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インタビュー

ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)併設のFITミュージアムのディレクター兼チーフキュレーターを務めるヴァレリー・スティールさん。ファッションを歴史的、社会的観点から読み解くスティール博士に聞く、ファッションの魅力とは。

1997年の就任以来、ヴァレリーさんが手掛けてきた展覧会の数は25以上。ファッションキュレーターの仕事や一つの展覧会が出来上がるまで、そして日本のファッションの奥深さについてお伺いいたしました。

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ファッションキュレーターという仕事私は大学を卒業してから、イェール大学で博士号を修得しました。現代ヨーロッパ文化と歴史学を専攻していたのですが、ある授業でヴィクトリア王朝時のコルセットがテーマに挙がり、クラスメイトの間で白熱した議論になりました。その時「ファッションも文化の一部なんだ」ということを知り、ファッションに興味が湧いたのです。その後、スミソニアン博物館で働いたり、FITやパーソンズなどでファッション史を教え、10年ほど経って今の仕事にたどり着きました。現在はFITミュージアムでディレクター兼チーフキュレーターというという役職で、ミュージアムの運営とアーティステックディレクションの方向性を決める役割を担っています。キュレーターの仕事というのはコレクションを「収集」「保存」「記録」「展示」「解釈」し、それらを取りまとめて展覧会を作り上げる人のことです。どういった展覧会を行うか、そのためにはどのコレクションを集める必要があるかなどを決めます。スタッフへのアドバイスや予算をどう使うかといったことも私の役目に含まれます。
 FITミュージアムが他のファッションのミュージアムと異なる点は、大学機関の一部ということです。教育の観点から非常に重要な役割を果たしているという責任と自負があります。大学の存在意義とミュージアムの目的は「知識を発展させる」という点で同じです。それを展覧会やクラス、出版物を通して学生や一般の人にシェアすること。これが私たちミュージアムで働くキュレーターに課せられた使命だと考えています。

一つの展覧会ができるまで アイデアは常にたくさんありますが、テーマを選ぶ上でそのトピックの新しさをどう表現できるかが重要です。服のデザインやものづくりに関してもそうですが、同じことを何度も繰り返すのでは、人々の関心を引かず、学術的にも意味がありません。そして自分たちが所有しているコレクションをどう組み合わせてストーリーを構築していくのか、仮説を立てて探求していくのです。まず、対象となるテーマを選んでから、とにかくリサーチを繰り返し、歴史的な背景や意味を探っていきます。そしてストーリーを裏付ける服を探します。現存しないものや入手できないものについては本や資料で補います。だいたい一つの展覧会を行うまでに、準備期間として1年から2年半ほどかかります。

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「良い展覧会」とは?私たちは常に、見る側の知的好奇心を掻き立てるような展覧会づくりを目指しています。エンターテイメント要素の強い展覧会は楽しくて良いですが、同時に教養のある内容であることが大切です。観客を特定せず、専門家も一般の人も、小さい子供やお年寄りも楽しめてインスピレーションを得られる、ということも重要な構成要素の一つです。
 見た後に「要点は何だったの?」と思う展覧会はあまり良い展覧会とは言えません。ファッションの展覧会でいうと、可愛らしい、または奇抜な服を脈略なくただ並べているだけのものが多く見られます。アイデアが陳腐で明確ではないとオーディエンスが展覧会の意図を読み取れず混乱し、変な後味を残すことになります。  説明に頼りすぎる見せ方もあまり好ましくありませんね。一生懸命に文章で説明しても、全員がテキストを読んでくれるわけではないので、説明はあくまでも補足情報として、無くてもある程度文脈が読み取れるような展示の仕方やグルーピングも大事です。
 今の時代、ファッションに限らず、世界的に人々が情報や表現に対してセンシティブになっていることは感じます。デザイナー、ジャーナリストなど情報発信する側に慎重さが求められており、異国文化や歴史を扱う私たちの仕事も例外ではありません。異なる文化に足を踏み入れる際は、敬意を払いつつ本質を捉えるように心がけます。物事を単純化して解釈、分類することの危険性は常に感じていて、歴史や文脈を捉えた上でものごとを語らないと、本当にその文化を理解したとは言えないのです。

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日本のファッションの功績2010年には日本のファッションをテーマにした「JAPAN FASHION NOW」を開催しました。それまでの日本のファッションの展覧会といえば、「コム デ ギャルソン(COMME des GARCONS)」「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」「イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)」に代表される80年代のアバンギャルドファッションもしくは、ロリータファッションに代表されるストリートファッションのどちらかでした。日本のファッションはこの二極化から抜け出す必要があると感じ、ウィメンズだけではなくメンズを含めエッジの効いた若手の日本ブランドなどを集め、多面的に、そして包括的に日本のファッションを紹介したのです。
 もちろん、川久保玲氏や山本耀司氏、三宅一生氏らは世界的に見ても近代のファッションを語る上で欠かせない存在です。体と服の関係性の追求、不完全な美という新たな概念の構築など、それまでの西洋文化では生まれなかった考えが遠く離れたアジアのデザイナーによりもたらされたわけですから。彼らの活躍のおかげで、日本や東京がファッション都市として世界的なステータスを得て、脚光を浴びるきっかけにもなりました。
 そして彼らの元で経験を積んだデザイナーたちが、今の日本のファッションに厚みを加え、世界でも活躍しています。アバンギャルドという革新性の側面がフィーチャーされがちでしたが、同時に縫製や素材など高水準の技術や品質にこだわることの重要性を示したのが、日本のファッションの魅力であり強みです。西洋文化を引用しながら、一捻り加えた独自の解釈でデザインや製品企画に長けている点も日本のファッションの特徴の一つです。これは他の国、とりわけ今後ファッションに力を入れていくアジアの国にとっては良いお手本だと思います。

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研究対象としてのファッションの魅力学術的にファッションを研究していると、まだ手付かずの分野がたくさんあり飽きることがありません。今まで誰も扱ってこなかったトピックを、先例に捉われることなく自由に表現できる楽しさもあります。そしてファッションは過去のものだけではなく、現在も変化し続けています。博物館も古いものを集めるだけではなく、新しい服や素材も集め続けないといけません。それは必ず将来のファッションを語る上で必要なマテリアルになります。私は歴史家でもありますが、昔のものだけに興味があるのではなく、新しい服や技術、デザイナーにも等しく興味がありますし、服や素材に触れることから感じ、読み取る能力も私たちの仕事には求められるのです。
 あるジャーナリストは、若い人はファッションに関心がなくなり、消費社会に飲み込まれている社会を悲観し、「ファッションは死んでしまった」と言います。しかし、私はそうは思いません。確実に変化していますが、死んではいません。もし私が同じテーマの展覧会を10年後にやるとしたら、全く違うものができることでしょう。そこにファッションの面白さがあり、私は歴史家として、そして一人のファッションが好きな傍観者として、過去を遡って未来のファッションがこれからどうなっていくのか、ワクワクしているのです。

ヴァレリー・スティール(Valerie Steele)

ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)のFITミュージアム ディレクター兼チーフキュレーター。米国イェール大学で博士号を取得。1997年より現職。多くの企画展を担当し、近代ファッション史における数々の著書も執筆。"グローバルなファッション 業界を形成する人物" としてthe Business of Fashion 500に選出されている。



※本記事はFASHIONSNAP.COMに掲載された記事を再編集して配信しています。

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