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インタビュー

イッセイ ミヤケ「HaaT」トータルディレクター 皆川 魔鬼子氏。伝統技法との協働で生み出す美しく上質なテキスタイル

イッセイ ミヤケの創業当時からテキスタイルを担当し、現在はテキスタイルから発想することをコンセプトとしたブランド「HaaT」のトータルディレクターを務める皆川魔鬼子氏。素材へのこだわりや伝統技法への思いを伺いました。

伝統の技法と調和するベンベルグ 私は素材開発において、昔から副資材を好んでよく採用してきました。なぜなら品質管理がされているため安定していること、そして丈夫であること、さらに費用も抑えられること、とメリットがたくさんあるからです。例えばプリーツ製品では、通常の3~5倍以上の生地が必要になるので、価格は非常に重要です。こういったことから、常にいい副資材がないかと探し回っています。
ベンベルグも好きな素材の一つで、これまで数え切れないほど取り入れてきました。染まりやすく、性別や年齢を問わず使えて、程よいエレガントさを出せる。私はシルクの代用繊維とは捉えておらず、ベンベルグそのものの特長に魅力を感じて採用しています。他の糸と交織、又、隠し味としても使うことが多いですね。ドレープ性が欲しいときや、天然繊維とも合繊とも違う不思議な風合いを出したいとき、コシを出したいときなど、表現したいイメージに合わせ、経糸に、緯糸に、経緯どちらにも…と、その時々で使い分けています。
また「HaaT」では、有松絞りやろうけつプリント、刺しゅうなど、シーズンに一つずつ日本の伝統的な技法を取り入れて製品を展開していますが、それらのP下(プリント下地)にもベンベルグをよく使います。先日、京都の路面店「ISSEY MIYAKE KYOTO」に併設しているギャラリー「KURA(蔵)」で企画展「BATIK」を開きました。職人の熟練した技術や製造工程を紹介するとともに、ベンベルグのツイル生地に“ろうけつ染め”を施した大きな布を特別展示、優美な空間となりました。今後もできる限りこういった伝統的な技法を紹介していきたいと考えています。

よりサステナブルなものづくりを模索 基本的な私の生活観として、いつまでも自然が楽しめる地球であってほしいという思いがあります。暮らしの中でも仕事でも、なるべく地球に負担をかけないようにすること、リサイクルやリユースということは常々頭の中で考えていることです。昨今話題になっている海のマイクロプラスチック汚染問題では、既にカード数枚分のプラスチックが私たちの体内に蓄積されているとも言われていることを知り、大きなショックを受けています。
ものづくりの立場から考えると、より天然のものや土に還るものから繊維を作っていくべきだと思いますし、それ以外にも今後何ができるのか、どのようにしていくべきかを模索し続けなければいけません。
先述の通り、ベンベルグは表現したいことが叶えられる素材としてこれまで重宝してきましたが、サステナブルな素材としてもとても非常に優れていますね。コットンボールから綿紡績され、余った種からコットンオイルを絞る際にうぶ毛であるコットンリンターを取り除く。これを原料としてベンベルグがつくられるわけですから、副産物のさらに副産物ということになります。サステナブルな素材への思いを強くする中、より意識的に採用するようになりました。

インドの産地で「繊維の父」から得た多くの学び 「HaaT」では、日本だけでなくインドの伝統的な素材や技法を使ったテキスタイルも扱っていますが、その取り組みのきっかけは30年以上も前に遡ります。イッセイ ミヤケでは1980年代からインドのテキスタイルを取り入れ、共にものづくりを続けてきました。中でも「カディ(Khadi)」と呼ばれる綿布は、手紡ぎ・手織りでつくられる伝統的なテキスタイルで、私は「繊維の原点」だと思っています。このカディがかつて存続の危機にあったとき、復興に尽力したのが2017年に亡くなったマルタン・シン氏です。1983年、初めて私がインドで素材づくりを手掛けた際に彼に指導を仰ぎ、以来、長年にわたって交流を持ちました。彼からは実に多くのことを学びました。既に日本で実現できなくなってしまったものづくりの在り方、習慣、生活…それらがインドにはまだ残っていることに羨望心を抱くと同時に、彼と話すたびに日本で残していくべき素材やものづくりについて改めて考えさせられましたね。
尊敬する彼へのオマージュとして、「Khadi:Indian Craftsmanship」という展覧会を開催しました。内容はカディそのものと、「繊維の父」と呼ばれたマルタン・シン氏の活動を紹介するもので、東京、京都、大阪、そしてニューヨークと巡回したのですが、来てくださった方から「感動した」「ものづくりの原点を見た」と、胸が熱くなるようなうれしい言葉をたくさんいただきました。

生活のすべてにアンテナを張って「新しいもの」を生み出す ここ数年で生地問屋さんやメーカーさんの取り扱い素材は随分と少なくなってしまいました。色数が減ったり、展示会で目新しいものを見かけても量産に対応していなかったりと、選択肢の幅は狭まる一方で企画をする人間にとっては非常に悩ましい状況です。次世代を担う若い人たちには、例えそんな中にあっても「常に新しいものをつくりたいという思いを持ち続けなさい」と伝えています。売れ筋ばかりを考えるのではなく、今までにない、他にない素材、オリジナリティがあるものをつくることが大事です。ファッションの流行は繰り返されるものですが、そこからデザイナーがどこを切り取って、どのように自分自身の考えを入れるのか、ということが求められます。そしてそれ以上に、今後はサステナビリティについてどのように捉えていくかが重要なテーマになってくるのではないでしょうか。
インスピレーションを与えてくれるものは何かと言えば、私の場合は生活のすべてですね。何十年と鍛錬してきたことで、自然と生活の一部になってきましたので、24時間ずっと何かを探しているのが当たり前になっています。旅先や普段と違うシチュエーションで閃いたり、着想を得たり…そういったことは当然ありますが、そればかりに頼らず、普段から常にアンテナを張って身の回りの些細な物事にも目を向けてみると、結構ヒントが潜んでいると思いますよ。

皆川 魔鬼子(みながわ・まきこ)

京都府生まれ。京都市立芸術大学染織科卒業。在学中から自身のアトリエを持ち、テキスタイルの創作を始める。
1971年 株式会社 三宅デザイン事務所にて、ISSEY MIYAKEのテキスタイルを担当
1984年 vepar社(インド)とのコラボレーションによる ASHA BY MDS 企画担当
1988年 17年間の集大成として<TEXTURE>(講談社刊) 出版
1990年 第8回 毎日ファッション大賞 第1回 鯨岡阿美子賞 受賞
ギャラリー<間>にて<MAKIKO MINAGAWA FABRIC展> 開催
1995年 TEXTILE INSTITUTE(英国)よりCOMPANION MEMBERSHIP 授与
1996年 毎日デザイン賞 受賞
2000年 株式会社 イッセイ ミヤケから HaaT 展開開始。トータルディレクション担当
2002年 多摩美術大学美術学部生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻 教授就任
(2008年7月任期終了。客員教授として現在に至る。)
2005年 ボストン美術館にて<CONTEMPORARY CLOTH Stoles by Minagawa Makiko展> 開催
2007年 第25回 京都府文化賞 功労賞 受賞
西川リビング株式会社・株式会社三宅デザイン事務所の共同開発ブランド
mayu+ デザインディレクション開始
2014年 LA COLLEZIONE南青山にてテキスタイル展 開催
2015年 デザイン誌『Metropolice』(米)より”Game Changers 2015”賞 受賞
レソラ天神(福岡)にてテキスタイル展 開催
阪急うめだホール(大阪)にてテキスタイル展 開催
2018年 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3主催にて、企画監修担当

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