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平成29年度税制改正のポイント

税務・確定申告

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2017年1月 6日

平成29年度税制改正のポイント

平成29年度の税制改正大綱が発表されました。タワーマンションの固定資産税、海外資産相続課税強化など、富裕層に対する相続税、資産税、所得税などは年々厳しさを増しているように感じます。今回は土地・住宅関連については大きな改正はありませんでしたが、アパート・マンション経営に関連する主な税制改正のポイントを整理します。

配偶者控除が注目された税制改正。賃貸経営に影響は?

今回の税制改正で、最も注目されたのが配偶者控除です。控除の内容は、配偶者のパート収入が年間103万円以下であれば、配偶者控除として38万円を所得から差し引けるというものです。しかし、これが103万円の壁として女性の労働機会を妨げているということから、是非が問われていました。
配偶者控除廃止案も出ていましたが、結果、年収制限を103万円以下から150万円以下に拡大するにとどまりました。合わせてパート年収が「103万円超〜141万円未満」なら、世帯主の年収から一定額(最高38万円)を差し引ける「配偶者特別控除」も201万円以下までにスライドして広がります。150万円を超えても201万円までは段階的に控除額は減りますが、控除は受けられるわけです。

一方で、減税によって目減りする税収を確保するため、配偶者特別控除にある世帯主の「年収制限」を、配偶者控除にも設けることになりました。
世帯主の合計所得金額が900万円(給与収入のみの場合の収入金額は1120万円)を超えると控除額を段階的に減らし、所得が1000万円(給与収入のみの場合は収入金額は1220万円)を超えると控除の対象から外れます。専業主婦(主夫)などの約100万世帯が増税となり、給与収入が1500万円だと最大15.8万円の負担増となる見込みです。世帯主の年収によっては、配偶者控除の配偶者の年収制限の拡大より、世帯主の年収制限の方が影響がありそうです。

また賃貸経営の場合、配偶者控除が話題になるのは青色事業専従者給与との兼ね合いです。青色事業専従者給与を支払うと金額にかかわらず、配偶者控除は受けられません。つまり、38万円以下の青色事業専従者給与だと、かえって負担が増してしまうので注意が必要です。

配偶者控除の見直しは、世帯主の所得の多い場合、年収制限の方が影響あり。また青色事業専従者給与を支払う場合は、給与額が配偶者控除の38万円を下回らないようにするのが良い。

タワーマンション高層階の固定資産税を引き上げ

もう一つ注目されたのがタワーマンション節税に関する改正です。タワーマンションでは、1階でも高層階でも、床面積が同じなら固定資産税は同額でしたが、今回の改正で補正率が導入されることになりました。
具体的には、中間の階から1階上がるごとに約0.25%税額が増え、1階下がるごとに約0.25%税額が下がります。40階建ての場合、最上階の40階の部屋は約5%の増税となり、1階の部屋は約5%の減税となります。高さが60メートルを超える、およそ20階建て以上のマンションが対象となり、平成29年1月2日以降に完成した新築のマンションに適用し、平成30年度の固定資産税から実施されます。これに合わせて都市計画税、不動産取得税に関しても同様の補正率が適用されます。

しかし、この程度の補正率ではあまり効果がないのではという意見もあります。実際の分譲価格の差には及んでおらず、高所得層の節税対策を抑える効果が弱いためです。そもそも、タワーマンション節税とは富裕層の相続対策として行われていたものです。マンションの相続評価は土地と建物に分けて行います。土地部分は路線価ですが、建物部分は固定資産税をもとに評価されるので、高層階は市場価格に対して相続評価が低く抑えられるのです。
今回の税制改正では、タワーマンションの相続評価については触れられていません。相続評価に関しては別途議論を重ね、平成30年度の税制改正で新たに増税策が講じられる予定です。

タワーマンションの固定資産税、都市計画税、不動産取得税について、補正率が適用されることになった。相続評価については、平成30年度の税制改正で増税の方向が明らかになる予定。

その他の税制改正 ー特例延長、海外資産課税強化などー

その他のマンション・アパート経営に関する税制改正をピックアップします。

■事業用資産の買換え特例が3年間延長
これは、事業用資産を買換える、つまり資産の組み替えなどに活用できる特例です。買換えで発生する譲渡所得の80%を繰り延べることができるものです。繰り延べるとは、その時点では課税が免除され、次に売却するときに繰り延べた譲渡益が課税対象になるということです。これにより、多くの資金が手元に残りますので、買換える資産が高くても購入しやすくなります。
事業用資産は、10年を超えていれば賃貸住宅、駐車場でも大丈夫です。
平成29年3月31日までの特例でしたが、期限が3年間延長され、平成32年3月31日までとなります。

■広大地の相続評価の見直し
広大地については、「面積に比例的に減額する評価方法」がとられていますが、それぞれの土地の個性に応じて形状や面積に基づいて評価する方法に見直されます。また、「広大地の適用要件を明確化する」とあります。詳細は明記されていませんが、広大地の判定基準はわかりにくいと言われていましたので、これで明確になるかもしれません。

■生産緑地の面積要件緩和
市街化区域内の農地が生産緑地に指定されると固定資産税の優遇措置を受けられる生産緑地の面積要件が現行の500平米以上から引き下げられます。今の生産緑地法が制定されたのは1991年です。生産緑地に指定されると30年間は農地として営業しなければなりません。その最初の指定を受けた生産緑地の期限が2022年に迫り、後継者不足から大量に宅地として市場に出回るのではと予想され"2022年問題"として注目を浴びています。

■住宅リフォーム減税の適用要件に「耐久性向上」を追加
「耐震」「バリアフリー」「省エネ」の一定要件を満たすリフォームをすると、所得税が減税となる特例の要件に「耐久性向上」の要件が加わりました。耐久性向上とは、小屋裏、外壁、浴室・脱衣室、土台・軸組等、床下、基礎、地盤に関する劣化対策工事などです。

■土地の所有権移転登記の登録免許税の特例措置を2年間延長
土地の売買による所有権移転登記には、登録免許税が1.5%(本則2.0%)となる軽減措置があり、2年間延長されます。平成31年3月31日まで。

■住宅用家屋の所有権の保存登記にかかる登録免許税の特例措置を3年間延長
住宅用家屋の売買では、以下の登録免許税の軽減措置が3年間延長されます。平成32年3月31日まで。
・住宅用家屋の所有権の保存登記0.15%(本則0.4%)
・住宅用家屋の所有権の移転登記0.3%(本則2.0%)
・住宅ローン等にかかわる抵当権の設定登記0.1%(本則0.4%)

■優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得特例を3年間延長
個人が優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合、譲渡所得の2,000万円以下の部分は譲渡所得の14%(所得税10%+住民税4%)になる軽減措置が3年間延長されます。本則20%(所得税15%+住民税5%)。平成31年12月31日まで。

■海外資産の相続課税を強化
富裕層の租税回避地の利用実態が暴露された「パナマ文書」が話題になりましたが、海外資産に対する相続税が強化されます。現行では相続人と被相続人が海外に5年を超えて居住していれば、海外資産に相続税はかかりませんでした。今後は居住期間が10年以内となります。合わせて租税回避地を利用したペーパーカンパニーなども実態などが厳格にチェックされ、課税対象が広がります。

■積立型NISAの新設
現行の「少額投資非課税制度(NISA)」の年間上限額は120万円、非課税期間は5年間です。今回の改正では新しく、年間上限額を40万円、非課税期間20年間の「積み立てNISA」を新設しました。併用はできませんが、若年層を中心に、少額で長く投資を促すのが狙いです。

■医療費控除の確定申告時の領収書提出不要
医療費が一定額を超えた場合に受けられる医療費控除ですが、平成29年度分の確定申告時の領収書の提出が不要になります。ただし、保存は義務付けられ、請求された場合は提示しなければなりません。

今後は個人所得課税の改革、消費税増税の実施時期にも目配りを

今回の税制改正では、アパート・マンション経営や相続に関する大きな税制改正はありませんでした。タワーマンションに関する税制改正も相続評価にまでは踏み込まず、小幅な補正にとどまったという印象です。
一方、海外資産への課税強化や、ネット上の情報も差し押さえられる脱税調査の権限強化など、グローバル化やIT化の進む現代に則した税制の見直しが進んでいます。

ちなみに、今回要望として上がっていたのに実現しなかったものに、「上場株式の相続評価を時価の9割に引き下げ」「教育資金一括贈与非課税制度の対象に、あしながおじさんから貧困家庭の子どもを追加」「幼稚園、保育園に土地を貸与した場合の贈与税・相続税の非課税措置の創設」などがあります。資産運用の選択肢が広がる内容もありましたが、実現しませんでした。

今後の改正については、「個人所得課税改革を継続していく」とあります。気になるのは、高所得者の所得控除方式の見直しです。所得控除は高所得者ほど軽減効果が大きいため、不公平感が強く、これを見直すということです。今回、配偶者控除で世帯主の年収制限があったように、何らかの所得控除には年収制限がついてくるかもしれません。
タワーマンションの相続評価についても高層階は増税の方向で進むと思われ、富裕層にとってはいずれも増税の方向にあるようです。

そしてアパート・マンションオーナーにとって忘れてはならないのは、消費税の税率10%への増税です。これは今回の税制改正以前から国会で正式に決定されていたものですが、安倍首相が2度にわたって延期して、現在の実施予定は平成31年10月です。
賃貸経営では、リフォームしたり、新たな賃貸住宅を建築したりする際には消費税がかかり、その後の収支にも大きな影響を及ぼします。それを回避するには、増税の半年前までに契約をすませるなどの対応が必要になってきます。税制改正の動向をしっかりと把握することはもちろん、これまで以上に計画的な資産運用が求められるでしょう。


※今回のマンスリーレポートは平成29年度税制改正大綱に基づいて作成しています。正式には今後の審議を経て決定されます。場合によっては、内容が変更になる可能性もありますので、ご注意ください。

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