化学装置材料の基礎講座

第6回 化学工場で多く使用されている炭素鋼製多管式熱交換器の、冷却水側からの腐食を抑制するためには、どのような点に注意すればよいのですか。

   冷却水(海水は除く)で冷却する炭素鋼製多管式熱交換器では、冷却水側から孔食状の腐食が発生し、最終的には貫通し漏れに至ります。これを抑制するためには、設計段階、運転段階および検査・診断段階で以下の注意が必要です。

設計段階

  1. 1.
    可能な限り、冷却水を管内側に流す。
  2. 2.
    熱交換器の置き方としては、横置きが縦置きより望ましい。
  3. 3.
    伝熱面積を適切に設計し、冷却水の流速を1m/sec程度に設定する。
  4. 4.
    伝熱面の温度を、スケール障害が生じないように適切に設定する。 具体的には水質によるが、例えば伝熱面の温度を60℃以上にしない。
  5. 5.
    適切な冷却水の種類や管理を選択する。一般に、硬度の高い水の方が腐食は抑制されるが、逆にスケール障害の発生する可能性は高くなる。
  6. 6.
    定期検査時の検査が、可能な構造とする。

運転段階

  1. 1.
    冷却水水質の管理範囲(電気伝導度、塩化物イオン濃度、細菌数など)を決めて、 その範囲に入っているかの継続的な監視を行う。
  2. 2.
    冷却水の流速が、0.5m/sec以上程度に維持する。流速を監視するための、計器を設置しておく。

検査・診断段階

  1. 1.
    開放検査時に、目視で金属表面のサビの発生状況や安定性、および付着物の状況を観察する。
  2. 2.
    検査周期を決めて、水浸法超音波検査もしくは抜管試験を行い、孔食の発生状況を把握する。なお、この場合に、極値統計を活用して熱交換器全体としての最大孔食深さを推定することは、有効である。
  3. 3.
    以上の検査の結果からの漏れに至る寿命の予測、および漏れた場合のリスクを評価して、熱交換器の更新時期を決める。

    図1に、冷却水の流路および置き方と漏れ発生率の調査結果を例示しますが、炭素鋼の孔食を抑制するためには、設計段階で冷却水を管側に流すことや、運転段階で冷却水の流速を0.5m/sec以上程度に保持することが、特に重要です。

    これは、孔食の発生や進行に炭素鋼表面の均一性が大きく影響するからです。冷却水を熱交換器のシェル側に流すと、管側に流す場合に比較して、流速を均一に保つことが不可能になります。また、冷却水の流速が遅い(例えば0.5m/sec以下)場合、炭素鋼の表面にスラッジ(土砂等)堆積やスライム(微生物)付着が生じ易くなり、均一性が保てなくなるためです。

図1.炭素鋼多管式熱交換器の 冷却水流路およびおき方と漏れ発生率
(化学工学会、化学装置材料委員会調査結果、1990)

図1.炭素鋼多管式熱交換器の 冷却水流路およびおき方と漏れ発生率
(化学工学会、化学装置材料委員会調査結果、1990)

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