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インタビュー

松屋銀座のカリスマバイヤー宮崎俊一氏。スーツの価値、パターンオーダーの楽しみ方を、百貨店ならではのアプローチで伝えたい。

松屋銀座のカリスマバイヤーとして、長年ものづくりの原点(現場)から携わる宮崎俊一氏。その徹底したこだわりや、スーツの価値についてお伺いしました。

全工程に一貫して携わる、ものづくりへのこだわり 私はこれまで、松屋銀座の紳士服バイヤーとして、生地の買い付けだけでなく、ものづくりを主導しながら販売をしてきました。
ものづくりにおいては、糸や生地の調達、デザイン、原価の計算、縫製工場探しや技術指導まで、全工程に一貫して携わります。これによりコストを抑えられ、品質も追求することができるのです。バイヤーでここまでする人はなかなかいないと思いますが、私は、似たような品揃えになりがちな百貨店業界の中で、松屋銀座にしかできないものを作るために“ものづくりの原点(現場)”から関わりたいと思い、20年以上この方法をとってきました。

私に様々なインスピレーションを与えてくれるのは、昔から収集しているヴィンテージの服です。日本だけでなく世界各地で買い集め、今ではコートだけでも80着を超えました。あらゆる年代のものを見てわかるのは、1930年代の紳士服がその後に大きな影響を与えているということです。襟の大きなものやフレアのスーツなど、まったく違うデザインに思えるものも、30年代の焼き直しによるものなのです。ですから、ものづくりにおいて過去をどれだけ知っているかはとても重要なのです。
仕立てのいい昔の服を見ると尊敬とジェラシーが入り混じった気持ちになり「負けられないな」と思います。自分も「これだけは捨てずに置いておきたい」と思われる服を作って後世まで残したいし、50年後にヴィンテージとして見られても恥ずかしくないよう、絶対に手は抜けません。

混乱の中、急遽パターンオーダーに着手 最近はパターンオーダーの需要が非常に伸びています。松屋銀座ではオリジナルパターンオーダーとして2011年から手掛けていますが、実は必要に迫られ急遽はじめたものでした。
ある長崎の工場から「パターンオーダーのお仕事をいただけませんか」という話があり、見本にスーツを見せられたのですが、話にならないほど明らかに古い型紙を使ったものでした。でもよく見てみると、パッドの入れ方、袖付け、襟の立ち上がり方などの作りはすごくよかったんです。当時、松屋銀座としてオリジナルパターンオーダーはまだ扱っていなかったのですが、その作りの良さに興味が湧きました。工場に出向いてお話も伺った上で、半年後の秋の催事に向けて仕事をお願いすることを約束し、東京に戻りました。

その直後、東日本大震災が起こり、環境省が節電の必要性を踏まえて「スーパークールビズ」を提唱。「百貨店としてこれにどう応えるのか」「今からではとても間に合わない」と大混乱の社内会議の中、私の脳裏にはその工場が浮かんでいました。
「あの工場ならできるかもしれない」と、上司を説得して再び長崎に行き、工場に置いてあった薄いパッド、薄い毛芯、裏地用のベンベルグなどをすぐに抑えてもらいました。
それらを組み合わせ、副資材を最小限まで省いた盛夏仕様にして『スーパークールビズに対応したパターンオーダースーツ』として打ち出したところ、連日メディアから取材が入り、5月に開催した『男市』という催事では、2週間で600着のオーダーという、我々の予想を大幅に超える結果となったのです。

実はその工場、当時は倒産の危機にあったそうで、これをきっかけに持ち直すことができたと、後から聞いて知りました。その後もずっとパターンオーダーの仕事をお願いしていて、今も年に1~2回は長崎を訪れ、より着心地のいいスーツを“一緒に追求する”という関係を築いています。

着心地を追求した高品質の商品を、標準仕様で 松屋オリジナルのパターンオーダーでは、標準仕様で裏地にはベンベルグを採用しています。なぜなら、快適なスーツのために裏地がとても大事だからです。しかし、多くのお客様はこのことをご存知ありません。「静電気が起こらない裏地なんてあるの?」「ポリエステルやレーヨンと何が違うの?」という具合に、全く情報を持っておられないんです。恐らく他店では、通常ポリエステルを使っていてベンベルグにするとオプション料金が発生するという事情から、裏地の重要性をほとんど説明しておられないのではないでしょうか。お客様に「どれだけ最高級の表地を使っていても、裏地がポリエステルだとすると、肌に触れているのはペットボトルと同じ原料ですよ」と申し上げると目を丸くされます。「外からは見えない裏地に、表地以上の価値がある」ということをきちんとお伝えすることも私たちの使命だと思い、徹底しています。
他にも、型紙やプレス工程、フル毛芯など、とことん着心地にこだわって作っているので、それまでオフィスではジャケットを脱いでおられたという方も、「着たまま過ごすようになった」とおっしゃいます。

またボタンも、占める面積が小さいために安易に選ばれがちですが、女性のメイクに例えるとアイメイクのように、印象を左右する重要なパーツです。ですから、こちらも標準仕様でナット、水牛あるいは天然の蝶貝をお選びいただいています。ボタンホールの美しさにも手を抜きません。
価格を極力抑えることはもちろんですが、オプション料金なしで、高品質な裏地や天然素材のボタンの中からご自分で選べるというところにもパターンオーダーの楽しみが詰まっているわけですから、ここを存分に味わっていただくことも百貨店が提供すべき価値の一つだと思います。

潜在顧客にスーツの価値、そして楽しみを伝えたい 昨年新たに、一部の上場企業にお勤めの方を対象とした『松屋メンズクラブ』という会員組織を立ち上げました。完全予約制で、マンツーマンでトータルコーディネートをご提案するという会員制のサービスです。
ヨーロッパやアメリカの文化では「スーツは年収の約1%」と言われるのですが、日本では高収入でも多くの方が安いスーツを着ているのが現状です。つまり、スーツに価値を見出されていないんです。そして低価格であるが故に、粗雑な接客や度が過ぎる長納期も、そういうものかと受け入れてしまわれるのです。そういった方々に、「毎日着るスーツにどれだけの価値があるか」「いいスーツが仕事にどれだけプラスになるか」ということをお伝えするとともに、百貨店ならではの感動をご提供していきたいと考えています。
ですから、このサービスではあえて店舗に足を運んでいただくことにこだわっています。今は家にいてもクリック1つで物が買えて確かに便利ですが、それでは高揚感がありません。わざわざスーツをオーダーするために銀座に行くというモチベ―ション、そして私たちが用意したラウンジの空間をご堪能いただくことも価値の一部だと感じていただきたいのです。そのために、商品の充実や店舗の演出、そしてお客様からのどんなご質問にもわかりやすくお答えできる従業員など、あらゆる体制を整えられるよう努力しています。

これまでに、おしゃれに全く興味がなく奥様に言われて仕方なくお越しいただいていたという方が何人かおられましたが、皆さんお帰りの際には「こんなに楽しいとは思わなかった」とおっしゃいます。スーツ作りが“面倒”から“楽しみ”に変わり、「最初は、裏地もボタンも選ばされるのかと憂鬱に感じたけれど、1時間があっという間だった」などと笑顔で仰っていただくと、やはり嬉しいですね。私たちが追求すべきは利益よりも、いかにお客様にスーツの価値を感じていただけるか、そしてお客様に合ったご提案によってパターンオーダーの楽しみを知っていただけるか、ということです。それができれば数字は後からついてくると思っています。
イギリスでは、代々付き合っていく相談相手として「医者、弁護士、仕立て屋」と言われています。父親は息子が成人したら自分の行きつけのテーラーに連れて行ってスーツを作らせるんです。スーツのことなら何でも信頼して任せられる関係が出来上がっているということです。私たちもそういう存在でなければと思います。

昔から収集しているヴィンテージの服など

宮崎 俊一(みやざき・しゅんいち)

1965年、北海道生まれ。89年松屋入社。96年より紳士服バイヤー。欧州での生地買い付けや、松屋オリジナルブランド「アトリエメイド」の設立などを手がける。IFIビジネススクール、青山学院大学、首都大学東京、東京経済大学、横浜市立大学においてファッションビジネスのカリキュラムで講師を務める。
著書に『成功する男のファッションの秘訣60』(講談社)ほか。

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