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ハビトゥス研究所

 

 

Habitus EYE  VOL.45 2017/7/05
くらしの変化とマーケティング・トピックス

ハビトゥス(Habitus)とはラテン語で、習慣、行動様式、ものの見方、 感じ方などを意味しています。

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《今月のコンテンツ》
■第13回Habitusマーケティング研究会  講演概要 (2017/2/15開催)
 「家電をつくる、ということ」
       中澤 優子氏
              株式会社UPQ(アップ・キュー)代表取締役CEO

 

 はじめに
 店頭に人を呼び込むことのできるUPQ製品
 中国での工場の変化を目の当たりして、深センでものづくりを決意
 同じ会社のチームでなくても、思いを込めたものづくりはできる
 カシオ時代に学んだ、黙っていても売れるものをつくるということ
 目指すのは「昭和のものづくりの魅力」をもった製品をつくること
 

 

■第13回Habitusマーケティング研究会 講演概要

「家電をつくる、ということ」

 第13回Habitusマーケティング研究会は、株式会社UPQ(アップ・キュー)代表取締役CEOの中澤優子氏をお招きしました。UPQは2015年7月の創業以来、驚異的なスピードで多数のオリジナル家電を開発し、様々なヒット商品を生み出す家電ベンチャーとして注目されています。展開している商品は64製品に上ります。(17年2月時点)折りたたみ式の電動バイク「UPQ BIKE me01」はTVでも紹介されたことで、急遽、追加生産が決まるなど、他の家電メーカーにない斬新な発想や製品ラインアップで家電業界に新風を吹き込み、海外でも高い評価を得ています。
 中澤氏には、事業スタートの経緯、独自のものづくりへの思いや商品開発についてお話いただきました。以下は講演概要です。

 

1.はじめに

 2015年7月に一人で株式会社UPQを起業した。企画立案からわずか2ヶ月で一気に17種類、24製品の商品を発表したベンチャーとして、たくさんのメディアに取り上げていただいた。その事がきっかけで、家電量販店などの多くの販売店に声をかけていただき、現在、延べ260店舗の実店舗で取り扱っていただいている。1年半が経ち、製品数も41種類64製品になった(2017年2月時点)
 創業当時、メディアが「一人家電」と、取り上げていた。プロダクツより私を記事に取り上げてもらうことが多かった。女性で文系出身者がメーカーを立ち上げてものづくりをしているということが珍しいという理由から、記事に取り上げられたのだと思う。実際のところは、新卒でカシオ計算機に入社した当時から製品開発に関わっていたので文系とはいえ図面も仕様も読めるし指示もできたのだ。また、起業をしたのは、私一人だが、ファブレスでものづくりをしていて、委託先の海外の工場には、UPQのブランディングを理解し、UPQチームの一員であることを意識してもらいながら、ものづくりをしてもらっている。そういったメンバーが海外にいて、国内には、営業、物流など5人のスタッフがいる。

 

2.店頭に人を呼び込むことのできるUPQ製品

 最初に声をかけてくれたのは、「二子玉川 蔦屋家電」で、その後、ビックカメラ、ヤマダ電機などの大手家電量量販店や三越伊勢丹、パルコ等の百貨店系にも取り扱っていただいている。メーカーでの経験から商社や家電量販店との付き合い方には一定のルールがあり、ベンチャーが製品を店頭に置いてもらうことは難しく、当初はネットショップで売るというスモールスタートで良いと考えていた。
 しかし、家電量販店の販売状況も変化していることがわかった。今や家電は、価格.comなどの価格比較サイトでレビューを見てネット経由で購入する人が多く、お客様に店頭にお越しいただくのが難しくなってきている。そのような状況を打破するため、店舗に人を呼び込むことのできる、どこにも置いていない、面白い製品を取り扱おう、それはベンチャーでも構わないという考えが生まれてきていた。現状の取扱店舗は、すべて販売店側から問い合わせがあり、店頭に置いていただいている。私達の商品は、大手メーカーとは異なり、去年より1%でも多く置いて下さいとか、何万台という数の交渉ではない。置いた店舗にはお客様が集まり、製品も売れて、不具合等の際もキチンと対応することで信用していただいている。店舗からも、次回は、もっと面白いものを出して欲しいと言われながら、ものづくりを続けている。

 

3.中国での工場の変化を目の当たりして、深センでものづくりを決意

 現在、工場自体は中国が多いが、日本、中国、台湾、韓国、香港、バングラディシュなどの様々な国の人たちとものを作っている。
 私はメーカー時代に中国での生産・OEMの体験をしていたので、納期やコスト面で中国でのものづくりは難しいと考えていた。しかし、最近、中国でハードウェア、IoTのプロダクトをつくるベンチャーが増えていて、全く製造したことのない製品であっても1,000台、場合によっては500台から請け負ってくれる時代になっていると聞き、中国でのものづくりを考えるようになった。そこで、自分の目で確かめるため、一人で初めて深センに入り工場を巡った。

株式会社UPQ 代表取締役CEO  中澤 優子氏

 最初に訪問したのがスマートフォンの工場で、初日に2、3カ所回ったところ、どの工場も5,000台くらいで請け負うという。09年、10年の大手メーカー時代は、100万台つくらないとペイしないと言われていたので、驚いた。単価も安く、60ドル前後で作れるという。サムスンやパナソニックなどの大手企業が工場から手を引いてしまい、空いてしまった工場のラインを稼働させたいと、5,000台、1万台でも請け負うという時代になっていた。
 携帯電話でこの状況なら、アンテナのない家電やディスプレイはもっと少ない数でも請け負うのかと聞くと、やはり500台から1,000台でも作るという。このような中国の状況が解ったのが、15年の6月頃で、これで、自分のやりたいことが組み上がると確信し、7月に起業し、8月にUPQブランドをリリースして販売を開始した。

 

 

 

 

4.同じ会社のチームでなくても、思いを込めたものづくりはできる

 工場は、UPQの専属工場ではないが、私が頻繁に工場まで出向いては、確認や指示をしている。最終的には、出荷前にトラックに積むところまでチェックしている。毎週のように工場とやり取りしていると、スペックシートでこうだったという話でなく「優子、これでいいのか?これは、もうちょっとこうした方が良くなるんじゃないか」と提案をしてくれるなど、社内のチームメンバーと同じような感覚になる。
 同じ会社のメンバーでなくても、ものづくりが出来ると確信したのは、カシオ時代の経験からだ。新卒で入社後、日立とカシオの合弁会社のカシオ日立モバイルという会社で携帯電話を作っていた。そこには、カシオや日立の社員だけでなく、ハードや機構設計の協力会社、派遣社員やアルバイトの人まで、いろいろな人がいた。それぞれ、所属は異なってもて、同じ目的でものづくりをしていた。一緒に徹夜して過ごしたり、完成した商品をわざわざ自分でショップに行って購入して使うなどという愛着もあった。その体験から同じ会社に所属していなくても、思いを込めてものづくりをすることができるということを学んだ。工場が海外でも同じで、所属が違っても、委託業者であっても、一緒にものづくりに思いを込めることできると考えている。今でも、工場側など、ものづくりに関わるメンバーをどのようにして、引きこむかを考えながら動いている。結果的に、海外にも、ものづくりの仲間が増え、良い商品を作りたいという同じ精神でやってくれる人たちがUPQの製品に携わってくれている。所属や国籍は関係ないということを、改めて身に沁みて感じている。
 

5.カシオ時代に学んだ、黙っていても売れるものをつくるということ

 カシオ時代、「黙っていても売れるものをつくるのが商品企画や開発の仕事で、黙っていても売れるものをさらに広めるのが営業や広報の力だ」と言われた。「黙っていても、売れるものを作れるようになったら、一人前の企画者だ」と言われて育ってきた。なので、UPQ製品は、人を惹きつけ、黙っていても売れるということを実践していきたいと考えている。UPQは、費用をかけてPR会社に依頼して新製品発表会等を開くといった広報活動はしていない。時代的に「ベンチャーを女性が立ち上げた」ということで注目されたとは思うが、あくまでも、UPQの力、製品にインパクトがあったので、ここまで来ているのだと思う。

 

6.目指すのは「昭和のものづくりの魅力」をもった製品をつくること

 毎シーズン、大量の家電の新製品が開発されている。しかし、最近、ものづくりが面白くなくなってきているように感じている。いままで市場になかったような面白いものが登場した時は売れるが、すぐに他社が追髄して、先ずスペック競争になる。スペック競争も必ず高止まりになり、次は価格が下がる。その後、デザインで高付加価値を、ということになり、それも拡がると単なる着せ替えのようになり、結局、どこがつくっても同じものではと、企画自体やものづくりが楽しくなくなる。
 UPQは、こんな時代だから、ベンチャーだからできる挑戦の仕方で「昭和のものづくりの魅力」をもった製品づくりを目指している。「昭和のものづくりの魅力」とは、メーカーとして、どのようにユーザーをわくわくさせるか、次は一体何を出してくれるのかと期待をしてもらえる製品をつくりだすことだ。これは、非常に大事だと思っている。  UPQは、名もないベンチャーだからこそ、次に何を出してくるのだろうかと思わせる製品ラインアップやカラーの仕掛けを考えている。カラーはベンチャーだからチャレンジできる普通の家電ではあまり見かけない色で、シーズンごとにコンセプトカラーを追加している。追加生産を繰り返すのではなく、売り切れ御免で出している。製品ラインアップは、いい意味でユーザーの想像を裏切るような、ワクワクさせる製品や品揃えを心掛けている。

電動バイクUPQ BIKE me01

 16年8月に超小型折りたたみの電動バイク「UPQ BIKE me01」の販売を開始した。電動の原付バイクは、関東運輸局に、どれくらい販売されているものか尋ねたところ1,000台以上出たら大ヒットモデルだと言われた。これは、速度も出ないし、100台も売れないのではとも。一方、販売店の予想は、全く違っていて、1店舗あたり、30-40台売れると言われ、私自身も15台くらいかと思っていたところ、販売を開始して、1日で120台売れた。さらにこの電動バイクがTVで紹介されると数時間後には、取扱いをしている家電量販店さんのECサイトに注文が殺到していて、直ぐにバックオーダーをとっても大丈夫かと、担当者からの問い合わせが来た。この体験を通じて、ものが売れない時代と言われているが、珍しいし、乗ってみたい、これが欲しいと思っているものに対しては、人もお金も動く。ものの魅力に加え、TVでは、私が開発者として、話をさせてもらった。つくった人の顔が見えるものづくりが、最近、少なくなっているので、顔の見えるものづくりという点でも、応援してくれたり、ものを買ってくれることを実感している。
 ものづくりは、大変で辛いこともある。しかし、わくわくしてもらえるような、次に何が出るか待ってもらえるようなものをつくることは、作り手の精神も豊かになるし、買う側の気持ちも豊かになる。このようなことを常に考えながら、私たちはものをつくり続け、知恵を絞り続けている。■

 

 

・・・ 編集後記 ・・・

 中澤氏は「ものづくりが好きな人」という印象が強かったが、講演を聞いて、作り手としてものづくりへの強い思いがあるだけではなく生活者が何を求めているかを見抜く力もを持っていることがよくわかった。作り手と生活者という両方の立場から、どのようなものであれば喜んでもらえるか、驚いてもらえるかを常に考えている。講演の最後にあった「作り手の精神も豊かになるし、買う側の気持ちも豊かになるものづくり」。だからこそUPQ製品は、工場現場を動かし、販売店や生活者を魅了するのだろう。(新井佳美)