検収条件とする)。

   鋭敏化の非破壊的な評価方法に関しては、別の機会に紹介します。

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