川口先生のペットコラム
旭化成ホームズ株式会社
Profile
ゾウの先生 川口 幸男

1940年東京都伊豆大島に生まれる。上野動物園飼育課を定年退職後、エレファント・トークを主宰。講演や執筆をしている。講演依頼は、メール またはFax 048-781-2309にお願いします。
NHKラジオ番組夏休みこども科学電話相談の先生でもあり、本編では長年の経験を踏まえて幅広く様々な話題を紹介します。
わんにゃんドクター 川口明子

日本獣医畜産大学卒業、同大学外科学研究生として学び、上野動物園で飼育実習後、埼玉県上尾市にかわぐちペットクリニックを開業する。娘夫婦もそろって獣医師で開業しており、一家そろって動物と仲良くつきあっている。
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・ブタもおだてりゃあ木に登る

酉年にちなんだニワトリの話 2017.1.1

新年明けましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりました。本年もよろしくお願い致します。

  神話に高天原(たかまがはら)の国に天照大神(あまてらすおおみかみ)と言う太陽のように明るい神様がいたそうな。彼女には乱暴者の弟須佐之男命(すさのおのみこと)がいました。あまりに度が過ぎた弟に手を焼き天の岩屋に引きこもってしまいました。太陽のように明るい神様が隠れたとたん国中が真っ暗になったのです。これには神様たちも大慌てで榊の枝にきれいな球や鏡、鎧を吊り下げ太陽の使いのニワトリを鳴かせました。
  「コケコッコー、コケコッコー」ときれいな声で鳴き続けます。
  大勢の神様は手をたたき笑って中には桶の上で踊りだす女の神様もいます。すると岩屋の中にいた天照大神はなんで外は真っ暗なのにみんなで笑って騒いでいるんだろう、と不思議に思い岩戸を少し開けて外をのぞきました。そのとき力自慢の神様が重い石の扉をグイと開き天照大神の手を取り外に誘うとあたりはたちまち太陽の光に満ち溢れもとの明るい国に戻ったのです。


◎ にわとりの祖先
  この神話に登場するニワトリの祖先は、アジアに広く分布するヤケイ(野鶏)のなかまと考えられています。ヤケイはキジ目キジ科ヤケイ属に属していて次の4種に分類されます。  

  1.ハイイロヤケイ(インド)
  2.セイロンヤケイ(スリランカ)
  3.アオエリヤケイ(ジャワ島、小スンダ列島)
  4.セキショクヤケイ(東南アジア、中国南部、海南島、南アジア)

  ニワトリの祖先については4種のいずれもが係わっていたとする多元(源)説と、最も広い分布域を持つセキショクヤケイが直接の祖先とする単元(源)説があります。現在はDNA、遺伝子の構成、鳴き声などの科学的な研究からセキショクヤケイが祖先と考える単元説が有力となっています。
  セキショクヤケイは森林や草原に生息していますが、原生林よりも人間が開発したような二次林を好むとの報告もあります。一夫多妻の群れを作り昼間は地上で夜間は樹上で過ごします。繁殖期の3~5月にはオスはメスの獲得となわばりを守るために攻撃的になります。営巣は草や枯草を使って地上に作ります。4~6個の卵を産み、メスだけが18~20日間抱卵します。雑食性で地上や樹上で果実、種子、根、昆虫などを食べます。オスは闘争心が強いため、飼育下で複数のオスを一緒に飼うことはできません。


◎ ヤケイの家禽化の目的
  ニワトリがどのような目的で作られたかその過程を簡単に分けてみると次の4つの目的があげられます。   (1)時を告げる  (2)儀式の生贄  (3)闘鶏  (4)食料。

1.時を告げる。
  古代より夜は神や妖怪の活動する時間でニワトリが鳴くのを合図に彼らも一斉に退場すると考えられていました。ニワトリが家禽になったのは、インドでは5,200年前、中国では青銅時代甲骨文字に鶏が現れているので3,000年以上前、パキスタンのモヘンジョダロ遺跡からは約4,000年前の遺跡から遺骨が出土しており大方5,000年前に家畜化した、とする一方、8,000年前頃インドシナ半島で家禽化が始まったと推測している学者もいます。
家禽にした目的として上記の4つの要因が挙げられますが、その過程の順番は肉や卵と言った経済性を取るか、それとも宗教に関連する生贄や闘鶏などの娯楽の方が先かまだ議論のあるところです。
  日本に家禽としてのニワトリが移入されたのは今から約2,000年前で、長崎県壱岐(いき)のカラカミ遺跡と原の辻遺跡から骨が発見されています。飼育の目的は鳴き声を聞き時刻を知ることでした。例えば、夜間石垣を築いていた地方で500個を積む予定でしたが499個まで積んだ時にニワトリが鳴いて中断した話や、弘法大師が一夜で橋を渡そうとしたところニワトリが鳴いて中止した話が伝承されています。

〇 鶏の鳴き声
  「鶏鳴けば万鶏歌う」のことわざにもなっています。転じて、学校や社会に出た後も、誰かが先頭を切って「賛成!」と声を上げると意味が解っていなくても次々と賛成!賛成!と声を上げる様を言い表すときに使います。
  以前タイ国のゾウの村・スリーンで村長さんの自宅にホームステイしたときのことです。日本では岩手県などで母屋と馬屋が一体となったL字型の住宅で隣にウマやウシを飼っていましたが、タイではウシやウマの代わりに牙が立派な大きなオスゾウが木の柱に細いチェーンで繋がれていました。さらにその横の壁一枚隣にニワトリが5~6羽いました。夜中に、突然1羽のニワトリが「コケコッコー」と高い声で鳴くと次々とニワトリが鳴くのでうるさくて眠れません。もう朝が来たのかと思って腕時計を見ると夜中の1時30分です。ニワトリは夜明けに鳴くものだと信じていた私は夜明けが6時頃なので早くても4時頃かなと思っていたので、思わずちょっと早すぎないか、と自問しながら我慢したものです。これでは気軽にニワトリを住宅密生地で飼うのは近所迷惑になるのでためらいますね。

〇 ニワトリは鳴くときにも順番がある。
  ニワトリの行動は100年近くも前から研究され、ノルウエーの動物学者トルライフ・シェルデラップ=エッベ(Thorleif Schjelderup-Ebbe)は1922年の学位論文で、メスのニワトリを群れ飼育し、ニワトリに順位があることを初めて突き止めたのです。
  メスを群れで飼育していると強い個体は劣位の個体を突いて攻撃し順位が決まります。劣位の個体は逃げ場が十分ある野外で飼育していれば良いのですが、狭い場所で飼育すると総攻撃を受ける羽目になり、最下位の個体は餌が十分食べられません。ニワトリが順位性の鳥であることは養鶏を営む人々に知られていたので飼育方法も考慮して飼育しています。
  餌だけでなく夜明け前に鳴く順番が決まっていて、最初に一番強いオスが鳴き、続いて序列に従って鳴くのです。鳥の鳴き声は私たちが考えている以上に様々な情報を伝えています。順位の高い個体は最初に鳴くことで声の届く範囲に存在を示し、序列に従って鳴くことで群れの秩序が保たれているのです。そして、繁殖期には強い個体が群れのメスと交尾します。

2.儀式の生贄
  古代では祈祷師・シャーマンが集団の中で重要な地位を担っていました。彼らは占いや邪霊の侵入を防ぐ儀式のときに生贄(いけにえ)としてウシ、ヒツジ、ヤギと共にニワトリも使われ、時には人間さえも対象になりました。やがてニワトリが飼育され始めると扱いやすく哺乳類に比べ安価なニワトリも生贄となっていきました。

3.闘鶏
  古代中国、インド、ペルシャ、ギリシャ、ローマが起源とされる闘鶏は、日本においては1,147年作の土佐光長の年中行事絵巻物に画かれ、さらに日本書紀にも1,500年前雄略天皇の時代に闘鶏に関する記述があるので、この頃始まっていたと考えられています。1,000年ほど前には宮中で盛んに行われて宮中の年中行事となりやがて庶民の間にも広まりました。代表的な品種の一つ生国(しょうこく)は平安時代(794~1185年)に中国から入り、軍鶏(しゃも)は江戸時代初期にシャム(現在のタイ)から輸入されています。

4.食料
  私たちの食卓に欠かせない食材の一つに卵があります。子どもから大人まで人気のあるお菓子やから揚げ、鶏由来の料理は数多くあります。飼育数も半端ではなく農林水産省の畜産統計調査(平成28年2月調査)によると全国で採卵鶏は1億7573万3,000羽、ブロイラー(孵化後3ヶ月未満で肉用として出荷される若鶏)は1億3439万6,000羽が飼育されているので、両者合わせると、およそ3億羽のニワトリの恩恵に与っています。

〇 ニワトリは1年に何個の卵を産むか
  本稿執筆で思い出したのが、伊豆大島の中学校時代に理科の先生でお世話になった佐野正雄先生です。授業の合間に「奥様はニワトリが初めて1年間(昭和13~14年(1939年)11月の間)365日毎日産卵に成功した世界記録保持者・橋本善太さんのお嬢さん」ということでした。中学生時代はそれがいかに凄いことかよく理解できなかったのですが、動物園に勤務して初めて理解できました。先生のご高著によれば、昭和の初期(1930年代)、卵は貴重な食糧として量産に向けて年間産卵数を競っていていた時代でした。年間に364個の産卵を記録した個体は昭和13年(1938年)に9羽いて世界記録に認定されていましたが、翌年橋本氏が更新しました。そして、昭和27年(1952年)は閏年(うるう年)で366個を産んだと記録されていますが、検定基準が1年365日なのでこの成績は採用されなかったとそうです。また、肉用種のプリマスロック種も同年365個の卵を産んだ、というのです。これらの功績により同氏は黄綬褒章を受賞しています。昭和20年(1945年)ころの大学の初任給が6,000円で、種鶏となるオスは1羽10,000円で売れた、とあります。それほど種オスは貴重で価値の高い鳥でした。
  本来、原種となるヤケイのなかまは春や初夏の日照時間が長く温度が高い季節に一腹で5~8個の卵しか産みませんから、2腹でも10数個と言うところです。ところが産卵した卵を採ると産み足す習性があるため、ニワトリはこれを利用して毎日採卵することで産卵数を伸ばしたのです。科学的な動物の飼育管理が進んでくると様々な行動が解明され日照時間の長短がホルモンの分泌を促し換毛などの引き金となることもわかりました。日光の代わりに電灯を12~16時間点灯し、さらに繁殖期の自然環境を再現するために冬でも暖房をつけました。そして卵の殻はカルシウムが必要なためカキの貝殻を砕いて青菜と一緒に与えたのです。
  この他にも通風や日々の管理で十分観察を行い病気についても細心の注意が払っていたのです。
  現在養鶏場では年間1羽で300個の卵を産んでいるニワトリたちですが、それまでには橋本善太さんをはじめ多くの方々による多産鶏作出のドラマがあったのです。


  白色レグホーンのオスはキリリッとした佇まいです。
白色レグホーンのオスはキリリッとした佇まいです。
写真家  大高成元氏撮影
   

◎ ニワトリの体のひみつ

1.羽
  鳥の最大の特徴の一つは羽ですが、単に飛ぶためだけではなく寒い環境の中体温を保持する役割を果たしています。ニワトリの外見はオスの羽が派手な飾りと色彩をしていますが、繁殖期にメスを魅了すためと考えられています。例外もあり、アメリカヤマセミのメス、ヒレアシシギのメスはメスのほうがきれいですが、これらの種はメスがオスにアピールしています。羽の手入れは、羽を使って砂を巻き上げて体全体にかけたり、水浴したりします。さらに、尾の付け根に尾脂腺(びしせん)という油を出す分泌腺があって、この油を嘴につけて羽根に塗り耐水性を保と共に汚れ等を防止しています。尾脂腺はガンやカモなどの水鳥に特に発達しています。
  ラジオの電話相談室に出演した時代、「ニワトリは何枚羽がありますか?」と質問されて困ったときがあります。この数値で尋ねられるのが一番困るのですが、数えている方がいるもので、ニワトリは5,000~6,000枚、コハクチョウが25,000枚以上、小型のハチドリの羽の枚数は約1,500枚(ハチドリは種類も多く体重は2~20gで最小のキューバに生息する種類は体重2g、体長6cm)と記載されていました。一口にニワトリと言っても、チャボとレグホーンで比べても体格差が大きいためこれらの数値はふつう見られる種類と考えられ、羽のつく面積が大きい種ほど枚数も多くなっています。また、羽は全身にくまなく生えているのではなく、生えていない部位は裸区、生えている部位を羽区と呼んでいます。

2.足と蹴爪
  今では鳥の祖先がジュラシックパークでお馴染みの白亜紀後期に生息していた肉食恐竜ティラノサウルスやヴェロキラプトル、スピノサウルスなどの仲間と小学生でも知っています。そのため恐竜は生きているという人もいます。恐竜の仲間で羽毛の生えた化石が見つかると復元図はそれまでのトカゲのような体表から一変して色彩も豊かな羽毛をまとった図に変わってきました。羽以外に名残を鳥の足に見ることができます。ニワトリの足の指(趾)は小指が退化し、3本が前方に向き、1本が後ろに向いていて全部で4本です。ウコッケイは例外で、前足が3本前方、後ろ足に親指が2本以上後ろに向き、合計6-7本の個体もいます。
  たくましい足の鱗(うろこ)と鋭い蹴爪(けづめ)は軍鶏(しゃも)を見れば納得されるでしょう。蹴爪はオスにだけあるのですが、この蹴爪を使ってオス同士で戦い、勝者がメスと交尾するのです。軍鶏は声も良く闘争心も強いので闘鶏にも使われ、食べても美味しい品種です。
  ニワトリ以外の鳥では機会があれば動物園に足を運び、オーストラリアやニューギニアに生息するヒクイドリの足を見てください。私は上野動物園に就職したとき、ヒクイドリの寝室にある直径12mmの鉄柵が何本も曲がっていて住人のヒクイドリの仕業と聞いてびっくりしました。彼らの足はまさに恐竜の足を彷彿させる迫力がある代物で、先輩に注意されなくとも一緒に中に入ろうとは思いません。

3.鶏冠(とさか)と肉垂れ(にくだれ)
  ニワトリには多肉の突起物、鶏冠(とさか)や肉垂れ(にくだれ)が付いています。オスの方が大きいのですがメスにもあります。鶏冠の赤い色は組織を通して見える血液の色です。その役割については大きく2つあると考えられています。

  (ア) 血管が集中し、温めたり熱を放出したりして体温の調整に役立っている。
  (イ) 繁殖期にメスに対するアピール用です。

  白色レグホーンの場合、メスより一回り大きなオスは男性ホルモンのテストステロンの影響で繁殖期なると鶏冠の面積を増やすことや鶏冠の色が濃くなります。そのため若鳥を去勢するとメスと同様な鶏冠になります。目の良いニワトリは赤や黄色に敏感に反応しメスを引きつけたり競争相手となるオスを威嚇したりします。
  なお、鶏冠の色は品種により様々です。

4.目
  鳥の目には第3のまぶたと呼ばれる瞬膜があります。人間の場合目の片隅に白く痕跡が残っているのみですが、鳥の場合、半透明な瞬膜は嘴(くちばし)から斜めに耳に向かって閉じることで、目の表面を保護しきれいにする役割を担っています。
  白色レグホーンの体色は白ですが鶏冠の赤が重要な部位となっています。また、昨今話題の江戸時代の画家、伊藤若冲の群鶏図や平山郁夫(元東京藝術大学学長)画伯の素晴らしい絵を拝見すれば色彩豊かなニワトリが描かれています。それぞれ競って様々な色でメスたちに訴えているのでしょう。
  夜間になると視力がグッと落ちる病気に夜盲症があり鳥目とも呼ばれています。昔の人々は鳥が夜になると活動しないので見えないだろうと思っていたのでしょう。しかし、これはニワトリだけにはあてはまるので必ずしも正しくはありません。目の網膜にある視細胞には明暗に関係する桿体細胞と色覚に関係する錐体細胞がありますが、ニワトリには桿体細胞がないので暗くなると極端に活動が鈍ってしまうのです。
  ワシントン大学(セントルイス)で視細胞の研究をしているポスドク研究員の佐藤慎哉博士から次のようなアドバイスをいただきました。
 目の網膜にある細胞には「暗所で働く桿体と明所で働く錐体があります。加えて錐体には複数の異なる色感受性を持つタイプがあり、色覚を司ることもできるのです。」

5.耳
  鳥の外耳は羽に隠れてどこにあるか判りにくいのですが、ニワトリの場合目の後ろにあるので、羽をそっとかき分けてみればわかります。
  私たちの可聴域は20~20,000Hz(ヘルツ)の音域を聞くことができます。鳥類の可聴域は種によって違います。例をいくつかあげると、ウソが低音100Hz以上、高音25,000~29,000Hz、カササギは低音100Hz以上、高音21,000Hz、ホシムクドリは低音100Hz以上、高音15,000Hz、トラフズクでは低音が100Hz以上、高音は18,000Hzとなっていて、ヒトと大きな違いがないことがわかります。残念ながらニワトリの鳴き声の可聴域の資料は入手できませんでしたが、ニワトリの雛は母親の低音(400Hz)によく反応し、母親は雛の高音(3,000Hz)に敏感であるとの報告があります。
  子ども時代庭でニワトリを飼育していましたが、卵を産むときに大きな声で鳴くので産卵が判りいそいそと小屋に採りに行きました。
  春を告げるウグイスは関東地方では3月初旬に「ホーホケキョ」と鳴きます。


◎ 天然記念物としてのニワトリ
  現在ニワトリの品種は世界で120以上あります。この中で我が国の天然記念物に指定されているニワトリが17種類います。そして、その中の一種に世界に名をとどろかせた特別天然記念物の長尾鶏がいます。高知県南国市にある「長尾鶏センター」には、尾の最長が13.5メートルになった個体がいました。年齢は18歳でした。ギネスブックには、1972年の記録として窪田正夫氏のオスの10.6mが載っています。(ネット  長尾鶏センター)
  また、日本三大長鳴鳥として知られる「声良」という品種は秋田、青森、岩手の各県で飼育されていますし、東天紅(高知県)や蜀鶏(とうまる=唐丸・新潟県)も知る人ぞ知る素晴らしい声の持ち主で共に天然記念物に指定されています。

主な参考文献
A&H クリュックシアンク  著
青柳昌宏  訳
  鳥についての300の質問 (ブルーバックス)  講談社  1982.
遠藤秀樹   ニワトリ愛を独り占めにした鳥 光文社新書  2010.
秋篠宮文仁,小宮輝之  (監修・著)   日本の家畜・家禽 学習研究社2009
秋篠宮文仁,小宮輝之  (監修・著)   もっと知りたい! 十二支のひみつ 小学館 2006.
佐野正雄   鶏の復権  創栄出版  2000.
佐野正雄   君はゆく  創栄出版  1992.
正田陽一  (編著)   人間が作った動物たち(東書選書) 東京書籍  1987.
田名部雄一   ニワトリはどこからきたのか  どうぶつと動物園 Vol.33 No.1  (財)東京動物園協会1981.
谷川健一   ニワトリの民俗誌  どうぶつと動物園Vol.33 No.1  (財)東京動物園協会1981.
西田隆雄   ヤケイの家畜化 どうぶつと動物園  Vol.33 No.1  (財)東京動物園協会1981.
百瀬親夫他   全国日本鶏保存会編集  原色 日本鶏―その鑑賞と飼い方 ペットライフ社 1974.
黒田長久   鳥の視覚と聴覚、嗅覚 In 週刊朝日百科  動物たちの地球 18. 朝日新聞社  1991.
成島悦雄   鳥の耳  どうぶつたちのからだとくらし(77) どうぶつと動物園  Vol.32 No.2 (財) 東京動物園協会  1979.

 
おもしろ哺乳動物大百科128  げっ歯目(ネズミ目) 2016.12.1

おもしろ動物大百科  128  げっ歯目(ネズミ目)

  げっ歯目(ネズミ目)は哺乳類の中で最も多くの種類を含んでいます。リス亜目、ネズミ亜目、テンジクネズミ(又はヤマアラシ)亜目の3亜目に大別され、今泉吉典博士は29科1749種に分類していますが、近年の新しい分類では2,000種以上に分類し、全哺乳類の44%に達するとしています。その特徴の一つは門歯が無根で一生伸び続け、かじることでのみのように鋭くなることです。
  南極以外のすべての大陸に生息し、地上、樹上、地下、水中まで生息して、環境によって適応した体になっています。体の大きさは、最小のカヤネズミは、体長5~8cm、尾長6~8cm、体重が7~14gです。最大種のカピバラは体重が35~66kgです。仮にカピバラの体重を50kg、最小種のカヤネズミの体重を10gとすれば両者の差は5000倍にもなります。
  本編では29科の中からリス科、ビーバー科、ヤマアラシ科、カピバラ科、ハダカネズミ科を選び紹介します。

リス科
  今泉吉典博士は49属、256種ですが、学者によっては50属、約260種に分類しています。生息域は広く南極、北極の両極地とオーストラリア大陸以外のほぼ全世界に分布しています。生活形態から樹上性リスタイプ(ニホンリス、キタリスなど)、地上性リスタイプ(シマリス、ジリスなど)、ムササビタイプ(ムササビ、モモンガなど皮膜で滑空するもの)の三つに分けられます。このうち樹上性と地上性のリスでリス科全体の約85%を占めています。
  日本には、樹上性のリスとしてはニホンリスやエゾリス(キタリスの亜種)が、地上性リスではエゾシマリス(シマリスの亜種)が分布しています。これらのリスは長くふさふさした尾をもっていますが、北米中央部に分布する地上性リスタイプのプレーリードッグは穴を掘って生活するので耳や尾が短くなっています。また、ムササビタイプのものではエゾモモンガ、ニホンモモンガ、ムササビが日本に分布しています。ムササビの場合は樹の高低差により滑空距離も違いますが、ふつう40~50m程度、うまく風に乗れば100~160m滑空します。一回り小型のモモンガでは滑空距離もふつうは20~30mです。
  本編ではこの中からリス属の日本固有種であるニホンリスと北米に生息するプレーリードッグ属のオグロプレーリードッグを紹介します。

リス属
  リス属は27種あるいは学者によっては28種に分類しています。種類が多いので個別の紹介は省略し、はじめに日本に生息する二ホンリスを紹介します。

128)二ホンリス

  日本固有種で本州、四国に生息しています。以前は、九州や淡路島でも観察されていましたが、最近は未確認で絶滅が心配されています。本州中部以北では平地から標高2500mあたりまで、富士山では標高2300mで見ることができます。生活圏は広葉樹や針葉樹の森林で、10m近くもある高い樹上に20~40cm程度の楕円形の巣を2~7個作り、休憩場所や隠れ家として使っています。巣材は細い木の枝で外側を作り、内側には柔らかい樹皮、草、それにコケなどを使い、巣穴に適した樹洞があれば利用します。昼行性で朝夕に活発に活動し、夜間は巣の中で休息しています。四季により活動時間が変わり、冬季における長野県蓼科の調査によれば、外温がマイナス20℃にもなる地域では日の出から1~2.5時間後に巣を出て、活動時間も1~2時間程度と短めですが、夏季には早朝4時30分頃巣を出て午後2時30分頃巣に帰り休息し、夕方涼しくなると再び採食に出かけると報告されています。二ホンリスは冬眠しないので夏の終わりから初秋にかけて冬用に食物をあちこちに隠すことが知られています。積雪で種子が手に入らない時のために地中に約60%、樹上に約40%を貯蔵したとの報告もあります。ふだんの行動圏は、メスは5~17ha、オスは4~30haで食物が豊富な地域は行動圏が狭くなります。成熟メス同士の行動圏は重複しませんが、オス同士の行動圏及びオスとメスの行動圏は重複します。春の交尾期にはオスはメスの3倍になった報告例があります。鳴き声は発情の間は頻繁に鳴き、危険が迫ると鋭い警戒音を発します。また、尾はふるわせたり、振ったりして仲間同士で合図を送ります。

  センザンコウは赤ちゃんを背に乗せて移動します。これ以上安全な場所はありませんね。
井の頭自然文化園に行く機会があったらリスの小径に足を運んでください。愛くるしい二ホンリスたちに会うことができるでしょう。
写真家  大高成元氏 撮影
   

体の特徴

   体長16~22cm、尾長13~17cm、体重250~310g  
  門歯は歯根がなく一生伸び続けます。歯式は、門歯1/1、犬歯0/0、前臼歯2/1、臼歯3/3で合計22本です。乳頭は胸部0-2、腹部4、下腹部2計6~8個です。 体色は、冬は暗い褐色や灰褐色ですが夏は明るい茶褐色や赤褐色となります。尾の先端は白、目の周りには白いアイラインがあります。冬毛は耳先にふさ毛が生えます。換毛時期は3月になり暖かくなるころ冬毛から夏毛になり、10月頃夏毛から換わりはじめ12月には冬毛となります。鼻先の毛は長く触毛の働きをしています。
  前肢の親指はなく4本、後肢の方が長く、指は5本ありそれぞれ鋭い鉤爪がついています。木を上り下りする時にはこの鋭い鉤爪を樹皮にひっかけます。特に後肢は特殊な構造をしていて、足首を180度自由に回転することができるので、木から下りる時には後肢を後ろにのばし、爪をフックのように引っかけることができます。耳は大きく聴覚が発達して鳴き声でコミュニケーションを行っています。尾は移動するときにバランスをとるのに役立つだけでなく、付け根に血管が集合していて、夏は熱を放散し冬は尾を丸めて抱くようして暖を取るのに役立っています。尾は振ることで他個体とコミュニケーションをはかっています。大きな目は顔の外側に張り出すようについて後方や上下まで広範囲の物を見ることができます。顔の前方についていることでサルのように立体視でき距離感も正確のようです。シマリスと違い二ホンリスには頬袋はありません。

えさ
  生活圏内の広葉樹、針葉樹の実や新芽、果実、草などの植物が主食ですが、他にもキノコ、昆虫や鳥の卵、死んだ動物の骨なども採食します。好物はオニグルミと松類の実ですが、他にも季節によって旬の植物を採食しています。春になり花が咲く季節になればヤマザクラやクルミ、コナラ、クリなどの花や新芽を採食し、果実、種子以外の植物質を食べる比率が大きくなります。夏にはヤマグワやヤマモモの熟していない実、オニグルミの実、アカマツ、カラマツ、ゴヨウマツの種子、昆虫などを採食しています。夏季の終わりの8月から10月になると豊富なクリやこぶしの種子、ヤマブドウ、アケビの実、ドングリの実(ブナ科コナラ属のカシ・ナラ・カシワ、スダジイ、クリなど)を地面や木の間に蓄えます。松ぼっくりは外側の鱗片を一枚ずつはがし、鱗片の間にある実を採食します。鱗片が全部取られると残った部分がエビのしっぽのような形になり、林の中で落ちていればリスがいる証拠です。オニグルミは1年を通じて主食のひとつですが、皮が固く貯食しても果実のようにすぐに腐ることもなくドングリ類より実も多く貯食用に最適です。二ホンリスはオニグルミを割れ目に沿って2つに割って食べるのに対し、アカネズミは横に穴をあけて食べるため野山で落ちている実の穴を見れば両者の区別ができます。この時期にはキノコ類も採食します。やがて冬が来ると地中に貯蔵した餌を掘りだして採食します。植物の種類数は15~42種類が報告されています。
  動物園の餌は、カシグルミ、ヒマワリ、麻の実、ドッグフード、サツマイモ、ニンジン、リンゴ、コマツナ、繁殖期には動物質補給のためミールワーム、煮干し、ブタの骨も与えていますが良くかじっているそうです。

繁殖
  繁殖期は通常2~3月に発情し、3~4月に出産します。餌がふんだんにあって気候も温暖で発情に適した環境の場合、さらに2回目の発情が5~6月にきて8月頃出産します。出産は巣の中で行います。巣は長径40cm,短径25cm,高さ20cm程度で、巣材は巣をかける樹の小枝を使い、内側はおもにスギ・ヒノキの樹皮やコケです。発情期間は短く半日から2日間で、発情したメスの陰部は腫脹し、オスは睾丸が下垂、腫脹します。発情したメスは2~3日キイキイ、ルルルッと激しく鳴き、複数のオスと交尾します。妊娠期間は約40日で妊娠したメスは攻撃的になりオスを近づけません。一腹の産子数は井の頭自然文化園(以下  井の頭と表記)の例では3~4頭ですが、野生の報告例を合わせて見ると1産に2~7頭になります。生まれたばかりの子どもの体重は6~8g、井の頭の3頭の平均体重は7.7g、頭胴長5.2cmと報告されています。生まれたばかりの子は体に毛が生えておらず、目も閉じたままです。生後3~4日齢でよちよち歩き、毛も少し生えてきます。生後1ヶ月齢で目が開き、毛も生え揃います。子どもが歩けない時期には母親がくわえて1頭ずつ移動先の巣に運びます。巣箱から子どもが顔を出すのは生後約40日齢です。育児はメスだけで行い、授乳は生後10~14週間続き、子ども離乳します。性成熟は約1年です。
  寿命は野外ではふつう3.5~5歳です。飼育下での長寿記録としては、井の頭で1994年6月17日から2003年5月10まで飼育された個体(メス)の飼育期間8年10ヶ月があります。

外敵
  外敵としては、猛禽類(オオタカ、ノスリ)、ホンドキツネ、イタチ、テン、ノネコ、ヘビがいます。

生息数の現状と絶滅危機の程度
  環境省レッドリスト2015年版よると中国地方と九州地方のニホンリスは、絶滅のおそれがある地域個体群に指定されています。また東京都のレッドリスト・2010年版では区部では絶滅、北多摩地区の二ホンリスを絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定し、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いものとしています。
日本の固有種で鳥獣保護法によって保護され都道府県の長の許可なく飼育することはできません。

分類   齧歯目(ネズミ目)  リス科  リス属
分布   日本固有種(本州、四国、九州、淡路島)。九州と淡路島の個体群は近年観察されず絶滅が心配されています。
大きさ  
体長(頭胴長)
尾長
体重

16~22 cm
13~17 cm
250~310 g


主な参考文献
阿部永  (監修)   ニホンリス  In  日本の哺乳類「改訂版」  東海大学出版会  2005.
今泉吉典  (監修)   世界哺乳類和名辞典  平凡社 1988.
林壽朗   標準動物図鑑全集  動物Ⅰ  保育社 1968.
井田素靖   井の頭をリスの森に  どうぶつと動物園  ㈶東京動物園協会Vol.42. No.7 1990.
金子之史   哺乳類の生物学 ① 分類  東京大学出版会  1998.
中山孝   新ニホンリス舎 (飼育トピックス)  どうぶつと動物園  Vol.38 No.11 ㈶東京動物園協会  1986.
成島悦雄  監修   二ホンリス  図解雑学  動物の不思議  ナツメ社  2006.
西垣正男・川道武男   げっ歯目総論・ニホンリス In日本動物大百科  哺乳類Ⅰ:川道武男 編集  平凡社  1996.
田村典子   リスの生態学  東京大学出版会  2011.
田村典子   二ホンリスはどのようにクルミを食べるのか  どうぶつと動物園  Vol.59 No.4 ㈶東京動物園協会  2007.
高松美香子   二ホンリスの成長過程を調べる どうぶつと動物園 Vol.67 No.3  ㈶東京動物園協会  2015.
霍野晋吉   ハムスターウサギリスなどの飼い方  成美堂出版 1995.
三浦愼悟  他   In小学館の図鑑 NEO動物 動物  小学館  2014.
菊池文一   リスを育てる  ―二ホンリスの飼育日誌からー どうぶつと動物園 Vol.24 No.1  ㈶東京動物園協会  1972.
北垣憲仁   ネズミ目の動物  In小学館の図鑑 NEO動物 2014.

 
おもしろ哺乳動物大百科127  有鱗目  センザンコウ科 2016.11.1

有鱗目  センザンコウ科

  かつては主食がアリとシロアリで、口が細長くて小さいことからアリクイの仲間と考えられて貧歯目としていました。しかし、精査してみると、貧歯目に特有の背骨の関節突起がないことや乳頭が脇の下にあり、さらに子宮が2つに分かれ胎盤が違う点などから現在は、有鱗目(センザンコウ目)に分類しています。
  多くの野生動物は肉食獣から身を守る方法として、ウマの仲間のように高速で長距離を走って逃げるか、ネズミのように地下にもぐったり、サルのように木に登ったりして逃れています。有鱗目は一種独特で、屋根瓦と形容される鎧のように固い鱗を持ち、危険が迫ると体を丸めてボール状になって体の全面をおおうことで身を守っています。
  今泉吉典博士は以下の1科2属7種、学者によっては8種に分類しています。総体的にみると地上性と樹上性の種がいて、樹上性のほうが小型で尾は長くなっています。また、アフリカ大陸とアジア大陸に生息する種類で2属に大別され、森林から開けたサバンナにかけて生息しています。体格は、頭胴長30~88cm、尾長28~88cm、体重2.05~33kgで種によって体格差が顕著で、ほとんどの種でオスはメスより10~50%大きくなります。

アフリカセンザンコウ属  4種。
  (1)オオセンザンコウ。    セネガル、ウガンダ、アンゴラのサバンナと森林に生息。
  (2)サバンナセンザンコウ。スーダン南部から南アフリカのサバンナに生息。
  (3)オナガセンザンコウ。  セネガル、ウガンダの森林に生息。樹上性。
  (4)キノボリセンザンコウ。セネガル、ケニア、アンゴラの森林に生息。樹上性。

センザンコウ属  3種  又は4種に分類。
  (1)インドセンザンコウ。  インド、スリランカに分布
  (2)マレーセンザンコウ。  ミャンマー、ジャワ、ボルネオ、パラワン諸島に分布
  (3)(パラワンセンザンコウ。  パラワン諸島に分布する個体群を独立種として扱う場合)
  (4)ミミセンザンコウ。    インド北東部、ネパールから中国南部、台湾に分布

本稿では我が国で飼育例、繁殖例があるミミセンザンコウについて紹介しましょう。

127)ミミセンザンコウ

  インド北東部、ネパールから中国南部(台湾、海南島を含む)まで広く分布しています。アリやシロアリのいる草原、亜熱帯の低木棘林、多雨林、竹林に生息し、やせた高地のネパールと台湾では標高1,500~2,000mの場所でも観察されています。ふだんは隠れ場所として地面に巣穴を掘ってその中で生活しています。掘るときには、前足の大きな鋭い爪で土を崩してから後方へ送り、後ずさりしながら後肢で土を穴の外へ押しだすので、入り口には掘り出した土が山になっています。1時間で2~3mの穴を掘ることができ、入口は直径15~20cm、深さ2.4~3.6mでその奥に直径約2mの部屋があって、中に入ると入口を閉ざすと言われています。繁殖期以外は単独で生活をし、夜行性で昼間は巣穴で眠って休憩します。中国の調査では、夜7時頃に餌を探しに巣を出て夜10時ころに戻ります。外に出る時間は個体差や生息地よって異なりますが、平均すると24時間のうち5.6%でした。急いで外敵から逃げるときは体を丸めて30mを10秒で転げて逃げた報告もあります。通常地上生活ですが木登りも上手で、泳ぐこともできます。視覚と聴覚は弱く餌は嗅覚で探します。野生の行動圏は情報が少ないのですが、2頭に発信機を付けて調査した結果によれば、一日の移動距離は平均0.7kmと1.8kmと報告されています。歩行は前肢の長い爪を保護するように内側に曲げてナックルウオーク歩様ですが、後肢は蹠行性で足のかかとまで地面につけて時速3~5kmで歩きます。足の裏は固く皮膚がむき出しになっています。
  排便するときに肛門腺からの分泌物が付着するので情報交換していると考えられています。威嚇するときシュー・シューやハーッ・ハーッと声を出しますが大声ではありません。

  センザンコウは赤ちゃんを背に乗せて移動します。これ以上安全な場所はありませんね。
センザンコウは赤ちゃんを背に乗せて移動します。これ以上安全な場所はありませんね。
写真家  大高成元氏 撮影
   

体の特徴

  体長(頭胴長)40~58cm、尾長25~38cm、体重2.5~7kg
  体は腰部を頂点に湾曲し、長い尾は頑丈な鱗でしっかり守られています。ふつうオスの方がメスよりも体重は重くなります。頭部から頬にかけて強い咬筋が付いているハイエナやゴリラなどは、大きな頭部と頬部を持っていますが、センザンコウはアリやシロアリを舐めとっているので歯はなく、また強い筋肉もないので頭骨は小さく単純な形をしています。口は小さく下顎骨は薄い刃物のような形をしています。頭部は円筒状で、舌は幅約1cmで平たく、大きな唾液腺の分泌液でべとつき、口から約15cm出してアリを絡めとります。大きな唾液腺はPH=9-10のアルカリ性のやや強い唾液を分泌しています。鼻孔と耳は開閉ができ採食中は閉じています。厚い瞼はアリの攻撃から目を保護しています。胃はふたつに仕切られていて、最初の室は全体の80%を占めて胃壁は薄くなっていて貯蔵庫の役割をはたしています。二番目の容積は小さいですが胃壁は固い筋肉でできていて内部の表面には沢山の襞(ひだ)があり、飲み込んだ小石と一緒に餌をすりつぶして消化しています。胃には0.5kgの餌を入れることができ、盲腸はありません。四肢は短くそれぞれ5本の指があって鉤爪がついています。前肢の第2.3.4指の爪は長く5cmにもなり頑丈で後肢の2倍あり、アリ塚を壊したり穴を掘ったりするときに使います。
  ミミセンザンコウと呼ばれるようにセンザンコウの仲間では耳介が比較的大きく2~2.6cmあってはっきりわかります。鱗と鱗の間に短い剛毛があることで、毛のないアフリカの種と区別できます。鱗は鼻づら、喉、腹、四肢の内側、尾の先端の内側以外にあって真皮の上に生えています。鱗の生えていない部位は体を丸めることですべて覆うことで外敵を防ぐことができます。鱗は半透明の褐色で、縁は鋭く固いため捉えようとすると尾を振って攻撃します。鱗は毛が角質化し固くなったもので、定期的に落ちて替わります。尾の下面の先端は毛がないので木などに巻き付け、ぶら下がることもできます。乳頭は脇の下に1対あります。
  排便時には5~10cmの穴を掘り、その穴をまたぐように尾と後肢で立って排便後、その後前肢で土をかき寄せてかぶせるのが観察されています。体温は33~34.5℃です。

えさ
  主食はアリとシロアリの成虫、幼虫、卵です。食べる種類は季節により異なり夏季にはPolyrhachis(トゲアリ)、冬季にはMacrotermes(オオキノコシロアリ)、Coptotermes(イエシロアリ)となります。その他に柔らかい体の昆虫や昆虫の幼虫も採食します。落ち葉や朽木の下にいる餌は、0.8~2mのトンネルを掘って嗅覚を頼りに探します(冬季にはトンネルはより深くなります)。トンネルは前肢3本の5cmにもなる長い爪で掘ります。平均的な大きさの巣のアリならば30分ほどで採食してしまいます。例外的に直径90cmもある巣では腹いっぱいになるとトンネルの入り口に土をかぶせふたをして翌日の夜、また食べます。夏には50~100mの距離を数日かけて穴を掘り採食し餌が少なくなると移動していきます。夏ならば5~7日間、冬は10日間餌を食べなくとも大丈夫です。水はアリを採食するのと同様に舌を出し入れして飲みます。
  飼育下では、イヌ用の人工ミルク、ネコ用液状エスビラックを始め、冷凍アリ、種ごとに開発が進んでいる食虫目用ペレット、ドッグフードやキャットフード、さらにオカラ、ヨーグルト、ミールワーム、卵、煮干しから赤土まで各園で工夫しながら給与して成功させています。

繁殖
  メスの発情は夏から秋にかけて始まり3~5日間続きます。発情したメスを巡りオス同士の戦いに勝った個体がこの間に交尾します。出産は11月から3月の冬期です。しかし、飼育下では一年を通じて繁殖の報告があります。
  ミミセンザンコウの妊娠期間は明確な記録がありませんが、アフリカのサバンナセンザンコウでは約139日の報告があります。地下に掘った巣穴で出産し、ふつうは1産1子ですが、稀に2子を出産します。生まれたばかりの子の体重は70~100g、体長15cm~21cm、で、体は柔らかい紫がかった褐色の鱗で覆われ、1枚ごとに体に密着しています。腹部の毛は白色から暗い褐色です。冬の間は母子で巣穴の中にいますが、春になると子どもは母親の尾につかまって巣穴から出てきます。メスは1歳で性成熟に達します。
  上野動物園では1965年12月25日に繁殖例がありますが、その時の報告は次のとおりです。生まれた時の子どもの目は閉じていて、生後9日齢で開きました。母親は丸くなって子どもを腹の下に入れていましたが、授乳時には仰向けになり、腕をあげて脇の下の乳頭に吸い付かせました。乳を飲むときは舌が横にはみ出していました。生後7日齢で鱗の間に毛が生えてき、生後9日齢で鱗の内側が黒くなりはじめました。体重は、生後16日齢で210g、生後4ヶ月齢で1,250g, 生後6ヶ月齢で2,700gになりました。生後50日齢頃になると母親の腰の下には入れきれずはみだしていましたが、それでも母親は前足で子どもをかき寄せて無理に腰の下に入れようとしていました。生後80日齢頃になると体重があまり増加せず、母乳も出ていないと考えられたので、離乳の準備をはじめ112日齢で親から分けました。

長寿記録
  1988年12月20日に名古屋市東山動物園で飼育を始め、2004年2月10日に東京都上野動物園に移動し、2010年10月31日死亡した個体(オス)の飼育期間21年10ヶ月という記録があります。

外敵
  外敵としては、中型から大型の肉食獣、トラ、ヒョウ、ヤマネコ、ニシキヘビなどが挙げられます。

主な減少原因
  生息地の開発による被害はもちろんですが、アジアではミミセンザンコウの鱗を漢方薬にしたり,食用にしたりするために乱獲され続けています。生息地では保護されていますが、それでも密猟は絶えず減少の一路を辿っていると報告されています。

絶滅危機の程度
  IUCN(国際自然保護連合)発行の2016年版レッドリストによるとミミセンザンコウは絶滅寸前にあたる種として「絶滅寸前種(CR)」に指定されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅱに掲載され、商取式は可能ですが輸出入に際しましては相手国政府の輸出許可証が必要です。

分類   有鱗目  (センザンコウ目)センザンコウ科  センザンコウ属
分布   インド北東部、ネパールから中国南部(台湾、海南島を含む)まで広く分布
大きさ  
体長(頭胴長)
尾長
体重

40~58 cm
28~38 cm
2.5~7.0 kg


主な参考文献
C.R.ディクマン   センザンコウ  In 動物大百科 6. 有袋類ほか D.A.マクドナルド(編)今泉吉典(監修)平凡社 1986.
今泉吉典  (監修)   世界哺乳類和名辞典  平凡社 1988.
今泉吉典   動物分類学講座  アリクイ・センザンコウおよびツチブタ—貧歯目・有鱗目・管歯目について—どうぶつと動物園  Vol.16 No.9  1964.
林  壽朗   標準動物図鑑全集  動物Ⅰ  保育社 1981.
増井光子   センザンコウの赤ちゃん誕生  どうぶつと動物園  Vol.18 No.6 1966.
大滝亜友美   ミミセンザンコウの飼育   どうぶつと動物園  Vol.66. No.3  ㈶東京動物園協会  2014.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Heath,M. E.   Mammalian Species. No.414, Manis pentadatyla The American Society of Mammalogists. 1992.
Parker,S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
田隅本生   有鱗目  In 朝日=ラルース「週刊  世界動物大百科」59号  朝日新聞社  1972.
玉村  太   ミミセンザンコウの人工哺育 どうぶつと動物園  Vol.42 No.11 ㈶東京動物園協会  1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.

 
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