「バタフライスツール」をはじめとする名作家具で知られる、天童木工。創業83年を迎える同社は、早くからさまざまな建築家やデザイナーとコラボレーションしてきたことで、日本の家具ブランドにおいて唯一無二の存在となっている。手がけた家具は、「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を6回も受賞。そんな天童木工における「LONGLIFE」とは何か? その問いへのシンプルな答えは、生活を積み重ねることの奥深さや尊さを感じさせるものだった。
(話し手:企画部部長 森山氏、企画部企画課 加藤氏、企画部商品開発課 松橋氏)
戦時下の1940年。山形県天童市(現在)で、天童木工の前身となる「天童木工家具建具工業組合」が発足した。戦時中は木材による弾薬箱やおとり飛行機の製造を担っていたが、戦後まもなく木材の曲げ加工に用いる「高周波発振装置」を導入し、成形合板の研究をスタート。これが、いまに続く天童木工のアイデンティティとなる。
「薄くスライスした木を重ね、型に合わせてプレスする工法により、それまでの家具にはない強度と、自由な曲線を実現できるようになりました」(加藤さん)
この技術によって、日本人はデザイン性の高い木製家具と数十年という長い時間を過ごせるようになったと言えるだろう。さらなるターニングポイントとなったのが、1953年の建築家・丹下健三氏との「共演」だ。彼の設計した建物に成形合板でつくった1,400脚のイスを納入したことで、その技術が注目されるように。以降、坂倉準三氏や前川國男氏、柳宗理氏といった名だたる建築家やデザイナーと共に美しい家具を生み出してきた。
このように建築家やデザイナーと共に公共建築のためにつくられた家具が、一般家庭向けに商品化されることが多いのも天童木工の特色だ。コンセプチュアルな製品が、なぜ暮らしに溶け込むのだろうか。
「『座る』という行為に向きあうと、必要な要素はあまり変わらないんです。たとえば図書館でも自宅のダイニングでも、同じようにくつろいだり仕事をしたりしますよね。『さまざまに心地よく暮らす』という意味で、そこに差異はないのだと思います。それに、各施設にあわせたテイストは、家庭ではいいアクセントになってくれるんですよ」(松橋さん)
理想を追求する建築家やデザイナーからは、実現不可能にも思える要求をされることもしばしばあった。しかし、天童木工の職人は決して「できない」とは言わなかったという。問いと向きあい、どうしたら実現できるかを考え、黙々と手を動かす。この繰り返しで、こつこつと技術力を高めていった。
天童木工の代表作とも言えるバタフライスツールも、はじめは柳宗理氏のデザインどおりの曲線は描けなかった。しかし、粘り強く試行錯誤を重ね、3年がかりで完成。世界中のミュージアムにコレクションされるほど高い評価を受ける逸品となっている。
1965年に発行された天道木工のカタログ
「バタフライスツールは家具であると同時にアートピースとしての存在感もあります。ぜひ若い方に迎えてもらい、長い時間を共に過ごしていただきたいですね。きっと、人生に寄り添う一脚になりますから」(加藤さん)
「家具は、長く使うものだからこそ普遍的でなければならないし、長く共にいるものだからこそ心を豊かにするデザインでなければなりません」(松橋さん)
妥協なきものづくりを重ねてきた天童木工にとって、「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」の受賞は当然の結果なのかもしれない。実際、天童木工の家具はロングセラーのものが多く、どれもがおどろくほどに古びていない。それは、「その時代の暮らし」ではなく「人の暮らし」に寄り添う、本質を捉えたデザインだからだろう。
1961年に開催された「第1回天道木工家具デザインコンクール」で入選し、その後に製品化されたムライスツール。スツールでありながら、サイドテーブルやマガジンラックなど"座らない"使い方もできる。2022年にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞。
発表当時は前衛的とされたデザインで、後にスタンダードな存在になった製品も多々ある。長い時間をかけて「新しいふつう」をつくっていくのも、天童木工のものづくりなのだ。
「妥協なくLONGLIFEなものづくりをしてきた先輩方に、感謝しかありません。自分たちのものづくりに、責任とプライドを持ち続けたいと思います」(森山さん)
天童木工の家具は、その強度も特徴のひとつ。50年以上使えるものも珍しくなく、塗装し直したり布地を張り替えたりすれば新品同様に使えるため、修理の相談も多い。
「天童市にある私の実家には、数十年前の天童木工の家具がいくつもあります。子どものころ、無茶な遊び方をしてイスを壊してしまったのですが、何日か工場に預けるとすっかり元通りに、しかもピカピカになって戻ってきて。子ども心におどろいたのを覚えていますね」(加藤さん)
そんな家具を実際に生み出しているのが「言葉ひとつ、ヤスリのかけ方ひとつに『天童木工のものづくり』がにじみ出ている」と加藤さんが評する職人たちだ。木材に対する深い知識と、創意工夫の知恵。それは天童木工80年の歴史よりもさらに長く、何百年という時間を経て職人から職人へと綿々と紡がれてきたものだ。天童木工では、その知と経験を踏まえたうえで成形合板の技術、そしてものづくりの哲学を上司から部下へ、先輩から後輩へと伝えている。
「彼らは、文字どおり職人気質。目の前の仕事に、持てる技術を駆使して、ただひたすら向き合い続けています。その愚直な姿勢がお客さまの期待を超えた製品をつくり、ひいては豊かな生活の一部となるのではないでしょうか」(加藤さん)
「長く使えること、です」
「LONGLIFEとは?」という問いに対する、天童木工の答えはシンプルだった。「長く使える」には、いくつもの意味が込められている。廃番にならず、長く購入できること。壊れることなく、長く手元に置いておけること。そして、飽きることなく長く愛されるデザインであること。すべてを満たすことが、「長く使えること」なのだ。
天童木工が目指すのは、「暮らしそのものになる」家具。子どもや孫の代までそばに置いておける、空気のような存在だ。これから先も新しい素材や技術に挑みながら、LONGLIFEであることを「あたりまえ」として、ものづくりを重ねていくのだろう。
天童木工 : https://www.tendo-mokko.co.jp/
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