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トップメッセージ

“いのち”と“くらし”を想い、持続可能な社会の実現に貢献する

激動の時代だからこそ、コミュニケーションを深める

私たちを取り巻く経営環境の変化は一層激しさを増しています。米中貿易摩擦、新型コロナウイルス感染症、ロシア・ウクライナ情勢をはじめとする地政学的リスクの急速な高まりなど、非常に大きな出来事に次々と見舞われています。もちろんさまざまなことが起こりうることは常に想定してきましたが、予期せぬこと、想定を上回るようなことが次々と生じたことで、経営環境の変化にどう対応するか、世界の中での当社の位置づけはどうなっているのか、社外といかに協力していくべきかなど、大いに考えさせられる1年でした。

私は2022年4月に社長に就任しました。社長になり、会社を取り巻く経営環境をさらに俯瞰して見るようになりました。そこで改めて感じたのは、コミュニケーションの大切さです。しかし、そのようなコミュニケーションは、一見簡単なようでありながら、相手の目線に合わせないと成立しない、奥の深いものです。その点、当社では何十年も前から社内では役職ではなく「さん」付けで呼んできたという文化があります。「さん」付けでの会話というのはお互いが同じ土俵に立ち、人間性をベースにキャッチボールするということであり、コミュニケーションの基本だと思っています。ただ、最近のウェブ会議には注意をしないといけません。便利になったことは良いのですが、ややもするとコミュニケーションが浅くなりがちです。時に冗談も交えた言葉を投げかけても、リアルの場と違ってリモートでは反応がわかりませんから、笑い声が聞こえなかっただけなのか、単にウケなかったのか、わかりません。利便性を享受しつつも、意識して行動しないと、と思います。コミュニケーションを深めるため私自身は時には自らを一層さらけ出しながら、話しやすい雰囲気を作ることを心がけています。

人びとに寄り添い、社会と共に成長していく

1922年、創業者の野口遵は、旭化成の前身となる旭絹織株式会社を設立し、翌年には宮崎県・延岡の工場で、日本初のアンモニア合成を成功させました。以来、100年を超え、当社は成長を続けています。
しかし、野口は会社を100年続けることを目指して起業したわけではないと思います。日本がまだ貧しかった当時、社会を発展させようと自らが得意な技術分野で事業を興したのです。その後、新しいもの、イノベーティブなものを生み出すことで社会に貢献しようと挑戦と創造を続け、世の中に製品を出してきました。一歩一歩前進しようという想いのつながりが、結果的に100年に至った、そういうことだと思っています。

グループミッションである「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」は、私たちの普遍的な存在意義を示しています。現在のミッションは2011年に設定したものですが、実はこの表現を使い始めるはるか前から「ずっと人のそばにいる会社」という感覚が、それぞれの時代の従業員にはあったと思っています。BtoB企業として発展しながらも、消費財や住宅など、一般の人びとに向けた事業を手掛けてきたところにも、そうした感覚は表れています。私たちは、「人びとに寄り添い、社会と一緒に成長していく会社でありたい」という想いを、一世紀前から受け継いできました。

企業は、社会の要請に基づいて変わっていかなくてはいけませんし、社会の要請に基づかない限り存続できないと思っています。そのことをしっかりと意識して前に進んでいくことが極めて重要です。現在の社会的な要請は「持続可能性(サステナビリティ)」です。従って、当社は現在「中期経営計画2024 ~Be a Trailblazer~」において、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」という2つのサステナビリティの好循環を起こしていくことを掲げています。社会と共に自らもサステナブルでないといけない、その2つをサイクルとして回していこうということなのですが、大切なことはこれらのことをしっかりと腹落ちさせることです。持続的な企業価値の向上とか持続可能な社会への貢献と言っても、事業や仕事が変われば、意味するところは違います。そこで当社のリーダー層には、しっかりと腹落ちさせた上で自らの言葉に変え、具体的な表現に落とし込んでチームメンバーとコミュニケーションをとるように言っています。

人と地球の未来を想い、力を合わせていく

100年後の未来に向けても、旭化成のあり方は同じです。それぞれの時代が抱える社会課題を理解し、その解決に一途に挑み続け、革新的な事業・製品を生み出しながら、自らも変革を遂げていく。それにより多様なステークホルダーとの信頼関係をさらに深めていく。私たちの基本姿勢は、遠い未来に向けても変わりません。

そうした前提のもと、当社グループでは、2050年に向けて目指す姿として「Care for People, Care for Earth(人と地球の未来を想う)」を掲げています。これは「健康で快適な生活」と「環境との共生」を大きな柱として、未来社会に貢献していくという当社の決意を示すものです。「旭化成ならきっと技術力でさまざまな社会課題を解決してくれる」「ワクワクする未来をつくってくれる」という期待感を皆様に持っていただける存在でありたいと思っています。私たちはさまざまな社会課題を日々解決することに努め、社会に新たな製品・サービスを届けていくんだ、という会社になっていかなくてはいけないと考えていますし、常に人びとのそばで歩んできた私たち旭化成ならできる、との自負もあります。ただし、一企業で何かを達成するのは難しい時代でもあり、さまざまな人たちとのコラボレーションを通じて「Care for People」「Care for Earth」を目指していく、そういうことを展望しています。

サステナビリティ実現に向けた、さまざまな施策を推進

「持続可能な社会への貢献」「持続的な企業価値向上」という2つのサステナビリティを追求するため、当社グループでは、グリーン(Green)、デジタル(Digital)、人財(People)というGDPのトランスフォーメーションを重要テーマとして取り組んでいます。さらにそこに、多様性や自由闊達な風土、知財、ノウハウといった無形資産を組み合わせ、最大活用することで時代のニーズに応えた変革を続けていきます。

GHG(温室効果ガス)排出量の削減に技術と事業で貢献する

地球温暖化をはじめとする気候変動は、世界が取り組むべき差し迫った課題です。企業としては課題解決に貢献できる製品や技術を徹底的に磨いて世に出し、自身も成長するということを志向しなくてはなりません。その点では、当社のマテリアル領域は住宅領域と共に非常に高いポテンシャルを有しています。当社は、事業活動における自らのGHG排出量の削減と、社会のGHG排出量削減への貢献という2方向から地球温暖化課題に取り組んでいます。マテリアル領域は、化学産業という事業の特性上、排出するGHGは決して少なくありません。従って、2050年カーボンニュートラル実現という世の中の大きな目標に向け、生産プロセスを見直し、自社での排出を抑える技術を磨いていくことが不可欠です。その一方で、私たちは環境に貢献する技術も持っています。社会のGHG排出削減につながる製品をどれだけ供給していけるか、にまさに当社の命運がかかっているともいえます。旭化成には非常に尖った技術、良い技術が多数ありますから、それを活かし、バリューチェーンを見据えながら、いかに多くの製品を世に出せるかということが重要です。例えばエネルギーとして世界的に注目される水素で言えば、当社には製造装置での強みがあります。しかし、製造装置だけあっても水素事業は成り立ちません。どのように水素を生み出し、運び、使うかという視点が同時に必要です。エネルギーやインフラ、ロジスティクス企業などとのアライアンスのもと、世界が求めるものを迅速に送り出していかなくてはなりません。つまり、バリューチェーンをどのように形成していくかにかかっています。当社が唯一無二の光る技術を持ち、当社の強みを活かしてバリューチェーンをリードしながら、脱炭素社会の実現に貢献していくことが極めて重要だと思っています。

変化に挑み続ける「A-Spirit」を高める

サステナビリティの実現を目指す上で、重要なのは、やはり人財です。当社では前中計の時から「人は財産、すべては『人』から」と言い続けてきました。かつてとは異なり、良い素材を生み出せば売れるという時代ではありません。加えて、外部とコネクトできたり、人脈を持っていたり、あるいは活動的に動けるかどうかというようなことが、事業の成否を分けます。私たちが持続的に成長していくには、多様なステークホルダーとのコネクトを大切にし、革新的な製品・事業を創出し続けることが大切です。それを担うのが人財にほかなりません。従業員一人ひとりが能動的に行動することが求められるのです。

旭化成は、延岡という日本の中心ではない地で発祥し、いわゆる財閥系でもなかったことから「野武士」と称されることもあります。こうしたルーツは誇るところともいえ、私たちは創業期から自由闊達な気風を大切にし、それを事業推進の原動力としてきました。そのDNAを表現したのが「A-Spirit」(旭化成魂×アニマルスピリット)で、先駆者としての気概や、現状を打破していく挑戦心などを示しています。ただ最近では、組織が大きくなり、時にA-Spiritが薄れてきたように感じることも否めません。大切なのは、「自由闊達であるために努力し続けているのが旭化成である」という認識を共有することです。失敗を糧にさらなるチャレンジを重ねていくことができているか、自身を常に振り返りながら、変化を生み出す進取の精神を持った人財育成や、それを後押しするような組織作りに一層注力していきます。

多様な個の「共創力」と「終身成長」

多岐にわたる事業を展開する当社において、人財の多様性は特徴であり強みです。一人ひとりの活躍はもちろんのこと、さまざまな視点に基づく「共創力」を高めていくため、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を重視しています。

女性の活躍推進は、その重要な要素の一つです。女性管理職数などは年々増加しているものの、まだ満足できる水準とはいえず、さらなる推進が必要です。しかし、単に数字を追って形を整えるのではなく、腹落ち感、あるいは旭化成はこうあるべきだという信念を持ちながら着実に進めていくことが必要だと考えています。当社の足りない部分を外部からの人財登用で補っていくことも含め、私の重要テーマの一つとしてジェンダーダイバーシティを推進していきます。

また、人財戦略におけるもう一つのキーワードが「終身成長」です。これは、すべての従業員に自律的なキャリア形成を促すと同時に、シニア層を活性化する狙いもあります。ただし、これを「会社のためにいつまでも成長しよう」というものにすると、抵抗感を覚える従業員も少なくありません。実際、工場で従業員の感覚を聞くと、年配の従業員の多くはそのような反応でした。しかし、「人生がより豊かになるよう、楽しく働くための工夫をしてほしい」という伝え方だと、「それならできる、やりたい」という反応がほとんどでした。「終身成長」という言葉が腹落ちされ、皆が健康に生き生きと働き続ければ、若い世代はその背中に憧れを感じて、刺激を受けるでしょう。そうした連鎖を起こしていくことが終身成長の狙いです。

価値創出に向けてサプライヤーと共に歩む

環境や人権・労働、安全衛生など、事業を通じた社会課題の解決には、当社のみならずサプライチェーン全体で取り組んでいくことが重要です。2021年にはサプライヤーガイドラインを策定し、お取引先への理解を促してきました。

事業において「サプライヤーと共により良いものをつくる」という姿勢・企業文化では、旭化成はどこにも負けないと自負しています。私たちは創業期から繊維事業を営んでいますが、日本の繊維産業の特徴はサプライチェーンの長さです。製糸から機織り、染色、縫製を経て、アパレル業へとつながる長いプロセスがあります。100年にわたる歴史の中で、多くのサプライヤーと共に歩んできた経験は当社の土台となっています。

グローバルに事業展開する企業として「人権尊重」も常に意識すべきことです。グループ内はもちろん、サプライチェーン上で人権侵害が起きていないことを確認するため、リスクが高い業種・地域などを特定し、優先順位をつけた対応を進めていきます。国内においても、見えないところで人権問題が起きている可能性はあります。残業代の支払いなどを含めて適切な賃金状況になっているか、ハラスメントが起きていないかなど注視していかなければなりません。もしサプライヤーで何か問題が起きていたら、どのように解決するか、改善できるか、当社にできることは何か、一緒になって考える姿勢が大切だと思っています。

リスクマネジメントの強化

地政学的リスクが高まり、経営環境の不透明感が増す中、2022年度にはグループのリスクマネジメント体制を見直し、再整備を行いました。社長である私が責任者となり、担当役員がそれを補佐する形とし、マネジメント体制と関係者の役割を明確化しています。また、グループ全体のリスクと事業サイドのリスクに分類し、各リスクを抽出、可視化しました。

リスクマネジメントの要諦は、「実効性が担保されているか」ということだと思っています。何か起こったときに、本当に果たしてそれができるかということです。リスクが発生した現場と確実に連絡を取り、具体的な対応をスムーズにとれるよう、それぞれが果たす機能を徹底的に検証していかなければなりません。スピード感を持ってPDCAを回せる体制を整えていきます。

ステークホルダーと気持ちを一つにし、次の100年へ

旭化成グループは、さまざまなステークホルダーとの関わりの中で成り立ち、その理解と協力を得ながら、一世紀にわたり多くの挑戦を続けてきました。これまでもこれからも変わらず大事なことは、当社がステークホルダーの皆様と同じ方向を見られるかどうかだと考えています。相手の立場に立って考えてみる、ということでもあります。例えば、株主・投資家の皆様とは時に意見が異なることもあります。しかし、そのよう場合には「自分が投資する立場なら旭化成に何を期待するか」という視点に立ち、今一度再考しなくてはならないのです。さまざまなステークホルダーの皆様との関わりの中で成り立つということはそのようなことの積み重ねだと考えています。

当社グループは、次の100年も“いのち”と“くらし”を想い続け、人びとのそばに寄り添う事業を創出し、発展させていきます。社会から寄せられる期待と、果たすべき使命への認識を深め、A-Spiritを発揮し、さらなる変革に挑んでいきます。

代表取締役社長
工藤 幸四郎