川口先生のペットコラム
旭化成ホームズ株式会社
Profile
ゾウの先生 川口 幸男

1940年東京都伊豆大島に生まれる。上野動物園飼育課を定年退職後、エレファント・トークを主宰。講演や執筆をしている。講演依頼は、メール またはFax 048-781-2309にお願いします。
NHKラジオ番組夏休みこども科学電話相談の先生でもあり、本編では長年の経験を踏まえて幅広く様々な話題を紹介します。
わんにゃんドクター 川口明子

日本獣医畜産大学卒業、同大学外科学研究生として学び、上野動物園で飼育実習後、埼玉県上尾市にかわぐちペットクリニックを開業する。娘夫婦もそろって獣医師で開業しており、一家そろって動物と仲良くつきあっている。
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タツノオトシゴの話(番外編) 2012.1.1

新年明けましておめでとうございます。
今年も皆々様のご健康とご多幸を祈念いたします。

今年の干支(十二支)が辰なのは知っていますね。 

それでは、今年は干支の12種類の動物の順番がどのようにして決まったか、そしてタツとはどんな動物なのか、そのエピソードを紹介しましょう。

暮れも押し迫った冬の寒い日、神様が動物たちに言いました。
「うふぉん、元旦にこの神殿に早くお参りした12頭を、来年から1年ずつ順番にその年のリーダーとしよう!」
これを聞いたみんなは大騒ぎです。何しろリュウやトラ、ネコ、ネズミまでこの話を聞いていたからです。そこで動物たちは、元旦に我こそは一番になろう、と思いながら帰りました。
ネコは帰ってから一眠りしているうちに、いつ集まるのか忘れてしまいました。そこでそっとネズミに聞きました。
「ネズミ君 神様は何時来るように言ったんだっけ」
すると、ネズミは、
「正月、2日の朝と言っていたじゃあないですか」
と答えました。
元旦、夜明け前なのに牛さんが神殿に向かって、僕は歩きがのろいから早めに出なきゃあね、とつぶやきながら歩いています。それを見たネズミはぴょんと牛の背中に飛び乗りました。そして、神殿の門まで来ると飛び降りて中にかけこみ一番になったのです。
ネズミにだまされたネコは翌日の2日朝早く到着し、神様から
「ワシは元旦に集合と言ったはずだぞ。さてはネズミにだまされたな」
と笑われました。
これを聞いたネコはそれいらい、ネズミを追い回すようになりました。早起きのニワトリの声を頼りにぐっすり寝ていたイヌとイノシシはニワトリが朝寝坊したので、ようやく間に合ったそうです。
そして、ネズミ、ウシ、トラ、ウサギ、タツ、ヘビ、ウマ、ヒツジ、サル、ニワトリ、イヌ、イノシシの順に12頭の動物が指名されました。

じつは十二支の中にひとつだけ現実には存在しない空想の動物がいます。

  空想上のタツは迫力満点のモンスターですが、こちらはやさいしい感じでほのぼのとしますね。
空想上のタツは迫力満点のモンスターですが、こちらはやさいしい感じでほのぼのとしますね。
写真家 大高成元氏 撮影
   
それが今年の干支「タツ」です。タツは竜とも呼びますが、あるときは空をおおうほどの大きさになり、水中に潜り、空も自在にかけめぐることができるウルトラモンスターです。中国では昔からリュウの存在を認め、王様の生まれかわりとして崇められていました。そこでこのリュウも入れようという事になったのです。
日本でも神社仏閣などでリュウの絵や彫刻がありますが、どんな動物がモデルかわからないと思います。それもそのはず一つの動物をモデルにしたのではなく、以下の9種類の動物がモデルとなっているのです。
(1) 頭はラクダ (2) 目はオニ(又はウサギ) (3) 角はシカ (4) 耳はウシ (5) うなじはヘビ (6) 背中はサカナ (7) おなかはミズチ(想像上の大蛇。進化して竜となる、と言われる (8) 手のひらはトラ (9) 爪はタカ、を合わせて作っています。日本で描くリュウ(竜)は3本指が多いのに対し、中国で一番位の高いのは5本指です。
また、食べ物はツバメの肉と宝石が好物だそうですが、ツバメの巣は現在も高級食材の一つとして使われているのでわかりますが、お肉はどうなんでしょうね。きらいなものは鉄、そりゃあダイヤと鉄でどちらをとるか言われたら、ダイヤだろうね。その他、ムカデや笹もきらいだそうです。
西洋にもドラゴン神話がありますが、こちらは背にコウモリのような翼をもち、口から火や毒を吐くと言います。姿かたちも、西洋のドラゴンは恐竜時代のティラノザウルスに翼が生えたようなタイプで、アジアの大蛇タイプと違います。

十二支の役割
今からおよそ3,500年前に中国で作られたカレンダーと考えられ、すでに太陽や月を観察して1年の長さを発見していた中国は、12区分し人々が生活の目安となるようにしたのです。そして、まだ字が読める人が少ない時代ですから、覚えやすいように身近にいる動物名を付けました。その後、日本には約1,400年前に伝来しました。

タツノオトシゴ(竜の落とし子)
魚綱 トゲウオ目 ヨウジウオ科 日本近海及び朝鮮半島南部
タツのモデルになりそうなこの魚は、大きさが約10cmで餌は動物プランクトンです。ふつうの魚にある腹びれや尾びれがないため、胸びれと背びれを使って泳ぎます。そのため立ったまま泳ぐようなかっこうになり、早く泳ぐことができません。また、オスがおなかに子どもを育てる袋(育児のう)を持っていて、メスはその中に輸卵管(卵を通す細長い管)をさしこみ産卵します。オスの育児のうの中で孵化(ふか)したこどもは卵黄を栄養にしてその中で育ち、体長が8~9mmになると育児のうから出ます。外に出た子どもはすぐに泳ぎ、近くにある海藻に尾があたると巻きつけて静かにしているそうです。
タツノオトシゴのなかまは、このほかに熱帯から亜熱帯の海に30~40種すんでいることが知られています。

おもしろ哺乳動物大百科69(食肉目 クマ科) 2011.12.16

クマ科
最近の分類では5属8種、7属9種とする学者もいますが、このシリーズは基本的に今泉吉典博士の分類に従っているので次の6属、(1)メガネグマ属 (2)ツキノワグマ属 (3)クマ属 (4)ホッキョクグマ属 (5)マレーグマ属 (6)ナマケグマ属について概説していきます。
メガネグマ、ツキノワグマ、マレーグマ、ナマケグマ各属では毛は黒く、前胸部にツキノワ(月の輪)と呼ばれる白斑(はくはん)を持っている種類が多いのに対し、他の属ではほぼ単色となっています。分布域は南米にメガネグマ属がいるほかは、北極から北米、ヨーロッパ、アジアと北半球の広範囲に生息し、オーストラリア、アフリカ及び南極にはいません。生活圏は北極、ツンドラ、高山、森林から低地の森林、山間部など200~4,700mの空間で生活しています。北極のような寒冷地から暑さの厳しいアジアまで生息しているため体のつくりも多様で、それぞれの生活圏に適応し、皮下脂肪の厚さ、毛質、餌などに差が見られます。北にすむ種類は冬眠(冬ごもり)して、その間に受胎しているメスは出産しますが、暑い地方のクマは冬眠をしません。歩行の仕方にも特徴があり、人間と同様に足の裏をかかとまで地面につけて歩く蹠行性(しょこうせい)です。北方系のクマは肉食傾向が強いのに対し、温暖な地方のクマは植物質を主食とした雑食性です。イヌやネコに比べると腸は長いのですが、盲腸はありません。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本ですが、ナマケグマ属では上顎の門歯が1対少ないため総数は40本です。

メガネグマ属
1属1種でメガネグマがいます。メガネグマは南米に生息する最大の肉食獣で、アンデスの4,000m級の高地にも生息する種類として知られています。体格はニホンツキノワグマ程度ですが、体色が違い、目の周りに白い模様があることからこの名前が付けられています。また、木登りも上手で、豊富な果実類や生息場所によってはサボテンなども重要な食料源となっています。熱帯雨林から海岸沿いの砂漠まで様々な環境で生活しています。冬眠はしません。

  メガネのツルがない、などとヤボなことは言いっこなし。
メガネのツルがない、などとヤボなことは言いっこなし。
写真家  大高成元氏 撮影
   

69)メガネグマ
南アメリカのベネズエラ西部、コロンビア、エクアドル、ペルーからボリビア南部にかけてのアンデス山脈の主として太平洋側に生息し、ペルーでは沿岸に沿った砂漠で潅木のある場所にもいます。湿度の高い森林を好み、沿岸の水辺では棘植物の生えている地域に住んでいます。ペルーのアンデス山脈における調査例では、標高457~3,658mで生息していますが、1,900~2,350mの湿潤な森林を好むとしています。成獣は交尾期以外において単独生活が普通ですが、トウモロコシ畑とサボテンが豊富な所で、9頭も集まって採食しているのが報告されています。ボリビアの調査例では、昼行性で夜間9~12時間寝て日の出と共に起きる、と報告しており、昼行性の理由として主食が植物質なのであえて夜行動することもないとしています。一方で、ペルーの調査例によれば、夕暮れから夜活動する夜行性で、昼間は地上や樹上に作った巣や洞穴で休んでいるとの報告もあることから生活環境によって活動時間が違うのかもしれません。木登りは上手で15~30mの樹上に巣が見られることや果実を採るのも見られています。行動圏の報告は限られていますが、狭いもので約10km2、最大で150km2程度と推測されています。オスはメスより広い行動圏を持ち、餌が豊富にある場所に集まり、雌雄の行動圏は一部重複しています。豊富な餌を求めて季節により高地と低地の間を移動します。

からだの特徴
体色は全体に黒か暗褐色、目の周囲と頸部の全面が白色で、胸部まで伸びています。模様は一様ではなく、顔が黄白色や模様のない個体もいます。体長は120~180cm、体高70~80cm、尾長約7cm、体重はオスで130~175kg、まれに200㎏、メスは35~65kgです。からだは頑丈で4肢は短く各肢に5本の指があり、鋭い鉤爪は木登りや穴を掘るときに使います。臼歯は扁平で植物をすりつぶすときに役立っています。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。乳頭数は2対です。

えさ
アナナス(パイナップル)科の芯、ヤシの葉柄、イチジク、イチゴ、竹の芯、サボテンの実、ミミズ、昆虫、ハチミツ、げっ歯類など小型の哺乳類、まれにビクーニャ、ラマ、シカや放牧している家畜を襲いますが、動物質は約4%です。砂漠ではサボテンも食べ、エクアドルでは20~30mの高さのシュロの木に登り、新芽を食べることも報告されています。総数で83種類の食べ物を食べた報告があります。

繁殖
交尾期は3~6月や6~8月の報告があり、動物園では12月下旬から3月の報告例もあることから、冬眠しないことを合わせて考えると年中繁殖できるのかもしれません。メスの発情は3~14日間続き、この時は外陰部が腫脹し、頻繁に鳴きます。着床遅延するので、妊娠期間は160~210日間と大きな幅があります。ベノスアイレスの動物園における出産は6月、ヨーロッパの動物園では12月下旬から3月と報告されています。産子数は1~2頭、まれに3頭が巣穴の中で生まれます。新生児の体重は250~370gで、歯は生えていず、目は閉じていますが、生後4~6週齢で開きます。生後3ヶ月齢ころまでは安全な巣穴で過ごします。生後8ヶ月齢までは母親と一緒に生活します。性成熟はメスが4~7歳、オスは平均5歳です。 長寿記録としては、ローマ動物園で1991年7月11日に死亡した個体の飼育期間38年4ヶ月、推定年齢39歳という記録があります。

外敵
成獣は人間以外には外敵はいないと考えられますが、子どもはピューマとジャガーだけでなく、メガネグマのオスの成獣にも襲われます。

生息数減少の原因
農地や家畜を飼育するための牧草地を拡大したことで大幅に生息域が減少し分断されたことが、生息数減少の大きな原因の一つです。加えて、以前より行われていた毛皮や肉、薬用にするための密猟による捕獲も引き続き行われており懸念されています。各地における国立公園の保護区内で一部保護していますが、ベネズエラでは数が減少し、絶滅が心配されています。また、世界の動物園は国際血統登録対象種としてメガネグマを認定し、絶滅を防ぐべく繁殖プログラムを作り、国際間のブリーディングローンを実施しています。

メガネクマ
分類   食肉目 クマ科
分布   南米のベネズエラから太平洋岸沿いにボリビアまでの主にアンデス山脈に生息。
大きさ   体長(頭胴長)    120~180cm
体重            オス130~175kg   メス35~65kg 
尾長            7cm     
肩高(体高)     70~80cm
絶滅危機の程度   生息地の減少、分断あるいは密猟などにより、生息数の減少が続いていることから、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。このような減少がこれからも続くようであれば、さらにランクが上の絶滅危惧種(EN)に指定されるおそれがあると懸念されています。 野生での調査が十分におこなわれていないために、正確な生息数は不明ですが、13,000~25,000頭ぐらいではないかといわれています。

主な参考文献
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
今泉吉典 監修   D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉類 平凡社 1986 
林壽朗   標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981
川口幸男   クマ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育2 食肉目: 今泉吉典 監修
(財)東京動物園協会 1991  
Parker, S.P.(ed)   Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Nowak, R. M.   Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed)   Handbook of The Mammals of the world, 1. Carnivores,
Lynx Edicions 2009

おもしろ哺乳動物大百科68(食肉目 イヌ科) 2011.11.28

リカオン属
本属は1属1種 リカオンのみです。ドールはアジアで多くの草食獣たちから強力なハンターとして恐れられていますが、アフリカでは同じイヌ科のリカオンが同じ立場にあります。幅広い頭骨には強い歯が収められ、鋭い犬歯と裂肉歯が発達しているため吻が短くなっています。動物たちが群れをつくる場合、ふつう母系集団として群れに残るのは母と子どもですが、リカオンの場合はメスが群れを出ます。狩りは父系家族を中心とした血縁関係のある群れでパックと呼ばれる集団で行います。パックは共同して狩りを行うため捕える成功率もほかの動物より高く43%や70%に達する地域もあります。また、雌雄の大きさがあまり変わらないのも特徴の一つです。
それではアフリカの強力なイヌの集団、リカオンについて紹介していきましょう。

68)リカオン
リカオンはアフリカのサハラ砂漠から南側、通常草原やサバンナの疎林で生活していますが、半砂漠やキリマンジャロ(5,894m)の頂上付近で5頭のパックを見た、などの報告もあります。平均10頭程度の群れですが、20頭、40頭、60頭などさらに大集団のパックも報告されています。 群れのメンバーは血縁関係のあるオスの数がメスの2倍以上になります。メスは外部から群れに入りますが複数の成獣メスがいる場合、両者に優劣の順位があり、通常の繁殖は優位ペアに限られます。もし、他のメスも出産した場合は、劣位メスの育児を妨害し、時には殺すことさえあります。パックのメンバーは雌雄が協力して育児をしますが、狩りから戻って肉を吐き戻して与えるのは、ふつう優位のメスの子どもに限られます。構成メンバーはタンザニアのセレンゲテイ国立公園における調査によれば、平均10頭(1~26頭)で、成獣の内訳はオスで平均4頭(0~10頭)、メスは平均2頭(0~7頭)でした。行動圏は南アフリカでは約3,900km2、セレンゲテイでは1,500~2,000km2の調査例があり、獲物が豊富な時は狭くなります。また、繁殖期には50~200km2と縮小しています。
行動圏内の10~50%は隣同士で重複し、明確ななわばりはないようです。狩りのピークは早朝の7時から8時と夕方6時から7時です。獲物は視覚でその場所をつきとめてから、静かに接近して追いかけて捕えますが、10~60分間の追跡の間、最高時速66kmで走り、5.6kmならば時速約50kmを持続できます。狩りの成功率はセレンゲテイ国立公園で43%と70%の調査例があり、捕えてから5分以内に殺します。巣はツチブタやイボイノシシなどの古い巣を利用し、繁殖のときだけ使い、その他のときは行動圏内を移動しながら狩りを続けます。子どもたちはパックの成獣のメンバーから、行動圏、水場、獲物が多いところやシマウマの捕え方などを学びます。そのため他のパックが獲物にしていても、その群れが経験がないと獲物から外れる動物もいます。コミュニケーションは、体を使った威嚇や攻撃、降参のロコモーションや、音声では「ミュー・クー」という鳴き声は数km先まで届きます。その他、マーキングは発情期のオスが交尾したときに排尿するほか、繁殖したメスが巣穴な周辺に頻繁に排泄して行います。

  ハワイのホノルル動物園では群れで飼育しており、体の模様が美しく感動しました。それでも 多くの草食獣にとっては怖い猛獣です。
ハワイのホノルル動物園では群れで飼育しており、体の模様が美しく感動しました。それでも 多くの草食獣にとっては怖い猛獣です。
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
体色は背から腹部にかけて黒と黄褐色が不規則に混ざっています。顔は口吻から額は黒で、尾の基部は黄土色から黒くなり先端は白です。高地に生息するリカオンは被毛が密と考えられますが、サバンナに生息するものは、被毛が短くうすいので暑い気候に適応しています。4肢は細くて長く、前後肢の指は4本で、オオカミ爪(狼爪)はありません。耳は長く大きくて、丸みを帯び、短い毛が生えています。乳頭数は6~7対で個体差があります。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本で、下顎の第3臼歯は小さいですが、犬歯と第4前臼歯は細く鋭くなっており、肉食に適応しています。体長76~112cm、体重17~36kgで、オスはメスよりやや重い程度で、あまり体格差はありません。

えさ
獲物は地域によって異なります。パックの場合は、ザンビアのカフューバレーではブッシュダイカーとリードバック、南アフリカのクルーガー国立公園ではインパラ、セレンゲテイ国立公園ではトムソンガゼルとヌ―、まれにシマウマなどが主な獲物となります。しかし単独個体の場合は、ノウサギ、トビウサギ、ネズミのなかまなど小型の哺乳類を捕ります。少量の草は食べますが、草木や昆虫は食べず、腐肉もまれに食べる程度です。

繁殖
繁殖は9月以外1年中見られますが、ピークは3~6月の雨期で全体の約60%がこの時期にみられます。クルーガー国立公園の場合は5~6月が繁殖期といわれています。出産間隔は11~14ヶ月ですが、子どもが全て死亡した場合には出産間隔が短縮して約6ヶ月後に出産します。妊娠期間は60~80日間です。1産平均10頭(6~16頭)ですが、飼育下では4~8頭です。赤ちゃんの体重は300~350gで、目は閉じており、生後約13日齢で開きます。生後3週齢ころ巣穴から出て固形物も食べ始めます。ふつう母親は立ったまま授乳し、離乳は生後11週齢ころです。体色は生後7週齢頃から成獣の模様に変わり始めます。生後3ヶ月齢頃からパックの仲間と一緒に行動しはじめ、生後9~11ヶ月齢では獲物を殺せるようになります。オスの初めての交尾は生後21~60ヶ月齢、メスの初産は生後22ヶ月齢でした。性成熟は生後12~18ヶ月齢です。その後、メスは生後18~24ヶ月齢で群れを離脱し、血縁のない未成熟のメスのパックに合流します。通常メスは2.5歳までパックに残る者はいないのに対し、オスは約10年間そのまま残り、新しくパックを作るときは兄弟で離脱し作ります。
長寿記録としては、カザフスタンのアルマ・アタ動物園で1986年1月20日に死亡した個体の15歳1ヶ月という記録があります。

外敵
最も多いのはライオンに襲われる例で死因の10%を占め、ハイエナによるものは2%という報告があります。ヒョウや猛禽類に時々子どもが襲われます。

リカオン
分類   食肉目 イヌ科
分布   アフリカ サハラ砂漠以南~南アフリカまで
(かつてはサハラ砂漠以南全域に広く分布していましたが、現在は下記の国々に分散して生息 するだけです。
ボツアナ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、エチオピア、ケニア、モザンビーク、ナミビア、セネガル、ソマリア、南アフリカ、スーダン、タンザニア、ザンビア、 ジンバブエ)
大きさ   体長(頭胴長) 76~112 cm
体重    17~36kg
尾長    30~41cm     
肩高    61~78cm
絶滅危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、絶滅危惧種(EN)に指定し、近い将来、野生では絶滅の危険性が非常に高いとしています。
その背景には、過度の開発により生息域が縮小し分断されため、国立公園以外は生息が困難になっていることがあります。そのほか家畜を襲う害獣としてハンティングされるほか、飼育しているイヌの病気が感染して死亡するケースも報告されています。ジステンパーは1906年に東アフリカに持ち込まれ、リカオンが罹患した報告があります。
現在はセレンゲティ国立公園とクルーガー国立公園で動植物が保護されており、この地域のリカオンや他の動植物たちは恩恵を受けています。

主な参考文献
Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed)   Beacham's Guide to International Endangered Species Vol.2 Beacham Publishing Corp., Florida. 1998
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991 
H ・バン・ラービック /  J・グドール / 藤原英治=訳   罪なき殺し屋たち 平凡社 1972
今泉吉典 監修   世界の動物 分類と飼育2 食肉目 (財)東京動物園協会 1991 
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
  動物大百科 1 食肉類 平凡社 1986 
今泉忠明   野生イヌの百科  データハウス 1993  
Nowak, R. M.   Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Parker, S.P. (ed)   Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 4, McGrow-Hill Publishing Company 1990
Sillero-Zubiri, C., Hoffmann, M. and Macdonald, D.W. (ed).   Cnids : Foxes, Wolves, Jackals and Dogs. - Status Survey and Conservation Action Plan. IUCN. 2004.

おもしろ哺乳動物大百科67(食肉目 イヌ科) 2011.11.11

ドール属
本属は1種・ドールのみですが、生息域が広く地域によって10亜種に分類する学者もいます。ドールは鋭い犬歯と強い裂肉歯(上顎の第4前臼歯と下顎の第1臼歯)をもち、群れで生活し、獲物を集団で襲うため草食獣にとっては恐ろしい天敵となります。ミャンマーに行ったとき、ドールにはヒョウやゾウ、ガウルの子どもたちも狙われるので、その気配を察すると逃げる、と言っていました。

67)ドール
シベリア南部、カザフスタン東部からインド、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、チベット、中国、朝鮮、ロシア、マレー半島、スマトラ島、ジャワ島に生息しています。砂漠以外の広域に生息し、ロシアでは主に山岳地帯、インドでは密林や叢林、タイでは標高3000m級の高山、そしてチベットの標高1800~5800mの高山などに生息しています。パックと呼ばれる家族を中心とした群れは、通常5~12頭、まれに20~40頭の群れでくらします。パックがいくつか集まった集団をクランと呼びますが、40頭にもなる大きな集団はクランの可能性もあると指摘する報告もあります。巣は自分で掘るものから、ヤマアラシなど他の動物が使った穴、岩の割れ目などを利用します。調査した中には、少なくとも30mに及ぶ迷路のような穴があり、そこには4つの大きな部屋と6ヶ所の出入り口がある巣が発見されました。おもに早朝と夕方に活動しますが、時には夜間にも狩りをおこないます。南インドにおける調査例では行動圏は約40km2で、子育ての時期には約11km2と大幅に狭くなったと報告されています。鳴き声はコミュニケーションにおける重要な方法の一つで、狩りの出発や失敗したときに集合の合図に使いますが、イヌのように吠えることはしません。狩りは獲物の匂いを頼りに追跡し、追いつくと四方八方から攻撃します。彼らはトラ、ヒョウ、クマなどと食物の取り合いで競合し、彼らを追い払うことがあります。臭腺が指間と肛門部にあるため、排便や歩行するときの匂いから情報を得ることができます。

  こんな鋭い目つきでにらまれたら・・・おそろしや、ああ 恐ろしや、だね。
こんな鋭い目つきでにらまれたら・・・おそろしや、ああ 恐ろしや、だね。
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
ドールは別名をアカオオカミと言われるように、背面が赤褐色をおびています。毛色は生息地により差がありますが、背面以外の部位では、胸と腹部および4肢の内側は淡褐色か黄白色、尾は黒く、その先が白くなることもあります。北方産の個体は冬季には下毛が密になり、上毛も長くなりますが、夏毛に換毛すると短く粗く冬毛のようにきれいな赤褐色にはなりません。耳の形は丸みを帯びて大きいことから、聴覚も発達していると考えられます。4肢はタイリクオオカミに比べ短く、前足の爪は4本で、口吻も短く、全体的にがっしりとしています。歯式は、門歯3/3犬歯が1/1前臼歯4/4、臼歯2/2で左右上下合わせて40本で、下顎の第3臼歯を欠いています。乳頭数6~8対です。

えさ
獲物は自分たちより大型の草食動物が多く、インドではアキシスジカが主な獲物です。その他、各地の報告によれば、サンバー、アキシスジカ、ヌマジカ、エルドジカ、ジャコウジカ、ニルガイ、マーコール、タール、ヤギ、スイギュウ、ガウル、アナグマ、ヨーロッパイノシシ、ネズミのなかまなどが報告されています。ガウルやスイギュウの場合は主に子どもが狙われます。そのほか小型の爬虫類、昆虫、漿果、ヒョウやトラの残した腐肉なども食べます。

繁殖
インドでの交尾期は9月から1月で、出産期は11月から3月です。飼育下のモスクワ動物園の場合、出産は2月でした。繁殖は優位なペアのみが行い、出産した母子には、パックのメンバーが狩りから帰ってくると、食べた獲物の肉を吐き戻して、巣に残っている母親と子どもに与えます。他にも、子どもの防衛、移動、なめる、他食べ物を運ぶなどで次の子どもができるまで育児に協力します。メスの発情期間は14~39日、妊娠期間は60~67日。産子数は通常4~6頭です。出産時の赤ちゃんの体重は、200~350g、赤ちゃんは黒っぽく生後14日齢で目が開き、生後3ヶ月齢で大人の毛色に変わります。生後3週齢から吐き戻された肉を食べ始めますが、授乳は生後2ヶ月齢頃まで続きます。生後70~80日齢で巣を出て、生後5ヶ月齢でパックのメンバーと一緒に行動し、生後8ヶ月齢頃になるころ本格的に狩りに参加します。性成熟は生後約1年です。
長寿記録はとしては、オーストラリアのタロンガ動物園で2000年10月20日に死亡した個体の16歳1ヶ月という記録があります。

外敵
野生での外敵は人間以外ほとんどいませんが、赤ちゃんが猛禽類に狙われることがあります。また、ヒョウの糞中にドールの毛が発見されたとの報告もあります。

ドール
分類   食肉目 イヌ科
分布   西はカザフスタン東部、アフガニスタン、インド、北はアムール川およびウスリー川流域からモンゴル、中国、朝鮮半島、東南アジア一帯とスマトラ島、ジャワ島まで。
大きさ   体長(頭胴長) オス・メス  88~113cm
体重    オス  15~20kg   メス 10~13kg
尾長    オス・メス  40~50㎝     
肩高    オス・メス  42~55cm
絶滅危機の程度   生息環境の破壊による生息地の分断、餌となる草食動物の減少、イヌの伝染病に罹患、ハンターによる射殺、さらに、住民による毒殺が生息数減少の主要因とされています。
IUCN(国際自然保護連合)発行の2011年版のレッドリストでは、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い絶滅危惧種 (EN)に指定されています。
ネパールのチタワン国立公園、インドのコーベット国立公園ではトラの保護区と重なるために、ドールの亜種の保護につながっています。

主な参考文献
Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed)   Beacham's Guide to International Endangered Species Vol.1 Beacham Publishing Corp., Florida. 1998
Cohen,J.A.   Mammalian  Species  No.100. Cuon  alpinus.
The American Society of  Mammalogists  1978. 
今泉忠明 監修   世界の動物 分類と飼育2 食肉目 (財)東京動物園協会 1991 
今泉忠明   野生イヌの百科  データハウス 1993  
今泉吉典 監修   動物大百科 食肉類 平凡社 1986  
Nowak, R. M.   Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Parker,S.P.(ed) Grzimek's   Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill PublishingCompany 1990.
インターネット   横浜動物園ズーラシア、他

おもしろ哺乳動物大百科66(食肉目 イヌ科) 2011.10.26

ヤブイヌ属
本属は1種・ヤブイヌのみで、イヌ科の中で最も原始的な種とされています。体の特徴として、胴長で体高が低く、吻が短いこと、及び、指の間には水かきがあり、歯の数が少ないなどの特徴があります。これらの特徴を生かした独特な生態が見られます。藪の中で前方を向いた姿勢のまま、走って後退することができるヤブイヌについて、もう少し詳しく紹介しましょう。

66)ヤブイヌ
中央アメリカのパナマ東部から、南アメリカのコロンビア、ベネズエラ、ギアナ、ブラジル、ペルー東部、ボリビア東部、パラグアイ、アルゼンチン北東部と広域に生息しています。生息環境は、森林や草原で、行動域は3.8~10.0km2におよび、とりわけ林縁や川の周辺、沼沢地などの水辺を好みます。
泳ぎや潜水が上手で、アマゾン川支流のネグロ川やベネズエラのカウラ川を泳いで渡る姿が観察されています。群れの大きさは2~12頭でパックと呼ばれ、群れの中で一番優位なペアのみが繁殖にかかわり、群れの他のメンバーは、子どもの防衛、移動、なめる、食べ物を運ぶなどで次の子どもができるまで育児に協力します。
基本的に夜行性ですが、動物園では昼夜を問わず活動しています。巣は、自分で掘った穴、倒木の幹、岩の割れ目、アルマジロが使った穴などで休息や出産をします。
尿によるマーキングの仕方は、オスがイヌのように片あしをあげて排尿するのに対し、メスは逆立ちをして行います。排尿位置により、個体の大きさや発情の有無の情報を得ているのでしょう。
声によるコミュニケーションは10種類に分けられ、このうち子どものクーンクーンという悲しそうな鳴き声の音域は670~880Hz(ヘルツ)、成獣の短い鳴き声は450~1790Hzです 。

  雰囲気がペットのイヌと違い、いかにも野生動物の感じがしますね。
雰囲気がペットのイヌと違い、いかにも野生動物の感じがしますね。
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
肢と尾が短く、耳は丸く小さくて、体高が低く小柄でがっしりとした体形は、イヌよりむしろアナグマに似ています。
体色は暗褐色から黄赤色まで幅がありますが、一般には、全体が暗灰褐色で、腹部、四肢、尾は黒く、短く粗い毛が生えています。顎の先端部、喉はうすく白っぽくなっています。顔は黄褐色で特徴になるような斑紋はありません。
水かきがあるために水生生活に適応し、季節に関係なく泳ぎ、小川の周辺の柔らかい土の上も楽に歩けます。歩幅(ストライド)は約28cmとの報告があります。
歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯1/2で左右上下合わせて38本です。多くのイヌの仲間より、上下の大臼歯が1対少なく、裂肉歯も鋭いことが大きな特徴です。乳頭は4対です。
肛門腺は長円形で大きく長さが2.3cm、幅が1.8cmの調査例があります。

えさ
基本的には肉食性で、アグーチ、パカ、カピバラ、その他の小形のネズミなどのげっ歯類、鳥、ヘビ、エビ、カニ、魚介類が主な食べもので、時には果物などを食べることもあります。
群れで協力して狩りをおこないシカ、ペッカリーそして、アメリカバクも餌食になった記録があります。大きな獲物を捕えるときは川に追い込み、水中で捕まえる方法や、穴を掘って潜んでいるアルマジロなどの場合は、穴の入口から入る個体と獲物の逃げ道で待ち伏せする個体が役割を分担して捕まえるやり方など、獲物の生態に応じて狩りを行います。
飼育下では、馬肉や鶏頭、イヌ用のペレット、卵、果物を与えています。

繁殖
メスは繁殖期の間に周期的に発情を繰り返す多発情ですが、これは他のイヌ科では見られない独特の生理です。野生では雨期(10月から3月)が繁殖期ですが、飼育下では年間を通じて出産例があります。発情は平均で4.1日続きますが、飼育下の発情は1~12日続き、15~44日の間隔で見られました。また、1年間で発情が4回と7回のケースがあったとの報告もあります。
もっとも早い妊娠は生後10ヶ月齢で、オスの最速の繁殖行動は生後12ヶ月齢でした。妊娠期間は平均で67日(65~83日)、1産3~6頭で最高10頭の産子数の報告があります。出産間隔は平均238日です。
生まれたばかりの赤ちゃんは体重125~190gで、目は閉じており、開くのは生後14~19日齢です。子どもが巣穴から初めて出るのは、生後2.2週齢です。生後40日齢で476~546gとなった報告があります。生後13~27週齢まで授乳します。性成熟は生後14~18ヶ月齢です。
長寿記録としては、イギリスのトゥワイクロス動物園で2000年5月11日に死亡した個体の14歳1ヶ月という記録があります。

外敵としては、アマゾン流域のある地域では人間によって殺されます。成獣のヤブイヌの死体のそばにピューマやジャガーの足跡が見つかっています。

ヤブイヌ
分類   食肉目 イヌ科
分布   中央アメリカのパナマ東部から南アメリカ中部
大きさ   体長(頭胴長) 60~75cm
体重     5~7kg
尾長    12~15cm     
肩高     約30cm
絶滅危機の程度   生息域が広く、最近の繁殖可能個体が15,000頭以下と推定され、現在は絶滅の危機は少ないと考えられているので、IUCN(国際自然保護連合)発行の2010年版のレッドリストでは、準危急種(NT)にランクされています。
しかし、南米もまた開発が進み、生息地の減少と消失が続いているので注意深く経過を見守る必要があります。

主な参考文献
Beisiegel,B.M, and Zuercher,G.L.   Mammalian Species No. 783. Speothos venaticus.
The American Society of Mammalogists 2005.
今泉吉典 監修   世界の動物 分類と飼育2 食肉目 (財)東京動物園協会 1991 
今泉忠明   野生イヌの百科  データハウス 1993  
今泉吉典 監修   動物大百科 食肉類 平凡社 1986  
Nowak, R. M.   Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Parker, S.P. (ed)   Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company .1990.


おもしろ哺乳動物大百科65(食肉目 イヌ科) 2011.10.13

タテガミオオカミ属
イヌ科の中でタヌキが短足ならば、タテガミオオカミはその反対に細長い脚が特徴です。本属は1種タテガミオオカミのみで、亜種はいません。4肢が長いのは草原で獲物を捕るとき、飛び上がって上から獲物を押さえこむのに有利で、進化の過程で草原に生きる体形に変ってきたと考えられています。また歩行の仕方が、キリンやラクダと同様に、左の前肢と左後肢を同時に出して歩行する側対歩と呼ばれる歩行方法も、食肉目の中では珍しい習性です。この歩様は生後、最初の歩行時から見られます。タテガミオオカミは腎臓に腎虫(じんちゅう)が寄生しますが、ロベイラというナス科ナス属の実を食べて、この寄生虫を殺すと言います。ロベイラは1年中実がなり、「オオカミの実」とも呼ばれ採食する果実の大半を占めると言われます。

65)タテガミオオカミ
タテガミオオカミはブラジル中央部から東部、ボリビア東部、パラグアイ、アルゼンチン北部、ペルー東部の草原や低木林、沼沢地、森林に生息しています。夜行性ですが活動のピークは夕暮れ時です。繁殖期になると一夫一妻(1雌1雄)のペアーを形成しますが、それ以外は単独で生活しています。行動域は30~40km2で、一部は重複しています。メスよりオスの方が活発に活動し、繁殖期には頻繁に匂いつけをします。鳴き声によるコミュニケーションは、単発で喉の奥から出す声、主に日暮れ時に聞かれるハイピッチですすり泣くような声、そして敵対行動のおりに出すうなり声が報告されています。

  本文に「長い4肢が特徴です」と書きましたが、写真をご覧になれば一目瞭然でしょう。
本文に「長い4肢が特徴です」と書きましたが、写真をご覧になれば一目瞭然でしょう。
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
肩部にタテガミのような直立した黒く長い毛が生えていることが名前の由来となっています。全体的には、淡黄色がかった赤で、4肢と鼻端、たてがみは黒く、顎の下、耳の内側、尾の先は白です。毛は他のイヌ科のなかまより柔らかいのですが、下毛はありません。指先と指球を地面につけて歩く指行性で、前肢に5本、後肢に4本の指があり、指球の第3と第4が癒合していることで、地面に着く面積は広くなり湿地帯での活動を助けています。耳は3角形で約17cmと大きいことから、聴覚に優れ、餌となる小型動物の音を聞き取るときや、他個体の鳴き声を聞くときに役立っている、と考えられます。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯2/3で左右上下合わせて42本で、オオカミと同じですが、上顎の門歯は弱く、同じく上顎の第4前臼歯(裂肉歯)も小さくて、犬歯は細く長くなっています。これは肉と植物質が半々という食性に関係しているのでしょう。肩高が74~90cmもあり、頭胴長95~132cm、体重20~26kgで、背が高くほっそりした体形は、草原や低木林の間を素早く駆け抜けるのに適応しています。

えさ
雑食性でネズミ、アルマジロ、ウサギ、鳥、爬虫類、昆虫、果実、他の植物などが挙げられています。上野動物園の飼育例では、馬肉、鶏頭、バナナ、アボカド、ラットなどを中心にした餌を1日1回給与していたと報告されています。飼育する場合には、どの動物園でも肉類のほかにバナナが主要な餌のひとつとしてよく使われているようです。

繁殖
飼育下の出産例によれば、交尾期は北半球では10月から2月、南米では8月から10月です。出産用の巣は身近にある茂みや背の高い草の陰に作ります。発情は5日間続き、妊娠期間は62~66日、1産で2~5頭を出産しますが、7頭の記録もあります。出産時の赤ちゃんは黒い毛で被われていて、体重は340~430g、目と耳は閉じていますが、目は生後8~9日齢で開き、耳は生後約4週齢でピンと立ちます。体色は生後10週齢で黒から淡黄色がかった赤色に変わり、成獣と同じになってきます。しかし、4肢はまだ成長が続き、成獣のように長くなるには約1年かかります。生後4週齢で吐き戻した餌を食べ始めます。授乳期間は生後約15週齢です。飼育下では父親は育児に協力し、出産したメスに餌を運ぶのが観察されているので、野生でも共同育児すると考えられます。生後1年以内にひとり立ちします。
上野動物園の繁殖例によれば、出産時の体重は約300g(推定)、頭胴長約20cm(推定)でした。生後16日齢で初めて子どもの体重を測定しましたが、この時は1.3~1.4㎏、生後100日齢で8.1~8.3kg、生後233日齢で21.5kgとなり、親とほぼ同じになったと報告されています。

長寿記録としては、シカゴのリンカーンパーク動物園で2001年11月15日に死亡した個体の16歳10ヶ月という記録があります。

外敵
体が大きいので、自然界ではほとんど外敵はいないと考えられていますが、飼いイヌがタテガミオオカミを攻撃して殺した例が報告されています。

タテガミオオカミ
分類   食肉目 イヌ科
分布   ブラジル中部から東部、ボリビア東部、パラグアイ、アルゼンチン北部、ペルー東部
大きさ   体長(頭胴長) オス・メス    95~132cm
体重     オス ・メス    22~26kg
尾長     オス ・メス  28~49cm     
肩高     オス ・メス  74~90cm
絶滅危機の程度   最近の生息数は約23,600頭で、このうち繁殖可能な個体は約13,000と推測され、現在は絶滅の危機は少ないと考えられるので、IUCN(国際自然保護連合)発行の2010年版のレッドリストでは、準危急種(NT)にランクされています。
しかし、地域によっては農耕地の拡大による生息地の減少や分断化、ニワトリやサトウキビなどを食べる害獣としての捕獲、高速道路での交通事故死の増加が報告されているので十分な警戒が必要です。

主な参考文献
Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed)   Beacham's Guide to International Endangered Species Vol.1 Beacham Publishing Corp., Florida. 1998.
Dietz, J. M.   Mammalian Species No. 234.  Chrysocyon brachyurus , The American Society of Mammalogists . 1985.
細田孝久   タテガミオオカミの繁殖 どうぶつと動物園, Vol.56, No.9(財)東京動物園協会 2004 
今泉吉典 監修   世界の動物 分類と飼育2 食肉目 (財)東京動物園協会 1991 
今泉吉典 監修   動物大百科 食肉類 平凡社 1986  
今泉忠明   野生イヌの百科  データハウス 1993  
Nowak, R. M.   Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Parker, S.P. (ed)   Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company .1990.

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