2015年1月〜3月の最新家賃動向(首都圏)が、不動産情報サービスのアットホームより発表されています。緩やかな景気回復とともに都市部の地価は上昇しています。果たして、家賃相場に影響はあったのでしょうか?最新家賃動向を見ていきます。
2014年の春は、成約数が伸び悩む中で家賃はわずかながら上昇傾向にありました。その後、消費税増税前の駆け込み需要で、4月以降の新築が増えれば平均家賃も上昇するのでは、と昨年のレポートでは予測していました。では、実際どうなったのか、2014年一年間の賃貸市場のデータから見てみます。
マンション・アパート別成約賃料の前年同月比の推移を見ると(下グラフ参照)、上下を繰り返していますが、年平均成約賃料は、前年比でマンションが0.1%、アパートが0.3%と微増ですが、2年連続上昇しました。アットホームでは「賃料水準の高い新築物件の成約が増えた」ことが要因と見ています。4月のレポートでもお伝えしましたが、今年の公示地価は三大都市圏で2年連続上昇となりました(三大都市圏地価が2年連続上昇!「平成27年公示地価」)。都心を中心に再開発が盛んに行われ、不動産業界全般が活況を呈していますが、賃貸市場にも景気回復の影響が一部出はじめているということでしょう。
それが顕著に表れているのが、東京都です。エリア別に見ると(下表参照)、新築マンションの東京23区が7.1%、東京都下が9.4%と大幅に上昇しました。アットホームでは「景気回復の恩恵を受けた一部の高所得者が、好立地かつ良質な物件を選択した」と解説しています。
東京都の住宅着工数で見ても、貸家の前年比の推移は2012年11.6%、2013年5.9%と増加していて、完成した新築が2014年に市場に出回ったことがうかがえます。今年から、相続税が大幅に増税となりましたが、これは2年前の税制改正で決まっていたことです。その後、消費税のアップや低金利の影響などもあって、土地活用による相続対策に踏み切った人が増えた結果が、着工数の大幅な増加につながっているものと思われます。
また、今年の2月に発表された、みずほ信託銀行の「不動産マーケットレポート」によると、資金の動きから個人の貸家着工が旺盛との見方を示しています。賃貸住宅建築の際の借入れ額は、戸建てや不動産業向けの設備資金融資を上回る勢いで推移しているとのことです。
しかし、その他のエリアの新築については、千葉県のアパート新築が前年比5.9%の上昇以外はあまり芳しくありません。賃料の上昇は限定的なようです。
■マンション・アパート別成約賃料の前年同月比の推移(1戸あたり・首都圏)
■2014年 新築・中古別平均成約賃料・前年比(1戸あたり、単位:万円)
マンション |
アパート |
|||||||
新築 |
前年比 |
中古 |
前年比 |
新築 |
前年比 |
中古 |
前年比 |
|
東京23区 |
11.44 |
7.1% |
9.94 |
▲0.5% |
8.81 |
▲2.4% |
6.77 |
0.1% |
東京都下 |
9.52 |
9.4% |
7.26 |
▲2.0% |
8.02 |
▲4.9% |
5.84 |
0.3% |
神奈川県 |
9.15 |
▲1.3% |
7.71 |
0.4% |
7.72 |
0.4% |
5.87 |
0.7% |
埼玉県 |
7.91 |
▲2.1% |
6.85 |
▲0.4% |
7.06 |
▲2.1% |
5.48 |
0.2% |
千葉県 |
8.56 |
▲4.1% |
6.92 |
▲1.6% |
7.48 |
5.9% |
5.15 |
▲2.6% |
首都圏計 |
10.33 |
3.9% |
8.75 |
▲0.3% |
7.89 |
▲0.5% |
5.99 |
0.0% |
2014年の年間平均成約賃料は、首都圏全体で2年連続の増加。東京23区、東京都下では新築マンションの賃料が大幅に上昇したが、その他のエリア等ではマイナスも多く、景気回復の影響は限定的。
次に今春の動向を見てみます。まずは、市場の動きを示す成約状況です。この成約数が上向いていることが、市場の好・不況を表す一つの指標となります。2014年は、消費税増税や二度の大雪に見舞われ、成約数はあまり芳しくありませんでした。
さて、2015年はどうかというと、3月の首都圏全体では前年同月比で2.3%減少したものの、2月が8.6%と大きく増加しています。1月は微減ですので、1月〜3月通してみると、昨年よりも賃貸市場は活況だったことが分かります。その要因として、昨年の大雪による成約数減少からの反動もあるかもしれません。
特に東京23区と都下は2月に大きく伸び、3月に入ってもプラスで推移しました。今年の公示地価の上昇にも表れていたとおり、東京では都心や多摩地区などの郊外も含め再開発が進んでいます。加えて、今年からの相続増税を前に、その対策としてアパート建築が進み、新築物件の大幅増が続いたことが成約数を伸ばしていると見られています。
■居住用賃貸物件成約数および前年同月比の推移(首都圏)
■居住用賃貸物件所在地別 成約数・前年同月比
1月 |
2月 |
3月 |
|||
全体 |
マンション |
アパート |
|||
東京23区 |
▲1.1% |
7.1% |
2.5% |
1.8% |
3.8% |
東京都下 |
0.4% |
14.0% |
1.6% |
1.9% |
1.5% |
神奈川県 |
▲4.6% |
5.0% |
▲9.7% |
▲7.6% |
▲10.7% |
埼玉県 |
4.8% |
6.4% |
▲0.3% |
8.4% |
▲7.5% |
千葉県 |
9.1% |
23.9% |
▲3.0% |
▲6.1% |
▲1.0% |
首都圏計 |
▲0.4% |
8.6% |
▲2.3% |
▲0.9% |
▲3.8% |
今春の賃貸市場は、昨年に比べて成約数が伸び活況を呈した。昨年の大雪の反動もあるが、景気回復や相続税対策で新築物件が増えたことも要因とみられる。
好調な成約数は、家賃にも反映されています。(下表参照)
マンションにおいては、新築の平均賃料の前年同月比が13カ月連続で上昇しています。中古は4カ月連続の上昇です。ただし、1月から3月にかけて、その勢いは衰えています。
エリア別に見ると、3月の新築マンションは神奈川県を除いて全て前年同月比でマイナスです。賃料水準の高い23区の成約が増えた結果、首都圏全体ではかろうじてプラスになりました。
■マンション新築・中古別平均成約賃料・前年同月比 (1戸あたり、カッコ内は賃料・単位:万円)
新築 |
中古 |
|||||
1月 |
2月 |
3月 |
1月 |
2月 |
3月 |
|
東京23区 |
8.3% |
4.8% |
▲1.5%(11.11) |
3.0% |
3.4% |
1.8%(9.68) |
東京都下 |
14.8% |
▲6.2% |
▲4.7%(9.86) |
3.0% |
▲1.3% |
▲1.3%(6.93) |
神奈川県 |
0.8% |
▲1.1% |
2.3%(8.92) |
2.0% |
1.9% |
1.9%(7.63) |
埼玉県 |
5.1% |
4.2% |
▲8.1%(7.51) |
▲1.3% |
0.7% |
▲1.2%(6.62) |
千葉県 |
13.8% |
0.9% |
▲5.8%(8.12) |
▲0.7% |
▲1.7% |
1.6%(7.00) |
首都圏計 |
6.5% |
4.5% |
0.4%(10.05) |
2.3% |
1.5% |
1.2%(8.42) |
一方、アパートは新築で弱含み、中古はほぼ変わらずという結果になっています。平均家賃は全ての間取りの平均値です。新築アパートはシングル物件の成約増が続いたために、結果として平均値が下落したと見られています。
■アパート新築・中古別平均成約賃料・前年同月比 (1戸あたり、カッコ内は賃料・単位:万円)
新築 |
中古 |
|||||
1月 |
2月 |
3月 |
1月 |
2月 |
3月 |
|
東京23区 |
4.4% |
4.6% |
▲9.0%(8.22) |
0.1% |
1.7% |
1.2%(6.65) |
東京都下 |
▲1.6% |
▲4.5% |
7.4%(8.01) |
2.9% |
▲0.3% |
2.2%(5.63) |
神奈川県 |
▲1.5% |
▲1.7% |
▲2.9%(7.13) |
0.3% |
▲0.7% |
▲1.1%(5.61) |
埼玉県 |
1.1% |
▲1.6% |
▲0.1%(6.91) |
▲0.4% |
▲2.9% |
▲0.8%(5.29) |
千葉県 |
▲8.3% |
▲13.4% |
▲6.8%(6.46) |
▲0.6% |
1.2% |
▲1.2%(5.05) |
首都圏計 |
▲0.5% |
▲0.6% |
▲1.2%(7.45) |
0.0% |
▲0.2% |
0.0%(5.79) |
昨年の春は、成約数が伸び悩む中、わずかながら家賃の上昇傾向が見られましたが、今年の春は、成約数も伸び、全体を通してみると家賃も上昇しているようにも見えます。3月の1平米あたりの成約賃料で見ても、前年同月比で見てもマンション0.5%、アパート0.9%と上昇しています。
しかし個別エリアで見てみると、成約数が減少していたり、上昇率が鈍化している傾向も見られます。2014年の年間で見たように、傾向はエリアごとにまちまちです。
今後の家賃動向については、一部の再開発が進むエリアの家賃はさらに上昇していく可能性がありますが、その他は現状維持といったところでしようか。入居者側から見ると、いくら景気が回復しても、実質賃金(物価変動を考慮した賃金)が上がっていかないと、高い家賃を支払う余力が生まれません。ちなみに実質賃金は今年2月の時点で、22カ月連続マイナスです。今後の家賃は、まだしばらく微増、微減を繰り返す展開となりそうです。
また、別のデータでは不動産収益そのものは上向いているという解説もあります。前出の、みずほ信託銀行の「不動産マーケットレポート」によると、リーマンショック以降、賃貸住宅等による個人の不動産所得は減少していましたが、2011年度を底に微増しているとのことです。今後、賃貸市況の改善が進めば、家賃の増額を探る展開になるのではと見ています。
今春の家賃動向は、マンションが上昇傾向、アパートは弱含み。シングル物件の成約が多く、新築アパートは3カ月下落するも、全体としては活況。今後の家賃動向は、しばらく横ばいが続くと思われる。