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1940年東京都伊豆大島に生まれる。上野動物園飼育課を定年退職後、エレファント・トークを主宰。講演や執筆をしている。講演依頼は、メール またはFax 048-781-2309にお願いします。
NHKラジオ番組夏休みこども科学電話相談の先生でもあり、本編では長年の経験を踏まえて幅広く様々な話題を紹介します。 |
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日本獣医畜産大学卒業、同大学外科学研究生として学び、上野動物園で飼育実習後、埼玉県上尾市にかわぐちペットクリニックを開業する。娘夫婦もそろって獣医師で開業しており、一家そろって動物と仲良くつきあっている。 |
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おもしろ哺乳動物大百科75(食肉目 クマ科) |
2012.03.26 |
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ナマケグマ属
ナマケグマ属は1属1種で、インド、スリランカを中心とした地域にナマケグマが分布しています。
75)ナマケグマ
ナマケグマはヒマラヤ、アッサムの低地からインド南端のケープコモリン、及びスリランカに分布していますが、インド北西部の砂漠地帯には生息していません。2亜種に分類され、一つは、インド、ネパール、ブータン、バングラデシュに生息する亜種、もう1亜種はスリランカに生息している亜種で、若干小型です。インドでは岩場が露出している森林や、湿度の高い地域から乾燥地の森林、サバンナ、草地、川で水に流されてできた沖積層など広い範囲に生息しています。主に標高1,500m以下の地域にいますが、まれに2,000m程度のところまで見られます。ネパールではオスのほうが高地に生息しています。スリランカでの生息域は標高0~300mの低地の森林地帯に集中しています。他のクマに比べて夜行性傾向が強いようですが、これは日中の暑さを回避するためと考えられ、日中は地上の涼しい巣穴で過ごします。ネパールでは、日中と夜間の双方で活動しますが、夜間の活動の場合、メスや子ども、亜成獣は夜行性のトラや他のクマに殺されないように注意しています。発情期のつがいと子連れの母子以外は通常は単独で生活し、冬眠はしません。行動圏はスリランカでは狭く、メスはわずか2km2、オスで4km2です。ネパールではメスが約9km2、オスで約14km2と同様に狭いのですが、インドでは広く100km2以上という報告があります。また、食べ物が多い所では行動圏は重複しています。木登りは上手で、また、他のクマのように水の中に入ることはほとんどありません。外敵に対してはうなったり、吠えたり、キィキィかんだかい声をだします。
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他のクマと比べると、毛が長いでしょう。
写真家 大高成元氏 撮影 |
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からだの特徴
体色は普通黒色ですが、他にも茶、灰色の混ざった個体や、シナモンや赤褐色の個体もいます。胸部にはツキノワグマに似たVやそれに近い形の白や黄色、茶色の部位があります。毛の長さは他のクマより長く、頸部、肩部、背中は15~20cmで、耳にも長い毛が生えています。下毛はなく、腹部の毛はまばらです。足の裏は他のクマとはちがい毛がありません。他のクマに比べると、鼻口部は長く、短い毛が生えています。鼻孔は自分の意思で閉じることができます。上顎の中央部の門歯2本が欠如し、前歯に隙間ができて口蓋がくぼんでいます。唇は突き出すことができ、長い舌と一緒に円筒状のようにして、土やごみを吹き飛ばし、それから中にいるシロアリを吸い込みます。動物園では牛乳を飲ませていましたが、ズーズーと吸い取って舐める音がクマ舎の外まで聞こえるほど大きな音を立てて吸います。長さが6~8㎝になる前肢の爪は強力で、地上のアリ塚を壊し、地面を60cmから1~2mも掘ることもできます。また爪を枝にひっかけてぶら下がることもできますが、その姿が中南米に生息するナマケモノに似ていることが名前の由来となったという説もあります。後肢は短く内側に曲がり、内またで歩き、爪も長くありません。歯式は、門歯2/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて40本、臼歯が小さく果肉や昆虫を食べるのに適応しています。乳頭は2対です。嗅覚はよく発達していますが、視覚と聴覚が鈍いため人間を察知するのが遅く、不意に出会うとびっくりして攻撃するためトラブルの原因となっています。
えさ
シロアリ、アリなどの昆虫とその幼虫及び果物や茎、花も食べ、ハチミツも好物です。他にもわずかですが小型の哺乳類、卵、死肉なども食べます。果物が豊富に実るころは、南インドでは少なくとも10科の果物を食べ、その割合は全体の食事量の90%に達し、スリランカで約70%と主な食料源となっています。ネパールでは約40%と少ないのですが、生息地によって好物の果物が少ないことによると考えられます。果物は木に登って採るより落ちたものを拾って食べます。果物がない時期にはネパールでは約95%、インドやスリランカでは75~80%が昆虫、とりわけシロアリが多くなります。
繁殖
発情期は5月から7月の間で、オスは発情したメスを巡って闘います。発情はわずか1~2日ですが1週間続くこともあります。1回の交尾は2~15分間続きます。出産時期は11月から1月で、妊娠期間は着床遅延があるため4~7ヶ月間です。出産するのは自然にできた穴か母親が掘った巣穴で、通常は1~2頭まれに3頭生まれます。クマの中では珍しく子どもを背に乗せて移動するので、3頭を無事に育てるのは難しいのでしょう。肩部から背中にかけての長い毛は子どもが掴み易くなっています。背中に子どもがいる母親はゆっくり歩きます。生後2~2.5ヶ月齢で巣穴から出てきます。やがて生後6~9ヶ月齢頃になると地面に降りることが多くなります。外敵に襲われると母親の背中が避難場所となるので、子どもは1.5~2.5歳まで母親の行動圏内に留まり、その後母親と別れます。そのため出産間隔は2~3年です。
飼育下の記録では、1966年1月5日の横浜市立野毛山動物園の出産例によれば、「出産時の赤ちゃんは体長約20cm、顔、4肢、腹部は赤みを帯び、ほかの部位は灰色(ネズミ色)で、よく鳴いていた。生後1ヶ月齢で母親から離れる回数が増加し、体色も黒身が強くなった。生後64日齢の計測によれば、性別はオス、体重3.4㎏、頭胴長45cmであった。生後3ヶ月齢で固形物を食べるようになっており、ほぼ離乳していた。生後14週齢のときプールに転落したが、自分で泳いで岸にあがった。生後17週齢ころから親の背に乗りはじめたが、親の毛が長く子が隠れて見えにくかった」と報告しています。
長寿記録としては、横浜市立野毛山動物園で1988年3月23日に死亡した個体(メス)の飼育期間32年9ヶ月、推定年齢33歳4ヶ月という記録があります。
生息数減少の原因
森林の開発による生息地の消失と分断化、それに伴いかつての生活圏に作られた畑の果物や農作物を食べるようになり害獣として駆除されたこと。また、人と不意に出会うと攻撃するので危険なものとして殺されたこと、さらに体の各部が肉用や薬用として流通するので密猟が後を絶たないこと。これらのことが重なって、過去30年の間に生息数は30%以上減少したといわれています。外敵としては、トラ、ヒョウ、ドールなどが挙げられますが、彼らの餌食になるのはごく稀との報告があります。インドでは、175ある保護区や国立公園内では生息数は比較的安定しているようですが、保護区外では保護も行き届かず憂慮される状態です。スリランカでも生息数の約半数は国立公園の中で保護されていますが、それでも1990年の報告で、生息数は300~600頭と推定され、絶滅が心配されています。
正確な生息数は不明ですが、ナマケグマが生息する5ヶ国での総計は10,000~20,000頭と推測されています。
ナマケグマ |
分類 |
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食肉目 クマ科 |
分布 |
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インド、ネパール、バングラデシュ、ブータン、スリランカ |
大きさ |
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体長(頭胴長)
体重
尾長
肩高(体高) |
140~190cm
オス 70~145kg(まれに190kg)
メス 50~95kg (まれに120kg)
10~13cm
60~90cm |
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絶滅危機の程度 |
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生息地の減少や密猟などにより、生息数の減少が続いていることから、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。 |
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主な参考文献 |
今泉吉典 監修 |
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世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988 . |
今泉吉典 監修 |
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D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉目 平凡社 1986 . |
林 壽朗 |
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標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社 1981. |
川口 幸男 |
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4. クマ科の分類, In. 世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
小柳 正雄 守山 浩 |
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ナマケグマの繁殖 どうぶつと動物園,
18巻 2号(財)東京動物園協会 1966. |
Parker, S.P. (ed) |
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Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
Nowak, R. M. |
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Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed) |
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THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009. |
Ratnayeke, S., Wijeyamohan, S. and Santiapillai, C. (柴山哲也訳) |
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第3章 スリランカのナマケグマの現状. In アジアのクマ達―その現状と未来― :日本クマネットワーク編,日本クマネットワーク, 2007. |
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おもしろ哺乳動物大百科74(食肉目 クマ科) |
2012.03.09 |
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マレーグマ属
1属1種でクマ科の中では最小のマレーグマが東南アジアに分布しています。この中でボルネオ島に生息する個体を別亜種とし、大陸とスマトラ島の個体と区分して2亜種に分類する学者もいます。このシリーズでは今泉吉典博士の分類に従っていますので1種として以下概説します。
74)マレーグマ
タイ、ラオス、マレーシア、カンボジア、ベトナム、バングラデシュ、ミャンマー、インドのアッサム、スマトラ、及びボルネオ島など東南アジア各地に分布しており、北限は中国雲南省南部です。熱帯や亜熱帯の低地の降雨林地帯やマングローブ林から、タイでは標高2,500m、ボルネオで2,300m、インドネシアでは 2,800mの高地までの常緑、半常緑、落葉樹などの混合した森林に生息しています。人間との接触を避ける地域では夜行性ですが、森林の奥地で接触が少ない場合は昼間も活動します。外敵となる人間やトラなどがいる環境下では、2~7mの樹上に枝を集めて巣を作りそこで睡眠や休息し、餌は地上を歩いて探します。しかし、通常は地上や倒木の上、樹の洞で休み、樹の洞は出産するときの巣としても使い、その後も休息場として利用します。木登りは得意ですが、ぶら下がることや木から木へ飛び移ることはできません。生息環境が暑いので寒さを回避する必要がないことと餌が一年中豊富なため冬眠はしません。行動圏はボルネオでの調査によると、平均14.8km2と報告されています。基本的には交尾期のオスとメス、母親と子ども以外は単独生活をしますが、餌が豊富な所ではまれに複数の個体が集まっているのが目撃されています。食物は鋭い嗅覚で匂いを頼りに探します。
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胸のU字型の模様がはっきりわかるでしょう。赤ちゃんもかわいいですね。
写真家 大高成元氏 撮影 |
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からだの特徴
体色は普通黒、または濃褐色の光沢がある短い毛が厚く生えていますが、足の裏には毛は生えていません。胸部にUの字で白色やオレンジ色のマークがある個体が多いのですが、時には模様のない個体やV字の形の個体もいます。目から鼻端にかけての口吻部は、灰色、オレンジ色、銀色です。この他4肢の色が薄い個体もいます。体は全体的にずんぐりとして口吻部は短く、4肢にはそれぞれ5本の指があり、とりわけ前肢の掌は大きく、湾曲した鋭い爪が生えており、シロアリや幼虫をとるとき地面を掘る場合や木登りをする際に威力を発揮しています。動物園で地面を掘るのを観察しましたが、強力な前足の掌を使ってたちまちのうちに地面を掘りました。前肢は内側に曲がって、歩行の場合内股歩きのように見えますが、この体形は木登りに適応し、クマの中では最も木登りが上手な種類となっています。舌は長く20~25cmもあり、ハチミツを舐めとるときや、シロアリを捕まえるのに適しています。耳は丸く4~6cmです。 体長(頭胴長)は100~140cm、体重は27~65kg, 尾長は3~7cmです。 歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3-4/3、臼歯2/3で左右上下合わせて38~40本です。犬歯は頭部に大きな歯根部が入り込み強力な咬合力を持っています。乳頭数は2対です。
えさ
雑食性で、昆虫(100種類以上ですが、主にシロアリ、アリ、甲虫、ハチ)、ハチミツ、果実や果汁、小型のげっ歯類、トカゲ、鳥、卵、ココナッツの新芽などを食べます。タイでは果実を採るためにおよそ40科の木に登り、中でもシナモンや楢(ナラ)や樫などの実が好きだと報告しています。
繁殖
繁殖は年中可能で、発情期間は5~7日間あり、この間に1~2日間交尾します。妊娠期間は着床遅延があるために95~240日と大きな幅があります。ちなみに北米テキサスのフォート・ワース動物園の妊娠期間の3例は、174日、228日、240日と長いのに対し、東ベルリン動物園ではすべて95~96日間でした。産子数は1~2頭、新生児の体重は300~340gです。生まれたばかりの赤ちゃんは、歯は生えておらず、目は閉じていて、聴覚もまだ発達していません。目は生後25日齢ぐらいで開きますが、生後50日齢ぐらいまではまだものは見えません。耳は少しずつ聞こえるようになりますが、よく聞こえるようになるのは生後50日齢をすぎてからです。生後2ヶ月齢までは母親が子どもの肛門を舐めて排泄を促します。子どもたちは性成熟するまで母親と一緒に生活します。母親は移動するときは子どもの頭部をくわえて運びます。性成熟は2~3歳です。
長寿記録としてはベルリン動物園で1997年3月2日に死亡した個体(メス)の35歳10ヶ月という記録があります。
生息数減少の原因
農地拡大のための山林の伐採による生息地の消失・分断と漢方薬や食料のための密猟が生息数減少の大きな原因です。そのほかにココナッツ畑に入りこみ、新芽を食べるので害獣として駆除されることも大きな問題となっています。 野生での外敵としてはトラ、ヒョウ、ウンピョウ、大型のニシキヘビなどがいます。
マレーグマ |
分類 |
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食肉目 クマ科 |
分布 |
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東南アジア、スマトラ島、及びボルネオ島 |
大きさ |
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体長(頭胴長)
体重
尾長
肩高(体高) |
100~140cm
27~65kg
3~7cm
約70cm |
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絶滅危機の程度 |
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IUCN(国際自然保護連合)発行の2011年版のレッドリストでは絶滅の恐れが高い危急種 (VU)に指定され、積極的な保護が必要とされています。 |
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主な参考文献 |
今泉吉典 監修 |
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D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉目 平凡社 1986 . |
林 壽朗 |
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標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社 1981. |
川口 幸男 |
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4. クマ科の分類, In. 世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
Fitzgerald,C.S. & Krausman,P.R. |
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Mammalian Species . Helarctos malayanus. No.696, The American Society of Mammalogists 2002. |
Parker, S.P. (ed) |
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Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
Nowak, R. M. |
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Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed) |
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THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009. |
安間 繁樹 |
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ボルネオ島 アニマル・ウオッチングガイド 文一総合出版 2002. |
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おもしろ哺乳動物大百科73(食肉目 クマ科) |
2012.02.24 |
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ホッキョクグマ属
1属1種で北極圏に分布し、クマ科の中で最大となり、体重が800kgの記録が報告されています。
ホッキョクグマは分類学的にはヒグマに近縁なためクマ属に含まれる場合もあります。
73)ホッキョクグマ
ホッキョクグマは名前が示す通り北極圏沿岸からユーラシア大陸の流氷水域、アメリカ北部に分布しています。南限は流氷がどこまであるかによって違うという事ですが、北緯88°(度)のベーリング海のプライビロフ諸島、ニューファンドランド島、グリーンランド島の南端、アイスランド南部にかけて生息しています。ハドソン湾とジェームス湾の個体は、その沿岸や数100km以内の流氷域、および夏季になると内陸200kmほどの場所にいることもあります。行動圏は生息域によって差が大きく、1,000~600,000km2、あるいは20,000~250,000km2、また、アラスカからグリーンランドまで4ヶ月間に5,200km移動したなどの報告があります。
交尾期のオス、メスと母子連れ以外は通常単独で行動します。しかし、クジラなどの死体の周りで採食するときや、風雪が強くなると避難場所として大きな岩の割れ目に多くの個体が集まることもあります。
巣穴は長期間使用する出産用(冬眠用)のものと、一時的に夏と冬に作るものがあります。夏期の穴は風通しのよい場所を選んで地面を掘って作り、休息や直射日光、虫、外敵(人間)を避けるために使い、冬期に作るものは厳寒時の避難場所として利用します。
冬眠は妊娠中の個体がおこない、オスや妊娠していないメスはしません。この時の出産用(冬眠用)の巣穴は通常海岸から8km以内にありますが、ハドソン湾南部周辺では30~60kmの内陸に集中して発見されています。泳ぎは上手で時速6.5 kmで64kmの距離を泳ぐことができます。嗅覚と聴覚が鋭敏で潜水能力は約2分との報告があります。
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寒さに対しては万全なからだ。お母さんに寄りそって寝ているのは安心だから。
写真家 大高成元氏 撮影 |
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からだの特徴
体はクマの中で最大になり、オスの最大級の体長は280cm、体重800kgの記録もありますが、通常はオスで420~500kg、メスは通常150~300kg、最大で340kgです。頸部が長く、頭部が小さくて、前足の掌も大きく泳ぐのに適応しています。体色は鼻端が黒ですが、他の部位は白色または黄色味がかった白色で、体は長さ5㎝の下毛でびっしりとおおわれ、上毛は約15㎝の長さがあります。夏の換毛で脱毛すると毛量が少なくなり地肌の黒い部分が見えます。4肢には5本の指があり爪はヒグマに比べ細く短めで、足裏の肉球の間に毛が生えており氷上で滑り止めの役割を果します。体には毛がびっしりと生え、それぞれの毛の中は空洞になっていて太陽光が当たると、ここに温まった空気が何層にも重なり保温効果を高めています。この他にも体内脂肪は厚く寒さから身を守っています。ホッキョクグマの肝臓にはビタミンAが大量に含まれていて有毒なため、イヌイットなどの先住民も肝臓を食べるのはタブーとしており、イヌにも与えません。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯2~4/2~4、臼歯2/3で左右上下合わせて34~42本です。乳頭は胸部に2対です。
えさ
おもにワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシ、タテゴトアザラシ、ズキンアザラシなどのアザラシ類を食べています。そのほかにセイウチ、シロイルカ、イッカク、ジャコウウシ、トナカイ、海鳥、卵、魚、カニ、クジラなどの死肉、夏と秋には漿果、海草などの植物も食べます。
主食となるアザラシを捕食するときは、優れた聴覚で氷の下にいる動物の匂いを察知し、強力な前足で氷をかき割り捕えるか、アザラシの呼吸用の穴で待ち伏せて捕えます。動物園では鶏肉や馬肉の他、ホッケ、ニンジン、リンゴ、牧草のクローバーなどを与えています。
繁殖
発情期は春から夏(3月から6月)にかけてみられ、オスは1~2頭のメスを1~3週間伴い、交尾するまで発情は続きます。妊娠期間は195~265日で着床遅延があります。メスは12月下旬から1月上旬にかけて雪の中に巣穴を掘り、その中で1~4子ふつうは2子を出産します。3月下旬から4月上旬に母子で巣穴を出ます。新生児の体重は約600g、全長約30cm、短い毛でおおわれています。目は閉じていますが約4週間で開きます。乳歯は生後1.5~2ヶ月齢で生えはじめ、生後5.5~11ヶ月齢で永久歯に代わっていきます。母乳は約30%の脂肪を含んでいますが、授乳後期には脂肪分も少なくなっています。授乳期間はおよそ2歳半までです。子どもは生後24~28ヶ月間母親とすごし、その後独立していきます。性成熟は4.6~7.2歳で、出産間隔は2~4年に1回です。
長寿記録としては、デトロイト動物園で1991年9月21日に死亡した個体(メス)の飼育期間42年10ヶ月、推定年齢43歳10ヶ月という記録があります。
外敵
人間以外の外敵として、近年稀に水中でシャチに襲われる例が確認されていますが、原因は流氷が減少し泳ぐ距離が長くなりシャチに襲われる危険性が高まったと予測されています。 成獣のオスが子どもを殺すことがあるので、子連れの母親はオスの接近を大変警戒しています。
生息数減少の原因
これまで流氷の上で繁殖するアザラシたちを襲って捕食していましたが、地球温暖化の影響で流氷地域が減少し、主食となるアザラシの繁殖域が少なくなり、いままでアザラシを主食としてきたホッキョクグマは餌の問題で窮地に立っています。この他、IUCNは油田開発により流出しした油がホッキョクグマの生存に悪影響を及ぼしていると表明しています。
ホッキョクグマ |
分類 |
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食肉目 クマ科 |
分布 |
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北極圏 |
大きさ |
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体長(頭胴長)
体重
尾長
肩高(体高) |
オス 200~250cm メス 180~200㎝
オス420~500kg(最大 800㎏の記録があります)
メス150~300kg(最大 340kgの記録があります)
7~13cm
130~160cm |
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絶滅危機の程度 |
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ホッキョクグマの生息数は現在約20,000~25,000頭と推測されており、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。日本では、2010年11月1日現在、23施設で45頭が飼育されています。 |
ハイブリッド(雑種) |
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ホッキョクグマはおよそ15万年前にヒグマから分かれ、分類学的には非常に近縁な関係にあります。近年の地球温暖化の影響により、北上してきたヒグマと陸地に上がってきたホッキョクグマの生息域が重なった結果、両種の間の交雑による「ハイブリッド(雑種)」の存在が確認されています。ハイブリッド(雑種)は体毛がホッキョクグマのように白く、盛り上がった肩と長い爪などヒグマの特徴がみられます。 |
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主な参考文献 |
DeMaster,D.P. & Stirling,I. |
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Mammalian Species . No.145, Ursus maritimus.
The American Society of Mammalogists 1981. |
今泉吉典 監修 |
|
世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988 |
今泉吉典 監修 |
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D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉目 平凡社 1986 . |
林 壽朗 |
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標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社 1981(p25) |
川口 幸男 |
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4. クマ科の分類, In. 世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
Parker, S.P. (ed) |
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Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill
Publishing Company 1990. |
Nowak, R. M. |
|
Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed) |
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THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009. |
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おもしろ哺乳動物大百科72(食肉目 クマ科) |
2012.02.09 |
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72)ヒグマ
ヒグマはヨーロッパ西部、北極圏からシベリア東部、アジア、ヒマラヤ、北アメリカではアラスカ、ハドソン湾から北西部、及び北海道など、クマの中でもっとも広範囲に分布しています。生息地はツンドラ、シベリアの森林、ヨーロッパでは山地の森林、そしてアルプスの草地や海岸線などの開けた空間にもいますが、このような地域では隠れるための森林が必要とされています。標高はヒマラヤの5,500mやカナダの北緯74度地点にも見られ、同地域に生息するホッキョクグマやツキノワグマの行動圏と重複しています。北米には灰色や灰白色で一般に銀色の外見からグリズリーベアと呼ばれている個体群や、彼らより一回り大型のブラウンベアが生息しています。行動圏は生息域によって差が大きく最近の報告では7~30,000km2としているように、ツンドラ地帯と海岸沿いの地域にすむクマで大差があります。しかし、一般にグリズリーは北部内陸地域のメスが200km2、オスでは400~1,100km2です。なわばりは見られず、ふつう成獣は単独で生活していますが、鮭の遡上する地域では、大きな家族のような集団で集まり一度に30頭以上の個体が集まります。このような場所では、一つの社会のような形態が見られ、順位の優劣は行動で示し、闘争せずに同じ場所で採食できます。それでも時には、劣位の若い個体が優位個体から攻撃されて殺されることもあります。活動時間帯は、北米の場合昼行性ですが、ヨーロッパでは夜行性で、若い個体は昼夜を問わず活動します。人間の狩猟対象となってきた地域では、人との遭遇を避けた場所と時間帯で活動する傾向があります。アラスカの個体群の活動ピークは午後6時から7時でした。ヨーロッパとアジアで生息するヒグマは木登りをしますが、北米のヒグマは稀です。
冬眠は10月から12月に始まり、3月から5月に目覚めますが、生息地の環境、天候、個体の健康状態により変わります。南部の地域群はごくわずかの期間冬眠します。巣穴は23度から40度の斜面にある大きな石の下や大木の根の下に作り、内部には乾燥した植物を入れてベッドにしています。この間平常時の体温は36.5~38.5℃ですが、平均5℃低下し、心拍数と呼吸数は25~43%低下します。
分布が広いので研究者によりちがいますが、4~16亜種に分類されます。日本には北海道に亜種エゾヒグマが生息しています。
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写真を撮るために、野生のヒグマに会いに行く人ってすごいね。
写真家 大高成元氏 撮影 |
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からだの特徴
体色は普通暗褐色ですが、クリーム色から灰褐色や全身黒い個体もいます。からだは頑丈で肩部が筋肉で隆起し腰より高くなり力強く見えます。巨大な頭部と小さな目と立った丸い耳、額は盛り上がり鼻先は突き出ています。体毛は体の下部が最も長く15~20cmの長い上毛(刺毛)と8~10cmの厚い下毛(綿毛)が生えており、全身を守っています。前後肢ともにそれぞれ5本の指があり親指が最も短く、前肢の爪は5~8.5cmになり後肢より細く約2倍の長さがあり、木登りするにはツキノワグマほど向いていません。爪は引っ込めることはできず、巣穴を掘るときやネズミなどの小動物や昆虫の幼虫を採るときに使います。
体の大きさは地域差が大きいですが、一般的には体長150~280cm、尾長6~21cm、体高90~150cm、体重は80~550kgです。南アラスカのコディアック島とアドミラルティ島の個体群は最大になり780kgの記録があります。その他、シベリアと北ヨーロッパの個体群の体重は150~250kgですが、南ヨーロッパの場合、平均体重70kgという地域があります。基本の歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本ですが、前臼歯の前2本は上下とも痕跡程度残っているか失われていることがあるので、その場合は歯の総数は34本になります。肉食に適応した門歯と長い犬歯、減少の傾向がある前臼歯、植物質を磨り潰すのに適した大きな臼歯、これらは肉食から草食に移行している歯式を示していると言われます。乳頭は胸部に2対、鼠蹊部に1対計6個です。
えさ
雑食性で草、球根、果物、魚、無脊椎動物、昆虫、時には仕留めた哺乳類、家畜の牛や羊、死肉等々、生息地域や季節によって異なる食材を何でも食べます。エゾヒグマの調査例によれば、草類が約70種類、木の実が約40種類を数え、この他アリやハチは好物で20種類のアリが確認されています。鮭の遡上する地域では、秋に脂肪を蓄えるための重要な食料源となっていますし、北米のロッキー山脈では、グリズリーは大型の有蹄獣であるカリブーやムース、オオツノヒツジやシロイワヤギ、そして時にはアメリカグマも捕えて食べます。
繁殖
発情期は5月から7月の間で、雄は1~2頭のメスを1~3週間伴い、交尾するまで発情は続きます。初産年齢は4歳から10歳で、出産間隔はヨーロッパの場合2年ですが、北米ではさらに長くなります。妊娠期間は180~266日で着床遅延し、冬眠中に巣穴の中で出産します。産子数は1~4頭、生まれたばかりの赤ちゃんの体重は340~680g、目は閉じており、開くのは生後35~40日齢日です。鼻孔は開いており、口は動きます。体毛は全身に7~8mmの産毛が生えています。生後3ヶ月齢頃になると、体重は出産時の10倍、3~6kg位になり目も見え音も聞こえ、全身に毛が生えそろっています。子どもは生後2.5~3.5ヶ月齢で母親と一緒に生まれた巣穴から出ますが、離乳は生後約5ヶ月齢です。その後母親は子どもが1歳または2歳になるまで一緒にすごし、やがて子離れします。ヒグマは母系集団なので、子どもの養育はすべて母親が行い、父親は子どもにとって捕食者となる場合もあり遭遇を回避しています。同じ年に生まれた子どもは母親と別れてからも2~3年は一緒に生活します。メスの性成熟は4~6歳ですが、体の成長は10歳くらいまで続きます。
長寿記録としては、ライプチヒ動物園で1987年6月3日に死亡したメスの39歳4ヶ月、函館公園で1992年3月11日に死亡したメスの飼育期間38年10ヶ月、推定年齢40歳という記録があります。
エゾヒグマ
現在の生息地は北海道に限定していますが、70万年前から1万年前までは本州、九州、瀬戸内海で化石が出土しています。しかし、およそ1万年前に本州以南のヒグマは絶滅しました。現在は北海道の約50%に生息し、山地や丘陵地の森林が主な生息地です。エゾヒグマの大きさは、オスが体長(頭胴長)190~230cm、体重120~250kg、最大級で300~400kg、メスは体長(頭胴長)160~180cm、体重80~150kgです。
現在の生息状況
世界的にみると生息数は安定していますが、人口増加による過度の開発の結果、絶滅したり生息地が分断され個体数が極端に減少している地域もあります。また狩猟が許可されている地域では体の各部が肉用や薬用として流通していることも懸念材料となっています。
自然界での外敵は人間以外にいませんが、子どもがオオカミの犠牲になったとの報告があります。
ヒグマ |
分類 |
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食肉目 クマ科 |
分布 |
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ヨーロッパ、アジア、北アメリカ北西部 |
大きさ |
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体長(頭胴長)
体重
尾長
肩高(体高) |
150~280cm
オス130~550kg(780kgの記録があります)
メス80~250kg (340kgの記録があります)
6~21cm
90~150cm |
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絶滅危機の程度 |
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現在は世界中のヒグマの生息数は約200,000頭と推測されており、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ない低危急種(LC)に指定されています。 |
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主な参考文献 |
今泉吉典 監修 |
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世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988 |
今泉吉典 監修 |
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D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉目 平凡社 1986 . |
犬飼哲夫・門崎允昭 |
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北海道の自然 ヒグマ 北海道新聞社1987 |
川口 幸男 |
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4. クマ科の分類, In. 世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
Parker, S.P. (ed) |
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Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill
Publishing Company 1990. |
Pasitschniak・Arts, M. |
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Mammalian Species . No.439, Ursus arctos .
The American Society of Mammalogists 1993. |
Nowak, R. M. |
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Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed) |
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THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009. |
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おもしろ哺乳動物大百科71(食肉目 クマ科) |
2012.1.27 |
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クマ属
クマ属はアメリカグマとヒグマの2種類に分類され、北米では同じ地域に生息しています。
ヒグマはヨーロッパからアラスカ、そして北海道などに広く生息しています。形態などの差からアラスカのコディアク島に生息するコディアックヒグマ(アラスカクヒグマ)とハイイログマ(グリズリー)をそれぞれユーラシア大陸のヒグマとは別種とする説もありますが、これらをヒグマに含める説が一般的です。アメリカグマとヒグマを較べると体格はヒグマの方が一回り大きく、肉食の割合が多いとされています。ヒグマは森林から草原まで行動圏が広く、アメリカグマは行動圏の重複する地方では、ヒグマから攻撃を受けた時、木に登り難を逃れるために森林で生活しています。共に冬眠してメスは冬眠中に出産、授乳して子育てをしています。また、ツキノワグマやホッキョクグマをクマ属に含める場合もありますが、本稿では今泉吉典博士の分類に従い、クマ属は1属2種とし、アメリカグマとヒグマについて紹介します。
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生息地の北米では絶滅の恐れが少ない種というのでホッと一息ですね。
写真家 大高成元氏 撮影 |
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71)アメリカグマ
生息域によって差があるため16~18亜種に分類されています。北米のメキシコ、カリフォルニア北部からアラスカ、及び五大湖、ニューファンドランド、アパラチア山脈にかけての一帯、フロリダからメキシコ湾岸の一部に孤立した小群が生息しています。生息域は温帯と亜寒帯の森林が主ですが、他にも亜熱帯地域、乾燥した雑木林、湿地帯、アラスカの降雨林にも生息しています。さらに南カリフォルニア山中やツンドラの不毛地帯ではヒグマの仲間であるグリズリーが減少したため、アメリカグマが進出しています。行動圏は生息地により異なり、3~1,100km2と大幅に差がありますが、平均すると5~500km2です。極端なケースでは、餌の少ないカナダのラブラドールでの調査によると、オスの行動圏が7,000km2を超えたとの報告もあります。オスはなわばりをもち、メスも地域によってはなわばりをもち防衛しますが、餌が豊富なゴミ捨て場周辺は共同で使います。
グレート・スモーキー・マウンテンの場合、春は朝と夕、夏は朝から夕方まで活動し、秋では朝夕のピークはありますが、一日中活動していました。冬眠は10月初旬から5月末ですが、寒い地方では、9月下旬から5月まで続きます。ワシントンの平均冬眠期間は126日、ルイジアナ州では74~124日間で、いずれも秋に十分なえさを食べて脂肪を蓄積しています。この間体温は38℃から31~34℃に低下し、呼吸数が平常時の毎分40~50回から8~19回に減少し、新陳代謝が50~60%低下します。そして体重は20~27%減少します。
巣穴は倒木や樹の洞、岩の割れ目、地面に掘った穴などで、ハドソン湾の地域では雪の中に自分で穴を掘り中に入ります。通常の場合クマの動きはゆっくりですが、本種は素早く動くことができ、短距離ならば時速56kmという記録があり、また、木登りと泳ぐのは上手です。野生のクマは子どもだけが遊びます。交尾期のオスとメス、母親と子ども以外は基本的に単独で生活しています。
からだの特徴
体色は多彩でどの亜種にも黒色はおり、とりわけ北米の東部に多くみられます。他にもチョコレート色、シナモン色、時には胸部に白い斑紋のある個体や、全身白色、まれにブルーブラックの個体など多様で、同腹で色が違う事もあります。からだは頑丈で前肢は後肢よりやや長く、足の裏の肉球は後足では足底球と足根球が一緒になって表面積が広く人間の足裏のようになっています。
前足では掌球と手根球が離れており、着地するときは掌球部が付くので速く走れます。各肢には5本の指があり、爪の長さは短めで湾曲し前足でしっかりと樹幹につかまり木登りができます。えさは視覚と嗅覚で探します。特別な鳴き声は発達しておらず、威嚇や痛みがあるときに出すうなり声くらいです。
体の大きさは地域差が大きく、体長120~190㎝、尾長約12㎝、体高約90㎝、体重はオスで60~270㎏、メスで45~140㎏ですが、まれにオスでは400㎏、メスで180㎏に達する記録があります。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。前臼歯の前3本は痕跡程度です。乳頭数は3対です。
えさ
全体の75%は植物質で、果物、イチゴ、ハシバミ、マツ、ドングリなどの堅果、茎、根、葉、木の新芽、乾燥地ではサボテン、ユッカ(イトランの一種)、動物質では小型の脊椎動物、鳥、卵、魚、無脊椎動物、昆虫、ハチの巣や蜜、時には仕留めた哺乳類、死肉等々、生息地域や季節によって得られるものを何でも食べる雑食性です。
繁殖
発情は匂いで察知し、オスは放浪を止めて交尾相手を探します。この時期はテストステロンの値が上昇し攻撃的になります。交尾期のピークは5月中旬から7月で、発情は2~5日間続き、オスとメスはこの間一緒に過ごし交尾します。出産期は1月から2月で冬眠中に巣穴の中で生みます。妊娠期間は約220日ですが、着床遅延があり受精卵は11月中旬から12月初めにかけて子宮に着床し、胎児は成長を始めます。産子数は1~5頭の範囲ですが平均すると2~3頭で出産間隔は隔年から3~4年に1回です。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は225~330gで、体には短い灰色の毛がうすく生えているだけです。歯は生えておらず、目はしっかりと閉じています。子どもは生後2.5~3.5ヶ月齢で母親と一緒に生まれた巣穴から出ます。母親がえさを探しに行くとき、子どもは外敵を警戒し樹上に登って待っています。固形物は晩春ころから食べ始めますが、授乳は秋まで続きます。子どもは生後16~17ヶ月齢まで母親と共に暮らし、その後餌場を確保するまで母親のなわばりの中で生活しています。メスの性成熟は4~5歳ですが、オスはそれより1年くらい遅れます。
長寿記録としては、アメリカのカリフォルニア州にあるフォルサム動物園で、1995年8月7日に死亡したメスの個体の飼育期間31年8ヶ月、推定年齢34歳という記録があります。
現在の生息状況
アメリカグマの生息状況に最も大きな影響を与えるのは、過度の開発による生息地の破壊と分断と考えられていますが、その他に森林を破壊する害獣としての駆除、食料や薬用に利用するための
捕獲、狩猟による死亡などがあげられます。一部地域では生息地が分断され、生息数が極端に少なくなり、法律で保護されている亜種もいます。しかし、一方ではアメリカグマは雑食性で環境への適応力が非常に高いので、ヒグマ(グリズリー)が減少したり、絶滅した地域に分布を広げ生息数を増やしている場合もあります。狩猟頭数も年間40,000~50,000頭になりますが、生息数に影響を与えないように良く管理されていると言われています。
最近の報告によると、生息数は毎年約2%の割合で増加し、北アメリカ全体で850,000~950,000頭と推測され、種としては現在絶滅の恐れは少ないと考えられています。
成獣は人間以外の外敵はほとんどいませんが、若い個体や子どもはヒグマ(グリズリー)、オオカミ、コヨーテ、ボブキャット、あるいは他のアメリカグマにも襲われます。
アメリカグマ |
分類 |
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食肉目 クマ科 |
分布 |
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北アメリカ(アラスカ、カナダから南はメキシコ北部、フロリダの一部まで) |
大きさ |
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体長(頭胴長) オス 140~190cm メス 120~160cm
体重 オス60~270kg メス45~140kg
尾長 12cm以下
肩高(体高) 約90cm
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絶滅危機の程度 |
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国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが少ない低危急種(LC)になっています。 |
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主な参考文献 |
今泉吉典 監修 |
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世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988 |
今泉吉典 監修 |
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D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉目 平凡社 1986 . |
川口 幸男 |
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4. クマ科の分類, In. 世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
川道 武男 他編 |
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冬眠する哺乳類 東京大学出版会 2000. |
Parker, S.P. (ed) |
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Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill
Publishing Company 1990. |
Larivière, S. |
|
Mammalian Species . No.647, Ursus americanus .
The American Society of Mammalogists 2001. |
Nowak, R. M. |
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Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed) |
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THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009. |
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おもしろ哺乳動物大百科70(食肉目 クマ科) |
2012.1.10 |
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ツキノワグマ属
1属1種でツキノワグマが中東から東アジアにかけて広く分布しています。分布が広いために通常7亜種に分類され、日本には亜種ニホンツキノワグマが生息しています。
本属はクマ属に含まれる場合もあります。
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立ち上がると胸部にある三日月形のマークが良くわかるでしょう。
写真家 大高成元氏 撮影 |
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70)ツキノワグマ
別名をアジアクロクマ、ヒマラヤグマとも呼ばれています。アフガニスタン、パキスタン、南東イラン、ヒマラヤ、ミャンマー、タイ、インドシナ、中国、南東シベリア、日本、台湾、海南島に分布しています。
生息域は沿岸などの低地から夏には3,600m(インドの北東部では4,300m)の高地までのぼり、冬には低地におりてきます。年間を通じて一番活動する時間帯は朝と夕、及び夜間ですが、生息域や季節によって違います。日中は洞穴や岩の割れ目、樹の洞などの中で休息していますが、春から秋にかけて豊富に果物が実る時期には日中も活動します。泳ぎも上手で、また前足の爪も頑丈で木登りがうまく樹上の木の実から地下の根まで広く食物を採ることができます。冬季に寒くなる大陸や日本では、餌が手に入らないため秋から翌春まで樹洞、岩穴、土穴などで冬眠して寒さをしのぎます。シベリアや日本に生息するクマは11月から4~5ヶ月間冬眠しますが、南パキスタンや中東などの暑い地方では、1年中食物があるので冬眠をしません。冬眠の期間中絶食するため胃は空になり消化管の働きが少なくなって一時的に委縮します。このとき不消化の食物、植物の枯れた残りかす木片、堅果類の殻、毛などが混じった固い便が肛門の括約筋の出口に栓(肛門栓)をするようになり、排便しません。巣穴から出るのは3月下旬から4月上旬で、最初に肛門栓をとるために、下剤の役割を果たすカンバ類の樹液をなめて排泄を促します。
交尾期のオスとメス、母親と子ども以外は基本的には単独生活をします。行動圏は地上のラジオトラッキングによる調査例では20~60km2ですが、他にもシベリアで5~6km2、GPS(全地球測位システム)を使った調査で100~250km2の報告もあります。嗅覚は鋭く果実の熟れ具合を木に登らなくとも嗅ぎ分けることができ、聴覚も100m以内の物音を聞き分けます。
からだの特徴
体色は普通光沢を帯びた黒ですが、赤茶色や濃茶色の個体もいます。頸部と肩から胸部にかけて毛が長めで、夏に換毛します。顎は白く、前胸部には三日月状のVの字型の白い模様があり、この模様が月に似ていることからツキノワグマと命名されましたが、地域によっては、この白斑をもたない個体もいます。からだは頑丈で前肢は後肢よりやや長く、足裏の肉球表面積は広く力が強いので木登りをするのに適しています。各肢に5本の指があり、爪の長さは約5cmで湾曲しており、前足でしっかりと樹幹につかまり木登りをします。
体長(頭胴長)は120~180cm、体重はオスで110~150kg、まれに250kg、メスは65~90kg、まれに170kg, 尾長は7~11cmです。日本や台湾などの島国の亜種は、大陸より小型です。歯は生後6ヶ月から2歳齢までに乳歯から永久歯に生え変わります。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。臼歯は扁平で植物をすりつぶすときに役立っています。乳頭数は3対です。
えさ
雑食性で、草の茎、根、葉、木の新芽、果物、小型の脊椎動物、無脊椎動物、昆虫、ハチの巣や蜜、死肉、まれに魚などを食べます。季節によって食べ物が変化しています。名著、G・F・ブロムレイ著(藤巻裕蔵、新妻昭夫 訳)「ヒグマとツキノワグマ」に詳しい調査例が報告されています。本書によれば、春、冬眠明けの主要な食物は、草本、チョウセンゴヨウの堅果、ドングリ、コケ、地衣類、針葉樹の葉などで食物の約87%を占め、動物質は12%で、おもに昆虫や軟体動物でたまにネズミ類を捕えて食べる程度です。夏には植物質が約76%、動物質が24%と増えますが、このうち11%はアリです。秋には植物質が約96%で主なものはドングリやチョウセンゴヨウなどの堅果や種々の漿果、コケ、地衣類、草本類が主な食べものとなり、動物質は約4%で昆虫と軟体動物、と報告されています。
繁殖
交尾期はシベリアでは6月初旬から7月下旬、パキスタンでは10月、出産期の多くはいずれも2月です。着床遅延するので、妊娠期間は160~210日間と大きな幅があります。冬眠中にふつう2頭の子どもを出産します。新生児の体重は300~400gです。歯は生えておらず、目は閉じており、生後約1週齢で開きます。生後40日齢で全身に新しい毛が生え、前肢が後肢に比べ長く、爪が鋭くなります。授乳期間は生後4.5~5.5ヶ月齢まで続きます。生後70~80日齢で上手に木に登り、体重は2~2.5kgになっています。生後2~3歳までは母親と一緒に生活します。母親が2腹の子どもと一緒にいた例が観察されています。性成熟は3~4歳です。
長寿記録としては、広島市安佐動物公園で1987年4月7日に死亡したメスの個体の推定年齢39歳2ヶ月という記録があります。
生息数減少の原因
天敵としては、ソ連極東南部ではトラ、ヒグマ、オオカミなどの例が報告されていますが、人間による狩りに比べればごく僅かです。人間にとってクマの肉は食料、薬用として胆嚢、毛皮は敷物や防寒衣として余すことなく利用され、現在でもかなりの数が捕られています。また、過度の開発によって生息地が減少、分断されたことが生息数減少の大きな原因となっています。
ニホンツキノワグマ
ツキノワグマの亜種の一つで、本州、四国、九州に生息しています。九州では1990年代にも目撃情報がありますが、確実な生息の証拠がないために、現在では絶滅した可能性が高く、生存しているとしてもその個体数は非常に少ないと考えられています。体格は大陸の亜種より一回り小型です。西日本での分布域の減少が顕著で、日本全体の正確な生息数は不明ですが、環境省は約15,000頭と推定しています。四国や九州他いくつかの地域では絶滅の心配があり、環境省のレッドデータブックではこれら地域のツキノワグマを「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定しています。
ニホンツキノワグマ |
分類 |
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食肉目 クマ科 |
分布 |
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アフガニスタンから東アジアまで(日本、台湾、海南島を含む) |
大きさ |
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体長(頭胴長) 120~180cm
体重 オス110~150kg メス65~90kg
尾長 7~11cm
肩高(体高) 60~100cm
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絶滅危機の程度 |
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IUCN(国際自然保護連合)発行の2011年版のレッドリストでは、すぐに絶滅する恐れはないが、絶滅の恐れが高い危急種 (VU)に指定され、積極的な保護が必要とされています。 |
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主な参考文献 |
Domico, T. |
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Bears of the World, Facts On File , 1988.
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ブロムレイ・G・F. |
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(藤巻裕蔵 新妻昭夫 訳)
ヒグマとツキノワグマ 思索社 1987. |
今泉吉典 監修 |
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D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉目 平凡社 1986 . |
林 壽朗 |
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標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981 |
川口 幸男 |
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クマ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育(2) 食肉目:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
環境省自然環境局生物多様性センター編 |
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平成22年度自然環境保全基礎調査―特定哺乳類生息状況調査及び調査体制構築検討業務報告書、環境省 2011. |
Parker, S.P. (ed) |
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Grzimek's Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill
Publishing Company 1990. |
Nowak, R. M. |
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Walker's Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed) |
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THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009. |
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