あなたは、どんなときに写真を撮るだろうか。大切な人と一緒にいるとき、見上げた空がきれいだったとき、おいしいごはんを食べているとき———? 日本を代表する写真フィルムメーカーの富士フイルムは、写真フィルムやデジタルカメラ、「写ルンです」、「チェキ」などを通して、その時代、時代を切り取ってきた。そんな富士フイルムが考えるLONGLIFEとは?富士フイルムイメージングシステムズ株式会社プリント・ソリューション事業部の岡本純さんに話を伺った。
1934年、「写真フィルムの国産化」を目指して創業した富士フイルム。当時、写真は一般市民にとって馴染みがなく、まだまだ特別なものだった。「人々にとって遠い存在である写真をいかに身近にしていくのか、が富士フイルムの製品開発の歴史でした」と、岡本さんは振り返る。
1986年に世界初のレンズ付フィルム「写ルンです」を発売、世界初のデジタルカメラ「FUJIX DS-1P」やインスタントカメラ「チェキ」など、次々に新しいコンセプトで製品を開発。そんな富士フイルムの功績もあり、写真文化は一般化され、より便利なものへと進化していった。そして2000年代に入るとコンパクトデジタルカメラが普及しはじめ、アナログからデジタルへと移行していくこととなる。
1986年には「写ルンです」、1998年には「チェキ」の発売を開始した。写真はそれぞれ初代モデル
一般市民にとっては写真を撮ることが手軽になる一方で、写真フィルムをメインの事業としていた富士フイルムにとっては危機が訪れる。
「2000年をピークに写真フィルムの需要は下降線をたどり、10年後には10分の1にまで減少しました。会社の事業として続けていくべきなのか議論されましたが、写真は生活を豊かにするものだと考え、なんとか事業を継続できる道を模索しました」。
その後、スマートフォンの普及により、人々の生活は一変する。カメラを常に持ち歩くような生活になったのだ。そうした中で訪れた“一枚の写真の価値”の変化について、岡本さんはこう語る。
「スマートフォンが登場したことで、気軽に撮影したり、画像を持ち歩けたりするようになりました。それまでは、作品や思い出づくりといった要素が強かった写真ですが、メモとしての役割も持つようになり、一枚一枚の写真への思い入れは減ってしまった面もあるのではないでしょうか」。
しかしその“一枚の写真の価値”が見直される機会が訪れる。2011年に起きた東日本大震災後のできごとだ。
「震災後、自衛隊やボランティアの方たちが、津波によって流されたアルバムを集めているという報道があり、富士フイルムでは『写真救済プロジェクト』を開始しました。私も現地へ行ったのですが、『何もかも流されてしまい、もう残っているのは記憶だけ。でもその記憶も、時間とともに薄れていってしまう。だから、たった一枚の写真があることが生きていく支えになる』と、声をかけてくださった方もいました」。
被災地で行われた『写真救済プロジェクト』の様子
このプロジェクトを通して、リアルな写真の価値を再認識した富士フイルムは、2013年に「撮る、残す、飾る、そして贈る」という写真本来の楽しみ方を伝える「フォトルネッサンス運動」を開始。そこから発展して、写真本来の楽しみの先にある“思い”は何かを考えた。
「わざわざプリントする、贈る、飾るというのは、手間のかかる行為です。ひと手間かけるたびに、ものへの思いや、相手への思いが強くなっていき、幸せを育んでいく。それこそが写真の価値であり、本質だと思うのです」。
そうして導き出した答えは、「人は写真で幸せになれる」。2023年8月、写真が作る幸せを可視化するプロジェクトとしてスタートしたのが「写真幸福論」だ。
「フォトルネッサンス運動」から「写真幸福論」までの10年の間に、デジタルネイティブの若者にとって、「デジタルは新しくて便利なもの、アナログは古くて不便なもの」という認識が変わりつつあり、そんな時流も後押しした。
それを象徴するかのように今、「写ルンです」や「チェキ」などが若者のあいだで再流行している。
「若者のあいだでは、同じものが二度と撮れない希少価値が評価されているようです。デジタルと違う立体感や奥行き感はもちろん、失敗した写真すら格好いいという価値観もあると聞きました。スマホで撮ると埋もれてしまっていた一枚一枚の写真が、アナログで残すことで、あらためてフォーカスされるようになったと感じます」。
“ひと手間かけて幸せを育む”ことを実現するために、「写真幸福論」ではこんな取り組みを展開した。
「frame#001」は、お気に入りの一枚を選ぶだけで、プリント・加工・額装まで一貫して行ってくれるサービス。
「自分の写真を飾ることに抵抗感のある人が多いので、こうしたプロダクトを使って、生活の中に溶け込ませることができたら」と、岡本さん。
贅沢な余白のあるフレームは、結婚式や誕生日のような特別に思い入れのある写真はもちろん、何気ない日常風景すら作品のように飾ることができる。
色の世界共通言語を提供しているPANTONE社とコラボした、「フォトメッセージカード」は、写真と40色から選べる台紙を組み合わせて、メッセージカードを作れるサービス。 1枚の写真プリントをカラフルに彩り、メッセージを添えれば、撮った人の想いが伝わる贈りものになる。
プリントしてアルバムに入れたり、フォトフレームに入れたり、メッセージを添えて贈ったりして、大切な記憶に囲まれる———。写真を撮るだけで終わらせずに、こうして暮らしに取り入れることができる。
創業から90年、カメラのフィルターを通して時代を切り取ってきた富士フイルムにとっての、LONGLIFEとは。
「写真は、人の一生……それこそLONGLIFEに関わるものです。生まれる前のエコー写真にはじまり、生まれたとき、七五三に入学式、成人式、人生の節目、そして遺影写真まで。それぞれのライフステージで、価値やつながりを生むものだと思うのです」。
成長を記録し、思い出を記憶する。写真は人の一生に寄り添うものだ、と富士フイルムは考えている。また、LONGLIFEに通ずるこんなエピソードも教えてくれた。
「以前、とある俳優の方にインタビューした際に、友人を撮影したときのエピソードを話されていたのが印象的でした。写真をプリントするひと手間をかけることで、そのときの空気感や、自分が相手へ向けた目線、どういう気持ちだったのかがよみがえってくる、と。撮った写真をスマホで送るだけだとメッセージに埋没してしまうけれど、プリントしたものを渡して、会話する。そういうことが、一枚の写真を通したLONGLIFEにつながっていくのではないでしょうか」。
手間をかけることで思いを育み、その思い出を空気感ごと残す。愛するものに囲まれるLONGLIFEは、一枚の写真からはじめられる。
写真幸福論 | 富士フイルム:
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