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暮らしのコツ

バルセロナの「朝のひかり」
朝のディアゴナル通りの風景。7時半
これから本格的に朝が始まる少し前、
やっと明るくなり始めてきましたが、
まだ夜の街灯の明かりが残っています。

9月の朝6時はまだ真っ暗なのです

 夏、夜が9時頃まで明るい、日没が遅いバルセロナの緯度は、日本で言うとほぼ青森県くらいの位置に当たります。地中海性気候なので温かいのは別としても、そんなに夜の始まりが遅いのはどうしてか、とこちらへ来たばかりの頃は不思議に思っていましたが、その答えは単純で、朝の始まりも遅いのです。つまり太陽の動きに対する時間の設定がそもそも遅いのですね。
 9月上旬の現在、バルセロナの日の出は朝7時半。つまり例えば6時頃に早起きしてみても外はまだ完全に真っ暗なのです。そんなわけで、夏は太陽と共に暮らしているとすっかり遅寝遅起きになってしまいそうですが、わが家では9月に入ってから、12日に始まる新学期に向けて、起床目標時間を8時頃に設定することにしました。
 学校が始まったらもう少し早く7時半頃には起きてもらうことになりますが、やはり自然の光で目覚めるのが一番気持ちがいいものです。大きな声で起こしたり、目覚まし時計を使うことはほとんどなくて、子供たちのお気に入りの目覚め方は、両親に「朝だよ、おはよう」と起こされた後、居間の窓辺にあるソファに移動して、もうほんのちょっとだけゴロゴロしてから身支度を始めること。涼しい朝の空気と自然光に5分間ほど包まれて、体に「朝ですよ」と納得させてから本格的に起きる。たったこれだけですがものすごく気持ちよく起きられます。
 このことを自分たちで発見して毎日実行している彼らを見ていると、なるほど、子供たちの光への感覚はなかなか侮れないなあと思います。睡眠不足で起きるのが少し辛い朝は、私達大人もこの起き方を真似しています。
 いわゆるコンビニのないバルセロナでは、ほとんどのお店は朝9時、あるいは10時頃まで開きません。けれども皆の朝食に欠かせないクロワッサンや焼きたてのバゲットを買えるよう、パン屋さんとカフェは朝6時半くらいから(つまりまだ暗いうちから!)開店しています。朝目が覚めて顔を洗ってから、一度通りに出て焼きたてのパンをすぐ近所まで買いに行き、戻って家でみんなで食べてから、さあ朝の活動の開始、というわけです。

一日5食のリズムで暮らしています

一日5食のリズムで暮らしています

 朝食のメニューは、大人はクロワッサンと泡だったミルクのたっぷり入ったコーヒー(カフェ・コン・レーチェといいます)、搾りたてのオレンジ・ジュースなどが最も一般的。子供たちはシリアルやトースト、カップケーキに牛乳、大人と同じフルーツ・ジュースといった具合です。
 肉体労働に従事する人たちや、うんと朝早起きな人たちが午前中遅めに食べる朝食としては、トマトの果汁と果肉を摺りこんでオリーブオイルをかけたバゲットに生ハムやサラミなどを挟んだボカッタ(サンドイッチ)など、もう少しスタミナのつく軽いランチのようなメニューもあります。朝は多くのカフェでこれらをセットメニューで選ぶことができます。
こちらの昼食の時間は一般的に遅めで、ランチタイムはシエスタを含んで午後2時から4時までとされています。子供の学校給食はもう少し早めで、6歳までは12時半から、6歳以降は1時から。夏休みの間わが家では、間をとって1時から1時半の間に昼食を取るようにしていました。
 このほか、朝11時頃に二度目の朝食(あるいは午前中のおやつ)と称して果物を食べます。この習慣は保育園や学校でも行われていて、「昼食に向けてお腹の扉を開ける」という意味があるそうです。ここでカロリーの高いものを取ると昼食をおいしく食べられなくなってしまいますから、果物を少しだけ、というのが子供たちには基本です。こうして午後のおやつを含めて一日5食、という生活のリズムが作られています。
 昼食が遅いのは、おそらく特に夏の昼、一番暑い時間を避けて休むこと、そして午前中を長く取ることで仕事の効率を上げるという意味もあるかもしれません(午前中4時間から5時間働き、午後3時間から4時間働くので午前中が長いのです)。
 早寝早起きの習慣はとても大事ですが、そのとき時計ばかりを見るのではなく、それぞれの土地で太陽の光と共に暮らす知恵も大事にしたいものです。

シエスタとは何でしょうか?

シエスタはランチの後にとる昼寝のことです。通常スペインの昼休みは2時間と長いので、仕事をしている人は、家に帰って昼食の後、15分から30分くらいの短いシエスタをとって午後また出勤することができます。けれど本当に「眠る」人は意外と少なく、2時間の長い昼休みを活用してジムで軽く汗を流した後、ささっと昼食をとってから仕事に戻るという人もいます。学校に通う子供のいる人は、昼休みを短縮してその分早く帰宅したいということもありますし、現在はそれぞれの人々がそれぞれの仕事や都合、好みに合わせて昼休みをとる傾向にあります。個人的に私はほとんど昼寝をしませんが、寝不足の日には短いシエスタをとると午後本当にスッキリした気分で働けます。

スペイン王国
人口
約4702万人(2010年1月)
面積
約50.6万㎢(日本の約1.3倍)
首都
マドリード
宗教
キリスト教(約75%がカトリック教徒)
時間帯(バルセロナ)
UTC +1(夏時間は+2)

バルセロナ(人口約170万人)は、地中海貿易の拠点として栄えた、スペイン第二の都市。カタルーニャ州の州都です。19世紀後半から目覚しい経済発展を遂げ、今日ではスペイン一の商工業地域となっています。カタルーニャでは、「スペイン人である前にカタルーニャ人である」と言われるほど地方色が強く、地元同士の会話はカタルーニャ語も用いられ、表示や看板の多くはカタルーニャ語とスペイン語(カステヤーノ)で併記されています。1992年のオリンピック開催や強豪サッカークラブで日本でもお馴染みの街。古くから芸術活動が盛んで、ガウディに代表されるモデルニスム芸術誕生の地としても知られています。

プロフィール

坂本知子●スペイン在住14年目。早稲田大学工学部で建築を学び同大学院の修士課程を修了。文化庁派遣芸術家在外研修員として渡西し、2年間、建築家エンリック・ミラージェスの建築設計事務所EMBTに勤務。その後、出版社Actar Publishersで建築とデザインの書籍の編集、展覧会の企画製作などを手がける。2012年にグラフィックデザイナーの夫(David Lorente)と、ブックデザインとその周辺の業務を行う会社SPREADを設立。さらに活動の領域を広げている。「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに二人の男の子(6歳と3歳)を育児中。
http://www.chocolatmag.com/column/do-it-in-barcelona/      http://www.spread.eu.com/ja

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