化学装置材料の基礎講座

第25回 水溶液中の炭素鋼などは、脱気することにより、腐食が抑制できると聞きました。溶存酸素と腐食の関係を教えてください。

   大気に接する淡水中(ほぼ中性水)には、常温でおよそ8ppmの酸素が含まれます。液中に溶け込んだ酸素を溶存酸素と言います。また、液中の溶存酸素を除く操作を脱気と呼びます。(厳密には、溶存酸素に限らず、液中に溶け込んだ気体成分を除去することを脱気と称しますが、ここでは、溶存酸素を除くことを脱気と呼びます。)

   溶存酸素は、金属材料に対して酸化剤として働き、酸化反応を促進する作用があります。金属の腐食は酸化反応ですので、溶存酸素は腐食を加速します。淡水中での炭素鋼などの場合、脱気することで腐食は抑制されます。例えば、マンションで使用される上水の赤水防止対策として、配管の腐食を抑制するために脱気が行われることがあります。

   また、塩化物を含む水溶液において、ステンレス鋼のすきま腐食や応力腐食割れなどの局部腐食は、酸化性が高いほど加速されます。脱気によりステンレス鋼の局部腐食は抑制される方向に働きます。しかし、溶存酸素濃度や塩化物イオン濃度により、脱気しても完全に局部腐食を抑制できない場合もあります。

反応式

   このように、弱酸から弱アルカリまでの淡水や海水環境などほとんどの水溶液環境では、脱気することで腐食は抑制されますが、ある種の材料と環境の組み合わせで、脱気することで腐食が加速する場合があります。これは、溶存酸素を含む適度に酸化性のある環境で不動態皮膜が安定であり、脱気することで不動態皮膜が安定に存在できなくなる場合です。例えば、数%以下の低濃度の常温硫酸環境において、SUS316は溶存酸素を含む方が、脱気するより高い濃度まで耐食性を示す場合があります。

   代表的な脱気の方法は以下のとおりです。
必要な脱気能力、設備や環境上の制約で、脱気の方法を選択します。これらの方法で脱気した後には、酸素(大気)と接しないような管理が必要です。

膜 脱 気 気体のみが透過する微細孔を有する膜を介して減圧し、液中の気体成分を除く。
窒素など、他のガスを吹込む 液に接する気体の酸素分圧を下げることで溶存酸素濃度は低下する。
減  圧 液に接する気体の酸素分圧を下げることで溶存酸素濃度は低下する。
沸  騰 沸騰により、水溶液中の溶解度が低下する。
酸素の還元剤(脱酸剤)添加 酸素と反応する還元剤を添加し、溶存酸素を除去する。代表的な薬剤としてヒドラジンがあるが、ヒドラジンは発がん性を有するため、管理に注意が必要である。

付図 溶存酸素濃度と炭素鋼の腐食速度の関係(模式図)

付図 溶存酸素濃度と炭素鋼の腐食速度の関係(模式図)
(注:電解質を含む常温の低流速水中の例であり、 成分や流速等の条件により、
腐食速度の値や 溶存酸素濃度に対する傾向は変化する。)

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