国土交通省から基準地価(7月1日時点)が発表されました。アベノミクス以来、緩やかな景気回復や再開発などで三大都市圏の地価は上昇の兆しを見せていました。今回もその上昇傾向が続いていますが、懸念材料も出ています。三大都市圏の地価動向を見ていきます。
三大都市圏の地価上昇が見え始めたのは平成26年1月1日時点の公示地価からです。以来、今回の基準地価でも上昇傾向は衰えていません。
商業地については上昇基調が強まり、住宅地でも昨年の6年ぶりの上昇に続いて2年連続の上昇です。上昇地点数の割合は、三大都市圏で商業地7割弱、住宅地4割以上の地点が上昇しています。
全国平均では住宅地、商業地ともに下落していますが、下落率は縮小してリーマン・ショック以降、最も小さい下落率となりました。また、今年の公示地価との共通調査地点1,612地点の動向を見ると、全国平均で住宅地0.6%、商業地1.7%の上昇となっています。
地価上昇の要因ですが、商業地では、訪日外国人旅行者のいわゆるインバウンド効果が地価にも影響しています。東京や大阪では、ホテルの再開発や新店舗出店が旺盛となっていて、東京・銀座「明治屋銀座ビル」、大阪・心斎橋「りそな心斎橋ビル」など訪日外国人旅行者が多く訪れる地点では、大きな上昇率を見せています。
また、全国的にも堅調な住宅需要を背景に、都市部の利便性が高い商業地において、マンション建設の動きが広がっているとのことです。
住宅地では「金融緩和、住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支え」が影響しています。特に東京都心部などでは、超高級物件の億ションの売れ行きが好調のようです。これは、富裕層が相続対策としてタワーマンションの高層階を購入したり、アジア圏の海外投資家が投資用に購入しているとのことです。ただし、郊外では、割高感から売れ行きが鈍り、地価上昇も鈍化しているところもあります。
また、今回の特徴の一つは今年の公示地価同様、地方中枢都市※にも地価上昇の波が広がっていることです。特に商業地は上昇幅が拡大しました。福岡市では博多駅周辺の再開発や地下鉄の延伸計画があることから、商業地で4.8%と三大都市圏と比べても大きな伸びを見せました。
■基準地価の変動率 (単位%、カッコ内は前年)
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住宅地 |
商業地 |
全用途 |
三大都市圏 |
0.4 (0.5) |
2.3 (1.7) |
0.9 (0.8) |
東京圏 |
0.5 (0.6) |
2.3 (1.9) |
1.0 (0.9) |
大阪圏 |
0.0 (0.1) |
2.5 (1.5) |
0.6 (0.4) |
名古屋圏 |
0.7 (0.9) |
2.2 (1.5) |
1.1 (1.0) |
地方中枢都市※ |
1.7 (1.3) |
3.8 (2.6) |
─ |
福岡市 |
2.1 (1.8) |
4.8 (3.4) |
3.0 (2.3) |
地方圏 |
▲1.5 (▲1.8) |
▲1.6 (▲2.2) |
▲1.5 (▲1.9) |
全国 |
▲1.0 (▲1.2) |
▲0.5 (▲1.1) |
▲0.9 (▲1.2) |
※札幌市・仙台市・広島市・福岡市
東京圏の地価上昇のキーワードは、「東京オリンピック」「訪日外国人旅行者」「品川駅再開発」「海外投資家」といったところでしょう。
特に「訪日外国人旅行者の爆買い」は、マスコミでもよく取り上げられています。日本政府観光局によると、8月の訪日外国人旅行者数は約181万人で、前年同月比63.8%もの増加です。昨年1年間で約1,341万人でしたが、今年は8月の時点ですでに約1,287万人と昨年に迫る数字です。これだけ訪日外国人旅行者が増えた主な理由は、観光立国を目指す日本の政策により、ビザの発給条件の緩和、消費税の免税対象拡大、そして円安の進行があります。そして、訪日外国人旅行者による経済効果は主に東京と関西に集中しています。
住宅地では、上昇率1位は昨年同様、月島3丁目です。この月島、豊洲、有明など湾岸エリアは高層マンション開発が引き続き活発で、高価格にもかかわらず売れ行きが好調なようです。その他にも、五輪後の核となるリニア中央新幹線開通に向け開発が進む品川駅が上昇率2位、東京オリンピックの選手村計画のある晴海が上昇率3位、千葉県木更津市は東京湾アクアラインの割引継続、ショッピングモールの拡充で住環境の利便性が増し4位となっています。
また、多摩地域にも地価上昇は波及していますが、住宅地の上昇率は1.0%から0.7%に、やや縮小しています。
■東京圏(東京都・神奈川県)の地域別変動率 (単位%、カッコ内は前年)
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住宅地 |
商業地 |
東京都 |
1.3 (1.4) |
3.5 (2.8) |
東京都区部 |
2.1 (1.9) |
4.0 (3.2) |
区部都心部※1 |
3.8 (3.5) |
5.8 (4.5) |
区部南西部※2 |
2.0 (1.9) |
2.9 (2.2) |
区部北東部※3 |
1.4 (1.3) |
1.9 (1.8) |
多摩地域 |
0.7 (1.0) |
1.5 (1.4) |
神奈川県 |
0.2 (0.5) |
1.4 (1.4) |
横浜市 |
1.4 (1.7) |
2.5 (2.2) |
川崎市 |
1.1 (1.5) |
2.9 (3.1) |
相模原市 |
0.1 (0.3) |
0.2 (0.2) |
その他 |
▲0.9 (▲0.6) |
▲0.4 (▲0.3) |
※1区部都心部/千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、渋谷区、豊島区
※2区部南西部/品川区、目黒区、大田区、世田谷区、中野区、杉並区、練馬区
※3区部北東部/墨田区、江東区、北区、荒川区、板橋区、足立区、葛飾区、江戸川区
■住宅地変動率上位─東京圏(単位:%)
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■商業地変動率上位─東京圏(単位:%)
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名古屋市では商業地4.7%、住宅地1.9%といずれも東京都の平均よりも高い上昇率でした。名古屋圏で見ても、商業地2.2%、住宅地0.7%と上昇し、名古屋市と同様3年連続で上昇しています。
名古屋圏の地価上昇キーワードは、何といっても「リニア中央新幹線」です。特に名古屋駅東口の中村区は、リニア中央新幹線の開業を見込んで、商業地では全国1位の上昇率で45.7%もの大幅上昇となりました。名古屋駅西口の椿町もリニア中央新幹線の駅予定地で、こちらも上昇率2位の36.0%上昇です。開業は2027年予定ですが、需要を先取りする動きが見られます。
さらに、今秋以降に名古屋駅周辺では、超高層ビルの「大名古屋ビルヂング」や「JPタワー名古屋」が開業するなど、駅前再開発も地価を押し上げる要因となっています。
ただし、リニアや再開発などの動きがないエリアでは地価は低迷しています。住宅地も3年連続の上昇となりましたが、上昇幅自体は縮小しています。
■住宅地変動率上位─名古屋圏(単位:%)
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■商業地変動率上位─名古屋圏(単位:%)
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大阪圏の商業地は2.5%上昇し、三大都市圏の商業地としては最も高い上昇率でした。大阪府では3.6%の上昇率を見せ、都道府県別では1位です。さらに大阪市内に絞ると6.1%も上昇し、これは東京都区部都心部の5.8%を上回っています。
大阪圏でも、地価上昇キーワードは「訪日外国人旅行者」です。上昇率が29.7%と、最も高かった大阪市中央区南船場「りそな心斎橋ビル」には高級ブランドショップが並び、外国人旅行者で賑わっています。ビル前に外国人旅行者を乗せた観光バスが止まることから、爆買いツアーの発着拠点と言われているようです。
京都も同様に外国人旅行者が増加し、商業地は3.8%上昇しました。ホテル、店舗の需要が高まっていることが、地価上昇の要因です。
しかし、大阪圏の住宅地は0.0%と横ばいで、三大都市圏の中では唯一上昇していません。エリアによっては人口減少が進み、地価は下落しています。
そんな中でも上昇率が高かったのは、神戸市の灘区です。交通利便性が高く、住環境も良好で人気の住宅地です。神戸市全体の住宅地は0.6%となり、大阪の0.5%よりわずかながら上回っています。
■住宅地変動率上位─大阪圏(単位:%)
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■商業地変動率上位─大阪圏(単位:%)
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今回の基準地価をあらためて振り返ると、三大都市圏の商業地は上昇率が拡大、住宅地は上昇率がやや縮小、全国的には地価上昇トレンドは地方中枢都市に波及し、全国全用途では依然下落が続くものの、下落率自体は縮小しました。
今後、商業地の地価動向については、さまざまな見方があります。すでに都心部ではミニバブルとの見方も示されています。しかし、諸外国から見れば東京の不動産は円安もあって割安感があります。昨今、地価にも大きな影響を及ぼしている訪日外国人については、観光立国を目指し政府も今後15年で倍にする目標を掲げていることから、今後も増え続けると予測されます。
一方、地価を支えるベースとなる経済動向については、いまだ不安要因が多いと言わざるをえないでしょう。アベノミクスでゆるやかに景気回復が進みましたが、最近では停滞感もあります。企業の業績は好調でも、給与がアップするまで景気回復が進んでいません。軽減税率の議論が進む消費税の10%増税などの税制動向も、経済への影響が心配されます。
また、地方に目を転じれば、三大都市圏と地方中枢都市こそ地価の上昇傾向を見せたものの、その他の地方都市では下落が止まらない状況です。地方再生には、まだ多くの時間がかかりそうです。
さらに、海外の経済動向も目が離せません。中国経済減速によるチャイナショックで世界的に株安が進んでいるのは周知のとおりです。加えて、世界的な自動車メーカーの不祥事が起こり、関連産業に大きなダメージを与えています。その他、アメリカの利上げの時期にも注目が集まるなど、今後の世界経済のリスク要因は少なくありません。
土地オーナーにとって、地価上昇は評価額の上昇につながるため、相続税への影響も大いに気になるところです。外部要因も含めた経済動向、地価動向に広く注視していきたいところです。