天地左右、どんなふうに置いても直立している形

もし、上から見た飯碗や汁椀が円形でなかったら、テーブルの上でどんな方向にお椀を並べるか、気を配らなければならなかったでしょう。四角を並べるなら角度や辺を揃えたくなりますが、円形は適当に置いても気になりません。その立体である球体も、天地左右、置き方を選びません。イタリアのデザイナー、思想家、前衛彫刻家でもあったブルーノ・ムナーリは、1964年に著した「かたちの不思議 2 円形」（阿部雅世訳、平凡社刊）の中で「球はどこから見ても円に見えるので、ひっくり返すことができないとよく言われますが、別な見方をするならば、それはどんなふうに置いてもまっすぐに立っている形でもあるのです」と書いています。
球は、競技用ボールや遊具ではおなじみの形。底は点で接しているので、転がらないように固定すれば、テーブルの片隅の小さなスペースに置くこともできます。それに、どの方向から見ても後方に視線が抜けやすいため、視覚的な圧迫感が少なく邪魔になりません。では、その形の特長を日用品に活かすとしたら。今回紹介するのは、球形の照明器具です。

太陽、涙、安心の形

空には太陽と月が丸く輝き、電球はテーブルの上に同心円の光の影を描きます。夜霧に灯る街灯は光の球を暗闇に浮かび上がらせます。光にはもともと丸いイメージがありました。それを素直に形にした球形の照明器具は、光そのものがそこに佇んでいるような、自然な灯りをつくりあげます。器具の美しい形が主役の照明具もありますが、球形の照明は器具の形が目立つのではなく、光そのものが主役と言えるでしょう。イギリス人デザイナーのジャスパー・モリソンがデザインした照明器具「グローボール」は、横から見ると正円よりも少しだけつぶれていることが分かります。それは無意識のうちに、地平線や水平線に沈む太陽が歪んで見える、夕日のイメージを連想させ、力強い真昼の太陽とは違う、夕暮れの落ち着いた雰囲気を醸し出します。世界的に有名な日本人デザイナー吉岡徳仁の「ティアドロップ」は、光を灯すと、水滴に宿る朝日のような光の純粋さを感じるはずです。感動の涙を美しい光だけで表現した照明器具と言えます。人は形も重さもない「光」だけで心を動かされるのです。
また、鋭利な部分がない球形の照明器具はぶつかっても角が当たる心配がありません。無印良品の「シリコーン床置ライト」はさらに、丸いシェードに柔らかいシリコーン素材を使っているので小さな子供がいる家でも安心です。光がほしい場所に光そのものをそっと置くように、球形の照明器具を暮らしの中で使いこなしてください。