日本でも絶大な人気を誇る北欧・デンマークの照明ブランド「レ・クリント」。1900年代に生み出されたシェードをはじまりとし、企業としては80年の長い歴史を持つ。なぜレ・クリントの照明は、いつの時代も多くの人から愛されるのか。最高経営責任者を務めるキム・イェンセン氏が、ブランドの想いや「ヒュッゲ」という言葉を紐解きながらその理由を語ってくれた。
レ・クリントの歴史は1900年代、デンマークを代表する建築家のP.V.イエンセンが、オイルランプのシェードを生み出したことにはじまる。日本の折り紙からインスピレーションを受けて作られたシェードの特徴は、なんといってもその「折り」にあった。
「紙を折ったような形状が、あかりを『広げる』のに最適なんです。光を拡散するデザインが、私たちの原点。DNAのひとつですね」。
じつはレ・クリントのシェードは、すべて職人の手によって作られている。大きく広げられたプラスティックシートが繊細かつ迷いのない手つきで次々と、スピーディに折られていくさまには圧倒される。
「この複雑な折りは、人の手でなければ生み出せません」。
レ・クリントのシェードの折りは、職人技の賜物だ。スピードや正確さ、一定の力も求められる。「私もトライしたことがありますが、ちっともうまくできませんでした」とキムさんはチャーミングに笑う。こうした技術は、ベテランから新人へと長い年月をかけて受け継がれていくという。
「習熟には3年、一人前になるには10年かかります。日本の寿司職人のようでしょう?」。
そもそもレ・クリントが誇る緻密な折りを実現できる機械は存在しないが、「奇跡的にそんな機械ができても、人の手を使いつづける」とのこと。なぜこうも、クラフトであることにこだわるのだろうか。
「機械ではあたたかみを出せないからです。人が折るから、伝わるものがある。そういえば以前、日本の茶筒をいただいたのですが、それを手に取ったときにも同じものを感じましたね」。
クラフトならではの、あたたかみ。あかりが点いていないときにもにじみ出るそれは、作り手の愛情や信念が生み出すものなのだろう。
レ・クリントのDNAはシェードの「折り」ともうひとつ、「地元で生産すること」にもある。製品に使うネジなどの細かな部品まで、できるかぎり自社の工場で製作。いわゆる「北欧ブランド」を掲げながらも生産拠点は国外に移す会社が多いなかで、メイド・イン・デンマークのみならず「メイド・イン・オーデンセ(レ・クリント社のある街)」を貫いているのだ。どうしても自社で作れない部品はオーデンセ、もしくは近郊の街にある、技術力が高く信頼できる企業に依頼している。
「デンマークは高品質なものづくりをする国です。ではいいものとは何かと言えば、私たちはまず『長く使えるもの』だと考えています。いいソファは布地を張り替えれば長く使えるし、いい靴はソールを替えれば長く履ける。同じように『いい照明』を生み出すためにも、長く使うことを前提としたていねいなものづくりを徹底するデンマークで作ることにこだわっているのです」。
そして「長く使う」ためには普遍的で美しいデザインも欠かせない。レ・クリントの製品ラインナップを見ると、堂々たるクラシックからモダンまで揃っているが、すべてに共通しているのはフォルムの美しさ、そして「定番」としてのたたずまいだ。
「私たちは常に、新しい『名作』をどう生み出すかを考えています」。
デンマークには、『デンマークの次なる名作(Danmarks næste klassiker)』というテレビ番組もある。長く愛される製品を作ることへの視座が高い国だと言えるだろう。一時的に流行するものではなく、どの時代でも受け入れられる照明を——それがデンマークで生まれ、国を代表するブランドとなったレ・クリントのデザイン哲学なのだ。
デンマークには「ヒュッゲ」という言葉がある。日本でも2017年ごろから目にするようになった言葉で、「人と人との関係から生まれるあたたかい時間」「居心地のいい雰囲気」を指す。家族や友人と過ごす愛のある時間は、なによりも価値あるヒュッゲな時間。レストランなどで過ごすことももちろんあるが、デンマーク人は友人を自宅に招待することも多いという。
「長い冬、長い夜を過ごすデンマーク人にとって、家は心の拠り所です」。
ヒュッゲな時間を過ごすために彼らが大切にしているのが、照明だ。照明はただ「照らす」だけでなく、心を落ち着かせ、ムードを作り、心地のよい時間を作り出す役割を担う。たとえばデンマークではフロアランプやウォールランプなど、1つの部屋に5〜7つの照明を使う。日本のように部屋全体を照らす照明がひとつということはなく、時間帯やシチュエーションによって細かくあかりを変えていく。
「デンマークでは、こうした暮らし方が当たり前なんです。ぜひ試してみてください。照明がすべてではないけれど、家で過ごす時間がより豊かなものになりますよ」。
世界中のヒュッゲを支えてきた、レ・クリント。これからの時代、照明ブランドとしてどのような存在でいたいのだろうか。
「新しい技術は取り入れていきますが、シェードの美しさに注力するスタンスは変わりません。デンマークでも、若者のライフスタイルは劇的に変化しています。でも、いくらデジタルコミュニケーションが進んでも、同じ空間で過ごす時間や対話の大切さはいつの時代も同じはず。そんな『集う場』を照らすあかりとしての役割をまっとうしていきたいと思います」。
レ・クリントにとってのLONGLIFEとは? 最後にそう問うと、ゆったりと椅子に腰掛けたキムさんは「その答えは、私の体験をお伝えするのが一番だと思います」と優しいまなざしで語ってくれた。
「約50年前、私が5歳のときですね。デンマークの名作椅子に座る父の膝で、絵本を読み聞かせてもらっていました。横にある照明は、父が祖母から譲り受けたレ・クリントのブラケットライトです。そしていま、私はその椅子に座り5歳の双子の孫に本を読み聞かせています。もちろん、同じブラケットライトを点けて。ちなみに孫のひとりはバイキングのような子で(笑)、ライトのアームを壊してしまいましたが修理に出したら元通り。変わらず使っています。
将来、孫たちがおじいさんになったとき、あの椅子に座って、ライトを点けて、自分の孫に本を読み聞かせる——そんな未来を暮らしの中に思い描けること。それが私たちの考えるLONGLIFEです」。
スキャンデックス : https://www.leklint.jp/
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