相続税対策で、特に注意しなければならないのは、一次相続の次に発生する二次相続です。一次相続で配偶者が多くの資産を相続する場合、相続税は特例(配偶者の税額軽減)でかなり軽減されます。しかし、その後子世代が資産を引き継ぐ二次相続では、かえって相続税の負担が大きくなる場合があるからです。つまり、二次相続を見据えた相続税対策が必要なのです。今回は二次相続について考えてみたいと思います。
一次相続とは、親世代のどちらかが先に他界して発生した相続のことです。多くは、妻と子どもが残されるケースでしょう。この場合、配偶者(妻)には次の大きな優遇措置があります。
配偶者は1億6,000万円か法定相続分(相続財産の2分の1)のどちらか大きい金額までは、相続税がかかりません。つまり、最低でも1億6,000万円までは無税ということになります。仮に2億円を相続したとしても、それが法定相続分以下であれば相続税はかかりません。
この特例があれば、一次相続では相続税の負担はかなり軽減されます。極端な例として、1億6,000万円の資産があっても、子どもに相続させず配偶者がすべてを相続すれば、相続税はかかりません。しかし、次の二次相続では、配偶者税額軽減のような特例がなく、配偶者の資産が増えた分、次の子世代の相続税の負担は大きくなります。
一次相続では、「配偶者税額軽減の特例」が使えるので、相続税の負担を少なくすることができる。しかし、二次相続で負担が増えるケースが多い。
二次相続を踏まえた相続税対策とは、一次、二次とトータルで相続税がどうなるのかを考えることです。一次相続で配偶者に全てを相続させずに、子どもたちに多めに相続させることで、トータルの税額を減らすことができるケースもあるのです。
では、夫婦と子ども2人のケースで相続税の概算をシミュレーションしてみます。
夫の遺産3億円、妻の財産5,000万円とします。(※基礎控除前)
一次相続で配偶者が1億5,000万円を相続したとすると、配偶者税額軽減の特例によって相続税はかかりません。二次相続では、もともと配偶者が持っていた資産5,000万円と合わせ、2億円を子ども2人が相続することとなります。そうすると、一次・二次合わせると総額で6,200万円の相続税がかかることになります。
一次相続で子どもに多く財産を相続したので、一次相続では相続税が多くなりますが、二次相続での負担はかなり軽減され、ケース1と比べると、総額で664万円少なくなっています。
このように、一次相続で子どもに多く資産を移転しておくと、二次相続との合計で相続税を軽減させることができます。
ただし、あまり子どもに移転しすぎると、配偶者の老後の資金が不足してしまうこともありますので、注意が必要です。
相続税対策は、一次・二次の相続税の合計で考える。一次相続で、子どもに多く資産を移転したほうが、結果的に相続税の負担を減らせる場合がある。
もう一つ二次相続で注意したいのが、実家の相続です。相続税の特例には、先の配偶者税額軽減の特例ともう一つ大きな特例があります。それが、小規模宅地等の特例です。
一定の条件を満たせば、実家の土地の評価額が80%減額されます。一次相続で配偶者が相続する場合は、その条件を満たしています。この特例を使えば、評価額1億円の土地も2,000万円になるという大きな軽減措置です。
しかし昨今、相続で最も気を付けなければならないのが、実家の相続と言ってもよいでしょう。なぜなら、二次相続でこの小規模宅地等の特例が使えないケースが多いからです。
この特例を子どもが使うためには、実家で親と同居しているか、独立していても賃貸住宅に住んでいることなどが条件になります。
つまり、結婚して持ち家に住んでいる場合は使えないのです。そうなると、評価額1億円の土地は、1億円のまま相続税が計算されます。
都市部では地価が上昇しています。加えて相続税基礎控除の減額によって、都市部で少し広めの土地を所有していれば、相続税が発生するケースが増えているのです。
これらを踏まえ、二次相続対策として実家をどうするか、早期に考えておくことが大切になってきます。
二次相続で実家を相続する場合、小規模宅地等の特例が使えず相続税の負担が大きくなるケースが多い。早期に実家の相続税対策を考える必要がある。
遺産が現金だけならば、二次相続を踏まえつつ一次相続でうまく遺産分割することができますが、不動産の場合はそうはいきません。二次相続の前に、何らかの対策を講じる必要があります。実家の相続税対策には以下の対策が考えられます。
一次相続で、同居している子どもがいれば配偶者ではなく子どもが実家を相続すれば、小規模宅地等の特例が使えます。
二世帯住宅の場合は、小規模宅地等の特例が使えます。2014年1月1日以降、建物内部で行き来ができない完全分離型の建物でも、適用対象になっています。
小規模宅地等の特例には、自宅の他に賃貸住宅の土地にも適用されます。その場合は50%の減額です。80%よりは少ないですが大きな減額です。建物の賃貸部分の割合分が適用されます。賃料収入はローンの返済や相続税の納税資金に活用できますし、二世帯住宅で子世帯を呼び戻すことが難しい場合は、有効な手段です。親世代が元気なうちに、早めに建て替えることがポイントです。
実家を売却して、分譲マンションに転居します。そうすることで、相続税評価額は抑えられる傾向にあります。
小規模宅地等の特例に関しては、過去のバックナンバーでも解説しています。参考にしてください。
マンスリーレポート「相続対策の決め手"小規模宅地等の特例"の活用法」
実家の相続対策の一つとして、効果的な土地活用が考えられる。しかし、土地活用には時間も労力もかかるため、親世代が元気なうちに早めに対処しておくことが大切。