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電流注入による世界最短波長深紫外レーザー発振に成功 ヘルスケア、計測・解析センシングへの応用を拡大

~ 名古屋大学 天野 浩 教授と旭化成の共同開発の成果 ~

2019年11月5日
旭化成株式会社
名古屋大学

名古屋大学未来材料・システム研究所の天野 浩 教授らの研究グループは、旭化成株式会社と窒化アルミニウム(AlN)基板を用いた深紫外(UV-C)注1)半導体レーザーの共同研究を進めてきました。このたび室温パルス電流注入注2)による271.8nmという世界で最も短波長のレーザー発振に成功しました。

本研究のUV-C半導体レーザーは、旭化成のグループ会社であるCrystal IS社が製造するAlN基板を用いています。Crystal IS社のAlN基板は、2インチでかつ103個/cm2レベルの低い欠陥密度が特長で、今回のUV-Cレーザー発振に大きく寄与しています。

これまでの半導体レーザーは、発振波長336nmにとどまっており、今回の結果は、世界に先駆けてUV-C帯への短波長化の道を切り開きました。UV-C波長帯の半導体レーザーが実現できれば、ガス分析などセンシングへの応用、局所殺菌、DNAや微粒子などの計測・解析といった、ヘルスケア・医療分野への応用が期待されます。

今後も名古屋大学と旭化成は共同研究をさらに発展させることにより、UV-C半導体レーザーの室温連続発振注3)と実用化を目指して開発を進めていきます。

なお、本研究成果は、2019年10月30日付のApplied Physics Expressオンライン版に掲載されました。

ポイント

  • 室温パルス電流注入により世界最短波長271.8nmのレーザー発振に成功
  • 今回の成功のキーポイント:
    • レーザーの光を閉じ込める層注4)に特別なp型層注5)を用いて抵抗を下げたこと
    • 欠陥の少ないAlN基板を用い光散乱による損失を抑えたこと
    • 旭化成での最先端の薄膜結晶成長技術と名古屋大学での卓越したプロセス技術・評価技術を融合させたこと
  • 今後、室温連続発振に向けて研究を加速し、実用化を目指す

研究背景と内容

UV-C波長帯の半導体レーザーが実現できれば、ガス分析などセンシングへの応用、局所殺菌、DNAや微粒子などの計測・解析といった、ヘルスケア・医療分野への応用が期待されます。一方、紫外線領域の電流注入レーザー発振は、材料の抵抗が非常に高いことなどから困難であり、これまで発振波長336nmにとどまっていました。

今回の研究では、①レーザーの光を閉じ込める層に特別なp型層を用いて抵抗を下げ、②欠陥の少ないAlN基板を用い光散乱による損失を抑えたこと、および③旭化成での最先端の薄膜結晶成長技術と名古屋大学C-TEFs(エネルギー変換エレクトロニクス研究館)での卓越したプロセス技術・評価技術の融合により室温パルス電流注入による271.8nmのレーザー発振に成功しました。

UV-C半導体レーザー素子の断面構造とレーザー特性

  • UV-C半導体レーザー素子の断面構造とレーザー特性

成果の意義

今回の結果は、世界に先駆けてUV-C帯への短波長化の道を切り開きました。この研究成果は、高出力化が切望されていた深紫外線固体光源注6)の切り札となり得るものです。今後、名古屋大学と旭化成は共同研究をさらに発展させ、室温連続発振を達成し、UV-C半導体レーザーの実用化を目指して開発を進めていきます。

用語説明

注1)深紫外(UV-C)
波長280nm未満の紫外光。
注2)室温パルス電流注入
室温で素子にパルス状の電流を通電し動作させる手法。
注3)室温連続発振
室温で直流電流を通電し、レーザー発振させる手法。
注4)光を閉じ込める層
半導体レーザーにおいて、発光層に光を集中させるために発光層を挟む形で設ける層。深紫外レーザーの場合、抵抗の高い材料を用いる必要があり、素子抵抗増大の原因となる。
注5)p型層
電流を運ぶキャリア(担体)が正孔(ホール)である半導体層。
注6)固体光源
ランプなどの光源と異なり、半導体のp/n接合による発光現象を用いた光源。

論文情報

雑誌名
Applied Physics Express
論文タイトル
A 271.8 nm deep-ultraviolet laser diode for room temperature operation
著者
Ziyi Zhang1,3, Maki Kushimoto2, Tadayoshi Sakai2, Naoharu Sugiyama3, Leo J. Schowalter3,4, Chiaki Sasaoka3, and Hiroshi Amano3
  • 1)Innovative Devices R&D Center, Corporate Research & Development, Asahi Kasei Corporation, Fuji, Shizuoka 416-8501, Japan
  • 2)Graduate School of Engineering, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Aichi 464- 8603, Japan
  • 3)Center for Integrated Research of Future Electronics, Institute of Materials Research and System for Sustainability, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Aichi 464-8601, Japan
  • 4)Crystal IS, 70 Cohoes Avenue, Green Island, NY 12183, U.S.A.
DOI
10.7567/1882-0786/ab50e0

参考

Crystal IS社 概要

設立
1997年(Rensselaer Polytechnic Instituteからのスピンオフ)
所在地
米国ニューヨーク州
CEO
Larry Felton
事業内容
AlN基板を用いた深紫外LEDの開発、製造・販売

以上