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当世ペットフード事情
尾崎裕子(日本女子大学大学院人間生活学研究科)
■はじめに
今回はペットに関連する商品の代表的なものとして、ペットフードについての話をしたいと思います。ペットフードの歴史を紹介した後で、最近の日本のペットフード事情を概説します。
■ペットフードの歴史
ペットフードはペットに与える食物すべてを指すのではなく、ペットに与える目的で加工された食物と定義されます。ペットフードは1860年にアメリカのオハイオ州の電気技師ジェームス・スプラッツによりイギリスで初めて事業化されています。当時、船舶の航海時にビスケットが食料として積まれていましたが、帰港後に余ったものは波止場に捨てられていました。スプラッツは仕事でイギリスに行く機会があったとき、イギリスの波止場で、犬たちがその捨てられたビスケットを食べていたのを見かけたことから、犬用ビスケットを製造販売しようと思いついたものだといわれています。その約60年後には缶詰ドッグフードが発売され、1927年にはアメリカのクラレンス・フランシス・ゲインズが自らの愛犬のために開発したものという、最初のドライドッグフードが発売されています。キャットフードは、1950年代にターキスト社が食用魚肉缶詰の残りである鰹(かつお)や鮪(まぐろ)の残部を利用したものを発売しています。
日本におけるペットフードの歴史はといえば、まだまだ浅いものです。第2次世界大戦終了後に、米軍を中心とする連合国軍が多くの軍用犬をアメリカから連れて来たため、そのためのペットフードが進駐軍向けの店で売られるようになったのが、日本に入ってきた始まりといわれています。
日本での国産ペットフードはドッグフードが始まりで、世界で初めてペットフードが発売されてから100年後のことです。1959年に協同飼料による「愛犬の栄養食Vita-One」が試売され、翌年の1960年4月に粉末タイプとして最初に発売されています。その後、同じ年に粒タイプ、次の年にはビスケットタイプが出されています。また1963年に同社の全額出資により設立された日本ペットフードが、1964年ドライドッグフードを発売しています。
1961年に「ゲインズ」が、1962年には「ケンエル」の輸入が始まっています。ちなみに1963年当時の価格はビタワンが175円/kg、ゲインズが249円/kg、ケンエルが244円/kgでした。1頭の犬が1ヶ月に10kgのドッグフードを食べるとすると、日本製で1,750円、輸入品では約2,500円かかることになります。1963年の家計1世帯(世帯人員数4.30人)あたりの1ヶ月の消費支出(全国・全世帯)の総額は40,246円で、食料費は15,571円、そのうち、たとえば穀類には3,834円、肉類に1,249円支出していました。これらと比較すると当時のペットフードがいかに高価なものだったかが想像できると思います。この当時はブリーダーやペットショップなどが主な購買層で、日本での普及率は1%程度で、ドッグフードが登場して10年ほど経った1971年には、普及率は5%と推計されています。
キャットフードは1960年代から缶詰タイプを食用缶詰業者がアメリカへ輸出していましたが、国内では1970年に日本ペットフードが販売を開始しています。1960年代後半からは飼料メーカーがペットフード市場に参入し、その後外資や食品メーカーも続々と参入してくるようになり、徐々にいろいろな商品が発売されていき、犬用、猫用のみならず、小鳥用、観賞魚用、小動物用と、ご承知のようにいまでは様々な商品が販売されています。
■ペットフードの流通量
次に国内でのペットフードの流通量をみていきましょう。1990年度から2000年度までのペットフードの国内流通量の推移は、農林水産省の「ペットフード産業実態調査の結果」から得られます。図1がその概要です。全体の流通量は、1990年度では約33万トンであったのが、2000年度では約77万トンと2.3倍に増えています。10年間のうちでも1990年代前半の増加が顕著であったことがわかります。
動物の種類別流通量のシェアに目を向けると、犬用が約60%、猫用が35%前後と、犬猫用で全体の95%を占め、10年間で大きな変化はみられません。また観賞魚用フードのシェアが次第に減少しており、最近ではうさぎやハムスターなどの「その他用」の割合が増加傾向にあります。
図2aと図2bはそれぞれの種類別フードの伸びを7みるために、1990年の各流通量を100としてグラフ化したものです。図2aをみてください。1990年度を基準とすると、犬用フードは2.35倍、猫用もほぼ同じで2.36倍となっています。小鳥用も2.17倍でほぼ同程度の伸びです。一方、観賞魚用は1990年度の0.7倍へと減少しています。犬の場合は登録頭数がわかるので、1頭あたりのペットフード量がわかります。1990年度から2000年度の10年間で犬の登録頭数が1.49倍増加しているのに対して、ペットフードは2.35倍になっており、犬1頭あたりのペットフード量は約1.6倍になっています。犬に与える食事として、ペットフードがより普及してきていることが読み取れます。なお、図からは1995年度から1996年度にかけて1頭あたりの数値は減少していますが、これは登録制度の変わり目で登録頭数が急増したことによる影響だと思われます。
ところで、まだ量的には少ないのですが、増加率という点で注目されるのが「その他用図2bをみてください。犬用と「その他用」のフードの伸び率を示しました。「その他用」のフードは10年間で6.86倍という極めて大きな伸び率になっています。
■ペットフードの輸入
今度はペットフードを国産品か輸入品かという基準で分けてみましょう。2000年度の流通量シェアは、国産が40.5%、輸入が59.5%となっています。前年の1999年度は国産が44.5%、輸入が55.5%でしたから、近年は輸入が国産をますます上回る傾向にあります。ペットフードが輸入品目に登場したのは1964年のことですが、2000年のペットフードの輸入実績は金額ベースでは、6億6692万ドル(716億3378万円)で、いまや日本の農林水産物輸入品目のなかで22位となっています。ちなみに、その前後で馴染み深い品目として、ぶどう酒、加工鰻がそれぞれ19、20位、バナナやチーズがそれぞれ25、26位に位置しています。2000年のペットフード輸入は、1999年と比較すると、金額ベースでは2.2%増、数量ベースでは3.4%の増加となりました。
主な輸入国は、アメリカ、オーストラリア、タイで、この上位3国で全体の90%以上を占め、第4位の中国以下を大きく引き離しています。アメリカは世界最大のペットフード輸出国なのですが、そのアメリカの輸出にとって、日本は金額では第1位の相手国で、数量ではカナダに次いで第2位の相手国となっています。犬用ウェットが主体のオーストラリアでも、ペットフードの対日輸出は1999-2000年度では、数量ベースで輸出量全体の67.4%、金額ベースでは69.0%と、圧倒的なシェアを占めています。また、タイからのペットフード輸入は、主に魚や鶏肉などを原料としており、キャットフードが主体です。対日農林水産物輸出品目全体のなかでは、ペットフードは第7位です。タイのペットフード輸出相手国としては数量・金額とも日本が第1位で、2位以下を大きく引き離しています。このように、世界のペットフード市場でも、日本はすでに有数の大市場となっています。
■ペットフードの変化の方向
日本では、犬用であれば原材料で最も一般的なものは牛肉・鶏肉、猫用では鮪(まぐろ)が代表的です。ところが、アメリカでは犬用では羊肉や七面鳥肉も原材料としてよく使われ、猫用でも鶏肉・羊肉などの肉類が使用されたりと、ペットフードも人間側の食生活のお国柄が反映されていることがみえてきます。
最近ではペットフードにおいてもいくつかの変化がみられるようになってきました。この変化は人間の食生活のそれと類似している面があります。大きく4つの変化方向を挙げるとすれば、「高級化」、「多様化」、「簡便化」、「健康指向」といえるでしょう。
以前は産業廃棄物的な食品をペットフードに加工していたのに比べて、現在のペットフードは「高級化」していることは明らかでしょう。また、以下に述べるような多様化・健康指向も高級化の流れのなかにあるといってよいでしょう。ペットの種類ごとのペットフードが出回ることはいうまでもないことですが、近年の「多様化」の特徴は、ペットのライフステージや活動状態別の栄養量等を考慮したフードが登場していることです。これは、栄養バランスを考慮するといった「健康指向」とつながります。しかし、一方で、ペットフードはその動物の必要栄養基準に適合するように成分配合されるようになってきているということは、与えるのも手軽で保存もしやすいという「簡便性」の側面があることも見逃せません。この「簡便化」については、飼い主である人間の世帯規模の縮小により、外食や調理済み簡便食品の利用で、以前より食事の残り物が出にくい状況も影響していると思います。
1990年代に入ると、ペットフードを購入する消費者側に二極分化が起こってきているのかもしれません。ペットフードが非常に身近になり商品も多様化したため、スーパーやホームセンターなどで価格の安い商品を求める場合と、高級化と健康指向で、高くても品質がよいものを求めるケースです。
電気製品や自動車は利用者の扱いによって「もち」が違います。たとえ与える電気やガソリンが同じであってもそうです。ペットの健康は後者の部分でも相当の差が出るのはいうまでもありません。ペットは自らの「食事」を選択することはできません。飼い主である人間がペットの健康管理に責任を持ち、市販のペットフードを与えるにしても、多くの商品のなかからどんなものを選べばよいかの知識を培っていくことが、今後より重要になってくるでしょう。
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