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ゆとりのある暮らし

「少し先の未来」を語り合えば、
いい関係は続いていく——
ジブリ鈴木敏夫氏×
LONGLIFE研究所 河合慎一郎氏特別対談

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL 対談で語るスタジオジブリの鈴木敏夫

LONGLIFE対談

「長く愛されるものづくり」——そんな言葉で思い浮かべるのが、スタジオジブリのアニメーションだ。1984年公開の『風の谷のナウシカ』、1986年公開の『天空の城ラピュタ』をはじめ、子どもからおとなまで心をつかんで離さない作品ばかりを世に出し続けている。今回、スタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫氏と「LONGLIFE研究所」河合慎一郎所長の対談が実現。アニメと住宅、まったく異なる2つの軸から「長く続くこと」について語り合った。

長く「いい関係」を続ける秘訣

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL 対談で語るスタジオジブリの鈴木敏夫とLONGLIFE研究所の河合慎一郎

河合 今日は鈴木さんとLONGLIFEをテーマにお話しできるということで、とても楽しみにしていました。ジブリ作品といえば、「長く愛される」の代名詞ですから。

鈴木 こちらこそ。LONGLIFE、いい言葉ですよね。

河合 私たちは「ALL for LONGLIFE」というコンセプトを掲げていますが、これには「長く使う」をはじめたくさんの意味が込められています。たとえば「人と人との関係」もそのひとつ。HEBEL HAUSの家に住まわれているお客さまと私たち企業と「いい関係」を築くことはもちろん、家族の絆が深まるような二世帯住宅を作ること、ご近所さんや地域の方と共生して暮らす「子育て共感賃貸住宅」の「BORIKI」を立ち上げたことも、LONGLIFEのひとつと捉えているんです。

鈴木 なるほど、モノに限った話ではないんですね。それで言うと、僕は人との付き合いがとにかく長いんですよ。たとえば宮崎駿という人間なんだけど(笑)、今年でもう45年目です。

河合 おお、それは長いお付き合いですね。

鈴木 ここまで来たんだから50年いこうか、なんて言ってるんですけどね。でも彼より付き合いの長い人もいますし、仕事で40年以上付き合っている人はゴロゴロいますよ。

河合 ずっと一緒にお仕事されてきた方がたくさんいらっしゃると。

鈴木 説明を尽くさなくてもわかりあえる人と仕事をするのは、ラクですからね。一方で、好奇心は尽きないから新しい人ともどんどん知り合って、その関係もまた長くなっていって……だから収拾がつかないんです。もう忙しくなっちゃって困るくらい(笑)。

河合 鈴木さんのように相手といい関係を長く続ける秘訣は、なんでしょう?

鈴木 うーん……振り返ってみて思うことだけど、「なにを話すか」じゃないでしょうか。

河合 というと?

鈴木 宮崎とは昨日も2時間くらいしゃべってたんですけど、なにを話すかというと「いま」と「ちょっと先の未来」なんですよ。過去の話は一切しない。したことがないと思います。いいことも悪いことも引きずっちゃうとうまくいかなくなるから、終わったことについては話さないのは人間関係でも大事な気がしますね。

河合 過去を振り返らないことが、かえってLONGLIFEな関係につながっているわけですね。宮崎さんと「過去の話はやめよう」という話をしたことは?

鈴木 言葉で交わしたことはないけども、お互い前に進みたい性格なんだと思います。ほら、映画ってヒットしたら「パート2」を作りがちだけど、ジブリではやったことがないでしょう。

河合 たしかに! 続編を作らないのはポリシーですか?

鈴木 だって面倒くさいじゃないですか、昔のことを思い出すのって。過去の作品の制約に縛られたもの作りをするより、新しいことを考えるほうがずっと自由で楽しいですよ。

僕、時間の流れを表す好きな言葉があるんです。ひとつめが「過去は水に流す」。いろいろあったけど忘れちゃおうよって、未来に目を向けるためのいい考え方ですよね。あとは「明日は明日の風が吹く」。終わったことをくよくよしててもしょうがない、明日に委ねようという言葉です。

河合 両方とも未来を見つめる言葉ですね。あと個人的に、おふたりが語るのが遠い未来ではなくなく「ちょっと先の未来」というのもおもしろいなと思いました。

鈴木 そうそう。壮大なビジョンを置いて「あそこに向かってがんばろう!」じゃなくて、「明日の昼飯どうする?」くらいの距離感がいいんだと思います。

河合 私たちも、お客さまの「少し先の未来」を大切にしたいという思いを持っているのでよくわかります。HEBEL HAUSは昨年50周年を迎え、50年前からのお客さまとのお付き合いも続いています。そんなお客さまとも「少し先の暮らし」を一緒に語っていくことが、いい関係を長く続ける秘訣なのかもしれません。

「どれだけ長く愛されるか」は考えない

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL 対談で語るスタジオジブリの鈴木敏夫とLONGLIFE研究所の河合慎一郎

河合 ジブリの作品は長く愛されるものばかりですが、その点についてどう考えていらっしゃいますか? 「どれくらいのスパンで愛されるものにするか」を意識しながら作品を作っているのでしょうか。

鈴木 そこはね、なにも考えていないんです。たとえば『風の谷のナウシカ』が完成したとき、宮崎は「10年(人気が)もったらうれしいよね」と言っていました。僕はスパンのことなんて考えたことなかったから「へえ、10年か」と思ったけど、気づけばもうすぐ40年になります。自然と続いてきた、という感覚ですね。

もちろん、企業としては次から次に作品を作るのは大変だから、ひとつの作品が長く愛されたら合理的だとは思います。1回の努力で大きな成果を得られるわけですから。ただ、映画館で上映する、DVDにする、テレビで放送する……と露出を重ねて、その作品が食べ尽くされてしまうのは嫌なんです。だからはじめは1年に1回テレビで放映していたけれど、視聴率の翳りを感じたら2年に1回にしたり。そういう調整は多少しましたね。

河合 作り終わった後に「どうやって長く愛されるものにするか」を考えているわけですね。

鈴木 いや、そういうわけでもないですよ。作ってるときはただただ楽しくて夢中になるけど、終わったらもうそれは過去のものだから。それは宮崎も同じだと思います。『ナウシカ』はアナログで作ったのでネガからフィルムを焼いて日本中の映画館に運んだわけですが、興行が終わったころ、宮崎が「鈴木さんさぁ、『ナウシカ』のネガ、捨てようよ」って言い出して。もうびっくりですよ。彼の言い分としては「いいところも悪いところもわかってるからもう観たくない」とのことだったんですが、「ダメですよ」って彼とはじめて本格的に揉めましたね(笑)。

河合 ははは。それは結局どうしたんですか?

鈴木 宮崎に内緒で全部取っておきましたよ。でもジブリ美術館を作ることになったとき、宮崎が僕の部屋に来て「鈴木さん、隠してるだろう」って。「鈴木さんが捨ててないことくらい知ってるんだから」ってね。まあ、それくらい彼は「いまここ」の人なんです。「10年もつといいね」と言いつつ。

河合 「長く愛される」ためには、先を見つめるのではなく「いまここ」をどれだけ大事にするか、なんですね。「過去についても遠い未来についても話さない」というお話と通じる気がします。

鈴木 ああ、たしかにそうかもしれませんね。

家には、思いが宿る。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL 対談で語るスタジオジブリの鈴木敏夫とLONGLIFE研究所の河合慎一郎

鈴木 僕は都内にいくつかマンションを持っていて、ほとんど自分で内装を手がけたけれど「理想の住まい」というのはまだわかっていないです。ただHEBEL HAUSさんのような「家」の話でいうと、出身の名古屋に親父が建てた戸建てを残しています。別に理想の家ってわけじゃないんですけど、親父にとっては大事な家だから。

河合 相続のタイミングなどで壊して更地にする方が多いように、家を引き継いでいくのはなかなか大変ですよね。

鈴木 「更地にしたら」とはいろんな人に言われました。でも親父とお袋の魂というのかな、「なにか」が残っていて、それは息子の僕でも勝手にいじっちゃいけないと思ったんです。

河合 わかります。家は、そこに暮らした人たちの思いが残りますよね。

鈴木 そうそう、文字どおり「宿る」感じがね。うまく言葉にはできないけれど、それを自分で経験して少しだけ理解できました。

河合 私たちHEBEL HAUSも50年続いてきたことで、3世代で家を受け継がれる方が出てきたんですよ。おじいちゃんおばあちゃんが建てた家を、孫が「引き継ぎます」って。

鈴木 へえ、子ども世代を飛ばして孫が。

河合 ええ、空き家になったタイミングだったり、親世代への相続のタイミングだったり。今後は、そんな家にまつわる家族の「思い」をつなぐお手伝いもしていきたいと思っています。外から見たらひとつの箱でも、家族ごとにさまざまな思いが詰まっている唯一無二の空間ですから。

鈴木 あ、それでいうと河合さん、「アニメート」ってどういう意味か知っていますか?

河合 「アニメーション」の動詞ですよね。「アニメを作る」ですか……?

鈴木 この言葉の元はラテン語で、「命を吹き込む」という意味なんです。命を吹き込むことで、血が通う。宮崎は、絵に命を吹き込む天才です。宮崎がアニメートすることで、描いた絵が生きてるかのごとく見えるんです。

河合 ……ああ。ということは、家も「住む人によってアニメートされている」と言えるかもしれませんね。私たちの仕事はただ箱を作るだけではなく、そこに命を吹き込み血を通わせるサポートで。そう考えると、あらためて背筋が伸びる感じがします。

はじめに「部分」を考えるということ

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL 対談で語るスタジオジブリの鈴木敏夫

鈴木 僕は建築を見るのがけっこう好きなんですが、江戸時代の屋敷って複雑怪奇でおもしろいんです。複雑なのに、設計図はほとんど存在していない。なぜかというと、どうやら当時は床柱や床の間、引き戸から作っていたらしいんです。そこからまず手前の部屋のサイズを決めて、あとは建て増ししていく。引き戸の金具に精力を注いだあとに「玄関はどうしようか」となるわけです。発想が「部分から全体」なんですね。

河合 はい、はい。

鈴木 かたやゴシック様式で建てられた西洋の教会は、上空から見ると十字架になるようにデザインされています。揺らがないコンセプトが先にある、つまり「全体から部分」を作っていく。発想がまったく逆なわけですが、HEBEL HAUSさんは江戸と西洋、どちら派ですか?

河合 そのふたつで言うと西洋的ですし、今は世の中全体がそうかもしれません。ただ、これからは「はじめから『全体』を固定しない」家づくりも必要だと考えています。建てた瞬間を100%の完成にせず、住む人の変化に対応する『余白』を持たせることはできないかと。このとき、私たちがお客さまの「住みこなし」をサポートする必要も出てくるでしょう。

鈴木 「住みこなし」、はじめて聞きました。

河合 家を建てたときの家族の状況はずっと続くわけではなく、ライフスタイルやライフステージにより変化していきます。家族が増えたり、赤ちゃんだった子どもが成長したり、その子が家を出て行ったり。それでも快適に住み続けられる、そのときどきに合った暮らしを提案したりお手伝いしたりできたらと考えているんです。それこそ「全体」に縛られず、自由に変化して都度「住みこなし方」を見つけていただけるような家づくりができたら楽しいですよね。

鈴木 それはおもしろいですねえ。ちなみに、おおかたが「全体」から作られるのは映画も同じです。たいていの人はストーリーを決めるときに起承転結、つまり全体から考えるでしょう。でもね、宮崎はまだ起承転結がよくわかっていないんですよ。

河合 つまり「全体」を意識しない?

鈴木 はい。そうそう、むかし吉祥寺にスタジオがあったとき、宮崎に「散歩しよう」と誘われて3時間ほど歩いたんですよ。そんなこと言うのは行き詰まっているときなので、付き合ったんですけど。それで疲れきったころ、井の頭口にある「ルノワール」に入った。コーヒーを頼むと、宮崎がふいにナプキンを取ってさらさらと絵を描いたんです。まず大きなリボンを、そこから女の子を。

河合 もしかして、『魔女の宅急便』!

鈴木 そうです。「鈴木さん、できた!」とそれはうれしそうでしたね。「このリボンが彼女を守ってるんだよ」って。

河合 はー! そのリボンから物語がスタートしたんですね。究極の「部分」です。

鈴木 そう。3時間歩いた甲斐があったという話です(笑)。

公式のないLONGLIFE

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL 対談で語るスタジオジブリの鈴木敏夫

河合 かつての日本の建築のように部分から全体に広げていくやり方と、『魔女の宅急便』のようにリボンという1つのアイテムから物語の全体像を描いていくやり方。どちらも「型」から入らない、つまりゴールから逆算しないもの作りだと言えます。非効率に見えるかもしれませんが、そのスタンスが長く愛されるためのヒントなのかもしれませんね。ライフスタイルや家族の変化に柔軟に対応する「住みこなし」を提案することで、よりLONGLIFEを実現できるのではないかという私の思いとつながるところもあり、とても共感しました。

鈴木 そうですね。一方でものごとには核となる「へそ」というものがあって、ここだけは外さないようにしなきゃいけません。行き当たりばったりに進めていけばいいというものではない。その「へそ」とはなんなのか 、まず見つけることが大切です。

今日はLONLIFEというテーマでお話ししましたけど、作品の人気がどれだけ続くかなんて、これだけやっていてもさっぱりわからないんですよ。「こうすれば長く続く」って公式があればいいけど、そういうものじゃないですから。だから、遠い先のことをあれこれ考えても仕方がない。お互い、やりながら試行錯誤ですね。

河合 ありがとうございます。ものづくりでも人の関係づくり でも、過去に引きずられず、かつ遠い未来を見据えすぎず、「今」と「少し先」を見つめていく。それが結果として長く愛されるということを心に留めていきたいと思います。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL 対談 スタジオジブリの鈴木敏夫とLONGLIFE研究所の河合慎一郎

鈴木敏夫

1948(昭和23)年愛知県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。徳間書店に入社、「アニメージュ」編集長などを経て、スタジオジブリに移籍、映画プロデューサーとなる。スタジオジブリ代表取締役プロデューサー。著書に『映画道楽』『仕事道楽 スタジオジブリの現場』『風に吹かれて』『スタジオジブリ物語』『歳月』など。

スタジオジブリ : https://www.ghibli.jp/

 

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