くらしノベーションフォーラム レポート

第8回 くらしノベーションフォーラム  2012.6.18開催

テーマ: 団塊親子の今後と住宅

講 師:三浦 展氏
カルチャースタディーズ研究所 代表取締役
1958年生まれ。一ツ橋大学社会学部を卒業し、(株)パルコに入社、同社のマーケティング雑誌『アクロス』編集室に勤務し、1986年に同誌編集長に。90年から三菱総合研究所の主任研究員になり、99年に独立、消費社会・文化・都市研究のためのシンクタンク「カルチャースタディーズ研究所」を設立、同社の代表取締役に就任し、現在に至る。著書に『下流社会』『郊外はこれからどうなる?』『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』など多数。

人口の減少と少子化

日本の人口が2007年をピークに減り始めました。東京はまだ増えており、千葉・埼玉・神奈川もあまり減っていないのですが、2015年になると1都3県でも減り始めると言われています。2035年になりますと、今、3,500~3,600万人の人口が、3,300万人台へと、1割近くが減るという予測になっています。
これが2005年の1都3県の年齢別人口分布図です。【1都3県の人口2005年と2035年の図】30代前半が多く、50代の後半が次に多い。これが2035年になると、団塊ジュニアが60代前半になってピークを形成しています。団塊世代が多い結果、子どもの団塊ジュニアも多い東京の郊外は、今までは良かったが、これからは急激に高齢化していきます。ですから、団塊ジュニアの子どもが支える団塊世代の老夫婦という家族があったり、あるいは団塊世代老夫婦にまだパラサイトしている息子や娘がいたりするかもしれない。色々な形で首都圏に暮らすことになるわけです。
補足しますと、日本で暦年の出生数を見ると、団塊世代が一番多いですね。1947~49年、その後ずっと減っていって、71~74年が第2次ベビーブームです。日本全体だからそうなるのですが、東京だとどうなるでしょうか。東京だと第2次ベビーブーム世代が一番多いのです。団塊世代は当初は日本中くまなく存在し、東京に集中していなかった。これが中学校を出て集団就職、高校を出て就職あるいは進学をして東京に集まってきた。最初は大学も職場も23区内にあったから、東京23区内が多いんですが、彼らはすぐに結婚して子どもをつくります。子どもを生んだ時はまだ東京都内ですから、東京都の最大のベビーブームは団塊ジュニア誕生の時期なのです。1965~72年生まれくらいが非常に大きな人口を形成している。生まれた時は東京都区内居住なんですね。ところが当時の東京では家族の住む家は少なかった。マンションも高かった。若者が住む4畳半のアパート。結婚してもしばらくそこに2人で住み、運よく郊外の団地を当てた人は、高島平団地とかに住んだのですね。1985年にもなりますと、団塊ジュニアはほぼ郊外に引越し終わります。

拡大拡大拡大

団塊ジュニアの都心回帰

このような状況が今はどうなっているでしょうか。ずい分変わっています。
具体的な数字を1985年と2010年で比較してみると、【都心で増えた団塊ジュニアの図】世田谷区、練馬区、江戸川区、大田区、江東区などで増えています。23区内で実数で非常に増えたということが分かります。それがみんな結婚して子どもを生んでくれていれば少子化問題も解決したのですが、子どもを生んでいない人が多いのですね。それが大問題。生んでくれれば郊外に家を買うという動きが顕在化したと思います。この団塊ジュニアは第3次ベビーブームを起こしてくれなかった。このような状況が住宅市場においても冷え込みの要因となっていると思います。
よく人口が都心に回帰している、23区の人口が増えていると言われます。しかし、この回帰という表現はちょっと語弊があると思います。たしかに、最初23区内で生まれた団塊ジュニアが郊外に行ってまた戻ってきたんですから、回帰と言えば回帰と言えるのですが、なぜ東京都の人口が増えるのか。実は流出よりも流入が多ければ人口が増えるわけですが、今起きていることは、必ずしも流入の増加ではないんです。団塊ジュニアだけを見れば流入の増加と言えますが、全体を見れば流入の増加ではありません。では、どうして人口が増えたかと言うと、流出が減ったのです。だから人口が増えるのです。では、どうして流出が減ったのか。流出する理由は何なのか。23区から人口が流出する理由は子どもの出生です。子どもが生まれた、部屋がほしい、より良い環境で子育てしたい。それしかないんです。だから、子どもを生めば流出する。生まなければ東京都内にとどまるのです。子どもがいない限りは大体23区内にとどまってしまうのです。ですから、東京23区内の団塊ジュニアの増加というのは、少子化と裏腹の関係にあります。あまり喜んでばかりはいられないのですが、実態はこうなっているのです。
次に、今までお話しした団塊ジュニアは40歳になり始めています。結婚している人もいる、していない人もいる、結婚しても子どもを生まない人もいる、結婚していなくて、まだ親元にいる人もいる。多様化した。ある意味、階層格差が広がったという事態であり、これを地図で見るとどうなるでしょうか。

拡大

問題なのはパラサイトシングル

このパラサイトシングルがどこに多いかというと、世田谷区、大田区、足立区、江戸川区、郊外部では市川、船橋、町田から八王子ですね。パラサイトシングルが多い地域に一律に当てはまる法則はないと思いますが、世田谷にパラサイトシングルが多いのは立派な家があるからかも知れない。郊外でパラサイトシングルが多いのは、この地域に住む団塊ジュニアの学歴や収入が低いために、家から出られないという可能性も高いかもしれない。これは私の『下流社会』や格差論を読んでいただければそこで何度も言っていますが、結婚できるかどうかは明解に所得問題です。男性は所得が300万円では8割方結婚できないんです。500万円あれば20代でも結婚する人はいっぱいいるということなんです。しかも、女性も収入が高い人の方が結婚しやすいのです。以前は収入が高い人はキャリアウーマンとして自分だけで生きていこうという人でしたが、今はそうではない。そこそこ年収があった方が結婚しやすいと言えます。
では、年収が少ないとなぜ結婚できないのか。いい男性と出会うチャンスが少ない。これは階層の問題です。同じ地域には同じような階層の人しか住んでいません。女性から見ると魅力的な男性が少ないわけです。そうしますと結婚しにくい。所得が低いということは学歴が低いということと相関します。学歴が低いといい会社に入れない。そうすると、いい会社に入った男性と出会えない。非常に冷酷なデータです。
1都3県に35~45歳のパラサイトシングルは約80万人。問題は、そのパラサイトしている人ほど年収は低いだろうと予測できることです。仮にひとり暮らしする時でも、年収400万円を超すと家を出る可能性が高まるというデータもあります。家を出ていない人は400万円を超えていない可能性が高い。男性で400万円ないと結婚しにくいことになります。だから親元にいるのです。
今は親も働いているので良いのですが、これからは年金暮らしとなります。自分の年収は300万円以下で非正規雇用だという3人、4人家族が郊外に相当数存在しているという状況が考えられます。

拡大拡大

ゴーストタウンをゴールドタウンに

今後、日本の住宅市場で予測されている課題が「空き家」です。当然、3世代同居したら、家は余ります。本当は独立して1戸買うべき人が一緒に住む。そうすると、家は1戸いらなくなるわけです。野村総研の予測では、2040年の日本全体の空き家率は43%になる可能性すらあると言われています。つまり、3世代同居したはいいが、隣は空き家で、5軒並んでいたら2軒は空き家だということです。うちは3世代同居、隣の2軒は空き家、その隣は老夫婦だけ、その隣にはお母さんとパラサイトシングルの息子がいる。そんな多様化した家族が5軒並んでいるということになっていくのかなと思うのですね。【ゴーストタウン2040の図とゴールドタウン2040の図】そうなった時に、今までの常識だと、何となく暗いニュータウン像が見えてきてしまうんですが、そこを何とか明るくして「ゴールドタウン」にしようというのが、私の考えるところです。
「ゴールドタウン」にするには何をするのかというと、一つは郊外に住むだけではなくて、子育てしている女性も男性も、地元で働けるようになることが大切だと思います。
そこで、「郊外のサテライトオフィスや自宅などで勤務できるようにする」のがいいか、「都心に住めるようにして、自宅と会社を近づける」のがいいか聞いたところ、ちょっと意外といえば意外なのですが、郊外で働けるようにした方がいいという人の方が多いんですね。郊外に職場ができることを求める人が結構多いんです。
これからの住宅地というのは、第二、第三の消費社会におけるように、男女が役割分担して、男性は都心に働きに行き、女性は郊外で専業主婦をするというライフスタイルはもうこれから30年経つと維持できなくなります。ひとつは女性ももっと働きたいからということです。もうひとつは社会全体が高齢化して、30年経ったら団塊ジュニアも70代になるわけです。でも68歳にならないと年金はもらえないという社会になろうとしているわけで、そうすると、働けるうちは何らかの形で働かざるを得ないけど、60歳過ぎれば、頭はしっかりしているが足が悪いとか、足腰はしっかりしているけどちょっとぼけてきたなど、いろいろなことが起きてきます。つまり、一人ひとりが完全に一人前ではなくなるわけですから、それぞれが助け合う、家族、親子はもちろん、地域社会の中でも仕事を分担したり、助け合ったり、つながり合う、こういうライフスタイルに変えていかないと無理だろうという状況になるわけです。今までの郊外のライフスタイルは男女の役割分担型、古いライフスタイルです。そのままの状態ではダメだろうと思っています。
更にもうひとつ、ゴールドタウンに変えていくためには、空き家とか空き地になったところを積極的に有効活用していくことであろうと思っています。こういう時節柄ですから災害時の拠点をつくってもいいし、一家に1台も2台も車はいらないから、カーシェアリングが郊外で普及する可能性もありますので、その拠点にすることもあるでしょう。あるいはカルチャーセンター的な場所をつくるのも良いでしょう。住宅地の中に働く場所をどんどんつくっていくことも求められますから、空いた家をシェアハウスとすることも有効でしょう。そうすると所得の低い非正規雇用の人でもシェアハウスに住んで少しでも独立できるとか、あるいはシェアオフィスを設置して起業のようなこともできるでしょう。また、その地域の中で困っている高齢者のためのコミュニティー・ビジネスを展開するということもできる。あるいは空いた土地を市民農園にするとかいう形で、ただ並んでいる住宅をスクラップ&ビルドするのでなく、有効な形で活用することによって「ゴールドタウン」へとつくりかえていくことができると思います。そこに新しい家族が住み、隣に新しい家を建てて世代を重ねた暮らしをしていく。空き地を利用して郊外に緑を増やしていく。更にはカフェをやったり教室をやったりというコミュニティー・ビジネスも盛んにしていく。こういうニュータウンに変えていくことで、ゴーストタウンにならないようにしていくということが、今後の住宅地の政策に求められるというふうに考えています。

拡大拡大
ページ:12
ページのトップへ戻る