50’S RESEARCH PROJECT

疑問 QUESTION


最近の50代の実態とは。心にゆとりはあるの?

50研では、全国の20〜70代、1000名に対して50代の生き方や住まい方に関する調査を実施。今回はその中の「50代の心のゆとり」についての調査結果を取り上げ、考察します。
50代は大人の余裕を漂わせる年代にも思えますが、実態として「心のゆとり」をどう感じているのでしょうか。

研究

SCROLL

調査結果 RESULT

50代は想像よりも忙しい?
心には余裕がない傾向

(グラフ)仕事・家事における50代の心・精神状態

  • とても余裕がある
  • やや余裕がある
  • どちらとも言えない
  • あまり余裕がない
  • 全く余裕がない

50代の「仕事や家事における心の余裕」についてアンケートをとったところ、20代の57%の人が「50代は余裕がある印象を受ける」と答えたのに対し、50代の当事者が「余裕がある」と回答した割合は38%と、20代からの印象より19%も低い結果になりました。
また、「余暇を活動的に過ごしている」についても20代のイメージから11%低い、39%という結果に。人生100年時代と言われる現代、まだまだ現役で仕事や家庭に忙しくする50代は、若者層が想像する50代よりも、余裕がない日常を送っているのかもしれません。

※出典:「50代の実態に関する調査」(2024年5月/旭化成ホームズ)

考察 ANALYSIS

忙しいあの人の
1日に密着し、
「50代のゆとり流儀」を
考える

  • SHINICHIRO NAKAHARA

    AGE 53

50代自身が思うよりも、若い世代からは「余裕があるように見えている」という調査結果を受け、50研では一つの仮説を立てました。「50代は忙しくてもゆとりがあるように振る舞うことが、一種の流儀とされているのではないか」。

“仕事上、責任がある立場で忙しい”にも関わらず“ゆとりを感じる”50代として考えたのが、中原慎一郎さん。
“モダンファニチャー”、“民藝”などのインテリアブームをおこした立役者のひとりです。2022年、51歳のときに、そのセンスと手腕を買われてザ コンランショップ ジャパンの代表取締役社長に就任し、「今が一番働いているかも」と話す中原さんの1日に密着し、ゆとりの生み出し方に迫ります。

50’S PEOPLE

中原慎一郎さん SHINICHIRO NAKAHARA

53歳

1971年、鹿児島県生まれ。1997年、ランドスケーププロダクツを設立。オリジナル家具の販売や住宅のデザインを手がけるほか、インテリアショップ「Playmountain」、カフェ「Tas Yard」などを千駄ヶ谷に展開。2019年より個人での活動として、サンフランシスコでギャラリーをオープン。2022年4月から、コンランショップ ジャパンの代表取締役社長に就任。

中原さんが代表を務める、ザ コンランショップとは、1973年にロンドンにオープンしたホームファニシングショップ。デザイナーであるテレンス・コンラン氏が独自の視点で家具や照明、インテリア小物などを世界中からセレクト。「イギリスのインテリアをモダンに変えた男」とも言われ、その影響は世界に及んでいる。

日本では、1994年に1号店が新宿パークタワーにオープン。今のような衣食住を包括するライフスタイルという概念はそこまでなく、そのオープンは大きな衝撃を持って受け入れられた。

それから、30年。新宿、丸の内、神戸、福岡、伊勢丹新宿、代官山、麻布台ヒルズの7ヶ所に店舗を構え、日本においてライフスタイルカルチャーが成熟した今も、唯一無二と言える存在感を放っているのがザ コンランショップだ。

大きな吹き抜けを持つ店内。自然光が降り注ぎ、通りや中庭の緑がよく見え、心地がいい空間。

待ち合わせの場所である代官山店に50研チームが到着すると、すでに中原さんが待ってくれていた。実はこの代官山店、中原さんが社長就任後の2023年4月にオープンさせた、並ならぬ思い入れのある店舗だ。

「ザ コンランショップは、店のデザインにしても商品のセレクトにしてもイギリス本部の意向が強い。本部のマーチャンダイジングしたものにのっとって、我々が買い付けるというスタイルだったんです。だから、これまでアジアのものはなかった。こんなにいいものがいっぱいあるアジアで30年もやってきたのに、それはもったいないでしょう。それで、代官山店は、日本、アジアのものを中心に自分たちでセレクトしたいとプレゼンしたんです」

そうして代官山店は、「PLAIN SIMPLE USEFUL(無駄なく、シンプル、実用的)」というコンラン氏のデザイン哲学は受け継ぎながらも、「アジア」という新しい文脈を持ち、世界5都市に店舗を持つザ コンランショップ初の「自主編集型」店舗となった。

作家の個展にも力を注ぐ。このとき展示販売されていたのは、韓国出身のアーティストYun Yeo Dong 尹汝東(ユン ヨ ドン)による、「茶道」をテーマにした金工によるお茶の道具。
代官山店があるのは、旧山手通り沿いの「ヒルサイドテラス」。1969年の完成当時、集合住宅と商業施設が共存する稀有な例で、国内外で高く評価された。55年経った今も、緑を多く残し人々の癒しの場であるとともに、名モダン建築として愛されている。

そうして代官山店は、「PLAIN SIMPLE USEFUL(無駄なく、シンプル、実用的)」というコンラン氏のデザイン哲学は受け継ぎながらも、「アジア」という新しい文脈を持ち、世界5都市に店舗を持つザ コンランショップ初の「自主編集型」店舗となった。

自宅から新宿のオフィスまでは歩いて30〜40分ほどの距離。街並みや路上を歩く人を見ながら得られる情報も多い。この日は代官山店へ。

9:00

ポジティブな通勤の秘訣は
「できるだけ歩くこと」

携帯電話でオンラインミーティング中の中原さん。午前中の予定は、ほとんどがミーティングで埋まる。

1日の過ごし方、過ごす場所は日によってバラバラだという中原さん。
基本的に勤務するオフィスは、新宿パークタワー。就業規則は10時からだが、できるだけ早く行って仕事にとりかかるという。この日は店舗の様子を見に、代官山を訪れた。

「余裕が出たっていう感じじゃないですけど、年齢が上がると朝が早くなるっていうのはちょっとあるなとは思いますね。前よりも、朝起きるのが辛いみたいなのは減りました。前の夜、飲みすぎなければ(笑)」

朝のルーティンは、コーヒーを淹れて飲むこと。果物やパン、おにぎりなど軽めの朝食をとって、8時半には家を出る。ポジティブに通勤する秘訣は?とうかがうと、「できるだけ歩くことですかね。歩いていると考えないといけないことがはかどるんですよ」。

携帯電話でオンラインミーティング中の中原さん。午前中の予定は、ほとんどがミーティングで埋まる。

11:00

スタッフとのコミュニケーション。
教えるよりも、気づかせる

ザ コンランショップ初の「自主編集型」となった代官山店。ここではスタッフの働き方の実験もしている。

「ほかの店舗は商業施設の中に入っているので、年中無休で21時までオープンしているんですね。でも、ここは自分たちで決めていい。水曜休み、11時オープンで18時には閉めています」

自分たちで買い付けてきたアジアのプロダクトが並ぶ代官山店。バイイングも大切だが、1点ものが多いだけあって、そのものの魅力をきちんと伝えられることが店舗スタッフたちには求められる。「自分たちで現地に足を運ぶことで商品が生まれた風土や背景をきちんと理解できて、お客さまにも伝えられる。だから、お客さまに近いスタッフが仕入れをすることが大切だと思うんです。もっと届ける喜びを体感してほしいですね」。

ものの空間における並べ方や余白の取り方、日常に取り入れた時の喜び。そうした数値化できない感覚、ニュアンスをスタッフとコミュニケーションをとり、分かち合う。「教えるという姿勢があまり好きではなくて。導くというか、気づいてもらうのはどうしたらいいかを考えていますね」

イギリス本部も注目しているこの新しい取り組み。「コンラン氏はお店づくりの天才だった」と話すように、コンラン氏の哲学を尊重しながらも、ランドスケーププロダクツ時代から長く日本、アジアの作家や工場とものづくりに携わってきた、実に中原さんらしい店のありかただ。

ランドスケーププロダクツのオフィスにて。こちらの経営は後陣に譲り、今はファウンダーという立場に。でも、中原さんのデスクは健在。

15:00

パソコンに向かうのは、
アウトプットの時だけ

日本にある7店舗では初となるレストランを併設した麻布台ヒルズ店も、2023年11月にオープン。代官山と麻布台ヒルズ。方向性の違う2店舗を駆け抜けるようにつくり上げた今、中原さんは、『テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする[仮称]※』展の企画準備に着手している。戦後の英国文化最大の立役者とも言われるコンラン氏。中原さんは、彼の世界観と功績をどう伝えるのだろうか。

※『テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする[仮称]』
場所:東京ステーションギャラリー
期間:2024年10月12日(土)~2025年1月5日(日))

考えごとはパソコンの前ではしない、と中原さん。「頭の中で考えをまとめてから、アウトプットのためにパソコンを使いますが、歩いたり、車の運転をしたり移動しながら、ものを考える方が好きですね」

では、クリエイティブなインプットはどこから?という質問に、ちょっと考えて「インプットする時間、ないですねえ」と中原さん。「自分もスタッフもそうですが、慌ただしくてなかなか時間をとってインプットするっていうのは難しい」と続ける。

「アウトプットするときはパソコンを使っても、考え事はしないですね」。飛行機での出張の場合もラウンジは利用せず、チェックインぎりぎりまで近くの温泉に浸かっているという。

「インプットとは違うかも知れませんが、ものを作ってもらっている工場に行くとか作家さんに会うとき、できるだけ自分の車で行くんです。飛行機や電車に比べると何倍も時間もかかりますが。目的の仕事だけして帰ってくることはしなくて、その近くにある気になるものを見に行ったり、人にあったり。なんだったら1日多めに予定を組んで。そう過ごすなかでインプットというか、得るものはあります」。

車での長距離移動。これについては、中原さんをよく知る人たちからも話を聞いていた。出張ではカーフェリーを利用して四国や九州へも行き、ひたすらにハンドルを握り続ける、ということを。

「アメリカでギャラリーをやっていたときに、車で横断したりしていたから長い運転には慣れているんです。車で過ごす時間は自分にとって大切。移動のためのものというより、意識を運んでくれるもの、意識を整えてくれる場所でもあるかな」

オフィスを後にする中原さん。「早いときは18時ぐらいには帰りますよ」。家庭では、大学生、高校生の二人の子を持つ父。「長男は音楽の映像制作に興味があって、すでに仕事として作品を作っているようで、そういう話を聞くのもおもしろいですね」

18:00

会食へ。
「人からの誘いは
断らないようにしています」

夜はどう過ごすことが多いのかを伺ったところ、「人に会うようにしている」とのこと。

「会食は多いですね。誘われたら、できるだけ断らないないようにしているんです。今までは、会食にしてもインタビューでも忙しいとお断りしてしまうこともありました。でも、こうして立場が変わると、お会いする人も変わるし、コンランショップの代表としてこれまでとは違う景色が見えてくるかもしれない。だからなんでも全部引き受けよう、と思っています」

カフェ「タスヤード」でなじみのスタッフと雑談中。ここは中原さんが始めた店で、千駄ヶ谷で20年も続く。周囲で働く人々から健康にいいランチが食べられる店、と愛される存在に。
自宅で過ごす時間にゆとりはある?との質問に「レコードを聴いたり、お香を焚いたりしますかね」。レコードで一曲一曲を丁寧に聴くというのが中原さんらしい。お香は火をつけて燃えていく様、火が消えた後に漂う香りの余韻に安らぎを感じるという。

「ゆとりを生み出す流儀」を知りたいとお伝えしたときに、「ゆとり、私にあるかな」と首をひねっていた中原さん。
1日の密着を終えた50研チームは、流儀というには堅苦しいかもしれないけれど、大らかさ、余裕を感じる多くの片鱗を感じた。

青年時代から憧れたテレンス・コンラン氏の思いを受け継ぎ、次世代へ伝える代表という立場。質の高いクリエイティブと経営を両立させるプレッシャーはあるけれど、「今まで通りにやります」という言葉が印象に残った。

中原さんの「今まで通り」とは。

「相手をどう楽しませるか。自分たちもどう楽しむか。"楽しむ"って、お店をやるうえで、一番大切なことだと思うんです。自分たちが楽しんでないものは、多分誰も楽しくない。だから、バイイングをしてもらう代官山のスタッフたちにも楽しくものを見つけてほしいし、出張のスケジュールにも余裕を持って、なにかを見聞きしたり感じる余地を持ってほしいですね。それが楽しいお店、仕事につながると思うんです」

撮影/清水朝子
取材・文/柳澤智子(柳に風)

50研考 SUMMARY

50歳を見つめる先の、住まいの考え方

ゆとりを生み出すのは、
自分らしく過ごせる空間と時間

中原さんがゆとりを感じさせるひとつの理由は、自分らしい空間の使い方、過ごし方にあると思います。忙しいながらも、車の運転で意識を整えたり、住まいでお香を焚き、レコードを聴いたり。空間の使い方、過ごし方がゆとりを生んでいると言えるのではないでしょうか。忙しい50代の方にこそ、暮らしの土台としての住まい空間を考えていただきたい。自分らしさを見つめ直した上で、自分らしく過ごせる空間のゆとりを設けるのも一手だと思います。

河合慎一郎
1972年奈良県生まれ。旭化成ホームズ株式会社LONGLIFE総合研究所所長。研究の一環として、「ミドルライフ研究」及び「50研プロジェクト」を担う。1996年の入社後、約450棟の建築設計を担当。現在は生活者視点からみた長期居住に関する考え方や暮らし方を伝える活動を行っている。

余白の在る家 RATIUSRD

50代の生き方に、ゆとりを添える住まい

余白の在る家の特徴は、「シェルウォール」という一枚の壁から生まれる、外でも内でもない「間」。
プライバシーを守りながらリビングに広がりをもたらしたり、光や緑を取り込み、四季の移ろいを感じさせたり。50歳を見つめる先にたどり着いた、ゆとりある暮らしを叶える住まいです。

50研分室

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独自調査で見えた結果を考察します。