アベノミクスの影響により、円安、株高が続き、景気回復の兆しが見えています。そして、資産デフレとも言われていた地価にも同様の傾向が少しずつ表れています。今回は、3月末に発表された公示地価の状況を見てみます。
「都市部で上昇相次ぐ」「大都市の地価上向く」「上昇・横ばい大幅増」といった新聞見出しが飛び交った、今回の公示地価発表。各マスコミは、公示地価に底入れの兆しが見えたとして、大きく報道しました。国土交通省による公示地価は平成25年1月1日地点のものです。
全国平均は前年比1.8%の下落で、5年連続の前年割れですが、下落地点は縮小し、三大都市圏で上昇に転じる地点が大幅に増えたのです。特に東京、大阪、名古屋の三大都市圏の下落幅は0.6%とほぼ底入れの状態になり、上昇地点が前年の413から1349と3倍強の大幅増加です。上昇地点は、全国の7割を占めています。
アベノミクスによる景気回復の期待から、円安、株高が続き、不動産市場にも投資マネーが流入しているとのことです。特に不動産投資信託(REIT)では商業地を中心に有望物件の取得が繰り広げられていると言われています。また、商業地だけでなく住宅地の上昇地点も3倍以上に増えています。こちらは、消費税導入前の住宅駆け込み需要を見越して、マンションデベロッパーなどが土地の仕入れを増やしていることも影響しているようです。
■平成25年公示地価変動率(単位:%)
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住宅地 |
商業地 |
全用途 |
全国平均 |
▲1.6 (▲2.3) |
▲2.1 (▲3.1) |
▲1.8 (▲2.6) |
三大都市圏 |
▲0.6 (▲1.3) |
▲0.5 (▲1.6) |
▲0.6 (▲1.5) |
東京圏 |
▲0.7 (▲1.6) |
▲0.5 (▲1.9) |
▲0.6 (▲1.7) |
東京都 |
▲0.3 (▲1.0) |
▲0.4 (▲1.9) |
▲0.3 (▲1.3) |
大阪圏 |
▲0.9 (▲1.3) |
▲0.5 (▲1.7) |
▲0.9 (▲1.5) |
名古屋圏 |
▲0.0 (▲0.4) |
▲0.3 (▲0.8) |
▲0.1 (▲0.6) |
地方圏 |
▲2.5 (▲3.3) |
▲3.3 (▲4.3) |
▲2.8 (▲3.6) |
※▲はマイナス、カッコ内は前年
東京圏は、他の都市圏よりも上昇率が高い地点が多く、上昇地点が住宅地で約6.4倍、商業地では約6.5倍も伸びました。特に神奈川県の川崎駅、武蔵小杉駅周辺で上昇地点が増えました。
市区町村別に見ると、住宅地の1位は川崎市の0.7%の上昇です。上昇地点別に見ると、1位は川崎市中原区小杉町2丁目で9.1%もの上昇となっています。2位は、辻堂駅周辺再開発による影響で、茅ヶ崎市赤松町で7.3%。この他、ベスト10のうち9つは川崎市と横浜市です。
東京都では、23区よりも多摩地区の上昇が目立ちました。住宅地、商業地とも立川市の上昇地点が増えました。商業地でみると、スカイツリー効果が押上や浅草にまで影響を及ぼしているのが見てとれます。上昇地点で見ると、東京23区や都心よりも、周辺の神奈川エリア、多摩エリアが多かったのが、今回の特徴です。
高価格順位のベスト10は全て東京都心。変動率は、住宅地の7位、商業地の8位まで横ばいでした。
■東京圏変動率上位─住宅地(単位:%)
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■東京圏変動率上位─商業地(単位:%)
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名古屋圏では、昨年から既に下落率が低く、下げ止まりの傾向をいち早く見せていました。今回は、変動率が住宅地で0.0%と底入れ、商業地も0.3%と三大都市圏の中で最も下げ止まりが顕著になりました。愛知県全体で見ると住宅地は0.1%と5年ぶりの上昇となり、もはや上昇傾向が始まっていると言えます。
市区町村別に見ると、住宅地の安城市で3.7%、刈谷市で3.3%、また商業地の刈谷市の3.2%上昇と上昇幅も他の都市圏の市区町村と比べても大きいのが特徴です。名古屋圏は全体的に上昇傾向にあると見て良いでしょう。
■名古屋圏変動率上位─住宅地(単位:%)
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■名古屋圏変動率上位─商業地(単位:%)
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大阪圏でも各府県で上昇地点が増加しました。他の都市圏に比べるとやや回復が遅れているようですが、大阪市福島区・天王寺区・阿倍野区・北区・中央区、神戸市東灘区、芦屋市の住宅地が2年連続の上昇でした。
住宅地では兵庫県の芦屋市、西宮市、伊丹市が上昇。また、商業地では京都府八幡市と京都市が上位に入り、大阪圏の商業地における上位10地点のうち5地点を京都市が占めました。この傾向は、東京圏と似ていて上昇率でいうと圏域中心部より周辺部での上昇が顕著になりました。
また、商業地を見ると全体の15.8%が上昇地点となっていて、これは東京圏、名古屋圏よりも割合が高い結果となりました。もうすぐ開業する「うめきた」のJR大阪駅周辺、日本一の超高層ビル「あべのハルカス」の阿倍野地区で上昇しています。
■大阪圏変動率上位─住宅地(単位:%)
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■大阪圏変動率上位─商業地(単位:%)
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果たして、この地価動向は今後も続き、不動産デフレ脱却となるのでしょうか? このまま堅調に地価が推移すれば、まず商業地のオフィスビルで空室率が改善され、賃料も上昇するでしょう。そして、景気が本格回復となれば賃貸住宅の賃料も好転するかもしれません。
しかし、今の円安、株高、そして地価上昇地点の増加は、期待感の表れで実体経済が伴っていないとの声も聞かれます。となれば、地価の本格回復もまだ先。まずは日本経済が回復し、デフレ脱却が実現してからでしょう。
今後注目したい土地価格の指標が、7月に発表される路線価です。これは、今回発表された公示地価が基準となります。今回見てきたように住宅地では、すでに上昇に転じているエリアも少なくありません。路線価は、公示地価の8割を目安に設定されていて、相続税・贈与税の課税価格の基準となるものです。土地オーナーにとっては、地価の指標として路線価の動向もチェックが必要です。