アパート経営・土地活用の知恵袋
マンスリーレポート 最新情報をレポートします

定期借地権の活用法

借地

タグ :

2010年1月 1日

定期借地権の活用法

これまで7回にわたり、借地権に関する基本的な知識と注意点を、事例やケーススタディを通して見てきました。今回は、「定期借地権」について考えてみます。定期借地権を活用すれば、一定の期間を定めて土地を賃貸し、まとまった一時金や地代を得ることができます。

土地活用方法の一つとして、例えば定期借地権を利用した住宅やマンションの供給は、都市部を中心に広がりを見せています。また分譲住宅以外にも店舗や工場、倉庫の他、事務所ビルや大型商業施設などで定期借地権が利用されています。契約期間終了後、貸した土地が確実に返ってくる「定期借地権」について、その特性を見てみましょう。

借地権のデメリットだった「貸した土地は戻ってこない」問題を解消

借地権とはどんなもの? で解説したように、借地権とは一般的に「賃借権(債権)」のことを言い、地代を払い契約を守っている限りにおいて、建物を所有し土地を利用することができます。そして、従来の借地権は、契約期間が終了しても、「正当な事由」がなければ更新を拒絶できず、地主にとって「一度貸したら半永久的に土地は戻ってこない」ものでした。つまり、地主にとって従来の借地権は甚だ不利なものであり、これでは誰も新たに借地を供給しようとは思いません。結果的に借地権を使った住宅供給がほとんどなくなってしまいました。

そこで登場したのが「定期借地権」で、平成4年8月に施行された「借地借家法」によって創設されました。それまでの借地権が抱えていた「一度貸した土地は地主に戻らない」という大きな問題点を解決し、定期借地権は「土地を賃貸する」というビジネスチャンスを広げる土地活用方法となったのです。

定期借地権は3種類

定期借地権には、用途や契約期間によって3つのタイプがあります。さらに最初に借地人が支払う一時金をどういう性格のものにするかで税務の取り扱いが変わります。特徴や有用性はそれぞれですが、いずれも契約期間が終了時に、借地権は消滅すると法律で定められています。

≪一般定期借地権≫

・借地期間は50年以上
・期間満了の際、更新されない
・用途の制限がない→建物を所有するという目的であれば、いかなる事業や用途にも土地を利用できる
・例:定期借地権付戸建分譲住宅、定期借地権付分譲マンション、自治体などの公有地活用

≪建物譲渡特約付借地権≫

・借地期間は30年以上→通常の借地契約に譲渡特約を組み合わせ、建物を買い取ることで借地権を解消させるもの
・一般定期借地権の50年では期間が長すぎると考える地主に向いている
・用途の制限がない
・例:地主による建物買い取り後、借家へ移行する借地権付分譲マンション(つくば方式と呼ばれるマンション開発が代表的)

≪事業用定期借地権≫

・借地期間は10年以上50年未満
・期間満了の際、更新されない
・用途は事業用に限る→期間満了時には建物を解体撤去し、地主へ返還することを約束するものが多い。それだけに高い賃料収益が見込める事業立地に限られる
・例:ロードサイドショップ、工場、事務所、倉庫、病院など

定期借地権のメリット・デメリット

一般的に、定期借地権の最大のメリットは「貸した土地が必ず返ってくる」ことです。いわゆる普通の借地権では、借主を保護する側面が強いこともあり、一度貸した土地はなかなか地主に戻ることはありません。しかし、定期借地権は借地契約期間が満了すると更新がなされず、土地は地主に確実に返還されます。また、あらかじめ決められた期間で土地を賃貸するため、地主は安定した地代収入を得ることが可能となります。長期的視野を持って計画を立てることができることも、定期借地権のメリットと言えるでしょう。

先に紹介した3タイプのうち、一般定期借地権と事業用借地権について、それぞれメリット(◎)・デメリット(×)を挙げてみます。

≪一般定期借地権≫

◎50年以上という長期間にわたって土地を賃貸するため、地主は長期にわたって安定した地代収入を得ることが期待できる
◎借地の利用用途の制限がないため、借地人はどんな用途にも利用できる
◎借地人が住居系の用途(自己の居宅や賃貸住宅等)で利用する場合には、土地にかかる固定資産税や都市計画税が大幅に軽減される
◎相続税の節税効果が見込める
×長期間にわたって土地の利用方法が固定されるため、短期的・中期的に用途の転用を考える地主には向かない

≪事業用借地権≫

◎業態によっては、住居系よりも高い賃料設定が可能
×借地人の利用用途が「事業用」に限られるため、汎用性が少ない
※事業と呼べる規模の賃貸住宅経営であっても用途が住宅である限り、事業用借地権は利用できない

定期借地権における地主の収入は?

定期借地権を利用する場合には、契約の更新がないため、更新料や承諾料などは見込めません。地主の収入は地代の他は、借地権を設定した際に受領する保証金、権利金等の「一時金」となります。

保証金とは、一般的に借地期間中、地主に預託される無利息の預かり金のことを言います。保証金の受領時は所得税等の対象にはならず、借地期間中は保証金を自由に運用できます。ただし、アパート建築や金融商品などの投資に使う場合はよいのですが、自家消費(税金の支払い含む)した場合は、預かり金の金利相当分の経済的利益について毎年課税されることになります。また、当然ながら契約期間満了時には借地人に返還しなければなりません。

また、地主の収入として扱われるものに「権利金」があります。保証金と異なり、受領時に「不動産所得」もしくは「譲渡所得」となるので税金が課されます。残った資金を自由に使えるのは良いところですが、金額が大きいと税金も大変です。また、支払った借地人側では、法人などの場合に権利金を借地期間にわたって費用計上できず期間満了時に一括損金(経費)扱いとなります。

こうした保証金や権利金、そして地代の金額は、周辺の所有権分譲住宅や分譲マンション、および賃貸住宅の家賃等との比較で住宅購入者の負担を考慮し、決定されることになります。

関心高まる「前払い地代方式」とは?

平成17年1月、国税局は新たに「定期借地権の前払い一時金の税務上の取り扱い」を示しました。これは、定期借地権契約に係る契約期間の賃料の全部または一部を、一括前払いの一時金として授受した場合、その一時金は期間に応じて、分割して毎年収益計上できるというものです。保証金や権利金に継ぐ「第3の方式」として注目されており、これによって地主は将来にわたって保証金返済の負担を残すことなく、まとまった資金が手に入る上、税金の負担も軽減することが可能となりました。

この前払い地代方式のポイントは以下の5つです。

1.原則として返還不要

定期借地権における「保証金」は、契約期間が満了した際に返還の義務があるが、前払い地代はその必要がない。

2.期間の経過に応じて毎年収益計上できる

定期借地権における「権利金」は、受け取り時に一括して課税されていましたが、前払い地代方式では期間の経過に応じて、毎年ごとに収益計上できる。

3.借地人は損金計上ができる

借地人にとっては、前払い地代を期間に応じて損金計上することができるため、土地の地代を償却することで資金の回収を図ることができる。

4.前払い分、月払い分を任意設定できる

前払い分を多くしてまとまった資金を得たり、月払い分を多く設定して長期にわたって安定した収入を得ることができるなど、それぞれの事情や目的に合わせて支払い方法を設定できる。

5.使い道は原則自由

一度受け取った前払い地代は、自由に使うことができる。例えば、借入金の残金の返済に充てたり、自宅の建て替えやリフォーム、投資用不動産の購入に充てたり、まとまった資金の必要がある場合でも対応できる。

定期借地権は、創設されてまだ20年も経ない比較的新しい法律であり制度です。貸した土地が確実に返還されるため、まとまった一時金や地代を得ながらその先を見据えた土地活用を行うことができるのは、地主にとっては大きなメリットになるでしょう。一方、事情に合わせて土地を借りることができ、また地主との関係を過度に気にすることなく借地を利用できることは、借地人にとってのメリットと言えそうです。このような制度を上手に活用しながら、借地という土地を最大限に活用していきたいものです。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

土地活用・アパート経営の資料プレゼント

セミナー・イベント情報を見る

窓口・WEB・電話で相談する

▲ページトップへ

マンスリーレポートトップへ