川口先生のペットコラム
旭化成ホームズ株式会社
Profile
ゾウの先生 川口 幸男

1940年東京都伊豆大島に生まれる。上野動物園飼育課を定年退職後、エレファント・トークを主宰。講演や執筆をしている。講演依頼は、メール またはFax 048-781-2309にお願いします。
NHKラジオ番組夏休みこども科学電話相談の先生でもあり、本編では長年の経験を踏まえて幅広く様々な話題を紹介します。
わんにゃんドクター 川口明子

日本獣医畜産大学卒業、同大学外科学研究生として学び、上野動物園で飼育実習後、埼玉県上尾市にかわぐちペットクリニックを開業する。娘夫婦もそろって獣医師で開業しており、一家そろって動物と仲良くつきあっている。
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おもしろ哺乳動物大百科22(霊長目 インドリ科) 2009.12.10

インドリ属
インドリ属は1属1種ですが、体色の違いから2亜種に分類する学者もいます。マダガスカルの東部の多雨林に生息し、原猿の中で最も大型の種類で、メスがオスよりも体重は重くなります。インドリの特徴はその風貌からも伺えますが、ほかにも木から木に移動するとき、強力な後肢を使って立ったままの姿勢で跳び移ることです。その跳躍力はふつう約3m、ときにはおよそ10m跳んだ報告があります。
また、原地の住民たちはインドリを「森のイヌ」と呼んでいますが、鳴き声に由来したものです。朝夕に、のどを震わせながら1頭が鳴き始めると、群れのメンバーが続き、鳴き声は数km先までとどきます。とくに喧騒が激しいのは採食のときで、お互いのコミュニケーションや群れ同士でなわばりを主張していると推測されます。
  大高 成元氏撮影 
高い木の上でリラックスしている野生のインドリです。
大高 成元氏撮影  
高い木の上でリラックスしている野生のインドリです。

22)インドリ
マダガスカルは日本の1.6倍もある大きな島で、島の中央部東よりに南北に山脈が通っています。このため山脈の東と西では大きく気候が変わります。インドリは東部の海岸に沿った多雨林や多湿の地域、海岸線近くから海抜1800mと広い範囲で生活しています。昼行性のかれらは朝9時から午後3時ころまで活動し、この間約40%が採食時間に当てられます。採食が終わると休息しながらのグルーミング時間となります。夜間は10〜30mの高い樹上で眠ります。これは低地で昆虫に刺されるのを避けているようです。
群れは数頭の成獣の雌雄とその子どもたち2〜6頭で構成されていますが、同性間でも優劣があり、雌雄間ではメスのほうがオスより優位です。

からだの特徴
黄色い目は夜行性動物の目のように内部に反射板(タぺタム)があり、かつて夜行性であったと推測されます。黒い耳、わずかに残る尾はすべてのインドリに共通の特徴です。体毛は黒い部分と灰白色、あるいは赤褐色と変化に富んでいます。臭覚が発達しており唾液腺や性器の臭腺の分泌液を木にこすり付けてなわばりを主張し、雌雄共にこれらの匂いを嗅ぎ取って情報を収集しています。木の葉が主食ですが、粗繊維の消化は腸内細菌が行うため、大きな胃と腸をもっています。歯式は門歯2/1、犬歯1/1, 小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて30本です。このうち下顎の櫛(くし)歯は門歯と犬歯各2本で4本となっています。乳頭は胸部に1対あります。

えさ
野生でのえさは、若葉や木の芽が約70%、他に果実、花、種子を食べています。採食する植物の種類数は、42種類あるいは76種類の植物を採食した報告がありますが、4月から9月は果物や花が多くなります。

繁殖
性成熟は7〜9歳で、2〜3年間隔で出産します。発情期は12月から3月で、妊娠期間は120〜150日、出産は5月と6月に多く見られます。通常は1産1子で、生後約4ヶ月間は母親の腹に抱かれて移動しますが、その後は背にのって移動します。子どもは4〜5ヶ月齢で飛び跳ねはじめて、8カ月齢になると上手に跳び移ることができます。授乳は1日に3〜4回行われ、約8カ月齢で減少し、生後1年で終わります。2歳になると母親から離れて餌を探しますが、未だ母親に依存しています。
インドリは飼育が難しく、わずか1例が1年間生存したに過ぎません。また、飼育下の繁殖例もありません。

天敵
人間が肉や毛皮をとるために行う狩猟が最大の天敵です。この他に森林を伐採し木材として搬出することで生息域を失っています。他にもワシやタカなどの猛禽類に子どもが狙われます。

インドリ
分類   霊長目インドリ科
分布   マダガスカル東部
大きさ  

体長 60〜70cm 尾長 約5.0cmで痕跡程度 体重 6.0〜10.0kg

絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。現在は国立公園や保護区で保護されています。
主な参考文献
今泉吉典 監修  

世界哺乳類和名辞典 平凡社1988

今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
  動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
杉山 幸丸編    サルの百科 データハウス 1996
淡輪 俊監修・宗近功編著   レムール マダガスカルの不思議なサルたち
東京農業大学出版会 2009
Nick Garbutt    MAMMALS OF MADAGASCAR A&C BLACK LONDON 2007
Nowak, R. M.    Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.�
The Johns Hopkins University Press 1999
おもしろ哺乳動物大百科21(霊長目 インドリ科) 2009.11.27

インドリ科 
インドリ科はアバヒ属、シファカ属、インドリ属の3つに分類され、マダガスカルの東部、南部から西部にかけて生息しています。跳躍力に優れ木から木へおよそ10mを飛び移ることができます。地上を歩くときは4本足歩行ができないので、両手を上にあげて横に飛び跳ねて移動するのですが、そのさまはダンスでも踊っているかのように、軽やかにステップを踏んでユーモラスです。採食のときもほとんど手を使わないで直接歯で葉などの食物をむしりとって食べます。

シファカ属
南部と西部に生息するヴェローシファカと東部に生息するカンムリシファカの2種類がいますが、最近まで亜種として分類していたものを種に入れて9種類に分類している学者もいます。体重は3.0〜8.5kgと種類によって大きく異なりますが、今回は、体が小さく、体毛が厚くて長いヴェローシファカを紹介しましょう。

  大高 成元氏撮影 
背中に赤ちゃんをおんぶして軽やかに2本足で跳ぶように移動しています。
大高 成元氏撮影  
背中に赤ちゃんをおんぶして軽やかに2本足で跳ぶように移動しています。

21)ヴェローシファカ
南部から西部の海岸に沿って常緑多雨林の上層部で生活しています。キツネザルの仲間と同様に昼行性で、早朝に体を温めてから活動を開始し、日中の暑いときは樹上で休み、日没前に活動を再開します。1日におよそ1kmを移動していますが雨期は乾期に比べ移動距離が短くなります。群れは数頭の成獣の雌雄とその子どもたち3〜12頭で構成されていますが、同性間でも優劣があり、雌雄間ではメスのほうがオスより優位です。また群れ同士でなわばりがあり、隣接した群れではしばしばトラブルを起こします。非交尾期はお互いにジャンプをし合って牽制しあう程度で優劣が決まりますが、交尾期には気が荒くなり相手に傷を負わせることもあります。

からだの特徴
ヴェローシファカは4亜種に分かれ、毛の色が純白から黒まで変化に富んでいます。大きさは、頭胴長が40〜50cm、体重は3.0〜3.5kg、尾が約45〜50cmです。嗅覚が発達しており、尿や、メスは肛門腺や性器、オスは喉にある臭腺の分泌液を木にこすり付けてなわばりを主張し、雌雄共にこれらの匂いを嗅ぎ取って情報を収集しています。歯式は門歯2/2、犬歯1/0, 小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて30本です(下顎の第2門歯を犬歯とする説もあります。この場合の歯式は門歯2/1, 犬歯1/1, 小臼歯2/2, 大臼歯3/3となります)。櫛(くし)歯は6本ではなく4本となっています。乳頭は胸部に1対あります。遠くから響く大きな声は「シファカ」という風に聞こえ、お互いのコミュニケーション手段として使っています。

えさ
野生でのえさは、雨期は葉のほかに花や果実が増え、乾期には葉や樹皮が主食となります。

繁殖
交尾期は1月下旬から3月上旬まで続きますが、年に1回の発情はおよそ2日間と短く、発情するとすぐに交尾が見られます。妊娠期間は154〜160日、162〜170日、130〜141日と諸説あります。6月〜9月にかけて1産1子を通常は隔年で出産します。赤ちゃん(新生児)はほぼ無毛で、体重はおよそ40g、出産後は母親の腹部につかまって移動し、1〜3月齢で徐々に背に乗って移動するようになります。生後5〜6カ月齢で離乳し、21ヶ月齢で親と同じ大きさになります。性成熟は3〜5歳、メスはふつう6歳で初産となります。長寿記録としては、デューク大学レムールセンターで30年6ヶ月飼育された記録があります。

天敵
人間による生息域の破壊やワナ、狩猟が最大の天敵です。母親は常に子どもを肉食獣に狙われないように注意していますが子どもの死亡率は高く、乾期の間にジャコウネコ科のフォッサによっておよそ30%が殺され、さらに猛禽類のワシ、タカ、フクロウにも同程度殺されます。

ヴェローシファカ
分類   霊長目 インドリ科
分布   マダガスカル南部から西部
大きさ  

体長 40〜50cm 尾長 50〜60cm 体重 3.0〜3.5kg

絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。
主な参考文献
今泉吉典 監修  

世界哺乳類和名辞典 平凡社1988

今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
  動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
京都大学霊長類研究所編著   新しい霊長類学 2009
杉山 幸丸編    サルの百科 データハウス 1996
淡輪 俊監修・宗近功編著   レムール マダガスカルの不思議なサルたち
東京農業大学出版会 2009
Nick Garbutt    MAMMALS OF MADAGASCAR A&C BLACK LONDON 2007
Nowak, R. M.    Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.�
The Johns Hopkins University Press 1999
おもしろ哺乳動物大百科20(霊長目 キツネザル科) 2009.11.10

エリマキキツネザル属
エリマキキツネザル属は一種ですが、クロシロエリマキキツネザルとアカエリマキキツネザルの2亜種に分類されます。いずれもマダガスカル島の東部の熱帯多雨林に生息していますが、毛の色や生息域が異なります。キツネザルの中では最大でワオキツネザルより一回り大きく、樹上生活者で枝の上を歩いたり走ったり、あるいは木から木へ身軽に飛び移って活発に過ごしています。

  大高 成元氏撮影 木の上で大きく口を開けて何をしているのでしょう。
大高 成元氏撮影  
木の上で大きく口を開けて何をしているのでしょう。

20)エリマキキツネザル
住んでいる場所
東海岸の森林に生息し、樹林の上層部の大きな木に実る果実を主食としています。昼行性で朝、日光浴をして体を温めてから活動を開始し、群れによって差はありますが、1日におよそ1kmを移動しています。暑い日中は樹上で過ごし、夕方再び活動を開始する薄暮動物で夜は活動しません。5月から10月の乾期と11月から4月にかけての雨期は群れの構成が変わります。乾期には一夫一妻とその子どもが集まっていますが、雨季になると、単独や小群、あるいは地域によっては8〜16頭の大きな群れで過ごすなど集合離散し群れの構成は一定していません。母子を中心とした母系集団で、同性間でも優劣があり、雌雄間ではメスのほうがオスより優位です。また群れ同士でなわばりがあります。
近年、焼畑農業などの森林破壊が加速し生息地を奪われ続ける中で絶滅が心配されています。

からだの特徴
クロシロエリマキキツネザルは、腹、手足の先、4肢の内側、前頭部と目の回りが黒、背中と首、耳は白くなっています。大きさは、頭胴長が45〜55cm、体重は3.0〜4.5kg、尾が約60〜65cmと長いのが特徴です。鼻鏡にある長い毛は感覚毛として働き、また、嗅覚も発達しており、発情すると肛門腺を木にこすりつけて匂い付けをしますが、そこから情報収集をしています。目は正面に向いていますが視野は真猿類より狭くなっています。後肢の第2指が鉤爪となって毛づくろいをするときに使いますが、他の指はすべて平爪です。産子数が1頭から6頭と多いことに関連して乳頭は3対あります。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本です。鳴き声は力強く1km先まで届きコミュニケーション手段として使っています。

えさ
野生では、果実、花の蜜、若葉、花、木の芽、キノコなどです。

繁殖
交尾期は5〜7月、発情は約30日間周期で約6日間続きます。妊娠期間の90〜102日間を経て、9〜10月が出産期になりますが、北半球で飼育すると3〜6月に変わります。出産は1年に1回で、通常1産に2〜3頭です。出産のとき巣を作るところが本種の大きな特徴です。巣は高さ10〜20mの樹上に小枝や葉、蔓を利用して作りそこで出産します。赤ちゃん(新生児)の体重は約100g、目が開き、毛に被われています。1〜2週間はこの巣の中で過ごし、後に移動するときは母親が口にくわえて運びます。他のサルより乳成分の栄養価が高く、そのため赤ちゃんの成長速度が極めて速く、生後4ヶ月齢時には体重が成獣の70%くらいになります。生後3週間齢では母親と声でコンタクトをとり、40日齢で固形物を食べ始めますが、授乳は4〜5ヶ月続けます。幼児の死亡率は高く3ヶ月齢までに65%の年もあったと報告しています。オスは32〜48ヶ月齢、メスでは18〜20ヶ月齢で性成熟に達し、飼育下では3歳半で最初の子どもを産みます。飼育下の長寿記録はデューク大学キツネザルセンターで、2004年の調査時に推定36歳で生存中という報告があります。

天敵
人間による生息域の破壊やワナ、狩猟が最大の天敵となるでしょうが、他にも野生のフクロウ、タカなどの猛禽類、ときにはフォッサ、ジャコウネコ、ヘビなどに狙われています。

エリマキキツネザル
分類   霊長目 キツネザル科
分布   マダガスカル東部
大きさ  

体長 50〜60cm 尾長 55〜65cm 体重 3.0〜4.5kg

絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、クロシロエリマキキツネザルは絶滅寸前の状態にある絶滅寸前種(CR)に、アカエリマキキツネザルルは絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。
主な参考文献
今泉吉典 監修  

世界哺乳類和名辞典 平凡社1988

今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
  動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
京都大学霊長類研究所編著   新しい霊長類学
杉山 幸丸編    サルの百科 データハウス 1996
淡輪 俊監修・宗近功編著   レムール マダガスカルの不思議なサルたち
東京農業大学出版会 2009
Nick Garbutt    MAMMALS OF MADAGASCAR A&C BLACK LONDON 2007
Nowak, R. M.    Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.�
The Johns Hopkins University Press 1999
Weigel, R.   Longevity of Mammals in Captivity; From the Living Collections of the World. E. Schweizerbart’sche, 2005.
おもしろ哺乳動物大百科19(霊長目 キツネザル科) 2009.11.2

現在、霊長目の化石で発掘された一番古いものは6500万年前のもので、霊長目の一員である私たちの祖先は、この頃地球上に現れたことになります。現存する霊長目ついて、今泉吉典博士は、1988年に12科、58属、約181種類に分類していました。ところが、近年、DNAの解析が盛んに行われ、今まで亜種扱いだったものを分割して種として認めた結果、現在約350種に分ける学者もおりますが、本文は今泉先生の分類を参考にしました。 霊長目は原猿亜目と真猿亜目の2つに大別されます。チンパンジーやニホンザルに代表される真猿亜目に対し、原猿亜目は祖先型のサルの体型でネズミやリスのようです。多くの種類は夜行性で、体に分泌腺があり、におい付けをして生活しています。原猿亜目は、コビトキツネザル科、キツネザル科、インドリ科、アイアイ科、ロリス科、メガネザル科の6科に分類しています。 ちなみに新しい分類法では、霊長目を直鼻猿類と曲鼻猿類に大別し、メガネザル類は直鼻猿類に入れています。

  写真家 大高成元氏撮影
写真家  大高成元氏撮影
母親の背中におんぶして移動中。尾がきれいだね。

キツネザル科
キツネザル科には、4属(キツネザル属・ジェントルキツネザル属・エリマキキツネザル属・イタチキツネザル属)約10種が含まれています。いずれもマダガスカル島に生息していますが、本島は8800万年前ゴンドワナ大陸から分離してできた島で独特の動植物が生息していることで有名です。キツネザルは顔がサルと言うよりキツネの顔に似ているところから命名され、レムールとも呼んでいます。体重は1〜4kg、後肢が前肢より長く、地上は4本足で歩きますが、多くの種類は樹上で生活しています。えさは木の葉や花、果実です。

19)ワオキツネザル
マダガスカル島の南部から南西部の乾燥林、落葉樹林、川辺林に数頭から30頭の群れで生活しています。昼行性で活動は朝と夕方の薄暮動物型ですが、気温が低いときには朝、日光浴をして体を温めてから活動を開始し、日中の暑いときは木陰や岩の陰で休みます。樹上より地上を好み1日におよそ1kmを移動することもあります。群れは母子を中心とした母系集団で、メスのほうがオスより優位で、また同性間でも優劣があります。群れ同士の間にはなわばりがあり、なわばりを巡って争いがあります。成獣のオスは3〜5年で群れを代わります。地上を白と黒の帯で彩られた長い尾をぴんと立てて歩く姿が美しく世界中の動物園で飼育されている人気者です。

からだの特徴
体は背中が灰色で腹部と4肢は灰白色、鼻口部、目の周囲、頭頂部が黒、尾は黒白の帯状になっています。大きさは、頭胴長が35〜45cm、体重は2.3〜3.5kgと大きめのネコ程度ですが、尾が約55〜65cmと長いのが特徴です。手首の黒くなっている部位に匂いを出している分泌腺があり、尾にこすり付けたあと尾を頭上まで上げて左右に振りかざし、性ホルモンを辺りに撒き散らしたり、順位を決めたりしています。足の爪は後肢の第2指が鉤爪以外はすべて平爪です。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本です。上顎の門歯は小さくてクサビのような形をしています。下顎の門歯と犬歯は前方に突き出し櫛状になっていて、グルーミングのときに使います。鳴き声がとても大きく1km先の人間が聞くことができるほどで、お互いのコミュニケーション手段に使っています。

えさ
野生では、木の葉、芽、花、果実、昆虫などです。

繁殖
発情周期は平均40日ですが、発情するのはわずか1日で、この間に交尾します。群れの中にはセントラル・メールと呼んでいるひときわ大型の個体がいて最初に交尾をします。交尾期は4〜6月、妊娠期間の135日前後を経て、雨季の始まる前、8〜11月(北半球で飼育すると3〜6月)に、1年に1回、1産に1〜2頭、通常1頭を出産しますが双子もまれではありません。新生児の体重は50〜80gで2週間は母親のお腹にくっついて離れませんが、やがて背中にのります。授乳は生後5ヶ月齢まで行いますが、2ヵ月齢頃から固形物も食べ始めています。メスは生後1歳8ヶ月齢で妊娠し、オスは2歳半で性成熟に達します。子どもは1年以内に約50%が死亡し、成獣に達するのは約30%です。長寿記録は飼育下では1967年5月21日にフィラデルフィア動物園で生まれて、2004年10月5日にメルボルン動物園で死亡した37歳4カ月(メス)という報告があります。

天敵
人間以外では、フクロウ、タカなどの猛禽類、フォッサ、ジャコウネコ、飼育下のネコ、イヌなど肉食獣、ヘビに狙われています。

ワオキツネザル
分類   霊長目 キツネザル科
分布   マダガスカル南部から南西部
大きさ   体長 35〜45cm 尾長 55〜65cm 体重 2.5〜3.5kg
絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないが、近い将来そのおそれがあるので近危急種(NT)に指定されています。
主な参考文献
今泉吉典 監修  

世界哺乳類和名辞典 平凡社1988

今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
  動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
京都大学霊長類研究所編著   新しい霊長類学
杉山 幸丸編    サルの百科 データハウス 1996
淡輪 俊監修・宗近功編著   レムール マダガスカルの不思議なサルたち
Nick Garbutt    MAMMALS OF MADAGASCAR A&C BLACK LONDON 2007
Nowak, R. M.    Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.�
The Johns Hopkins University Press 1999
おもしろ哺乳動物大百科18(翼手目 オオコウモリ科) 2009.10.30

オオコウモリは旧世界の熱帯や亜熱帯に分布しており、1科約200種がいます。大きさは小型のものは翼開張約30cm、体重約15gから、大型のものでは翼開張が約2m、体重1500gになるものまでいます。日本産のオオコウモリは超音波を飛ばさず、目でものを見て飛行する有視界飛行です。唯一、アフリカ、パキスタン、南アジア、他に生息しているルーセット属のオオコウモリが簡単なエコロケーションを使い、しばしば数百万頭の大群を形成しています。いずれも熱帯や亜熱帯に住むため冬眠はしません。
日本ではオガサワラオオコウモリ、クビワオオコウモリ、オキナワオオコウモリの3種が記録されています。今回は琉球諸島の人々にはなじみの深いクビワオオコウモリを紹介しましょう。

  写真家 大高成元氏撮影 クビワオオコウモリ(ダイトウオオコウモリ)が好物のバナナを食べています。
写真家  大高成元氏撮影
クビワオオコウモリ(ダイトウオオコウモリ)が好物のバナナを食べています。

18)クビワオオコウモリ
クビワオオコウモリはすんでいる地域によって、(1)オリイオオコウモリ(沖縄諸島) (2)エラブオオコウモリ(トカラ諸島) (3)ヤエヤマオオコウモリ(八重山諸島) (4)ダイトウオオコウモリ(大東諸島)及び、(5)タイワンオオコウモリ(台湾)の5亜種に分類しています。現在各亜種の生息数は、ダイトウオオコウモリが、北大東島で50〜60頭、南大東島で60〜70頭で合わせて110〜130頭、エラブオオコウモリは200頭程度と報告されています。日本産の4亜種の中では高緯度に生息する亜種の体が大きいので、エラブオオコウモリが一番大きく、ヤエヤマオオコウモリは一番体が小さくて生息数も多いと報告しています。オリイオオコウモリは樹冠部の木の枝に1頭から数10頭でぶら下がり、生息数も多く沖縄の首里城や国際通りでも時々見られます。

すんでいる場所
オオコウモリは、夜行性で昼間はおもに常緑広葉樹の樹冠部、平地では高い木の樹冠や風が入りこまない斜面にいます。ルーセットオオコウモリのように大群は作らず、単独や10頭前後の小さな群れで分散して休んでいます。ねぐらの場所や群れのサイズは繁殖期と非繁殖期、季節によって変わる果実や昆虫及び4亜種の生息域環境により差があります。

からだの特徴
体毛は茶褐色や暗褐色で頸(首)の周りに白黄色の首環があり本種の名前が付いているのですが、ダイトウオオコウモリは他の亜種に比べ色が淡くとりわけオスにオレンジ色のものがいて美しさが際立っています。オスはメスよりも大きく、顔はキツネに似ているという人もいますが、マングースにも似ていると思います。小翼手亜目の場合、鉤爪は第1指(親指)のみにありますが、オオコウモリは、前肢の第1指に長い鉤爪、第2指には短い鉤爪があります。フンや尿をするときは、前肢の発達した第1指の鉤爪を枝に引っ掛けてぶらさがりお尻を下にして排泄します。第3.4.5指の指間と第5指から足首にかけて飛膜があります。食虫するコウモリの仲間と違い、かれらの飛行は餌場から休息場所までの移動なので、急旋回やすばやい動きは必要がありません。そのため、クビワオオコウモリは尾がなく、尾の部分は尾膜が欠如し切れ込んでいます。大きな目と鼻があり、視覚と嗅覚はよく発達しています。歯の数は門歯2/2、犬歯1/1、小臼歯3/3、大臼歯2/3、左右上下合わせて合計34本です。臼歯は主食となる植物質をすりつぶすのに適し臼状となっています。

繁殖
沖縄こどもの国園長、比嘉源和氏によるオリイオオコウモリの観察によれば、1妻多夫ですが、番(つがい)でも繁殖可能で、毎年10〜12月に交尾し、翌年の4月から6月にかけて出産した。出産時の姿勢は逆さにぶら下がって分娩し、赤ちゃんを両翼で受け止めた。赤ちゃんは体重約60gで乳歯はすでに生えており、目と耳は開いていた。生後1ヶ月齢頃から足でぶら下がりはじめ、1ヶ月半頃から親の餌を横取りし、生後2ヶ月半で親と同じ餌を食べ、1年目には親子の区別が付かないと報告しています。性成熟は2歳と推測されます。
寿命は良くわかっていませんが、飼育下のエラブオオコウモリのオスで3〜10年、メスが4〜14年と いう報告や、長寿例としては上野動物園でオリイオオコウモリの23年11カ月という飼育記録があります。

えさ
小翼手亜目の仲間は動物質が主食なのに比べ、こちらは植物が主食です。イチョウやガジュマルの葉、イチジク、バナナ、フクギ、クワ、パイナップルなどの果実のほか、花や蜜、夏季にはセミやカミキリムシなどの昆虫類も食べます。クビワオオコウモリの餌になる植物の種類数は約100種類が記録されています。

外敵
イリオモテヤマネコや、野生化したイヌとネコ、ワシ、タカなどの猛禽類、ヘビなどがいます。

その他
オオコウモリの中でも大型の種類は現地の人々に食用として珍重されています。昆虫食の種類は美味しくないようですが、果実や木の葉を食べるオオコウモリは美味といわれ、各地で古くから食べられています。

クビワオオコウモリ
分類   翼手目 オオコウモリ科
分布   日本(大隅諸島から琉球諸島) 台湾(緑島)
大きさ   頭胴長 19〜25� 体重  320〜530g 前腕長 12〜15�
絶滅の危機の程度   エラブオオコウモリとダイトウオオコウモリは、環境省発行の「日本の絶滅のおそれのある野生生物 — 哺乳類(2002年改訂版)」で非常に絶滅の危険が高いものとして、絶滅危惧�A類(CR)に指定されています。また、いずれも国の天然記念物の指定を受けています。
主な参考文献
今泉吉典 監修  

世界哺乳類和名辞典 平凡社1988

内田照章 著   こうもりの不思議 球磨村森林組合 1975
Kawai,K   The Wild Mammals of Japan
S.D.Ohdachi, Y.Ishibashi, M.A.Iwasa&T.Saitoh,eds.
SHOUKADOH Book Sellers 2009
コウモリの会   コウモリ学入門 (財)東京動物園協会 2002
比嘉源和   オリイオオコウモリの繁殖つづく どうぶつと動物園
(財)東京動物園協会 2002
船越公威    飛翔の生活史と生態  日本の哺乳類学(1)小型哺乳類 
本川雅治編 監修 大泰司紀之・三浦慎悟監修 
東京大学出版会 2008
船越公威    オオコウモリ類 日本動物大百科 監修 日高敏隆
平凡社 1996
野生動物救護ハンドブック
編集委員会編
  —日本産野生動物の取り扱いー
野生動物救護ハンドブック 文永堂出版 1996
おもしろ哺乳動物大百科17(翼手目 ブタバナコウモリ科) 2009.10.26

1000種類近くもいるコウモリの中からわずかな種類を紹介するのはたいへんなことです。今回はタイで私が見た世界で最小、しかも哺乳類の中でも最も小型と言われるキティブタバナコウモリの話にしました。本種は、1973年10月に発見され1974年に独自の種として認められました。タイ西部のカンチャナブリー県で発見されましたが、生息数が少なく希少種ということもあり、1981年に生息地の約500k�をサイヨー国立公園に指定し保護しています。その後、2001年、ミャンマーの南東部でも発見されましたが、ミャンマーとは生息地のクワイ河を間に国境があるので、生息は当然のことかもしれません。生態の中でも繁殖関係については詳細が未だわかっていませんが、最小というのは興味があるところです。本種は1科1属1種です。

  1頭なので大きさがわかりくいでしょうが、これが最小のコウモリです。
写真は筆者
1頭なので大きさがわかりくいでしょうが、これが最小のコウモリです。
 

17)キティブタバナコウモリ
50年以上昔の1957年にイギリス映画で『戦場にかける橋』という作品がありました。第二次大戦にタイとミャンマー(ビルマ)の泰緬鉄道間に横たわる、クワイ河に木製の陸橋を架けたときの実話を元に作られています。この物語は戦争のもたらす悲劇を描いており、日本人としてみるに忍びないものがありますが、年配の方には懐かしい映画であり、クワイの名前は記憶に残っている方も多いでしょう。 キティブタバナコウモリの生息地は現在のクワイ河鉄橋から車で北におよそ2時間行った自然公園内にあり、7〜8年前に数回見る機会をえました。タイで発見された群れは10〜15頭の小さな群れで合わせて200頭程度、最高でも約500頭と推定しています。しかし、自然公園以外の保護はされていませんし、焼畑農業は生息地を脅かし続けています。また、ミャンマーの生息数が不明なため総数は不明です。

  こんな小さな洞窟に住んでいます。
こんな小さな洞窟に住んでいます。

すんでいる場所
サイヨーの自然公園管理人の案内で、私たちが観察した場所は、雑草が生い茂り、小低木やチーク材となる高い木がまばらに生えている場所でした。雑草をかきわけて進むと岩山があって人が楽に通れるほどの入り口がありました。その先に進むと岩の割れ目の下側に人がやっと通れるほどの隙間がありました。お腹をへこませてやっとすり抜けると幅が1〜2m、長さが10mくらいの入り組んだ鍾乳洞のような石灰岩の場所に出ました。案内人の指差す先を見ると天井や壁に小さな黒いコウモリが滑らかな岩肌にひょいと後ろ足を引っ掛けてとまっていました。わずか数メートルの距離しか離れていないのですが小型なので顔がはっきりわかりません。そこには10数頭のコウモリがいましたが、大集団に見られるような群れではなく点在していました。他にも近辺の森や農園のちょっとした岩場の間や、石灰岩の洞くつに小群で生息していると話してくれました。

からだの特徴
体の上面は褐色から赤みがかった個体や、灰色の個体まであり、下面のほうが淡く、飛膜は黒味を帯びています。ブタバナの名前のとおり、鼻がブタに似ていることからこの名前が付けられました。尾はなくて尾膜はわずかにある程度です。目は小さく柔らかい毛がかぶさっています。翼は長く飛ぶのに適応しています。前肢の親指は短くてかぎづめは鋭く、後肢は細く長くなっています。耳は大きく超音波を聞くのに適しています。超音波は周波数変動型(FM型)で、基本音の約35kHzから2倍の70KHz、そして105kHzと抑揚があって、周波数一定型(CF型)より多くの情報を得られるといいます。歯の数は門歯1/2、犬歯1/1、小臼歯1/2、大臼歯3/3、左右上下合わせて合計28本です。

繁殖
繁殖シーズンは4月末の乾季の初めから5月まで続きます。1産1子で母親はねぐらにいる時いつも抱いていますが、採食で外に出るとき赤ちゃんは置いていきます。その他、繁殖、冬眠、寿命に関する詳しいレポートは不明です。

えさ
クワイ河の開けた場所ですばやい飛行と方向転換を繰り返しながら小型の昆虫やクモを飛行しながら採食しています。採食する時間帯は夕暮れ時と夜明けでそれぞれ20〜30分間と報告しています。

キティブタバナコウモリ
分類   翼手目 ブタバナコウモリ科
分布   タイ西部、ミャンマー南東部
大きさ   体長  2.9〜3.3 cm 体重  1.5〜3.0g 翼開長 15〜17cm 前腕長 2.1〜2.6cm
絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。
主な参考文献
今泉吉典 監修  

世界哺乳類和名辞典 平凡社1988

内田照章 著   こうもりの不思議 球磨村森林組合 1975
J.D.オルトリンガム   コウモリ 進化・生態・行動 八坂書房 1998
松村澄子監修   コウモリの会翻訳グループ
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.1
The Johns Hopkins University Press 1999
Corbet, G. B.& Hill, J. E.    A World List of Mammalian Species (Third edition)
Oxford University Press 1991
おもしろ哺乳動物大百科16(翼手目 チスイコウモリ科又はヘラコウモリ科) 2009.9.28

満月の夜になると、吸血鬼に変身して喉にするどい牙で噛み付き、人間の生き血を吸うバンパイアは、吸血コウモリの生態をアレンジした物語です。この物語は吸血コウモリがアメリカ大陸に生息しているにもかかわらず、ヨーロッパの作家が書いた代表的なホラー映画のひとつでしょう。
この影響から世界各地でコウモリは闇の帝王のように感じている方も多いと思いますが、実際には1000種類近く生息するコウモリのなかで、新鮮な血液を餌としているのはわずかに3種類(3属:チスイコウモリ属、シロチスイコウモリ属、ケアシチスイコウモリ属)が生息しているだけです。チスイコウモリ属のナミチスイコウモリはメキシコ北部からアルゼンチンにかけて広く分布していますが、シロチスイコウモリとケアシチスイコウモリの生息地は狭くなっています。
それでは実際のナミチスイコウモリがどんな動物か紹介しましょう。

16)ナミチスイコウモリ
チスイコウモリが恐れられている理由の一つは、ドラキュラ物語が一役買っていることもあるでしょう。何頭もの個体が同じ傷口からなめ取るのも観察されていますが、血液量は1日あたり約20mlと報告されていますから少量で、また唾液の抗凝血成分により血液が固まりにくくなる作用があるとはいえ、動物が失血死することはまずないでしょう。
一番懸念されている理由は、伝染病とくに狂犬病の伝播に関与していることです。日本は清浄国となっていますが、狂犬病は発症すればほぼ100%死亡するという恐ろしい病気で、アジアやアメリカなど諸外国では罹患して死亡する動物や人もいます。チスイコウモリが狂犬病にかかっている動物の血液をなめとり、他の個体を傷つければ狂犬病を広めると危惧しているのです。

すんでいる場所
ナミチスイコウモリはメキシコからアルゼンチンまで分布しています。大小の洞窟や樹洞、橋の下など、そのねぐらは多岐にわたり数十種類以上の場所に及びます。メスはコロニーを作り、オスは離れてなわばりを守りねぐらで休みます。小群から100〜200頭の群れで住み、日が暮れると活動を始める夜行性動物で、冬眠と夏眠はしません。ふつうは5〜8kmを移動しますが、15〜20kmに広がる地域もあります。このほか数日かけて帰る場合や、さらに遠くまで飛んでいる例も報告されています。体温は平常時33〜37℃で、20℃以下になると自力でもとに戻すことはできません。また、高温にたいして非常に敏感で37℃以上の外温にさらされると生存が危ぶまれます。

  するどい歯をもっているのがおわかりでしょう。
写真は大高成元氏撮影
するどい歯をもっているのがおわかりでしょう。

からだの特徴
短い鼻口部の鼻葉は獲物の血管を探し当てる熱センサーとして使います。口から発射される約100Hz(ヘルツ)から10kHz(ヘルツ)の音は獲物となる動物の存在を探るのに使います。飛んでいる虫を捕らえないため、すばやく飛行したり急旋回の必要がないため尾はなく、尾翼も狭くなっています。前肢の親指は長く裏には足の裏のようなパッドが3個ついており、地面を獲物まで静かにすばやく跳んだり歩いたりして近づくことができます。皮膜の内側は毛深く足首まであります。耳は大きく丸みを帯びて聴覚は発達しています。目は小さく毛で隠れており夜行性動物のように夜見える仕組みになっています。歯の数は門歯1/2、犬歯1/1、小臼歯1/2、大臼歯1/1、左右上下合わせて合計20本です。上顎の門歯2本は獲物の皮膚を切り裂くときに使い、流出した血液は溝のある舌でなめとります。

繁殖
妊娠期間は7〜8ヶ月、普通は一産一子ですが、まれに双子もあります。出産前、7週間頃になると陰部が色づきます。胎児は後ろ向き(骨盤位)で分娩され、胎盤は出産日に排泄しますが母親は食べません。出産時のあかちゃんは頭部や背中に毛が生えており目も開いています。乳歯は生えており、上下の犬歯は、生後2〜3週間で永久歯に代わります。出産時の体重は5〜7gで、最初の20〜30日間は母親の乳首をくわえて放しませんが、50〜60日齢になると飛行練習を始めます。生後約2ヶ月齢で、母親は自分でなめて飲み込んだ血液を口移しに飲ませます。生後約4ヶ月齢で自分でも血をなめるようになり、生後約6ヶ月齢で初めて獲物に傷をつけて血液をなめます。体格は最初の2ヶ月齢で急速に成長し、生後5ヶ月齢で成獣と同じになります。しかし、食事が乳から血液に代わるのは生後約300日とスローペースで移行し、この頃には性成熟しています。オスは一年中交尾が可能ですが、出産は4〜5月及び10〜11月が多くなっています。寿命は野生では9年近く、飼育下ではミルウォーキー動物園で29年2ヶ月の飼育記録があります。

えさ
チスイコウモリは吸血と称されているように生きた動物の血液が主食です。実際にはするどい門歯と犬歯を使って大型動物のウシやウマ、ヤギ、ブタ、まれに人間などの皮膚を切り裂き、滴り落ちる血液をなめ取っています。シロチスイコウモリとケアシチスイコウモリは鳥の血液を好むと報告されています。大抵、動物たちが眠っている間に、静かに地面に降り立ち、一回に採る血液量は体重の40〜50%になります。食事ができなくてお腹のすいた個体に、充分餌を取りねぐらに戻った個体が血液を吐き戻して与える行動も報告されています。

ナミチスイコウモリ
分類   翼手目 チスイコウモリ科又はヘラコウモリ科
分布   メキシコ北部からアルゼンチン、ウルグアイ、トリニダード島
大きさ   体長  7.5〜9� 体重  15〜50g 前腕長 5〜6.5cm
絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。
主な参考文献
今泉吉典 監修  

世界哺乳類和名辞典 平凡社1988

内田照章 著   こうもりの不思議 球磨村森林組合 1975
J.D.オルトリンガム   コウモリ 進化・生態・行動 八坂書房 1998
松村澄子監修   コウモリの会翻訳グループ
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.1
The Johns Hopkins University Press 1999
Corbet, G. B.& Hill, J. E.    A World List of Mammalian Species (Third edition)
Oxford University Press 1991
Greenhall, A. M. , Joermann, G.
& Schmidt, U.  
  Mammalian Species No.202, Desmodus rotundus,
The American Society of Mammalogists, 1983.
おもしろ哺乳動物大百科15(翼手目 ヒナコウモリ科) 2009.8.28

ヒナコウモリ科
サルやクマはなじみが深いのですが、コウモリはあまり一般に知られていない哺乳類かもしれません。ところが、コウモリの仲間は、全哺乳類の約5000種の中で1000種類近くを占めているのです。コウモリは翼手目に分類され、大型で果物を主食としている大翼手亜目と昆虫などを主食にしている小翼手亜目に大別し、それらを合わせて19科に分類しています。
小翼手亜目の中でもヒナコウモリ科の仲間はとりわけ種類が多く350〜360種を占めています。体重は4gから60gくらいまで幅があり、食物は昆虫から魚を食べる種類、単独や小群から100万頭の大群を作るもの、冬眠や夏眠をする種類など実に多彩です。
私は埼玉県に住んでいますが、春になり蚊や蛾などさまざまな昆虫たちが空を舞い、宵闇のせまる頃、庭にヒナコウモリ科のイエコウモリが乱舞する姿が見られます。イエコウモリは、日本の固有種に分類する学者と、シベリア東部、ベトナム、台湾に生息する種類と同じとする学者がいます。

15)イエコウモリ(またはアブラコウモリ)
北海道から沖縄まで各地の住宅の近くで見られる種類です。12月頃から3月まで冬眠し、4月になると夕方まだ陽のあるうちから住家の近くを飛び回っています。哺乳類で唯一皮膜をパタパタと動かせて飛ぶことのできる動物ですが、鳥の飛翔と明らかに違い急旋回したり、ヒラヒラと舞うように飛んだりするので鳥と簡単に識別できます。イエコウモリは口から超音波を出して、獲物になる蚊や蛾などの昆虫を捕らえますが、この方法をエコロケーションといいます。そして、音波の反響から相手を特定するのですが、最近ではこの音波を簡単に聞くことができる機器もあります。それはバットディテクターといってコウモリの出す超音波を人間が聞くことができる音に変換するものです。イエコウモリの場合は、周波数を45kHz(キロヘルツ)くらいに合わせて飛んでいるコウモリに当てると声が聞こえます。夏になるとイエコウモリの声を聞く会を催している動物園もあります。

すんでいる場所
私たちが住んでいる家の近くに生息しています。私が動物相談員をしていた頃、千葉県の人が、動物のフンを持って来て、天井から落ちてきたのだがこの動物の正体を教えてほしい、と依頼がありました。大きさは小豆くらいで、色は灰褐色、一見するとネズミのフンのようですが、ネズミの糞にしては軽いのです。しかし、私と一緒に相談員をしていた相方は即座にわかったようで、虫眼鏡で見ましょうと、言いました。そして、フンをピンセットで分解し、虫眼鏡で見るとすると一目瞭然で蚊や蛾の頭や羽の残骸を見ることができました。これはイエコウモリのフンです。きっと屋根裏や壁の隙間に入り込んでいるのでしょう。そして、もうすぐ子どもが巣立つのでそれまで我慢してそっとしてほしいと付け加えました。いまではビルの排気孔まで住処にしており、私たちの生活に巧みに適応しています、と明解答をしたのでした。

  イエコウモリの飛行と指のつき方
アブラコウモリ
イエコウモリの飛行と指のつき方 

からだの特徴
はじめてイエコウモリの子どもが保護されて我が家の動物病院に持ち込まれたときは、体の色は黒く光沢があり、顔や鼻の形が普通の動物と大差なくかわいいのでびっくりしました。成長すると、体色は背側が灰褐色で腹側は灰黄色になります。コウモリの前肢の第1指(親指)は鉤爪となり、岩や木に引っ掛けてぶら下がっています。第2指から第5指まで、そして第5指から足の親指の甲、尾まで皮膜があり翼となります。飛ぶときは人間が手を開いたり指をくっつけたりするときと同様で、膜が伸び縮みし方向転換や止まるときに小さくなるのです。鳥類には胸部に竜骨突起と呼ばれる骨があり、羽を動かす筋肉が付いていますが、コウモリも同様の仕組みで翼を動かす筋肉があって飛んでいます。また、膝が他の哺乳類と反対方向に曲がるのも大きな特徴です。耳は大きく超音波を聞くのに適しています。歯の数は門歯2/2、犬歯1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3、左右上下合わせて合計34本です。

繁殖
冬眠する前の10月中旬から下旬にかけて交尾をしますが、精子はそのまま子宮に貯留し、メスは冬眠から覚める春に排卵し、貯留していた精子と受精し着床します。他のコウモリの産子数は1頭が多いのですが、本種は、妊娠期間約70日を経て1頭から4頭、平均2頭の赤ちゃんを生みます。とくにオスは死亡率が高く巣立ちできるのは1頭が多くなります。出産のとき、母親は頭を上にして後肢と尾の間の膜で赤ちゃんを受け止めます。赤ちゃんは体長が2〜3cm、体重が平均で0.86g、毛が生えていなく、耳も垂れています。目は閉じていますが生後8〜9日目に開きます。親指と足はしっかりしており母親の胸にしがみつくことができ、そのまま親子で逆さにぶら下がります。生後25〜30日齢で自由に飛びまわり、巣立ちは約1ヶ月齢で、秋には雌雄ともに交尾します。寿命はオスが約3年、メスが5年生きれば長寿といわれています。

えさと飼育ケージ
イエコウモリのえさは、おもにカやユスリカ、ブユなどですが、1日に体重の3分の1くらい食べるそうです。以前動物園の講演会で大橋直哉さんのお話を拝聴しましたが、飼育するときは、あらかじめ餌にするミルワームにニンジン、小松菜、キャベツ、煮干、ドッグフードを与えて栄養価を高くして与えているそうです。飼育ケージは幅1.5cm、下側に隙間を開け出入り口にしているそうです。

冬眠
11月から12月にかけて冬眠に入りますが、リスなどのように食物を貯蔵したり、クマのように採食量を増やして皮下脂肪を蓄積したりするのではなく、代謝を抑えて皮下脂肪を蓄積します。冬眠中は平均で約16日に1回目覚め、排尿、排便及び水を飲みます。

イエコウモリ
分類   翼手目 ヒナコウモリ科
分布   日本(北海道、本州、四国、九州、から屋久島、奄美大島、沖縄、西表島など周辺の島々)及び、シベリア東部、ベトナム、台湾。
大きさ   体長 4〜6� 尾長 3〜4.5� 体重 5〜10g 翼開長約20� 前腕長は3〜3.5�
絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。
主な参考文献
今泉吉典 監修  

世界哺乳類和名辞典 平凡社1988

内田照章 著   こうもりの不思議 球磨村森林組合 1975
Kawai, K.   The Wild Mammals of Japan
S.D.Ohdachi, Y.Ishibashi, M.A.Iwasa&T.Saitoh,eds.
SHOUKADOH Book Sellers 2009
コウモリの会   コウモリ学入門 (財)東京動物園協会 2002
三笠暁子   身近にいながらなぞも多いアブラコウモリ どうぶつと動物園
(財)東京動物園協会 2002
野生動物救護
ハンドブック編集委員会編 
  —日本産野生動物の取り扱いー
野生動物救護ハンドブック 文永堂出版 1996
おもしろ哺乳動物大百科14(皮翼目 ヒヨケザル科) 2009.8.13

皮翼目
皮翼目は1科、1属で、ヒヨケザル科、ヒヨケザル属に分類しています。ヒヨケザルもまた、ツパイと同様に分類に悩まされ、モグラの仲間、あるいはコウモリの仲間に入れたこともありました。その後、歯の特徴や滑空するための皮翼、育児などの特徴を考慮し独自の目に分類しています。最近では分子生物学の学者も又、DNAの分析から独自の目として分類し、霊長目に最も近い目としています。

ヒヨケザル属
ヒヨケザル属には、マレーヒヨケザルとフィリピンヒヨケザルの2種類がいます。両者の体の大きさを比較すると、フィリピンヒヨケザルは、少し小型で、体色が濃く斑点が少ないことや、上顎の門歯と犬歯が特殊化してないところが、大きな違いです。
今回はより研究が進んでいるマレーヒヨケザルを紹介していきましょう。

  ヒヨケザルの母親と子供
ヒヨケザルの母親と子供
体の模様が樹皮そっくりで、木にしがみついていれば見つけるのは容易ではありません。
 

14)マレーヒヨケザル
マレー半島、スマトラ、ボルネオ、ジャワ、インドシナ半島のミャンマー、タイ南部などの山岳地帯原生林の熱帯多雨林から低地のゴム園やココヤシ農園まで広く生息しています。夜行性で、普通は単独で生活していますが、1本の木に何頭もの個体がいる様子も観察されています。夕方になると、活動を始め明け方近くになると戻って休息します。1日の活動時間は、合わせて3〜4時間程度で、そのほかは昼も夜も休んでいます。休息は、決まった巣やねぐらがなく、ココヤシ幹にかじりついたり、太い木の枝に逆さまにぶら下がったり、樹洞に入って丸まって休息したりするのですが、いったん静止すると皮膚の模様が樹幹と一体化して見つけることが困難です。
空を飛ぶ動物には、コウモリのように翼をパタパタと動かせて鳥のようにとぶ動物と、高い木から飛膜を広げてグライダーのように滑空するムササビやモモンガがいますが、ヒヨケザルも同じように滑空する動物です。

 

  ヒヨケザルの滑空
  ヒヨケザルの滑空
滑空するときは、尾の先まである皮膜を広げて飛び、方向転換もできるそうです。
 
ヒヨケザルの下の前歯
  ヒヨケザルの下の前歯
下顎の前歯が髪をとかすクシのようになっています。

からだの特徴
大きさはネコ程度ですが、体の大きさはメスのほうが大きく、体色もメスは斑点が明瞭で灰色がかかり、オスは褐色が強くなっています。きわだった特徴の一つは、両顎から4肢、尾の先まで大きな凧のような飛膜を持っていることです。他の滑空する動物は、尾や手が皮翼から出ていますが、ヒヨケザルは指の間にも水かきのような膜があります。そのため滑空能力に優れ、約100mの距離ならば、高度が10〜15%くらい下がる程度で滑空して、手の飛膜を巧みに使って舵を取り着地点をコントロールすることができます。
もう一つ大きな特徴は歯にあります。歯式は門歯2/3、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて34本で他の動物と大差ありませんが、上顎の第一門歯はなく、第二門歯が小さいこと、及び極めつけは下顎の門歯が櫛状になっていることです。この門歯の役割は未だ明確ではありませんが、樹液や葉の汁をこし取ったり、毛づくろいのときに役立っていると考えられています。4肢の長さはほぼ同じで、5本の指がありますが親指は短く、各指にするどく曲がったかぎ爪があります。木を登るときは両足を蹴って体を浮かせ、両手で上方をつかみながらゆっくりと移動します。目は大きく、他の夜行性動物と同様に、瞳孔の奥に反射板があって光を増幅して見ることができ、また両眼が正面を向いているので立体視することができます。ふだんあまり鳴くことはありませんが、アヒルのような声、又はカラカラという声で鳴きます。

えさ
野生では、木の葉、芽、花、果実などで、食べ方は手で手繰り寄せた木の葉を門歯でしごきとって食べます。1日の採食量は少なく、植物を消化するために、盲腸が長く、小腸よりも大腸のほうが長い点はヒヨケザル独自のものです。食べる植物の種類数は10種類程度という報告例があります。水分はぬれた葉をためる程度で足ります。

繁殖
決まった繁殖期はなく年間を通じて出産が見られます。妊娠期間約60日を経て、1回に1頭、まれに2頭の子どもを産みます。赤ちゃんは毛が生えていず、出産時の体重は35g程度です。その後移動は離乳するまで母親の腹の中に抱かれています。生後2ヶ月齢で、母親の糞をなめて体内で植物繊維を分解するのに必要なバクテリアを取り込み、また母親の食べている木の葉の匂いを覚えていきます。生後3ヶ月齢になると、飛膜の外にでて自分で採食します。生後6〜7ヶ月齢で離乳し、親から離れますが、その頃、母親は次の子を妊娠しています。また体の成長は3歳くらいまで続きます。飼育はむずかしく、長期間の飼育例はありませんが、唯一17年半飼育した後で逃げられた記録があります。

天敵
人間以外では、フクロウ、タカなどの猛禽類、ヒョウ、ネコなど肉食獣に狙われています。

マレーヒヨケザル
分類   皮翼目 ヒヨケザル科
分布   インドシナ半島からインドネシアまで
大きさ   体長 34〜42�  尾長 22〜27� 体重 1.0〜1.8kg
絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。
主な参考文献
安間繁樹 著  

ボルネオ島 文一総合出版 2002

安間繁樹 著   熱帯雨林の動物たち 築地書館 1991
今泉吉典 著   世界哺乳類図説 食虫目・皮翼目 新思潮社 1966
今泉吉典監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
今泉吉典監修
D.W.マクドナルド編
  動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
片山龍峯 著    空を飛ぶサル?ヒヨケザル 八坂書房2008
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.1
The Johns Hopkins University Press 1999
Parker, S.P.(editor)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals. Volume 1,
McGraw-Hill Publishing Company 1990
おもしろ哺乳動物大百科13(ツパイ目 ツパイ科) 2009.7.28

ツパイ科
むかしから分類学者たちはツパイをどの目に入れるか悩んできました。当初、虫を主食としていたことから食虫目の仲間に入れていましたが、その後、食虫目は盲腸がないのにツパイには盲腸があるほか、樹上生活をする種類や、脳が大きく視覚が発達している点など霊長類の特徴と一致する点が多く、原始的な霊長類として分類しました。しかし、1965年以降、さらに研究が進み、ツパイが霊長目の仲間と育児方法が違う点などを考慮して、独自の目として分類しはじめ現在に至っています。今泉吉典先生は、1科(ツパイ科)、5属、16種に分類し、このうち4属が昼行性のツパイ属、マドラスツパイ属、ホソオツパイ属、フィリピンツパイ属として、残りの1属は夜行性のハネオツパイ属に分類しています。ハネオツパイは夜間の生活に適応して、目のつくりが夜行性動物と類似し、耳が他の属より大きく聴覚が発達しました。
今回はこれらの中からツパイ属のコモンツパイについて紹介します。

  コモンツパイ 写真家 大高成元氏撮影
コモンツパイ
写真家  大高成元氏撮影
耳と顔がリスとちょっと違うでしょう。

13)コモンツパイ
野生では広いなわばりの中でオスとメス、及びその子どもたちでグループを作って生活しています。オスはこの広いなわばりの中で、ふだんは単独で行動しています。彼らはなわばりの印として、においの強い糞と尿を数箇所に排泄しています。また、胸の部分にある臭腺を木にこすり付けてなわばりの主張をするだけでなく、子どもの体にもこすりつけて臭いを付け、自分の子を識別しています。時々悲鳴のようなキーキーした声を出しますが、捕食者に対する警戒音といわれます。半地上、半樹上生活ですが、日中のほとんどは地上ですごし、水も良くのみ水浴も好きです。

すんでいる場所
海抜1000m以上の熱帯多雨林に、500〜8000�のなわばりをもって住んでいます。多くは木の茂みや、木の洞、木の根元、落ち葉の下などに隠れて生活しています。

からだの特徴
細めのタイワンリスに長い口吻をつけた感じです。全身の毛は柔らかく、尾は体長とほぼ同じ長さで、厚い毛におおわれています。体色は背がオリーブ色から暗褐色、腹部は乳白色から橙赤色です。乳頭は種類ごとに数が違いますが、本種は3対あります。4肢にはそれぞれ5本の指があり、指先にはかぎ爪があります。かぎ爪は虫を探すとき地面を掘るのに役立っています。目は顔の側面にあり、視覚範囲が広く視力も優れています。歯の数は門歯2/3、犬歯1/1、小臼歯3/3、大臼歯3/3、左右上下合わせて合計38本で、上顎の門歯が下顎より計2本少なくなっています。

えさ
えさは、昆虫、ミミズ、小型の爬虫類、ジムカデ類、ヒル類、ナメクジ、果物、木の芽、種子なども食べます。動物園では、昆虫、果物、野菜類、種子類、ミールワームを与えています。

繁殖
繁殖期は、12月に発情して2月に出産するか、2月に発情し4月に出産するケースが多いようですが、一年中出産例があります。妊娠期間は40〜52日、1産で1〜3頭の子を産みます。ツパイの特徴は、2つの巣を作りそれぞれ利用目的に合わせて使い分けていることです。一つはふだん隠れ家として利用し、もう一つは繁殖用に使います。出産時の体重は6〜10g、赤子で耳と目は閉じていますが、生後約10日で耳が、約20日で目がそれぞれ開きます。赤ちゃんは生まれて数分後には母親のお乳を飲みますが、その後、授乳は2日に1回で5分から10分間の授乳を約5週間続けるだけで育つのです。授乳間隔が長いひみつは高栄養価のお乳にあります。ツパイのお乳は、脂肪の含有量が約26%、タンパク質は約10%もあります。ちなみに人間は、タンパク質が1.1%、脂肪が3.5%です。母親は赤ちゃんの世話を霊長類の仲間のようにしないのも特徴のひとつです。生後約3ヶ月で性成熟に達し、約4.5ヶ月で最初の出産をします。飼育下の寿命は約9〜10年ですが、12年5ヶ月の例があります。

コモンツパイ
分類   ツパイ目 ツパイ科
分布   ボルネオ島、マレー半島、スマトラ島、インドシナ
大きさ   体長 14〜23�  尾長 14〜20� 体重 100〜300g
絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。
おもしろ哺乳動物大百科12(食虫目 ハリネズミ科) 2009.7.13

ハリネズミ科
ハリネズミ科について著名な分類学者のコーベット氏は、ジムヌラ亜科とハリネズミ亜科のふたつに分け、このハリネズミ亜科をハリネズミ属、オオハリネズミ属、インドハリネズミ属、そしてアフリカハリネズミ属の4つに分類しています。今回紹介するヨツユビハリネズミはアフリカハリネズミ属に入り、小型でかわいいことから以前よりアメリカを中心にしてペット化が進んでいます。

  ヨツユビハリネズミ 写真家 大高成元氏撮影
ヨツユビハリネズミ
写真家 大高成元氏撮影
額にある白い帯がこの種類の特徴です。かわいいので品種改良した種はペットで人気があります。

12)ヨツユビハリネズミ
アフリカのセネガルから中央アフリカ、そしてソマリアの東まで、中央部を西から東にかけて横切るように生息しています。普通は単独で、サバンナ、草原、やぶなどの砂地や乾燥した地域に住み、沼地や森林にはいません。夜行性で昼間休息するときや繁殖するときは地面に掘った巣穴の中で過ごし、ほかにも木陰や岩穴、草を敷いた上で体を丸めて針で体を防護して休みます。ハリネズミは気温が下がると冬眠して寒さを凌ぎ、暑すぎると夏眠することが知られていますが、本種も外温が約20度を下回ると動きが鈍くなります。非冬眠中の心拍数は毎分280〜320回もあるのに対し、冬眠中は18回程度でゆっくりとした代謝で過ごすことができます。
また、ハリネズミ特有の行動の一つに、唾液を体に塗る行動があります。何のために塗るのか未だ明確な答えはないようですが、唾液の匂いで捕食者から身を守り、あるいは性的な臭腺として使われる、さらにハリネズミは針の間にたくさんの寄生虫がいるのでこれらの寄生虫から守るのではないか、などと推測されています。

からだの特徴
モグラかネズミが背中一面に針をまとったような姿で、大きなハリネズミの背中にはおよそ5000本もの毛が変化した鋭い針があると言われます。皮膚の下には強い筋肉があり、とりわけ周辺部ほど筋力が強いので体を丸めることができるのです。そして、敵に襲われたときに体を丸めると体全体が針におおわれ、相手が手を出せない防護の役割を果たしています。他のハリネズミたちと大きく違うところは、他種は4肢の指がすべて5本ずつあるのに、本種は後肢の指が4本であることや、前頭部に帯状の白い毛が生えているところです。また、手足の力はとても強く丈夫な鉤爪を使って穴を掘ることができます。
歯の数は、門歯が3/2、犬歯が1/1、小臼歯3/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本あります。上顎の左右第一門歯の間は大きな隙間があって、下の門歯がそこに収まります。体温は通常35度ですが、前後2度の日周変化が可能です。視覚は他の食虫目、たとえばモグラのように見えないことはなく、色彩の区別はできませんが、ものを見ることができます。嗅覚と聴覚は発達しており、えさはおもに匂いを頼りにして探します。

えさ
野生では、昆虫類が主食となりますが、ナメクジなど他の無脊椎動物、カエル、爬虫類のトカゲ、ヘビ、小型の哺乳類のネズミ類、その他、卵、果実、キノコなども食べる雑食性です。飼育する場合には、ハリネズミ用フード、昆虫ゼリー、ミルワーム、リンゴ、ミカンを与えます。

繁殖
アフリカ南部では、10月から3月にかけ、妊娠期間34〜37日を経て、1回に1〜10頭(平均4〜5頭の子どもを産みます。赤ちゃんは、体重約10gで、毛が生えていなく、目と耳は閉じています。出産のときあの針は産道に引っかからないか興味があるところでしょう。母親の体内にいるとき針はすでに存在しているのですが、多量の体液で満たされた皮膚の下に埋もれているので、出産のとき針が胎膜を突き破ることなく分娩されるので問題なく、針は分娩後数日以内に出てきます。生後約2週間で毛が生え始め、14〜18日で目が開いてきます。授乳期間は18〜20日間、離乳は生後4〜6週間でその後徐々に母親と離れていきます。飼育下の記録では性成熟は2ヶ月で、メスは1年に数回の出産が可能です。寿命は5〜10年です。

天敵
フクロウ、タカ、キツネ、イヌ、ネコなどの小型の肉食獣に狙われています。

ペットのハリモグラ
ヨツユビハリモグラをペットに改良した品種は、人になれ易い性格に改善され、体色もシナモンやアルビノ、ノーマルなど、さまざまなバリエーションの品種がいます。さらにハリネズミ用のえさの改良なども進み、飼いやすくなっています。
一方で、ナミハリネズミやマンシュウハリネズミが国内で野生化して冬眠し越冬することが確認され、国内の生態系に被害が及ぶと懸念されています。すでにタイワンリスやアライグマほか多くの動物が帰化動物となり各地で被害をもたらしています。ペットで飼う人は最後まで責任を持って飼育してください。

ヨツユビハリネズミ
分類   食虫目 ハリネズミ科
分布   アフリカ(セネガルからソマリア東、アフリカ中部)
大きさ   体長 14〜21�、尾長 1〜2�、体重 200〜300g 飼育した場合、体重は倍増します。
絶滅の危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。
主な参考文献
阿倍永・横畑泰志編  

食虫類の自然史  比婆科学教育振興会 1998

今泉吉典著   世界哺乳類図説 食虫目・皮翼目 新思潮社 1966
今泉吉典監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
今泉吉典監修   動物大百科 6 有袋類ほか 平凡社1986
D.W.マクドナルド編
長坂拓也 著
  ハリネズミクラブ 誠文堂書店 1997
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.1
The Johns Hopkins University Press 1999
Corbet, G. B.&Hill, J. E.   A World List of Mammalian Species (Third edition)
Oxford University Press 1991
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