HOME > アパート経営・土地活用の知恵袋 > マンスリーレポート > 借地 > 地主・借地人のメリット・デメリットと売却のポイント
アパート経営・土地活用の知恵袋
マンスリーレポート 最新情報をレポートします

地主・借地人のメリット・デメリットと売却のポイント

借地

タグ :

2009年8月 1日

地主・借地人のメリット・デメリットと売却のポイント

前回、借地の歴史的背景、それに合わせるように法律も変化してきたことを紹介しました。今回から、そんな借地の特性や特徴を少し具体的に見ていきます。借地は、あくまでも土地を貸している地主と、その土地を借りている借地人がいて成り立つもの。今回は、地主と借地人それぞれの立場から見た「借地のメリット・デメリット」と、借地を売却するときのポイントを考えてみましょう。

地主から見るメリット・デメリット

まず、地主のメリットは、自分の土地を貸すだけで毎月入ってくる「地代」や、契約更新の際に入る「更新料」などの収入を得られることです。地代の適正金額は一概に言えないものの、相場としては土地保有コスト(固定資産税・都市計画税)の2~3倍というケースが多いようです。ただし、都市部の恵まれた立地条件では4倍近くになる例も見受けられます。

更新料については、これまでの慣行に従うことが多く、地価動向を踏まえて話し合いで決められることが多いようですが、建物をそのまま使う場合、土地の更地価格に対して2~5%の範囲内というのが一般的です。建物を管理する手間がなく、何もせずに地代が得られることは、リスクの少ない土地活用であることは確かでしょう。

あわせて土地の保有コストが少なく、固定資産税や相続税が軽減されるメリットもあります。

【固定資産税の軽減】

更地だと軽減措置はありませんが、居住用建物の敷地となっている場合(200平米まで)は、その土地が貸地であっても、固定資産税の課税標準が固定資産税課税台帳に登録されている価格の6分の1になります(200平米を超える部分は3分の1)。

【相続税の軽減】

例えば、借地権割合が70%のエリアでは、借地権が設定されている土地(底地)の評価は30%になります。広い土地を持っている場合は相続税評価額もかなりの金額になりますが、その土地に借地権が設定されていると、当然ですが底地だけの相続税評価になります。 

一方デメリットは、なんといっても借地借家法によって、地主の側の土地利用が大幅に制限されていますから、自分のものであっても自由に使えないことです。ほとんど土地利用については、凍結されている状態ともいえます。その上、地代収入が安定しているとはいえ、大きなものではない不満が残ります。また、貸している土地であっても、多くの土地を持っている地主では相続時の負担が大変です。さらに平成18年から相続税を支払う際の物納要件が厳しくなり、底地での物納は簡単ではありません。このように、貸地は収益性が低い割には相続税の負担が残り、しかも流動性がほとんどないというのが、地主にとっては頭の痛い現実です。

借地人から見るメリット・デメリット

次に借地人のメリットについて考えてみましょう。借地借家法が適用されている場合、地主側に正当事由(正当と認められる特別な理由)がない限り、借地人は半永久的に土地を使うことができます。地主の了解が得られなくとも、現状のままの借地契約は法定更新が可能です。すなわち借地期間が満了しても借地人が借地上の建物を使用しており、それに対して地主が遅滞なく正当事由に基づく異議を申し立てない場合は、従前の契約と同条件で契約が更新されたものと見なされるのです。借地借家法の下では、借地人の建物の利用の権利は、現状を維持し地代を払い続ける限り、完璧に守られているのです。

地代の負担は、土地の公租公課相当の土地保有コストを上回るべきものですが、おおむね金額負担は軽いと思われます。特に、古くから土地を借りている場合は、継続地代といい新規の地代よりも安くなることを認められています。借地借家法には「地代等増減請求権」という契約期間途中であっても地代の改定を求める権利が規定されていますが、継続して住んでいる借地人に対して、急に地代を上げることはできないのです。地代の上昇が抑えられていることは大きなメリットです。

また、借地人が土地利用を進める上で、地主の承諾が得られない場合でも、以下のような問題については裁判所に申し立てることで、代わりの許可を得ることができます。これを「借地非訟(しゃくちひしょう)」と言います。

  1. 1.借地条件変更の申立
  2. 2.増改築許可申立
  3. 3.賃借権譲渡許可申立
  4. 4.競売に伴う土地賃借権譲渡許可の申立
    の4通りです。

逆に借地非訟で取り扱えるのはこれだけですから、何でも裁判所に頼めるものではありません。地主との話し合いを省いて、裁判所に持ち込むことはできませんし、土地利用を進める上では決して得策ではありませんから注意しましょう。詳しくは次回でまた触れます。いずれにせよ、現状の土地利用の延長で借地を使い続けることについては、法律の保護が受けられています。これは、借地人の大きなメリットと言えるでしょう。

とはいえ、上記の裏返しとも言えますが、土地利用を大きく進めようとすると制約が出てくるのが、借地の最大のデメリットなのです。借地上でビルに建て替えたい、あるいはこの場所を気に入ってもらった第三者に良い値段で借地を譲りたいという機会があったとしても、地主との交渉がまとまらなければ話は進みません。市場ニーズにあった賃貸住宅に改築したい、自宅を仕事場に変更したいなど、ちょっとした土地利用の変更でも、事前の話し合いでの了解を得る(場合によっては地代の改定が求められるかもしれませんが)手間を省くと、地主とのトラブルを招くことにもなりかねません。

加えて、やはり借り物であるということ。きちんとした権利であっても、「自分のものではない」という、なんとなくスッキリしない気持ちを抱く人も多いかもしれません。また、半永久的に土地を使用することができる=半永久的に地代を支払い続ける、ということでもあります。その間には、更新料を支払うこともあるでしょう。土地を借り続ける限り、それなりのコストがかかってしまい、それでも自分の土地にはならないというジレンマがあるかもしれません。

借地の売却は地主と借地人の共同作業

ご両親が使っていた借地上の自宅を相続で引き継ぐという話は結構多いものです。相続人は別に自宅を持っているケースが多いので、人の住まなくなった古家付き借地の処分が問題となります。こうなると地代の負担もばかになりません。地代の足しにしようと古家をつぶして駐車場にしようとする方もいますが、これは注意しなければなりません。借地借家法は建物の所有を目的とする借地権を保護しているものです。建物をなくしてしまえば、借地借家法の保護がなくなってしまいます。地主から明け渡しを求められても対抗できません。使わない借地は売却を考えるべきでしょう。

一方、地主の側も、貸地は低収入にしかなりませんから、機会を捉えて換金したいと考えている方も多いようです。代替わりを控えていたり、不動産の管理に嫌気のさした地主もいます。前述の物納に困難が生じている事情で、相続税の納税を予定している地主にとっては換金のニーズは大きなものです。こうした事情で「底地、借地を売りたい」と思う地主、借地人は多いのです。ただし、ここで留意したいのは、あくまでも底地と借地は「カップ&ソーサー」の関係(「借地権とはどんなもの?」参照)であり、どちらか一方ではその土地の価値が低くなるということです。つまり、借地権は底地とセットになってこそ評価されるのです。「借地権割合=借地(権)の価格」と思う人も多いようですが、借地権割合はあくまでも相続財産を評価するときの目安に過ぎません。

例えば、借地権割合が70%の住宅地域に更地評価1億円の借地を持っている場合、1億円×70%=7,000万円の価値があると思われるかもしれません。しかし、これは相続時の評価額であり、売却時の価格ではありません。また、借地権付きの建物だけを売却する場合は半額程度になることが多く、地主へ譲渡承諾料として手数料を支払うため、手元に残るお金はさらに少なくなります。

一方、地主が底地だけを売ろうとしても、底地の性質上、一般の第三者はまず購入しないでしょう。仮に不動産屋が購入する場合でも、底地の借地権割合よりずっと低い価格になるのが現状のようです。例えば前述の土地の場合、底地の借地権割合は30%になりますが、実勢価格は10~15%程度になってしまうのです。

このように借地を売却する場合、借地と底地をバラバラに売ってしまうとその価値は大きく減ってしまいます。しかし、「カップ&ソーサー」の関係を維持する、つまり地主と借地人が協力し合えば「底地+借地権=所有権」となり、100%の評価を得ることができるのです。その上で、売却したり等価交換を行ったりする方が、地主と借地人という関係を良好に保ちながら、土地を有効活用できるでしょう。

借地は、地主と借地人の良好な関係があってこそ、さらに役に立つ土地となります。双方が気持ちよく、そして借地を有効に活用するためにも、双方の立場を理解して協力し合うことが大切です。

次回は、借地をめぐるトラブルが発生してしまった場合について考えてみます。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

土地活用・アパート経営の資料プレゼント

セミナー・イベント情報を見る

窓口・WEB・電話で相談する

▲ページトップへ

マンスリーレポートトップへ