50’S RESEARCH PROJECT
疑問 QUESTION
50歳からの暮らしで、大切にしていきたいことはなんですか?
「50研 &Premium分室」では、『&Premium』読者のコミュニティ「&Premium iD」の会員に対して、50代からの生き方や住まいに関する調査を実施し、370人から回答をいただきました。その結果を元に今回は「50歳からの暮らしで、大切にしていきたいことはなんですか?」についての調査結果を取り上げ、考察します。『&Premium』読者の多くが大切にしたいと思っていることは?
&Premium分室研究
調査結果 RESULT
『&Premium』読者の多くは、住まいを整えて、
好きなものと一緒に暮らしたいと考えている
(グラフ)50歳からの暮らしで、大切にしていきたいことはなんですか?
- 住まいを整える
- 好きなものに囲まれて暮らす
- 規則正しいリズムを心がける
- ひとりの時間を持つ
- 家族や友人と過ごす
- 体を動かす
- その他
最も多かった回答は「住まいを整える」、次いで多かったのが「好きなものに囲まれて暮らす」。この2つを合わせると45%となり、半数近い読者が50歳からの住まいに関心を寄せている。50歳からのベターライフのヒントは、住まいを見つめ直すことにあるのかもしれません。
考察 ANALYSIS

石川敦幹さんの
心地よい住まいを
形づくるもの。
-
NOBUMOTO ISHIKAWA
AGE 52
昭和の時代に集合住宅の傑作をいくつも手がけたことで知られる建築家、内井昭蔵が監修したといわれているテラスハウスに暮らす、石川敦幹さん。庭に面した明るいリビングに、フィン・ユールのチェアやピーター・ビット & オルラ・ムルガード・ニールセンのローテーブルなど、現在52歳の石川さんが20年以上かけて集めてきたヴィンテージコレクションが並ぶ。
読者の多くが「住まいの整え方」に関心を持っているという調査結果を受けて、「&Premium分室」では、心地よい住まいと暮らしの実践者のもとへ訪ねてみることにしました。バッグブランド〈ANUNFOLD〉を主宰する石川敦幹さんの住むテラスハウスへ。石川さんの“好き”を凝縮した心地よい空間には、自分らしく住まいを整えて暮らすヒントが隠されています。
50’S PEOPLE

石川敦幹さん NOBUMOTO ISHIKAWA
52歳
2022年に友人とバッグブランド〈ANUNFOLD〉を立ち上げ、デザインや生産など幅広く担当。アイコンバッグは竹炭や籾殻をベースに染色したナイロンのショルダートート。 anunfold.com
バッグブランド〈ANUNFOLD〉を主宰する石川敦幹さんが妻と暮らす家は神奈川県内にある。丘陵地の斜面を生かして立つ、石川さんいわく「段々の家」。窓の前、庭の向こう側には、斜めの景色が広がる。
「敷地内に数十軒連なる、築50年ほど経過したテラスハウスなんです。車で前を通りかかったときに素敵な建物だなぁと見惚れてしまって。気になったので調べ、不動産屋に問い合わせてみたら、たまたま今の家が売りに出されていたんです。内覧に訪れ、ドアを開け、白壁の部屋が目に入った瞬間、ピンときました。そろそろ40歳を迎える頃のことです」
当時としてはモダンだったのだろうと想像できる家だが、「奇をてらったところはなく、白い壁に囲まれた、案外シンプルなつくり。それで気ままに暮らしやすく、心地いい」という。石川さんは、幼少期から、映画で見かける、アメリカ、ゼネラル・エレクトリック社の古い冷蔵庫やトースターに心を躍らせていたような、元来ヴィンテージ好き。それが高じて、しまいきれないほどの数になった、古い家具や器、アートなどのコレクションを持ち込み、さらに数を増やしても、懐深く、受け入れてくれる感がこの家にはあった。
「出しっぱなしにしても自然。好きなものだけが並ぶ、我が城です」

根を張る場所を決めた生活が始まると、「心境が変化した」と話す。
「モノ選びのとき、使いやすいか、自分たちの暮らし方に合うかといったことがいっそう気になるように。そうしたら、日本のものづくりについてもっと知りたくなりました。日本の風土にはやはり日本のものがしっくりくるんだろうな、と。それに、日本のよさを隅々まで知らないままでいるのも、もったいない気がして」
50歳を迎えると、勤めていた会社から独立。自宅を拠点に起業した。
「年齢を重ね、家時間が増えたことで、最近は心身の健やかさとモノとの関係性について、じっくり考えるようになりました。『この椅子は長時間座っても疲れないな』『小さめな鍋が持ち上げやすい』なんて、以前は思いもしなかったこと。それで、先日カップボードをオーダーしたんです。まずは、“しまう”を試してみようと。手放すべきものが見えてくるかもしれないし、必要なものを新たに手に入れることになるかもしれませんね」
石川さんの暮らしを彩る
9つのアイテム。

北欧フィンランドを代表するデザイナーが1958年に発表。「北欧デザインに魅せられた30歳の頃、まず手に入れたのがこの椅子。1960年代前半のものらしいのですが、北欧家具の店『talo』で見つけた際、すでに座面と背面の生地は別々に張り替えられ、さらに使い込まれていました。物語があるようでそこにも惹かれて」

いずれもそれぞれの工房に足を運んで、作家に話を伺いながら選んだ。「ぽってりとした塗りと、素朴さ、それでいて現代的な感じが、我が家の食卓に合います」。スープ皿は麻婆豆腐やトマト煮などの肉料理に。椀はパクチーやセロリを入れたエスニック豚汁にと和洋の垣根を越えて活躍させる。

シェーカースタイルの椅子、J39は、1947年、モーエンセンがデンマークの生協で家具デザインに従事していた頃に発表したため、当時はリーズナブルで、つくりは丈夫。「現行品で、ぺブルグレーは新色。その時々で新しさを吹き込みながら受け継がれていくデザインを、今度は僕が使い込んで、変化させていくのも楽しい」

植物も多く育てる石川さん。ユーフォルビア・エンテロフォラを植えたIN1は「すり鉢をふたつ合わせたようなデザインと、うねりながら育つ茎とがバランスよく、視覚的に3D感が出るのが面白いんです」

鍋はダイニングスペースの端に飾りながら、出し入れ要らずで使う。「20年以上前、1人暮らしを始めるにあたり、鍋=ル・クルーゼという思い込みで、エンツォ・マーリがデザインした18㎝サイズを買ったのが始まり。完全にビジュアルから入りましたが、いつしか料理に目覚め、いまでは相棒に」。20㎝サイズのストウブは炊飯にも便利。

「彼女の作品の独創性が素敵でインスタグラムをフォローしたら、僕のアカウントをリフォローしてくれたんです。DMで『今度LAに行くよ』と言ったら、自宅に招待してくれて。そんな流れで後日オーダーさせてもらいました。ジャネルの夫が作ったメタルをあしらった夫婦の共作です」

ダイニングとリビングをつなぐ階段の踊り場は、格好のディスプレイスペース。「カリフォルニアの陶芸家、アダム・シルヴァーマンの作品のうち、初めて手に入れたのがこの燭台(左)です。ブルーの器は最近手に入れたもの」

寝室にはアルヴァ・アアルトのシェルフに、ポッピン・フレッシュや『ピーナッツ』のライナス、ビッグボーイといったソフトビニール製のヴィンテージ人形が並ぶ。「“Made in USA”に憧れていた20代前半から揃えた面々。あの頃、足繁く古着屋に通い、そこに飾られていたフィギュアにも目を奪われ、集め始めたんです。後ろはドクター・スース―のシリーズ絵本」

「ボックスインボックスタイプで中の箱を手前に引き出すことができます。シンプルかつ機能的。洗練されていて、エンツォ・マーリらしいですよね」
photo_Shota Matsushima
text_Marika Nakashima
&Premium分室考 SUMMARY
50歳を見つめる先の、住まいの考え方
自分の"好き"に
深く向き合うことが、
心地よい暮らしをつくる。
『&Premium』読者の多くが関心を示した「住まいのこと」「暮らしの整え方」。石川さんの住まいが心地よく感じるのは、自分の“好き”に素直に向き合い、確かな意思で選び抜いた空間とものに囲まれて暮らしているからではないでしょうか。どんな家、どんなものと暮らすかはもちろん大切ですが、そこには個人の趣味趣向も反映されるもの。それよりも重要なのは、50歳を迎えるまでに積み重ねた知識や、磨かれた感覚に忠実に、自分らしい住まいについて考え抜くことが、心地よい暮らしに繋がっているようです。

&Premium
「THE GUIDE TO A BETTER LIFE=より良きより良き日々のための案内書」をコンセプトに、毎号、ファッション、インテリア、日用品、ビューティー、食、旅、カルチャーなど、日々を心地よく過ごすために役立つ「もの」や「こと」をお届けしている、"読むと機嫌が良くなる雑誌"です。

余白の在る家 RATIUSRD
50代が理想の暮らしを叶えるための、「間」を設ける
余白の在る家の特徴は、「シェルウォール」という一枚の壁から生まれる、外でも内でもない「間」。
プライバシーを守りながらリビングに広がりをもたらしたり、光や緑を取り込み、四季の移ろいを感じさせたり。50歳を見つめる先にたどり着いた、ゆとりある暮らしを叶える住まいです。