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不動産デフレ時代に起きた地価革命 <収益還元価格の浸透>

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2014年8月19日

不動産デフレ時代に起きた地価革命 <収益還元価格の浸透>

景気回復が現実味を帯び、地価も上昇局面に入ったかのようにも見えます。公示地価や路線価は都市部を中心に上昇傾向にありますが、実際の不動産取引の現場ではどうでしょうか? 実勢価格は近隣の取引事例を基に評価をしますが、昨今のように不動産の市場環境が激変する状況では、取引事例の個別性が高く参考にならないことが少なくありません。そこで今、「地価の新しい物差し」が必要とされているのです。今回は、不動産取引の地価評価について、旭リサーチセンター主任研究員でファイナンシャルプランナーの川口満氏が解説します。

地価は経済動向とは連動せず下がり続けてきた?

今、日本はアベノミクスによりデフレから脱却しつつあり、景気回復への期待が盛り上がっています。広く世界をながめれば、米国の堅調な成長が望める一方で、EUの景気低迷、失業増加は一向に収まらず、新興国の成長も期待外れと先行き不透明な時代であることは変わりません。日本も大量の国債残高をかかえて、低い長期金利がいつまで続くかわからず、景気回復に疑いを持つ向きもあります。
ところで株価が上がると、資産家層の消費が高まる傾向にあり、資産効果と呼ばれます。株式とならんで資産価格を構成する不動産についてはどうでしょうか。同様に価格上昇が期待できるのなら、資産効果もさらに大きくなることでしょう。
2014年の公示価格は3月に発表されました。全国の宅地について、前年に比べて下落率は縮小したもののまだマイナスでした。下図のグラフは平成に入ってからの不動産に関わる価格の推移を示しています。

不動産価格の推移
出典:総務省 消費者物価指数、国土交通省 公示地価、日経平均株価より加工作成

株価はバブルがはじけて以降、短期的に上下動することを続けながら、大局的に見れば右肩下がりです。不動産価格を示す指数は株価とは異なり、短期的な動きが少ないことがはっきりします。地価についてみれば、バブル崩壊以降、下落傾向はずっと続いているのです。不動産デフレと言わざるをえないでしょう。かつて、地価は経済成長を反映するものだと言われていました。経済の高度成長が続いた時代は地価も右肩上がりで、地価が下がることはないという「土地神話」が信じられていました。バブルがはじけたのち地価の急落を受けても、ある程度下落すれば反発すると見られていました。しかし、下図のGDPの推移を見ればわかるように、名目の経済成長が不良債権問題やリーマンショックで変動しつつも概ね横ばいなのに比べ、地価は下がり続けていたのです。地価に対する考え方を変えなければいけないのです。

GDPと地価の推移比較
出典:内閣府 国民経済計算GDP統計より作成

地価の見方、考え方を変えること

土地の価格は「一物四価」ともいわれ、地価を利用する立場によって変わります。土地売買の取引において成立する価格は「時価」です。実際に売れてみなければ、価格は決まらないことになります。一方で、土地は財産として税金の対象となります。市町村が提供する公共サービスの対価とも言える、固定資産税などは、土地建物の評価(固定資産税評価額)に対して一定の料率を掛けたものです。相続税、贈与税という国税の対象となる場合も同様で、評価基準に従って土地は評価(路線価)されています。
この税金の評価額については、公的価格の代表である公示価格に連動するように決められています。相続税評価である路線価は、公示価格の8割程度、固定資産税評価額は7割程度になります。その意味は公示価格が地価の中心となるものですが、その価格について注意すべきことがあります。

まず、不動産鑑定士等の専門家が過去の取引事例等を参考に、「中立」な立場で特定の土地を評価すること。その地点は、継続して評価されることを前提に市街地全体を網羅するよう配置されます。さらに、個別の土地評価は市町村単位で調整され、さらに上位機関で「全体のバランスを見て」調整されることになっています。もともと土地利用、市場の変化をとらえて先行的に評価するものではありませんから、必ず変化に対して後追いとなります。しかもバランスを見るので、突出した変化ははじかれてしまいます。上がるにせよ下がるにせよ発表される数字が控えめになることは避けられません。
また、不動産の売買の現場では、この通りになることはありません。売り手にも買い手にも事情があり、交渉の上、妥協しなければ価格は決まりません。交渉をスムーズに進めるための、参考指標として公的な価格が使われると言ってもよいかもしれません。

 

地価の種類

特徴

留意点

時価
(取引価格)

個々の土地で売買取引が成立した価格。

需給で大きく変動する。

公示価格
(基準地価格)

国交省(都道府県)が全国で用途ごとに代表的な地点を選び不動産鑑定士等が評価したもの。3月下旬(9月下旬)に公表される。(※)

毎年1月1日時点で評価(基準値は7月1日時点)。公共用地取得費算出、民間の土地取引等の参考のために供する。(※)

路線価
(相続税評価額)

相続税、贈与税等の課税標準として土地を道路ごとに評価したもの。

毎年1月1日時点で評価。公示価格の8割が目安。

固定資産税評価額

固定資産税、都市計画税の課税標準として土地の筆単位で評価したもの。

3年毎の基準年1月1日で評価。公示価格の7割が目安。

※ ( )内は、基準地価格の内容

公的な地価の算出は、不動産鑑定理論からは以下の3通りの方法が示されています。
1.原価(積算)法:素地から宅地を造成までにかかるコストから想定する。
2.取引事例比較法:近傍の取引事例を集め、地型、時点、地域などでの補正を加えて評価する。
3.収益還元法:その土地の最有効(もっとも適切な)利用法での収益を想定し、資本還元する。
その土地の性格から「バランスをとって」3通りの方法を按配して評価することになっています。実際は取引事例が多ければ、それにひきずられる形になりやすいのです。

さて景気が悪く、不動産取引が低調な時期が続いていました。不良債権処理やリストラなどで不動産が処分されるときには、まとめて驚くほどの低価格で取引もされていました。もちろん、貴重な取引事例であっても、こういう異常値は公的価格では考慮されません。地方など人口が減っている地域では、不動産取引がほとんどなく、無料で家屋に人を住まわせる自治体も出てくるぐらいです。不動産を巡る市場環境の激変は、取引事例を基に評価を出す地価の意味を失わせました。
新しい地価の物差しが必要なのです。平成元年に土地基本法が公布され「適正な土地利用の確保を図りつつ正常な需給関係と適正な地価の形成を図る」とされました。土地の保有には利用の責務が伴い、利用されることにより適正な地価が形成されるのです。法律の成立から四半世紀がたち、ようやく土地利用を基本とする地価形成が主役になったと言えるでしょう。従来の評価法のなかでは、収益還元法を中心とすることになります。ただし従来の方法そのままではありません。
新しい収益還元法で地価を考えることは、投資家の視点で土地を見ることでもあります。一番厳しい土地の買い手と言えるでしょう。土地がどれだけ利用でき、収益がどれだけ期待でき、それに伴うリスクはどれだけかが関心の中心です。それ以外の私的な価値や場所への思い入れなどもあるでしょうが、収益性のまわりに付するプレミアのようなものです。収益が見込めなければ意味がありません。こうした視点からは、利用が難しく、収益が期待できない地方の過疎地、耕作放棄地、工場跡地などは評価されないことになります。日本全体で見て、そうした利用に適さない不動産が多いとすれば、地価は暴落してもおかしくありません。むしろこれまで長い時間をかけ、ゆっくり下がっているのは評価する自治体側の事情かもしれません。
都心部では開発需要が強く、高額土地取引も出ているようです。地方でも開発計画があり、実施されれば地価は上がります。土地、地域の選別は進んでいます。

不動産市場の変革、収益性を重視した資産評価が中心に

地価の見方の変化は、不動産取引の市場自体の変化を反映させたものと言えます。

 

従来の不動産取引

新しい不動産取引

情報クローズ
 人脈、特定関係者間

情報オープン
 インターネットでの情報収集可能に

経験・勘・度胸の営業手法
 顧客関係でのトラブル多い

コンサルティング型営業手法
 エージェント、フィービジネスが広がる

取引事例中心の価格査定
 明確な基準に乏しい

収益還元法中心の価格査定
 不動産インデックスの充実

中小業者が主流の業界構造
 出入りの激しい業界(人も会社も)

大手業者とベンチャーに分化
 新しいビジネスモデルの可能性広がる

「現況有姿」の取引がほとんど
 物件調査が不十分

デューデリジェンス(詳細調査のこと)の普及
 物件詳細調査が必要に

建物より土地が価格の中心
 キャピタルゲイン狙いが主流
 更地(空地)が一番高い値付け

土地より建物が価値の中心
 インカムゲインが収益の柱
 入居済みの賃貸物件が良い

 

もちろん今でも旧態依然とした不動産業者に出会うことはあります。ただ消費者の側からすれば、賃貸物件の斡旋であろうと、建売住宅の販売であろうと、競争になればなるほど、多方面の情報収集が得られることになりますので、そうした業者が生き残ることは難しくなるでしょう。
一方でシェアハウスの人気で脚光をあびるような、新たな市場を開拓する動きもあります。インターネットを活用し、既存の住宅や社宅・寮などを改装してシェアハウスを供給するようなベンチャー不動産業者も生まれています。まさに時代の変わり目にあると言えるでしょう。

住宅取得も不動産投資、資産価値を高めることが大切

地価の見方の変化は、自宅で住むだけの住宅にも影響が及びます。不動産として住宅と宅地は一体であり、本来不可分のものなのです。収益性も一体としての利用から生まれるものです。そして、マイホームで取得した住宅であっても、賃料を想定することで収益還元価格を出すことは可能です。すなわち所有する住宅が第三者にとって魅力的であり、賃貸が可能であれば、賃料が想定できます。想定賃料の年額から、不動産投資の利回りによって、資本還元した価格程度には売却も可能でしょう。年間200万円の賃料があれば、中古マンションの相場として5〜6%の利回りを期待してもおかしくないでしょう(これは建物の状況を無視した概数ですが)。割り返せば、3000万円以上の価格がついてもおかしくありません。このようにマイホームであっても流通性が担保されれば、実質的に資産価値があることになります。
実は、住宅取得することはマイホームであっても、上記のように不動産投資と同様に考えることが可能なのです。むしろ不動産投資として、その流通性を保ち、資産価値を維持するという不動産のリスク対策を講じることが、安心できる家づくりとなり、ストック重視の市場の変化に対応することになるのです。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。
川口 満

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