
年の4分の3が雨と曇天
ポートランドは北海道札幌市と同緯度(43度)にあり、開拓民によって開かれてきたという背景などから姉妹都市が結ばれていますが、気候はだいぶ異なります。秋から初夏まで、1年の約4分の3は雨と曇り空に覆われてしまいますが、冬でも平均気温5~10℃、札幌のように雪が積もることも、零下まで冷え込むこともまれにしかなく比較的温暖です。
高緯度のため、冬至の頃は8時前にようやく空が明るんでくるほど、朝はゆっくりのんびり。反対に夏至を過ぎた頃から9月初旬頃までは、まるで別の国(「天国!」と形容する人も)かのように天気は様変わりします。からりとした快晴が続き、朝5時半から夜は9時近くまで日の光が街を包みます。3カ月ほどの短期集中タイプの夏。この間、人々は市内近隣にある湖や川へと脚を運び、限られた時間を満喫します。なかには、仕事前にひと泳ぎ、なんて短い夏の朝だけの特別な習慣を持つ人も、そう珍しくはありません。

貴重な朝日を楽しむ工夫
季節を問わず朝から元気なのが、自転車通勤・通学をするサイクリストたち。市内を網羅する自転車専用道路のそこここでは、自転車渋滞なるものが起こるほどで、毎日、約2万人がペダルをこいでは街をかけめぐっているのです。なぜ、こんなふうに自転車の街になったかといえば、1970年代から街を挙げて“脱・車社会”に取り組んだ結果であり、世界トップレベルのグリーンシティ*1である由縁です。街の中心部に住宅街があり、緑あふれる自然や公園、オフィスやカフェが共存する。そんなふうに、都市と自然がバランスよく保たれた各ネイバーフッド(ご近所)では、ジョギングやヨガ、犬の散歩を出勤前の早朝から楽しむ人たちの姿もよく見かけられます。またコーヒーの街*2としても知られていますが、カフェはそんな早起きの人々が一息つけるようにと6、7時から店を開けているのです。
周囲を山や川で囲まれ、自然を間近で感じられる環境では「雨のおかげでこの深い森がある」と雨を肯定的にも捉え、さらには“サステイナブル(持続可能)”に生きる、という普遍的な価値観をも与えてくれました。車より自転車。グローバルではなくローカル。新しいものより古いもの。そんな意識を持った市民が暮らす住宅街には、手をかけながら住み継がれてきた100歳級の家が当たり前に存在します。通称「ポートランドスタイル」と呼ばれるそれら多くの家の玄関先には雨でも外で過ごせる広い屋根つきのポーチがあり、人々はそこで朝からコーヒーを飲んだり、一服したり。その光景は、少しでも日の光を浴びる工夫から生まれたライフスタイルのようです。
*2 市内に個人焙煎所が50、コーヒーショップが300店ほどある。雨が多い気候のせいで、気が滅入りがちなこともコーヒーの消費量が高い一因といわれている。



人口
3億139万人
(世界3位、2010年、米国国勢局)
面積
約962.8万㎢(日本の約25倍)
首都
ワシントンD.C.
時間帯〈オレゴン州〉
UTC-8(DST=サマータイム:-7)
言語
主に英語(法律上の定めはない)
宗教
主にキリスト教
(信教の自由を憲法で保障)
ポートランドはオレゴン州における最大の都市で、面積は375㎢(横浜市の約8割)、人口は約60万人。1845年に土地の所有者のひとりだったメイン州ポートランドから来たフランシス・ペティグローブがコイン投げによって勝ったことで「ポートランド」と命名された。その肥沃な自然環境から、古くは農業や木材産業が経済の中心だったが、近年ではIT産業(インテル)やスポーツブランド(ナイキ、アディダス)の本社があることでも有名に。市内にある緑の多さも自慢。全米最古の国際バラ試験農園など、市内各地にバラ園が多いことから「バラの街」という公称に。またダウンタウンから徒歩圏内にある、全長13kmを誇る全米最大級の国立公園はハイキングを楽しむ人々に四季を通して人気が高い。

せたか・さきこ ● 新潟県生まれ。学習院大学文学部ドイツ文学科卒業。ライター、編集者。ライフスタイルを中心にした雑誌、書籍を中心に活動してきたのち、2011年よりオレゴン州ポートランドへ。渡米前から気になっていたこの街の「アメリカらしくないふつう」を暮らしながら探っている。NYに住む友人が主宰する「世界中でオルタナティブな生き方を模索、実践している人たち」の暮らしを綴るウェブOmnipresent Journalに、ポートランド特派員として参加している。 http://omnipresentjournal.com/
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