いよいよ今年から、新しい相続税制がスタートします。ご存じの方も多いと思いますが、大幅な増税となり、これまで相続税とは無関係だった人も納税の対象になる可能性が出てきました。特に、不動産評価の高い都市部に自宅を所有する人は、要注意です。原則、相続税は現金で納めます。バブルの頃、自宅はあるが現金がないので、納税できず立ち行かなくなったケースが多く見られました。そうならないためにも、何がどう変わるのか把握して、適切な対策を考えることが大切です。
相続税には基礎控除があり、この基礎控除を超えた相続資産に対して税金がかかります。
その基礎控除が大幅に縮小されました。以前より、4割もの縮小です。
以前の基礎控除は5,000万円+1,000万円×法定相続人の数でした。
例えば、妻+子2人が相続した場合、
5,000万円+1,000万円×3人=8,000万円が基礎控除です。
つまり8,000万円を超える遺産がある場合に、相続税がかかっていました。
しかし、今年から基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人に縮小になります。
先のケースでは、3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除です。4,800万円を超えると相続税がかかってくるのです。都市部に一戸建てを持っているケースだと十分に課税対象者となる可能性があるでしょう。また、定年で退職金をもらった場合も一気に資産が膨らみ、相続税の心配が出てきます。仮に8,000万円を相続した場合は、8,000万円−4,800万円=3,200万円に相続税がかかります。
これまで、相続税とは無縁だった一般のサラリーマン家庭でも、課税対象者になると言われている大きな理由が、この基礎控除の大幅な縮小なのです。
配偶者が相続人になる場合は、「配偶者税額軽減の特例」で1億6,000万円まで非課税となる制度があります。この特例を利用すればよいと考える方も多くいるようですが、次の相続まで考慮して利用するかを決める必要があります。
相続税の計算の仕方は、「相続・贈与の基礎知識」で詳しく解説していますので、参考にしてください。
さらに、土地オーナーなどの資産家にとって負担が増すのが税率のアップです。
相続税は、所得税と同じ累進課税ですが、遺産が2億を超えた分の税率が高くなっています。最高税率も50%から55%にアップしました。
今年から相続税の基礎控除が4割削減に!都市部に一戸建てを持っていたり、退職金で資産が増える場合は課税対象となる可能性が大きい。
相続対策の第一歩は、今いくらの相続資産があるのかを把握することです。現金ならすぐに計算できますが、土地はどうでしょう? 先にも触れたように、都市部に一戸建ての自宅がある場合などは、今の相続評価額を調べておく必要があります。
土地の相続評価額は路線価を使って計算します。路線価は道路ごとに1平米あたりの価格が定められ、その路線価に敷地面積をかけ、さらに角地や2つの道路に接しているなど、敷地の状況で補正して計算します。土地の相続評価額は、実際の取引価格の概ね8割程度です。路線価は国税庁のホームページで公表されています。
路線価は毎年7月に発表があり、このコーナーでも取り上げています。最近の動向でいうと、路線価は上昇局面に入ったとみてもよさそうです。もちろん、土地オーナーとしては資産価値が上がるので良いことなのですが、相続の面で考えると負担が増すことになります。路線価の動向については、「路線価上昇!! 土地オーナーへの影響は?」を参考にしてください。
土地の相続評価額は、路線価で計算する。路線価は取引価格の概ね8割程度。
相続税は、原則、現金で納付することになります。しかし、都心に代々引き継いだ自宅はあるが現金はないというケースも少なくありません。場合によっては、仕方なく自宅を売ることになりかねません。そこで、自宅に限っては評価額が8割減額される「小規模宅地の特例」があります(限度面積330m2)。この特例を使えば、たとえ1億の相続評価額の土地であっても、2,000万円になります。この特例が使えれば、基礎控除が下がっても、影響は受けにくいかもしれません。
しかし、この特例を適用させるには要件があります。実は、この特例は平成22年度の税制改正で要件が厳しくなっています。
その要件とは、相続人が同居し引き続き住み続けることです。配偶者がいる場合は、配偶者が相続すれば問題はありません。しかし、親が一人で、子どもはみんな独立し、それぞれ持ち家を持っているケースで相続が発生すると、この特例は使うことができません。評価額は100%となり、1億円の土地は1億円です。核家族化が進む現代では、このケースが多いのではないでしょうか。ただし、子どもが持ち家ではなく賃貸に住んでいれば特例が受けられます。
この他にも特例の要件で注意が必要なことがあります。
一つは二世帯住宅の場合です。完全分離型でも同居と見なして適用されますが、区分所有登記をしていると注意が必要です。同居している被相続人の配偶者が相続した場合は、被相続人の居住の用に供されていた部分しか小規模宅地等の対象になりません。つまり、1階親世帯、2階子世帯の場合は、敷地の半分のみ適用となります。また、被相続人が一人暮らしで、2階の子どもが相続した場合は、一切適応されません。区分所有の場合は、二世帯住宅でも独立して持ち家があると見なされるのです。
また、親が老人ホームに入っている場合でも適用されますが、自宅を賃貸にしている場合は対象外です。いつでも戻れる状態にしておくことが必要なのです。
現代のライフスタイルでは適用が難しくなった小規模宅地の特例ですが、この特例は自宅だけではなく、賃貸住宅や事業用の土地にも適用されます。評価減割合は少なくなりますが、賃貸住宅の土地は5割減(限度面積200m2)、事業用の土地は8割減(限度面積400m2)です。
この特例をうまく活用すればかなりの相続税対策になります。
例えば、誰も引き継ぐ予定がない自宅の場合、親が生前の内に賃貸併用住宅に建て替えたとします。1階、2階を賃貸、3階を自宅にした場合は、土地の3分の2の面積は評価が5割減になるのです。土地評価の高い敷地の場合、これだけでも大きな評価減となるでしょう。
自宅の土地の相続評価が8割減になる小規模宅地の特例は、要件に注意。持ち家のある子どもが相続する場合は適用外。また、特例は自宅だけではなく賃貸住宅(減額割合5割)でも活用できる。
いざ相続対策といっても何をすればよいのか見当もつかない方も多いと思います。そこで、相続対策は何から始めればよいかを順番に見ていきます。
現金や金融資産はいくらあるのか。不動産の相続評価額はいくらか、また、特例は使えるかなどを調べ、資産の総額を出します。
相続対策の最も大切なポイントと言われているのが、税金対策ではなくどう分けるかです。遺言を残したり、生前にどう分割するかを相続人に話しておいたりすること。また、分割しやすいように、資産の組み換えなどで整理することが必要です。
相続税対策としては、財産の評価をどう引き下げるかがポイントです。特に土地は活用の仕方で、評価額が大きく変わってきます。
生前に財産を移転、つまり生前贈与することで、結果的に相続税対策になります。現金だけでなく、不動産も場合によっては有効です。
相続税は現金納付。納税資金がなく、不動産を売ってしまうことのないよう、生命保険や賃貸住宅の家賃収入などで納税資金を確保することが必要です。
相続対策については、マンスリーレポート「他人ごとではない相続対策 <相続大増税を前に、今やっておくべき3つのこと>」、また、「相続・贈与の基礎知識」で詳しく解説しています。参考にしてください。
相続対策は、1.資産を把握する→2.遺産分割→3.財産評価の引き下げ→4.財産の移転→5.納税資金の確保の順番で考える。