国土交通省から、今年の7月1日時点の地価である基準地価が発表されました。1月1日時点の公示地価でも三大都市圏は上昇しましたが、半年後もその流れは変わらず、基準地価も上昇しました。公示地価とともに、土地取引価格の指標である基準地価について、三大都市圏の地価動向を見ていきます。
今年1月1日地点での公示地価では、前年までマイナスだった三大都市圏の住宅地、商業地が共に上昇しました。それから半年後、7月1日時点の基準地価は、ゆるやかな景気回復を背景に、引き続き上昇傾向を示しました。
三大都市圏の住宅地は0.5%上昇。これは6年ぶりです。商業地は1.7%上昇。これは2年連続の上昇で、昨年の0.6%から上昇率が約3倍拡大しています。上昇地点数の割合で見ても、住宅地の2分の1弱の地点が上昇、商業地の3分の2強の地点が上昇しました。
ただし、公示地価との共通点1,616地点で調査した、2013年の下半期と2014年の上半期の上昇率を比べると、三大都市圏の住宅地は0.6%から0.5%、商業地は1.3%から1.1%と若干上昇ペースは和らいでいます。
住宅地の上昇に関しては、過去最低水準と言われる金利や住宅ローンの拡充、消費税増税の影響等で、住宅販売が好調だったためと見られています。
商業地も同様に低金利による不動産投資が堅調で、地価上昇をけん引してきたと言われる不動産投資信託(REIT)だけでなく、国内外の投資ファンドが積極的に活動しているとのことです。今回、全国の商業地の上昇率トップは金沢市の15.8%でした。これは、来年3月の北陸新幹線開業の影響です。開業すれば東京と金沢が2時間半で結ばれ、交通アクセスが格段に向上することから、街の変貌も容易に想像でき、地価上昇も頷けます。
一方、三大首都圏では好調な地価ですが、地方圏に限っては、下落率は緩和しているものの調査地点の8割が下落しています。地方は人口減少の問題もあり、こちらは反転の兆しはまだ見えません。
■基準地価の変動率 (単位%、カッコ内は前年)
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住宅地 |
商業地 |
全用途 |
三大都市圏 |
0.5 (▲0.1) |
1.7 (0.6) |
0.8 (0.1) |
東京圏 |
0.6 (▲0.1) |
1.9 (0.6) |
0.9 (0.1) |
大阪圏 |
0.1 (▲0.4) |
1.5 (0.4) |
0.4 (▲0.3) |
名古屋圏 |
0.9 (0.7) |
1.5 (0.7) |
1.0 (0.7) |
地方圏 |
▲1.8 (▲2.5) |
▲2.2 (▲3.1) |
▲1.9 (▲2.6) |
全国 |
▲1.2 (▲1.8) |
▲1.1 (▲2.1) |
▲1.2 (▲1.9) |
東京圏では、依然、都心の再開発が続いています。虎ノ門、大手町、日本橋など、ニュースでもよく取り上げられているので、ご存じの方も多いでしょう。加えて、東京五輪開催を前にした、湾岸エリアのマンション開発も活発です。
東京都の住宅地上昇率は全国で最も高く1.4%です。東京23区は下落地点がなく、千代田区、中央区、港区の上昇率は5%を超えています。住宅地の変動率トップは中央区月島の10.8%で、月島駅にある7000万円台、300戸超の高級分譲マンションが、リーマン・ショック前以来のハイペースで完売したとのことです。
また、地価上昇傾向は都心に限らず、郊外へも波及しはじめています。変動率2位の千葉県流山市は、つくばエクスプレスの駅前再開発が進み、人口が増えました。東京では、武蔵野市の住宅地が2.8%上昇です。けん引したのは、「住みたい街ナンバー1」として知られる吉祥寺です。新・駅ビルの完成をはじめ、今後もユニクロが都内最大級の店舗出店をする計画もあり、街の新陳代謝が活発です。さいたま市でも、大宮区、北区で2%を超える上昇がありました。
東京圏全体の商業地は、上昇地点の割合が増加し、4分の3強の地点が上昇となりました。埼玉県、千葉県は下落から上昇に転じ、東京都、神奈川県は上昇率を拡大しています。商業地の変動率トップは、川崎市中原区で、武蔵小杉駅前の再開発です。今年の秋には武蔵小杉エリア最大規模の新しい商業施設がオープンし、話題を集めるでしょう。
■東京圏(東京都・神奈川県)の地域別変動率 (単位%、カッコ内は前年)
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住宅地 |
商業地 |
東京都 |
1.4 (0.5) |
2.8 (0.8) |
東京都区部 |
1.9 (0.5) |
3.2 (0.8) |
区部都心部 |
3.5 (1.4) |
4.5 (1.2) |
区部南西部 |
1.9 (0.5) |
2.2 (0.6) |
区部北東部 |
1.3 (0.2) |
1.8 (0.5) |
多摩地域 |
1.0 (0.5) |
1.4 (0.5) |
神奈川県 |
0.5 (0.1) |
1.4 (1.0) |
横浜市 |
1.7 (1.1) |
2.2 (1.8) |
川崎市 |
1.5 (1.4) |
3.1 (2.9) |
相模原市 |
0.3 (0.1) |
0.2 (▲0.2) |
その他 |
▲0.6 (▲0.9) |
▲0.3 (▲0.7) |
■住宅地変動率上位─東京圏(単位%)
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■商業地変動率上位─東京圏(単位%)
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昨年の住宅地の基準地価では、三大都市圏で唯一0.7%と上昇した名古屋圏ですが、今年も0.9%と0.2ポイント上昇し、三大都市圏の中ではトップでした。上昇地点の割合も増加し、半数以上の地点が上昇となっています。特に変動率トップ5はすべて名古屋市で、加えてその周辺部である日進市、豊明市など尾張地域の多くで上昇基調を強めています。
特に上昇が目立ったのは日進市で4.6%上昇。名古屋の基幹産業でもある自動車産業などが集積する豊田市や刈谷市と同様、名古屋市へのアクセスが便利なことで人気を集めたようです。
一方、美浜町や南知多といった知多半島南部の沿岸部住宅地は大きく下落しました。南海トラフなど大地震の津波への不安感があると見られています。
商業地に関しては、公示地価でも影響のあった2027年開通予定であるリニア中央新幹線を見据えた名古屋駅周辺が、上位4位までを占めていて、上昇率10%超えの地点もありました。また、名古屋駅前は2015年以降、大型商業ビル3棟が相次ぎ開業する予定で、むしろ供給物件が少ないことが地価を押し上げていると見られています。
■住宅地変動率上位─名古屋圏(単位%)
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■商業地変動率上位─名古屋圏(単位%)
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2013年、JR大阪駅前に開業した大型商業施設「グランフロント大阪」、2014年に全面開業した日本一高い超高層複合ビル「あべのハルカス」が話題となり商業地がピンポイントで上昇していましたが、その傾向は少しずつ周辺にも現れているようです。大阪圏全体では1.5%の上昇となり、上昇率は3.8倍近くに拡大しました。上昇地点の割合も増加し、半数以上の地点が上昇となっています。
変動率トップは大阪市北区大淀南1丁目と同区同心2丁目の2地点でいずれも11.9%と高い上昇率です。いずれもオフィス街に囲まれ、マンション用地としてのニーズが高いようです。また、京都府も下落から上昇に転じました。観光客増加による需要拡大と見られています。
住宅地は、0.1%のわずかな上昇にとどまりましたが、上昇地点および横ばい地点の割合が増加し、下落地点は4割弱となりました。京都市、大阪市、北摂エリアおよび阪神間を中心に上昇基調を強めています。上昇率トップは、枚方市5.8%でした。大阪の中心部まで30分ほどのニュータウンで、駅前に大型商業施設がリニューアルオープンし、活況を呈しているとのことです。
■住宅地変動率上位─大阪圏(単位%)
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■商業地変動率上位─大阪圏(単位%)
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一年前の基準地価も上昇傾向が見られましたが、まだまだ慎重論もあり、「バブルの兆しか経済成長か」と見極めが難しいとされていました。それから一年、ゆるやかに景気は回復したと見られ、それに伴う都市部の再開発やマンション開発などが進み、さらに地価は上昇を続けました。
特に今回の特徴は、これまで大都市限定だった上昇地点が中核都市など郊外に広がり始めた点にあります。
再開発に関しては中長期の計画なので、当分の間、勢いは止まりそうにありません。特に東京都心では、2020年の東京五輪までこの勢いが続くという強気の見方もあります。一方、予定されている来年10月の消費税率の引き上げや、住宅価格の高騰などで、息切れしてしまうとの見方もあります。このあたりは、住宅ローン控除の拡充など政府の政策に期待が持たれるところです。
地価回復の要因の一つは、やはり景気の回復です。その第一歩が、企業業績の回復になりますが、東京都心部ではオフィスの空室率が改善し、賃料も一部上昇しているようです。今後も景気の回復に期待したいものです。