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ペットをめぐる法律(1)国内編
尾崎裕子(日本女子大学大学院人間生活学研究科)
はじめに
今回のコラムは、ペットをめぐる法律に関しての話題です。前回までに、近年ペットの家庭内での地位が向上しているというお話をしてきました。それに対応するように動物、とくにペットに関わる法律が改正され、昨年施行されたのはご存知でしょうか。
日本におけるペットに関する法律といえば、古くは江戸時代の5代将軍徳川綱吉による一連の「生類憐れみの令」があります。最初の「生類憐れみの令」は1685年のものといわれ、その後1709年まで20数年にわたって、様々な発令や改正が行われています。この令は、重症の動物を死なないうちに捨てることを禁じ、飼い犬を登録制にし、愛玩用を除いた食用などの鳥や魚類の販売を禁止したものです。確かにこれは、見た目には世界に先駆けた動物愛護法であったといえますが、人々を苦しめる極端なものであったため、綱吉の死後廃止されました。そしてその後長い間、日本には動物愛護に関する法律は存在しませんでした。
■「動物の保護及び管理に関する法律」の制定
動物愛護に関する規定ができたのはごく近年のことで、1973年10月1日公布(1974年4月1日施行)の「動物の保護及び管理に関する法律」(以下、動管法)を待たねばなりませんでした。これによって、動物の生命に関する尊厳と適正な飼養・保持が初めて法律で規定されました。しかし、その背景には、国内での法制定を求める動物愛護団体の動きとともに、捕鯨や実験動物についての劣悪な環境などがイギリスをはじめ海外で報道され、「日本は動物虐待国」といった非難が高まったという事情がありました。1975年にペット先進国イギリスからエリザベス女王の来日する前に、体裁だけは整えておかなくてはといういわば「外圧」が加わって議員立法で急遽制定された経緯があったわけです。余談ですが、この年に女王来日を記念して、牝の競争馬日本一を決める「エリザベス女王杯」が始まっています。このような経緯ですので、動物愛護の理念こそは述べられていたものの、虐待や保護等についての明確な定義もないため、実際に適用するには法律とは名ばかりの「ザル法」でした。たとえば罰則も虐待や遺棄に対して3万円以下の罰金と軽く、ほとんど機能しない不整備なものというのが実状でした。
その後、この動管法を受けて幾つかの関連法令ができました。1975年に「犬及びねこの使用及び保管に関する基準」という総理府告示が出されました。これは終生飼養、給餌・給水、健康管理、運動、保管施設、放し飼い防止、しつけ及び訓練、悪臭などの発生防止、繁殖制限などを定めています。1976年の「展示動物等の飼養及び保管に関する基準」という総理府告示では、“動物園などの動物”と“愛玩用に販売・展示する犬や猫”とについての基準を定めています。また、各都道府県も1979年前後にそれぞれ「動物の保護及び管理に関する条例」を作っています。しかし、これらの基準や条例も動管法同様、実際に機能していたとは言いがたいものでした。
■「動物の愛護及び管理に関する法律」に改正
少子高齢化社会でのペットの重要性の高まり等、最近の動物を取り巻く著しい環境の変化に、この動管法はますますそぐわなくなり、法改正をという声が次第に高まってきましたが、ようやく1999年12月14日、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動物愛護法)が自由民主党から議員立法で提案され、衆議院内閣委員会・本会議と全会一致で可決、参議院でも国土環境委員会・本会議にて全会一致で可決されました。公布は1999年12月22日、施行は2000年12月1日でした。
まず法律の名称中の「保護」が「愛護」に変わり、内容的には相当変化しました。条文の数も、動管法は条文が13条からできているのに対し、動物愛護法は31条と増えています。この法律の主な特徴は、「動物は命あるもの」という位置付けをし、(1)動物取扱業者に対する規定の導入(2)飼い主責任の徹底(3)虐待の例示や罰則の強化(4)国・地方自治体の役割の明確化(5)動物愛護管理員(自治体職員)・動物愛護推進員(民間)の設置にあります。罰則は、殺傷等は罰金100万円、懲役1年、給餌給水を行わず衰弱させる等、及び遺棄の場合は30万円以下の罰金となっています。海外の多くの制度では、動物取扱業が認可制であるのに対し、今回の改正では届出制にとどまる等、未だ課題は残ったものの、26年ぶりの法改正は大きく前進したといえると思います。また、この法改正に伴い、「動物取扱業者に係る飼養施設の構造及び動物の管理の方法等に関する基準」が2000年6月に設けられています。
■動物保護関連法制の周知度
ところで、総理府(現 内閣府)は、1974、1979、1986、1990、2000年と、『動物保護に関する世論調査』(細かいことですが、1974年は『動物の保護に関する世論調査』、2000年は『動物愛護に関する世論調査』、それ以外はこのとおり)で動管法や動物愛護法の周知度等を調べており、調査結果は図1にまとめています。周知度に関しては、1974年の法律制定直後の調査で「知っている」が36.0%であったのが、5年後の1979年は10ポイント下がり26.0%となっています。その後、1986年は54.8%、1990年は56.1%と上昇していきましたが、2000年6月に行われた調査では48.8%と、むしろ法律の周知度が下がってきているという結果となっています。
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また2000年調査で、動管法が1999年12月、動物愛護法に改正されたことを知っているかを聞いたところ、「改正された内容まで知っている」と答えた者の割合がわずか1.8%、「改正されたことを知っている」が11.2%、「改正されたことを知らない」が35.8%、「そういう法律があることを知らなかった」の割合が51.2%というもので、なかなか現状ではこの法律が社会に浸透していない結果があらわれています。ペットの家庭内での地位は向上しても、ペットも社会の構成員であること、つまり、法律という契約の中での存在であるという意識がまだまだ希薄である証左といえましょう。これは、日本における、女性の家庭での地位と社会でのそれとにギャップがあることとあい通じる点があるように思います。
大都市、中都市、町村と3つにわけた都市規模別の調査結果を図2にまとめました。1974年は「知っている」が大都市では44.0%であるのに対し、中都市35.0%、町村31.0%と法律の周知度には格差がありましたが、2000年では大都市46.2%、中都市49.6%、町村44.7%と差がなくなってきていることが窺えます。ただし、法律が「改正されたことや改正された内容を知っている」となると、大都市では16.0%、中都市11.2%、町村12.0%という結果で、新たな情報に関しては、都市規模が大きいところから浸透していっているようです。
また、ペット飼育の有無で、法律の周知度を1979、1986、2000年の3時点で聞いたところ、図3のとおり、どの時点でも飼っている人の方が周知度は高くなっています。ただし、最近の2000年調査では1986年と比べ、ペット飼育の有無にかかわらず、ここでも法律の周知度が下がっているという結果となっています。動物愛護法の存在について多少とも飼い主が意識できていれば、たとえば衝動的に飼い始め、途中で面倒くさくなってペットを捨ててしまうというような無責任な者も減っていくのではないでしょうか。
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他に、2000年調査では“動物愛護政策への要望”を聞いています。その回答としては、“飼い主のモラル向上への指導”が48.4%と最も高く、次いで“取扱業者への規制や指導”が34.4%、“ペットの愛護や正しい飼い方の重要性を広報活動で訴えること”(31.1%)や、“学校や社会教育の場で十分取り上げること”(25.8%)が上位にありました。“飼い主のモラルの低さ”といえば、一部の飼い主がペットを散歩させる際における排便の後始末の悪さなどが挙げられます。“ペット飼育による迷惑”について聞いても、「散歩している犬の糞の放置など飼い主のマナーが悪い」という項目が58.1%と最も高くなっています。そのため、公園へのペット立ち入りが禁止されたり、少なくとも砂場には近づけないような措置をしている所もあります。こうした一部の低モラルの飼い主は、ペット飼育をしていない人はもちろん、他の飼い主へも迷惑をかける結果となり、社会全体でのペット飼育への理解を進める上での阻害要因の1つとなっています。
■その他の規制と今後の展望
その他、ペットの飼い主等に関係のある法律には「狂犬病予防法」があり、この法律では、犬を取得した場合の飼い主登録や、毎年の予防注射接種を義務づけています。また、民法第718条では、動物が他人に傷を負わせたりした場合、飼い主に損害賠償の責任を規定しています。他に、軽犯罪法第1条12・30号では、拘留または科料に処せられる行為として、人畜に害を加える性癖のあることが明らかな犬その他の鳥獣類を正当な理由なしに逃がすことや、けしかけることが挙げられています。
動物との関係において欧米と比較すると、日本は仏教の影響を受け、また穀類が主食であったという、もともとの文化の違いからか、動物愛護についての法制度そのものに未成熟の感があります。現行法もさらに改善していくべき点は見受けられますが、まずは一人一人が動物に対する責任や保護の意識を高めていくことにより、社会全体に動物愛護の精神を浸透させ、その上で現状に即した制度を考えていくべきでしょう。そのためにも、法律の趣旨が国民へ行き渡り、動物愛護精神の理解が得られるよう、国もさらに啓蒙活動をしていく必要があるでしょう。
次回は、ペット先進国である欧米を中心に海外のペット関連法制についてみてみることにしましょう。
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