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最新の住宅不動産通信

「分厚い中間層」は復活できるのか
〜ストック大国で生産年齢人口減少に対応を〜

第5号

主席研究員 川口 満

 

 野田首相は就任時の所信表明演説の中で、分厚い中間層を復活させると謳いました。1億総中流と言われた時代が去り、高齢化が進むとともに人々のあいだに格差が生じ、生活に困窮する家族が増えているとの認識が背景にあります。米国でのウォールストリート占拠やヨーロッパでの若年失業者の暴動など貧富の差が引き起こす社会の動揺は、他人事ではありません。ちょうど1月末に国立社会保障・人口問題研究所から、長期的な日本の人口動向を予測した将来推計人口が公表されました。将来の社会予想の基礎資料というべきものですから、その内容にコメントしておきます。
 この推計は平成22年の国勢調査の結果にもとづいて行われます。高齢者の急増、都市部への人口集中、単身世帯が多数を占めるなどの傾向がみられることは、この通信でも以前に述べたところです。ただその傾向が続くとどういう社会になるかは、この将来人口推計をもとに予想するしかありません。

 

人口推計は信頼性高い統計だが、長期的推計には政策的バイアスがある

年齢3区分別人口の推移

 推計方法は、同年に生まれた集団(コーホートと称します)ごとに女性の出生率、男女の生残率、国際人口移動率などの複数の仮定にもとづく推計を出し、それをあわせて総人口の推計とするものです。仮定条件は直近の統計実績にもとづき、いくつかの調整を経て将来予想に「投影する」とされます。人口統計学からすれば、過去の傾向の延長(若干の調整はありますが)で将来を見ていることになります。
 年齢3区分による将来推計人口を示したのが上のグラフです。団塊世代の大きな集団が生産年齢人口から老年人口へ移ることで、ここ数年は大きな変化を迎えていることがわかります。さらに生産年齢人口の減少がかなり長期にわたって続くことも目を引きます。人口推計は、様々な統計のなかでは最も信頼できる推計だといわれています。現在の人口に年齢別、性別の出生率、死亡率等を当てはめれば将来の人口構造は自ずと明らかになるからです。政策的に対応できるのは、これから生まれてくる子供の数をいかに増やすかですが、成人するまでは労働力として寄与することはありません。このグラフを見るだけで、社会保障費用を担う労働力人口の減少は構造的なものとわかります。
 今回の人口推計では、注目すべき点がありました。これまで、新しい推計が発表される度に、将来人口、将来の出生率が下方修正されていたのですが、今回推計では、わずかですが上方修正されています。

 

合計特殊出生率(TFR)の仮定と2050年推計人口の推移

 これまでも、人口推計は社会保障の公的年金の制度設計の要として、新たな人口推計が出される毎に年金財政の再計算が行われ、保険料率等の見直しが行われてきました。そのため、年金負担を低位に抑えるために、出生率を高めに見ているのではないかと疑われることがありました。
 確かに、景気の停滞などから晩婚化が進展するなど想定外の事態もありましたが、中位推計の合計特殊出生率は2002年推計までは直前の実績を上回って設定され、人口減少に歯止めがかかる推計となっていました。しかし、前回の推計からはほぼ直前の実績の数値となっており、その意味では、人口推計が現実の少子化を織り込んできたといえるのではないでしょうか。今後は、人口推計が上方修正されるような、抜本的な少子化対策が求められているといえるでしょう。

 

生産年齢人口が減少するなか、分厚い中間層をどのように形成するのか

 将来推計人口で生産年齢人口の減少が確実になるなか、国を支える労働力の中心となるべき中間層を分厚く形成するためには何が必要なのでしょうか。
 中間層という言葉は、歴史的にはマルクスが労働者(プロレタリア)と資本家(ブルジョワ)という二大階級の間に位置する農業、自営業者の層を中間層とよんだようです。今では、新中間層として事務・サービス・販売関係業務にあたるサラリーマン、ホワイトカラーなどを指すようです。日本はすでに圧倒的多数が給与所得者となっていますから、労働力人口の多くが中間層となります。しかし、政策的に中間層を増やすというときは、単に給与をもらっているのではなく、家計所得として余裕があり安定した生活を享受できる世帯(=中産階級)を増やすという意味にとらえるべきでしょう。野田首相が模範とするイギリスのサッチャー首相が、従来の階級社会を脱して「ミドルクラス」が中心となる安定を指向したようなものです。ある意味で極めて保守的なものです。
 分厚い中間層を形成するためには、家計所得の安定をいかに図るかがポイントになります。所得は通常、フローとストックから生じます。フローの代表的なものが労働の対価としての給与です。しかし、高齢社会において、給与所得の伸びが抑えられている中では、労働の対価である給与や勤労世代からの仕送りともいえる年金だけをあてに余裕ある生活を実現することは至難のわざです。
 ストックとは所得を産む資産のことです。有価証券や預金などの金融資産や土地や建物の不動産が代表的資産です。高齢社会とはある意味で、ストック(=貯蓄)社会ともいえます。日本の預貯金の大半は高齢者が所有しているからです。2011年の貿易収支が31年ぶりに赤字に転落し、貿易立国から投資立国への転換が言われていますが、国内においてもストック(=資産)の有効活用が求められていると言えるでしょう。経済が成熟した日本において、過去の貿易黒字の蓄積である海外への投資の配当で貿易赤字を賄い、必要な資源や食料を輸入するのと同じです。

 

資産の活用を促す市場整備こそが安定的な中間層の支え

 したがって高齢社会において、分厚い中間層を育てるとは、国内の資産をいかに有効活用するかと同義だといえるでしょう。これまでは、預貯金や株式投資などが資産運用の中心でした。しかし、リーマンショック後の世界の金融市場は、最も安全といわれた米国の国債の格付けすら下げられ、ユーロ危機の動向次第では、大手金融機関の経営でさえ安泰とはいえない時代です。金融危機が終息するまでには、今しばらく時間を必要としているようです。金融規制の強化も模索されており、金融にとっては冬の時代の到来がいわれます。
 そんななかで改めて注目されるのが不動産関連の資産です。これまで持家としての住宅取得ばかりが支援されてきましたが、これからは高齢者が所有している不動産を活用する観点からも、賃貸、売買、リフォームなどの流通市場を拡大することにも力をいれるべきでしょう。土地の有効利用により、賃貸収入を得ることも資産の運用法として積極的に取り組むべきではないでしょうか。不動産の活用が可能ならば安定的な収入の確保することも期待できるのです。
 住宅政策は、サービス付き高齢者向け住宅などに限定せずに良質な賃貸住宅の供給を促進し、高齢者の住まいの安心ばかりではなく、子育て世代の職住近接の便を図ることなどに範囲を広げるべきだと考えます。これは不動産の所有から利用へ、新築のフローから既存住宅のストックを活かす政策への大きな流れに沿ったものです。また資産の有効活用のために不動産市場の活用・整備が進めば、子育て世代や高齢世代にとって、ライフサイクルに応じた多様な住まい方の選択が可能にもなるでしょう。

 

(2012.2)



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