column

暮らしのコツ

バルセロナ特別編
寝ている長男を連れてバスで買い物へ。
冬は乗り物や建物の中で
厚着させすぎないように気をつけます

赤ちゃんと光について

 私は14年前よりバルセロナに在住し、カタルーニャ*1の夫との間にできた現在7歳と3歳になる二人の男の子を育てています。
 今からちょうど7年前、バルセロナの公立病院で長男を産みました。こちらでは入院を含めて、出産に関わるすべての費用が健康保険で賄われているのですが、とてもありがたかったのは、妊婦と子供のいわゆる医療的な健診だけでなく、精神面を含め妊婦の広い意味での健康のサポート、育児のノウハウ的な情報を得る機会が病院内に用意されていたことでした。
 特に初めての出産を控える両親たちに対して、出産の準備とプロセスについて受講できるセミナーがあったり、そして産後すぐの数カ月、初めての育児で出会う様々な悩みや相談を出産・育児の経験者や産婦人科、小児科の医師、そして時には近隣の保育園の先生などの専門家の方たちに個人的にいろいろと質問することができる機会が用意されていることは、小さな赤ちゃんが夜もなかなか泣き止んでくれず、自分も睡眠不足に陥って不安になりがちな新米ママには何よりの助けでした。そしてそこで知り合った親子達とはその後近隣の保育園や学校でまた再会することになるのですが、その時の経験で今でもコミュニティがつながっています。
 その、新米の父親母親に向けて行われた育児教室に通った時に教わったたくさんのことの中で、私がとても面白く、そして実際にものすごく役に立ったと思ったことの一つは、「赤ちゃんと光について」というセッションでした。

赤ちゃんと光について

 「生後間もない赤ちゃんに教えてあげられることは本当にたくさんあります。そのうちもっとも大事なことの一つは、夜と昼の区別を教えてあげることです。お腹の中は真っ暗闇ではありませんが、あまり光は入って来ないので、赤ちゃんは夜昼の区別なく眠り、起きて動いています。そして生まれて外界に出てくると、そこで初めて圧倒的な量の光を浴びるのです。赤ちゃんは普通夜泣きをするもので、どのお父さんもお母さんも生まれたての赤ちゃんと一緒に暮らしていると寝不足になりますが、それは赤ちゃんがお腹の中にいた時に寝たり起きたりしていたリズムがまだ残っている時差ボケのようなものです。これから少しずつでも夜に沢山寝て、昼に多く起きているというリズムを作ってあげるために、昼間に赤ちゃんが寝た時は部屋を暗くしない、また夜赤ちゃんが起きた時に部屋を明るくしすぎないということはとても大事なことなのです。それを意識して赤ちゃんに夜と昼の区別を教えてあげると、生後1カ月くらいで夜の寝付きがぜんぜん違ってきます」。深くうなずきながら聞きいる寝不足で疲れがちな新米ママたち。そしてその時に出た質問に対する答えはこういうものでした。
 「うちはあまり日当たりが良くないのですけれど、昼の間部屋に電気をつけたほうがいいですか」。「はい。もちろん自然光の方が理想的ではありますが、大事なのは昼は明るい、夜は暗いということを体験で赤ちゃんに伝えることなので、電気の光でもいいのです。あるいは、家にあまり自然光が入ってこないなら、いっそ赤ちゃんの寝るタイミングを見計らってベビーカーに載せたまま外に買い物などに出てしまうのがいいでしょう。

窓際のベビーベッドで昼寝をする、生後間もない頃の長男

 屋外で人や車や鳥の声を聞いて、昼は音もうるさい、ということも伝わります。問題なのは、赤ちゃんがお昼寝するとカーテンを閉めて静かに寝かせてあげようとする親がとても多いことです。それは知らない間に健やかな睡眠サイクルを阻害する大きな原因の一つになってしまうので、やめたほうがいいでしょう」。「夜赤ちゃんが起きたときに、部屋の電気をつけないというわけには行かないと思うのですが」。「特に天井に付けられた照明で部屋全体を明るくするのはやめましょう。読書用のランプを足元に置いてスカーフをかけたりして、おっぱいや哺乳瓶をあげたりオムツを替えるのにぎりぎり最低限必要な明かりだけ付けて、ミルクを飲んでいる間は電気を消してしまってもいいのです。夜中には、子守唄を歌ったりすることもあまり必要ありません。添い寝しながら授乳する方法もあります。最初は慣れないと難しいかもしれませんが、練習する価値はありますよ」。
 私たちは、長男が生後10日くらいの時(寝不足に慣れなくて大変だったとき)にこの話を聞いて、家の照明をいくつか付け替えたり暗い照明を買い足したり、家の中でベビーベッドの位置を移動させたりしたばかりでなく、何よりも、赤ちゃんを連れて意識的に沢山出かけるようになりました。特に寒い冬などは、小さな赤ちゃんを連れて出かけるのはなかなか大変なことではありますが(わが家は長男が10月、次男が1月生まれで、どちらも寒い中での育児でした)、ベビーカーで出かけるのが大変なら抱っこ紐に入れたり、赤ちゃんを毛布にくるんで両手で抱えたまま、ほんの10分、15分くらいの散歩でもいいので毎日外の光と空気に触れさせてあげるというのは、親にとっても赤ちゃんにとっても、簡単にできる、小さいけれども大事な贅沢だったと今でも思っています。

スペイン王国
人口
約4702万人(2010年1月)
面積
約50.6万㎢(日本の約1.3倍)
首都
マドリード
宗教
キリスト教(約75%がカトリック教徒)
時間帯(バルセロナ)
UTC +1(夏時間は+2)

バルセロナ(人口約170万人)は、地中海貿易の拠点として栄えた、スペイン第二の都市。カタルーニャ州の州都です。19世紀後半から目覚しい経済発展を遂げ、今日ではスペイン一の商工業地域となっています。カタルーニャでは、「スペイン人である前にカタルーニャ人である」と言われるほど地方色が強く、地元同士の会話はカタルーニャ語も用いられ、表示や看板の多くはカタルーニャ語とスペイン語(カステヤーノ)で併記されています。1992年のオリンピック開催や強豪サッカークラブで日本でもお馴染みの街。古くから芸術活動が盛んで、ガウディに代表されるモデルニスム芸術誕生の地としても知られています。

 「昼は明るい、夜は暗い」という当たり前のことを教えてあげることは、生後間もない赤ちゃんたちにとってだけでなく、大人になった私達にとっても実は健康な暮らしのために大切なことなのかもしれません。もちろんそのことで、生後1ヵ月くらいで夜泣きが100%なくなった、などということはありませんが、周りの話を聞いていた感じでは、うちの子供達はかなり夜寝てくれる時間が長かったように思いますし、何よりも言葉の話せない赤ちゃんにどうやって当たり前のこと、大切なことを教えてあげられるのか、ということをこの光のセッションを通じて考える機会を得ることができたことはその後の育児にとっても非常に役立ちました。  今でも友人に赤ちゃんが生まれたとき、いつもこのアドバイスをしています。是非みなさんの周りにも生まれたての小さな赤ちゃんが居たら、実行してみてください。

*1:カタルーニャはバルセロナを州都とするスペインの一地方で、独自の言語と高い民族意識を持っています。
この地に住む人々は通常自分たちのことをスペイン人とは呼ばずカタルーニャ人と自称します。

Latest Column