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借地のトラブルと借地非訟

借地

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2009年9月 1日

借地のトラブルと借地非訟

このコーナーでは3回にわたり、借地に関する基礎知識を紹介してきました。借地権とはどんなものか、借地権にはどのような歴史的背景があるか、そして地主と借地人の良好な関係を保ち続けるには、どんなことに気を付ければよいか...。借地は、地主と借地人の共同作業によってさらに有益な土地となり、そこで初めて双方にメリットが生まれます。

ところが、時に地主と借地人の関係が崩れ、思わぬトラブルが発生してしまうのも現実です。今回は、借地にまつわるトラブルの例と、問題が起きたときの対応法、そして裁判所へ申し立てを行って問題を解決する「借地非訟(しゃくちひしょう)」について見てみましょう。

やっぱり多い地代のトラブル

借地にまつわるトラブルで多く見受けられるのは、やはりお金の授受に伴うものです。地主にとっては大切な収入源となり、借地人にとっては大きな負担となるお金のやり取りは、過去の経緯や人間関係も反映されるため感情的になりやすく、トラブルになることが多いようです。特に地代の値上げについては、地主の希望と借地人の納得感のズレから、大きな問題に発展するケースがあります。

「固定資産税が上がったから」「周辺の借地の地代が上がったため」といった適正な理由があれば、基本的に地主はいつでも地代を上げることができます。そして、契約書に地代値上げの特約があり、適正な範囲内での値上げ額であれば、借地人もそれに応じなければなりません。
ただし、値上げの特約に関する記載がない場合、事情が少し異なります。この場合、借地人は地主に値上げの理由を確認することができます。その上で、例えば前述のような理由があり、値上げ額について借地人が納得すれば、地代を値上げすることができます。

もし、値上げの理由や金額に納得できないからといって地代を払わないでいると、それを理由に契約解除となる場合があります。これは、たいていの借地契約には「債務不履行時は契約を解除する」という一文が盛り込まれているからです。まずは従来通りの金額でもいいので、地代は払わなければなりません。

従来の地代額では、地主が受け取らない場合もあるかもしれません。その時は「供託」という方法で、地代の未払いを回避することができます。供託とは、地代や家賃を法務局などの供託所に預けること。債務不履行を回避するための方法で、地代に相当するお金を法務局などに供託しておけば、地代の未払いを理由に借地契約を解除される心配はありません。とはいえ、地主と借地人の関係に溝ができてしまうことも多いので、できる限り話し合いをしてお互い納得のいく結果を得たいものです。

更新料、承諾料は金額次第?

更新料の支払いも、もめやすい事柄です。更新料とは、20年ないし30年の借地契約期間が過ぎ、次の契約更新に際して請求される金額です。これが問題になりやすいのは、借地借家法に定義されたものではなく、社会慣行として定着しているという事情によります。更新料の支払いを拒否したからといって、借地契約を解約することはできません。しかし、契約時に更新料を払う旨の約束を交わしていれば、その債権債務関係は残ります。やはり約束したお金は請求されるのです。

実務的に考えれば、契約書に明記されていなくても、周辺の他の借地や過去の事例で更新料が支払われているのであれば、それに従うのが自然でしょう。払う、払わないというよりは、その金額が妥当か否かをめぐって交渉することになるのではないでしょうか。

借地上の建物の建て替えをしようとして、借地条件の変更をしようとする場合や、借地権を第三者に譲ろうとして、借地契約の名義を変更しようとする場合などは、地主との協議が必要ですが、認めてもらうに際して承諾料を請求されることになります。これは更新料とは違い、借地借家法でも、裁判所が当事者間の利益の公平を図るため、必要がある時は財産上の給付を命じる、とありますので払わざるを得ません。承諾料についても金額の多寡をめぐって、もめる場合があります。ただ、以下に紹介する非訟によって、地主の了解が得られなくとも条件変更や名義書き換えなどが可能になるというのは大きな間違いです。

契約書がない場合はどうなるの?

今でこそ、土地や家屋、いわゆる不動産に関する売買・賃貸契約に際し、契約書を交わすことは常識となっていますが、昔は口約束も多く存在しました。特に、親戚関係や身内同士の貸し借りなどはメモ書き程度の書類しかないことも多く、代替わりを繰り返すうちにどのような条件で土地を貸したのか、あるいは借りたのか分からなくなるケースもあります。また、そもそも契約当事者が誰と誰で、地代の支払いは誰がしているのかが、あいまいになるという恐れもあります。

では、前述のような地代に関する問題が起きた時、借地権を売りたい時やその土地の建物を人に貸したい時、契約書がないとどうなるのでしょうか? 実は、契約書がなくても次のことが証明されれば、借地権は保全されることになっています。

1.地代を払っている事実があること
2.借地上の建物が借地人の名義で登記されていること

1については、地代を支払った際に受け取る領収書や、振り込み通知書があれば証明することができます。2の建物の登記については、法務局に行って調べる必要があります。もし、登記がなされていない場合は、早急に借地人名義で建物所有権の登記をしておくとよいでしょう。また、機会を見つけて契約書を作成しておくことも、後々のトラブルを回避することにつながります。地主の立場からも、借地権を持っているのが誰なのか、はっきりさせておくことは重要です。

トラブル解決の最後の一手「借地非訟」

このように貸地・借地関係においては、地代の問題をはじめ借地権の売却または転貸、そして家屋の増改築・建て替えなど、地主と借地人の双方の主張が折り合わず争いになってしまうことがあります。当事者間の交渉では妥協が得られず、問題を解決できないことも多いでしょう。法律で争うとなれば、弁護士を立て訴訟に訴えることになります。

しかしその前に、いくつかの争いについては裁判所が地主に代わり、借地人の申し立てを受け、承諾を与えることができます。これを「借地非訟」と言います。借地非訟制度を使って裁判所に申し立てできるのは、以下の4つです。前回も述べましたが、借地非訟は以下の場合に限定して承諾を与えるのであり、決して全てを解決できるものではありません。例えば、借地人が金融機関から住宅ローンを借りる際に必要な地主の承諾書などについては、借地非訟によってサインを求めることはできません。

1.借地条件変更の申立
建物の種類・構造・規模・用途を制限する借地条件の変更を求める。
2.増改築許可の申立
建物に工作を加えて床面積を増加させる「増築」と、従前の建物に代えて建物を建築する「改築」に対する許可を求める。
3.賃借権譲渡・転貸許可申立
借地権(賃借権)の譲渡、あるいは転貸の許可を求める。
4.競売に伴う土地賃借権譲渡許可の申立
抵当権の実行により、建物所有権とともに借地権が競売等による買主に移転することの許可を求める。

借地非訟の申立手続きについては、例えば「借地条件変更の申立」は、建物の種類・構造・規模または用途を制限する借地条件があることが要件となり、「増改築許可の申立」については、増改築制限の特約があることが要件となります。その他、申し立てを管轄権のある裁判所にすること、申立書の記入方法が適正であること、申立料が納付されていることなどがあります。これらの要件を全て満たして、初めて申し立てができるのです。

借地非訟は、解決できない問題を裁判所が間に入ることで決着させる方法ですが、かなりのお金と時間がかかります。例えば、申し立てするために必要な申立手数料は、借地権の目的である土地の価額によって費用が異なりますが、その他にも弁護士報酬料(法律相談料+着手金+成功報酬金)、鑑定書作成費用など、それなりの費用がかかります。その上、申立手続きが済んだ後、当事者の立ち会いや陳述などを経て、申し立て内容が確定するまでに多くの時間がかかり、その都度、裁判所に出向くなどの労力も要します。

「非訟=訴訟に非ず」と言っても裁判所が関与することになるため、地主と借地人の関係がさらに悪化する可能性も考えられます。借地非訟は最後の手段と心得て、なるべくその手前でできる限り合意に達するよう努力をし、必要以上に関係を悪くしないことが大切です。代々受け継がれてきた大切な土地を守るためにも、まずは地主と借地人の良好な人間関係の維持に努めたいものです。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

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