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インタビュー

「YUIMA NAKAZATO」デザイナー 中里唯馬氏。オートクチュール こそ、ファッションの未来。

ベルギーの名門アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学び、卒業後、自身のブランド「YUIMA NAKAZATO」を設立、世界的アーティストの衣装デザインを手掛け、2016年からはパリ・オートクチュール・コレクションの公式ゲストデザイナーとして発表を続ける中里唯馬氏。これまでの歩みとファッションの未来について伺いました。

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ファッションにどう向き合うべきか問い続けたアントワープの日々高校時代のある日、新聞記事でアントワープ王立芸術アカデミーの存在を知りました。当時、日本人初の卒業生が出たと話題になっていたのですが、そのあまりにショッキングな作品に衝撃を受けました。芸術性を感じさせる洋服で、「どうしてこんなものを生み出せるのだろう、その背景を知りたい」という思いが湧き起こりました。そこから、ファッションにアート性と商業性の両面があること、世界中に素晴らしいデザイナーがたくさんいることなどを知るにつれ、どんどんのめり込んでいきました。私服の学校に通っていたこともあり、古着を自分でリメイクをするなど、もともとファッションは好きでしたが、趣味だけに留まらず、自分なりの美意識をファッションに落とし込んで表現してみたいという衝動に駆られ、自分もこの学校で学びたいと思ったわけです。
入学してすぐの頃は、日本の教育と大きく異なるスタイルに戸惑いました。先生と一対一で対話する授業があるのですが、そこで常にアイデンティティを問われていました。例えばデザイン画を描いて見せると「これは本当にあなたがやるべきデザインか、あなたでなければいけない理由は何なのか」と聞かれるのですが、「何となく...」などというのはあり得ないわけです(笑)。全て説明できなくてはいけない。そういったことを積み重ねる中で、自分はファッションにどう向き合っていくべきなのか、4年間かけて突き詰めていきました。

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衣装デザインの仕事を通して芽生えた"一点物"への思い 4年間の学びの集大成として、"過去の人が想像する未来"というテーマで卒業コレクションを制作しました。これが卒業後にインターネット上を回り回って世界的なスタイリストの目に留まり、「ブラック・アイド・ピーズ」というアーティストの世界ツアーの衣装を作って欲しいと依頼がきました。これをきっかけに音楽、映画、舞台と様々な衣装デザインのお仕事をいただくようになりました。
活動を続ける中で、「一人のために作った服は着る人の大きなパワーになる」と感じられる瞬間が何度もありました。サイズや機能が最適であることはもちろん、明らかにモチベーションやパフォーマンスの向上にもつながっています。これは洋服として理想的なあり方だと感じ、「一点物の洋服をより多くの人に届けたい」と思うようになりました。
コスト面で現時点では成しえないことも、最新のテクノロジーを取り入れることで実現できる可能性は大いにあると思い、多種多様な業種の方々と積極的にコミュニケーションを取ってリサーチを重ねました。建築、プロダクト、現代アート、都市開発など、他分野ですでに実現されているソリューションをファッションにも貪欲に取り入れていこうと思ったのです。結果、多くのヒントや解決策を得ることができました。
そうして蓄積した研究結果を形にして世界に発信するため、パリのオートクチュールへの挑戦を決めました。

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コレクションへの挑戦と、長期的なビジョンへの取り組み 歴史があり、今なお権威のあるパリのオートクチュールにおいて、新たに参入してコレクションを発表することは、もちろん容易なことではありません。ただ、時代とともにその存在も変化しつつあって。1着数百~数千万円の洋服を手に入れられる人は限られていますし、富を洋服で表現するという価値観も揺らぐ中、日本人デザイナーとして自分に何かできないだろうかという思いは予てからありました。
「一点物の服づくり、オートクチュールこそが、ファッションの未来だ」という考えを協会の方にプレゼンし、2016年、パリのオートクチュール・ファッション・ウィークでコレクションを発表する機会をいただくことができました。それ以降、毎シーズン発表を続け、4度目のコレクションを終えたところです。
今は「一点物の洋服を多くの人に届けたい」というコンセプトのもと、ここ数年をかけて研究開発を続けてきた"縫製しない洋服"を、製品化して一般の方に向けてローンチするために全力で取り組んでいます。これを一時的なトレンドに留めず、カジュアルにオーダーメイドを楽しめる世の中になるよう何とかつなげていきたいです。それと同時に、1着の服の寿命を延ばしたいという思いもあります。洋服をパーソナライズすることで「長く、大切に着よう」という気持ちを育むことができれば、大量生産・大量消費による課題にも変化をもたらすことができるのではないでしょうか。そのためにデザインでできる解決策を模索し続けたいと思っています。
年2回という短いサイクルでのコレクション発表と、こういった長期的なビジョンに向けた取り組みをうまく両立させながら、今後も活動していければと思います。

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ファッション業界を志す若い人に伝えたいことファッションに限らずどんな分野でも、若い時に外国で経験を積むということは、やっておいて損はないと思います。自分はアントワープに留学したことで確実に視野が広がりました。バックグラウンドも価値観も全く違う人たちとの出会いやコミュニケーションの中で、気づいたことは数え切れないほどたくさんあります。また、日常の中で必然的に自分のアイデンティティを再認識しなければいけない環境があるというのも、海外に出るメリットでしょうね。
外国では、現地の文化や歴史へのリスペクトの姿勢をきちんと見せつつ、自分は日本人として、どんなバックグラウンドやアイデンティティでものをつくっているのかということをきちんと提示することが非常に大切です。この融合は不可欠だと思います。
今、ファッション業界はまさに過渡期ではないかと思います。そんな中、新しい世代、特にデジタル・ネイティブと呼ばれる人たちの感覚が今後すごく重要になってくると思うのです。従来の在り方を知った上で、当事者たちなりの視点をうまく織り交ぜていくことが、業界の大きな原動力になっていくと思うので、ぜひ意識的に取り組んでもらいたいですね。

中里 唯馬(なかざと・ゆいま)

「YUIMA NAKAZATO」デザイナー/クリエイティブ・ディレクター。
1985年、東京生まれ。2008年、ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミー ファッション科を卒業後、欧州最大の学生コンテストのインターナショナル・タレント・サポート(ITS)で2年連続受賞。2009年、「YUIMA NAKAZATO」を設立。2016年7月、日本人では12年ぶりの公式ゲストデザイナーとしてパリ・オートクチュール・コレクションに参加。

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