化学装置材料の基礎講座

第24回 2相ステンレス鋼とはどのような材料ですか。耐食性などについて、SUS304やSUS316との違いを教えてください。

   ステンレス鋼を金属組織の種類で分類した場合、SUS304やSUS316はオーステナイト系ステンレス鋼に属します。これに対し、2相系ステンレス鋼とは、オーステナイト組織とフェライト組織が混合した金属組織を有するステンレス鋼です。JISでは、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4Lが2相系ステンレス鋼に属します。

   SUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼や2相系ステンレス鋼は、いずれも、耐食性の要求される化学装置材料などに利用されますが、2相ステンレス鋼は、SUS304やSUS316に比較して、以下に述べるような優れた特徴があります。

  1. (1)
    耐酸性などの耐食性がSUS304やSUS316に比較して高い。
    当化学装置材料基礎講座の第5回で、各種ステンレス鋼に全面腐食の発生する限界pHを示す図を挙げています。
    図に示すように、全面腐食発生の限界pHは、SUS304が約2、SUS316が約1.5に対し、2相ステンレス鋼である25Cr-5Ni-4Mo-Nbは約1であり、より高濃度の酸に対して耐食性を有します。
    また、SUS329J3LやSUS329J4Lは、すき間腐食もSUS304やSUS316に比較して発生しにくい材料です。
    耐食性がSUS304やSUS316に比較して高いのは、これらの材料に比較して、2相ステンレス鋼のクロム濃度とモリブデン濃度が高いため、不動態皮膜の耐食性が優れているためです。
  2. (2)
    塩化物応力腐食割れに対する耐性に優れている。
    SUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼は、塩化物イオンを含む中性水溶液中で応力腐食割れが発生する場合があります。
    SUS329J4Lは、SUS304やSUS316に比較して、塩化物応力腐食割れ発生の限界温度が高いとされています。 SUS304で50℃程度とされている限界温度が、2相ステンレス鋼の場合に180℃から200℃程度とされています。
    塩化物応力腐食割れを抑制するには、ニッケル含有量を40%程度以上に増やすことも有効ですが、非常に高価な材料となります。2相ステンレス鋼は、ニッケル含有量が比較的少ないため、ニッケルを増量するより安価に塩化物応力腐食割れを抑制する場合ことが可能です。
  3. (3)
    SUS304やSUS316に比べ強度が高い。
    JIS規格で、SUS304とSUS316の引張強さは、520N/mm2以上であるのに対し、SUS329J4Lの引張強度は620N/mm2以上です。また、引張強度に順じて、疲労強度も高くなります。
    (1)項、(2)項で述べたような高い耐食性に加え、ある程度高い強度が求められる場合に利用されることがあります。

   2相ステンレス鋼は、SUS304やSUS316に比較してやや高価な材料ですが、これらの長所を生かし、工業用水や海水を用いた熱交換器や塩化物イオンを含むプロセス環境に接する機器などに利用されています。

   なお、冒頭に述べたとおり、2相ステンレス鋼は、オーステナイト組織とフェライト組織が混合した金属組織を有しています。付図に示すように、クロム濃度の高いフェライト組織(海)の中にニッケル濃度の高いオーステナイト組織(島)の存在する、いわゆる海島組織となっています。この組織のバランスが耐食性上重要で、このバランスが崩れると耐食性が低下します。例えば、溶接部では、急熱急冷を受けるので、フェライト組織が多いバランスとなります。このため、溶接部では母材部に比較して、耐食性の低下する場合があります。

付図:2相ステンレス鋼の組織写真

付図:2相ステンレス鋼の組織写真

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