化学装置材料の基礎講座

第15回 社内・外の事故事例等に関する技術情報を「水平展開」する場合に、考慮すべき点を教えてください。

   事故等に関する社内外の技術情報を得た場合に、同種の事故の再発を防ぐために情報発信や指示を水平展開することが有益ですが、以下の各項に考慮する必要があると考えます。

  1. 1.
    損傷発生の条件や機構が明確に把握され、本質的に正しい情報を発信する
  2. 2.
    発信する情報には、それを受信し活用する側の視点にたった具体的な対応策を明示する
  3. 3.
    情報の種類により、得られた情報の発信先を選定し、適切な部署に向けてのみ発信する
  4. 4.
    発信情報への対応の重要性や緊急性を明確化する(例えばランク付け)

   これらに関して、若干の解説を加えます。

   情報の中に、損傷の発生条件や損傷形態などの基本的要因や、現象の発生機構が含まれていないと、情報を受けた側が情報を誤って受け取ったり、もしくは適切な対応策を執れなかったりする可能性が高くなります。このため、第1項を配慮する必要があります。

   また、第1項と第2項に関連しますが、(特定の条件である事象が生じた、というような)単なる事例情報のみを発信した場合、それを受けた側で解析や検討を行い、対応策を策定する必要が生じます。しかし、得られた事例情報に対して、受信側が個別に検討し、適切な対応策を作ることは実際的に不可能な場合がほとんどです。従って、下記の表1に例示するように、発信側で事例情報を知識化するまでの加工もしくは深化させてから配信する必要があります。

   情報は、それが多いほど個別の対応が不正確になる可能性が高くなります。このため、第3項に示したように、情報の種類や関連装置等に応じて適切な部署を選定し、そこへ限定して情報を発信する必要があります。

   第4項に示すとおり、発信した情報を受け取った側がどのような対応を何時までに採るべきか、また対応策を採った結果の報告することも必要かなど、発信情報の重要性、緊急性を明確化する必要があります。例えば、次の3種類にランク付けすることが考えられます。

  • ランク1:情報として知っておき、関連する条件が顕在化した時点で対応を取る
  • ランク2:基準や技術標準に反映させ、今後の対応に活かす
  • ランク3:関連する装置の設計や検査を緊急で見直し、その結果を情報発信元に連絡する

   以上の対応を行うには、事例等の情報を水平展開するためのルール化やシステム化を社内で行う必要があります。また、このシステムでは種々の技術領域の専門家がグループを作って、情報の分析や対応策の明確化、発信先の選定を行う必要があります。



表1.知識の構造化(小宮山宏:「知識の構造化」、オープンナレッジ(2004)を参考に例示)
段階 例  示
情報 5%、常温硫酸水溶液でステンレス鋼に全面腐食が発生した
【ある条件で、ある現象が起こった情報のみ】
組織的情報 同種の環境と材料の組合せでの、使用実績(腐食発生や発生なし等)の情報を集める
【複数の事例情報は集まったが、傾向や耐用限界などは不明確な段階】
知識 硫酸濃度や温度でのステンレス鋼の耐用限界が明確になる。また、その科学的な意味も把握された
【科学的に現象が明確に把握され、同様の材料と環境の組み合わせで、腐食発生の有無を推定できる段階】
知恵 酸環境中のステンレス鋼の全面腐食挙動が科学的に把握され、応用や判断が可能
【知識が統合され、内面化された段階】
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