写真提供 カメヤマ
誰かを想う大切な場面に欠かせないローソクの灯り。1927年に創業して以来、人々の喜びや悲しみに寄り添い続けてきたカメヤマは、時代の移り変わりとともに、暮らしをどのように照らしてきたのだろう。製品づくりへのこだわりと未来への展望について、営業戦略本部の竹中淳さんに話を伺った。
ローソクの製造・販売会社カメヤマを創業したのは、三重県伊勢で宮大工をしていた谷川兵三郎氏だ。兵三郎氏は宮大工を引退したあと、周辺にローソクメーカーが少なかった三重県の亀山市に小さなローソク工場を作った。
1946年頃の工場
「もともと信心深かった初代社長は、人の心に寄り添う仕事をしたいという思いから、神仏用のローソクづくりをはじめました。しかし、工場の機械は簡素な手動式で従業員も少なかったため、早々に経営難に陥ってしまいました。そこで二代目の谷川正士氏が、日常的にキャンドルを使う西洋の文化に着目し、食卓で灯すスパイラルキャンドルの輸出で経営を立て直したんです」。
輸出貿易で成長する一方、日本では、「(ローソクの)火は危ない、火が怖い」という声が絶えなかったという。その声を受けた二代目は、皆が安心して安全に使える「日本一のローソク」づくりを決意。そこには日本一たる品質を実現するための3つの基準があるという。
「『流れず、曲がらず、くすぶらず』。『三ず』と呼ばれるこの3つが、カメヤマが考える高品質なローソクの基準です。溶けた蠟が流れ出たり、室温の高さで曲がったりすると火事の原因になり危ないですし、消したときに油煙(スス)が多く出ると臭いが気になります。これらの条件をクリアするローソクを、製造工程を見直すことで実現しました。この『三ず』は、現在でも社員が一番最初に教わる、カメヤマにとって大切なローソクづくりの哲学です」。
安心・安全なローソクへのこだわりを追求する一方で、時代や暮らしの変化に合わせて、ローソクのかたちは変わってきた。
「品質が良くても、使いにくければ一般には広がりません。もともとはお寺向けの大きなローソクを販売していましたが、家庭で使うには大きすぎる。そこで作ったのが、読経1回分と同じ19分で燃え切る、家庭用サイズの『カメヤマ小ローソク 豆ダルマ』です。おかげさまでカメヤマの定番製品として長い間ご愛顧いただいています」。
暮らしに向き合い生まれた定番製品の他、故人の嗜好に寄り添う「好物キャンドル」もカメヤマならではの製品の一つ。ビールや寿司、カレーライスやラーメンなど多種多様であそび心のあるラインナップに加え、故人を思い出させる“仕掛け”が幅広い世代に人気だという。
「キャンドルに火を灯して、蝋が減っていく様を見ていると『本当に食べてくれているみたい』とよく言われます。飲み干されていくビールを見ながら『あの人ビール好きだったよね』と故人を思い出す会話が自然と生まれるんです。発売当初は邪道と言われることもありましたが、今では『次はこういうものを作ってほしい』という声があちこちから寄せられています」。
その他にもお盆の風習である迎え火・送り火や精霊馬を模したローソクなど、常識にとらわれないアイディアで新たな製品をつくり続けるカメヤマ。そこにはどんな思いが込められているのだろうか。
「『供養』と聞くと、しきたりが多くハードルが高い印象を持たれる方も多いと思います。好物キャンドルやお盆用ローソクはそんな供養のイメージを変え、もっとカジュアルにご先祖様と接する機会を増やしてほしい、という思いから生まれました。仏壇にアロマキャンドルを添えたっていいんですよ。大切なことは、故人を想うこと。ローソクがそのきっかけになればいい、と思っているんです」。
故人を偲ぶためのローソク文化だけはなく、ハッピーなシーンにおけるキャンドル文化の普及においても、カメヤマの存在なくして語れない。
実は、結婚式の演出ですっかりお馴染みとなっているキャンドルサービスを日本に定着させたのも、バースデーケーキに欠かせない「数字キャンドル」をつくったのもカメヤマだ。なかでもバースデーを祝うキャンドルは、子どもたちが火を知るきっかけにもなっているという。
「オール電化の住宅が増え、ライターやマッチを使うことの少ない現代では、火に触れる機会がないんです。なかには素手で火を掴もうとする子もいるほど。バースデーケーキで使うキャンドルは、お子さんが人生で初めて火を知る機会になるんです。数字キャンドルは歳の数だけキャンドルを立てるのが難しいご高齢の方のお祝いにも喜ばれていますね」。
一方で、キャンドルの灯りには人をリラックスさせる効果もある。不規則にゆらぐキャンドルの炎は「1/fゆらぎ」という人間の鼓動と同じリズムを刻み、生体リズムと共鳴して自律神経を整えることが科学的にも実証されているのだ。
「コロナ禍では、アロマキャンドルのニーズが高まりました。アロマの香りによって生活空間を快適にしたり、炎のゆらぎを見ることで心を落ち着かせたり。自分のためにキャンドルを使う人が増えている印象がありますね。神仏用の10分で燃え切るローソクを、瞑想時のタイマー代わりに使っている方もいるようです」。
写真提供 カメヤマ
神仏用からスタートしたカメヤマのローソクは、いまや暮らしのあらゆる場面で人々の心に灯りをともす存在になっている。
人の命はローソクの火にたとえられることがある。カメヤマにとってのLONGLIFEは、「ずっと、いっしょに、生きていく」という企業メッセージに象徴されている。
「ローソクは、自らの身を削りながら周りを明るく照らします。誕生や結婚などおめでたいときのキャンドルの火は周りを祝ってくれているように見え、大切な人とお別れするときのローソクの火は一緒に故人を偲んでくれているように見えます。人生の節目節目にそっと寄り添っていくのがローソクなんです。人々の思いに寄り添って、精神的なLONGLIFEを提供し続けていくということが、カメヤマのメッセージには含まれています」。
100年近く 、ローソクとともに人々の人生に寄り添ってきたカメヤマ。竹中さんは、未来の展望についても語ってくれた。
「ご先祖様はどこまででもさかのぼれるので、カメヤマのローソクは、ゆりかごから墓場までを“超越”していると思っているんです。今までの100年と、この先の100年で、住宅環境も暮らしも変わり、お客様に求められることも変わっていくでしょう。ローソクも時代に合わせてかたちを変えながら、人生のさまざまな場面にピッタリ合う商品を常にそろえておくことが、カメヤマの役割だと思っています」。
誰かと喜びや悲しみを分かち合うときも、自分のための癒しの時間にも、暮らしとともにあるローソクやキャンドル。いつの時代も、どんなときも、人々の心を優しく照らし出すその小さな灯りをカメヤマは守り続けていくのだろう。
カメヤマ: https://www.kameyama.co.jp/
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