化学装置材料の基礎講座

第4回 チタンは、水素を吸収して脆化するとのことですが、その発生条件や特徴を教えてください。

   化学装置の耐食目的には、主に工業用純チタン(TP340等)やチタン合金(TP340Pd等)が用いられます。これらの材料が使用中に水素を吸収し、脆化する環境条件としては、以下の3つが挙げられます。

  1. 1.
    チタンに、全面腐食の発生する環境(例えば、硫酸や高濃度アルカリ溶液)
  2. 2.
    チタン自体は腐食しないが、腐食するステンレス鋼等と接触した状態で使用する場合
  3. 3.
    水素ガスの共存する環境

   以上の中で、1項は、チタン自体の腐食にともない、チタン表面で発生する発生期の水素を吸収します。ただし、硝酸などの酸化性環境では、腐食にともない水素が発生しないので、水素吸収は生じません。2項の場合に、チタン自体に腐食は発生しないのですが、接触している金属の腐食にともない、チタンの表面での水素発生反応が加速されます。このため、その発生期の水素を吸収します。3項は、水素が高圧で存在し、かつ水分が少ないなどチタンの耐食皮膜の形成が不十分な場合に水素を吸収します。

   チタンの健全(水素を吸収していない)金属組織と水素を吸収した金属組織を写真1および写真2に示します。これらによりわかるように、チタンは水素を吸収すると、金属内に針状の水素化物 (TiH1~2)を形成し脆化します。 このため、チタンの水素脆化は「水素化物形成型脆化」と呼ばれることがあります。これに対して、高強度鋼における水素吸収は、金属の結晶格子内に水素が侵入して脆化するので、「水素侵入型脆化」と呼ばれることがあります。

写真1:水素吸収していないチタンの金属組織

写真1:水素吸収していないチタンの金属組織

写真2:水素を吸収したチタンの金属組織写真(黒い線状の部分がチタンの水素化物)

写真2:水素を吸収したチタンの金属組織写真
(黒い線状の部分がチタンの水素化物)

    チタンは、水素を吸収すると、吸収した水素濃度によりますが、破断伸びが低下したり、強度が低下したりします。一般的に、水素濃度500ppm以下程度であれば、通常の変形速度での機械的特性の低下は小さいです。しかし、シャルピー試験のように急速な変形を加えると、水素濃度100ppm以下でも脆化が顕在化することがあり、注意を要します。

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