1965年、下町の小さな工房からスタートした土屋鞄製造所。同社のつくるランドセルは、職人による確かな手仕事と計算し尽くされた機能性、そして品格のある美しいデザインが世代を超えて支持されつづけている。職人として鞄づくりに携わったのち、製造全体を管理するSCM本部の責任者を務める金澤将悟さんは、「ランドセルはつくって終わりではない」と話す。その言葉に込められた真意とは———。
「子どもたちに喜んでもらえるランドセルをつくりたい」
そんな創業者・土屋國男さんの思いのもと、丈夫さと品格を追求し続けるランドセルづくりは始まった。創業当初こそ卸売りをしていたが、自分たちで作ったものを自分たちの手で直接届けようと、自社販売をスタート。2000年頃には業界に先駆けてインターネット販売も導入した。
「“工房系ランドセル”というカテゴリをつくったのは、私たちなんじゃないかと思っています」と、金澤さん。お客様の声に耳を傾ける姿勢と、ていねいで細やかな製造技術が評価され、土屋鞄製造所はいつしか工房系ランドセルと呼ばれるようになっていた。
時代の変化にともないランドセルのカラーやデザインは多様化してきたが、1つだけ変わらないものがある。土屋鞄製造所ならではの伝統的なデザインだ。
「小学校の6年間で好みは変わるかもしれません。卒業まで使ってもらえるよう、1年生のときも、6年生のときにも似合うような色、かたちを意識した商品を展開しています。目指しているのは、シンプルで美しいデザインです」。
デザイン性の高さが注目される土屋鞄製造所のランドセルだが、じつはすべての基盤となっているのは機能面。「6年間の使用に耐えうるものを作るのが私たちの責任」と、金澤さんは語気を強める。
「長持ちするものをつくるために、素材から厳選しています。社内には素材研究チームがあって、革はどれくらい負荷がかかると裂けるのか、光を当てるとどのような変化するのかなどを研究して製品づくりに生かしているんです」。
150以上のパーツから成り、300を超える工程を経て完成する土屋鞄製造所のランドセル。たとえば、背中が触れる箇所のふくらみは、固めのスポンジと、やわらかいスポンジの二重構造にすることで、へたることのない強度を保ちつつ、体への負担やストレスを軽減している。
「ランドセルって昔はもっと小さくて薄かったんです。でも、時代の変化とともに教材が増えたことで大型化して、ランドセルの重さは今や教育分野における問題にもなっています。丈夫さを保ったままいかに軽量化するか、それが私たちがやるべきことの一つだと思っています」。
見た目を変えず、機能を担保しながら軽量化することは簡単ではない。
「パーツごとに数グラム単位で削ぎ落とすことで軽量化を目指しています。長年にわたり本革でのランドセルにこだわってきましたが、革のような見た目の軽量な人工皮革を使ったハイブリッドなランドセルづくりも行っています」。
時代の変化に寄り添いつつもシンプルなデザインを守りつづける土屋鞄製造所のランドセル。そのものづくりの精神はランドセル以外にも生かされている。
2000年頃からはランドセルづくりで培ったノウハウを応用した大人用ランドセルの販売をスタート。
「オトナランドセルは、背中やベルトなどの構造はランドセルを基本としながら、ビジネスシーンでも使えるようなスマートなシルエットとし、大人が背負ってもかっこいいものを目指しました」。
すると、それを手がける職人たちにも変化が出てきたという。
「『ランドセルってこういうものだよね』という固定観念があったのですが、ミシンの目の幅などの細かい縫製を見直したことで、『このピッチの幅が最適』という考え方ができあがっていきました。その発見はランドセルにも還元されて、土屋鞄全体のものづくりがチューニングされていくんです」。
ランドセルの技術が大人用鞄に応用され、大人用鞄をつくることでランドセルに技術が還元される。その技術の好循環が土屋鞄製造所のものづくりを支えているのだろう。
製品開発から素材調達、製造、販売、アフターサポートまでを一貫して自社で行う同社では、職人が販売スタッフとして店舗に立ち、接客する機会を必ず設けているという。
「お客様の生の声を聞くことは、ものづくりにおいて欠かせません。あるとき、『以前、あなたに接客してもらってランドセルを買ったの』というお客様がいらっしゃったんです。実際に使ってみて良かったから、下の子にも買いに来てくださったということでした。続けていると、そんな嬉しい出会いもあります」。
また、アフターサポートをすることで、子どもたちがランドセルをどう使ったかがわかるという。
「どこが擦れたり壊れたりしやすいのかを見ることで、使い勝手や調整すべきパーツを次のランドセルづくりに生かせ、たしかな製品を届けられるようになります。だから、ランドセルはつくって終わりではないんです」。
使用者の声に耳を傾け、次に生かし、循環していく。土屋鞄製造所の製品は、子どもたちと同じように、いつまでも成長し続ける。
製品をできるだけ長く使ってもらえるようにと、土屋鞄製造所では「CRAFTCRAFTS(クラフトクラフツ)」という取り組みを独自におこなっている。ケアサポート、リペア、リメイク、リユースの4つサービスのなかでも、リメイクサービスには土屋鞄製造所ならではの気遣いがある。
「リメイクサービスでは、6年間使ったランドセルをミニチュアランドセルやパスケースに作り替えるのですが、ランドセルには傷があったり、シールが貼られていたりすることがあります。これは6年間愛用していただいたしるしなので、ミニチュアランドセルを作る際には、あえて残すこともあります」。
リメイクサービスの利用者からは、「思い出を残してくれてありがとう」という手紙が届くことも多いという。
「ランドセルは、一生に一度の買い物です。両親や祖父母からの贈り物が、6年間をともにする相棒になる。教材を運ぶためのものではありますが、家族をつなげる存在でもあるので、選んで良かったと思ってもらえるようにしたいです」。
そんな土屋鞄製造所が考える、LONGLIFEとは。
「汚れを拭いたり、修理したりしながら、ものを大切に使い続けること。それは巡り巡って自分を大切にすることでもある、と私たちは考えています。ランドセル選びから、日本のものづくりの良さを知ってもらい、愛着を持ってもらえたら嬉しいですね」。
土屋鞄製造所:
https://tsuchiya-randoseru.jp/
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