川口先生のペットコラム
旭化成ホームズ株式会社
Profile
ゾウの先生 川口 幸男

1940年東京都伊豆大島に生まれる。上野動物園飼育課を定年退職後、エレファント・トークを主宰。講演や執筆をしている。講演依頼は、メール またはFax 048-781-2309にお願いします。
NHKラジオ番組夏休みこども科学電話相談の先生でもあり、本編では長年の経験を踏まえて幅広く様々な話題を紹介します。
わんにゃんドクター 川口明子

日本獣医畜産大学卒業、同大学外科学研究生として学び、上野動物園で飼育実習後、埼玉県上尾市にかわぐちペットクリニックを開業する。娘夫婦もそろって獣医師で開業しており、一家そろって動物と仲良くつきあっている。
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へびの話(番外編) 2013.1.1

新年明けましておめでとうございます。
今年もまた皆様の御健勝を心からお祈りいたします。

正月の恒例となりました『おもしろ動物大百科』の番外編として、今年の干支『ヘビ』にまつわる話題を紹介します。ヘビは世界中の人々から古代より注目されてきた動物で神話やさまざまな宗教の中にも登場します。

〇神話に登場するヘビ
日本最古の歴史書として有名な日本書紀(720年)と古事記(712年)は皆さんよくご存じと思いますが、この中にヤマタノオロチ神話が載せられています。この話は島根県出雲地方を題材にした巨大な大蛇(オロチ)を退治する物語です。このオロチは途方もなく大きく八つの頭と八つの尾をもち、体には苔や杉、檜が生え、長さは八つの谷にまたがり、八つの山をこえるほどでした。オロチは肥の河(現在の斐伊川)に住んでおり、ときどき暴れて水害をもたらす困った神様で毎年生贄(いけにえ)として娘を差し出していました。そこで暴れ者の豪傑スサノオノミコト(スサノオの命)という神様に退治させ、度重なる災害から村々を守る物語になっています。この神話を題材にした本はたくさん出版されているのでお子様たちにご一読をお勧めいたします。
頭が複数あるヘビの物語は日本以外にもあり、インドでは5個の頭をもつヘビの物語、マダガスカル島のインドネシア系の住民の間には、7つの頭をもつ大蛇が酒を飲み、死んだ後に山のようになったという話などがあります。いずれの話も、古代の人々はヘビを恐れ、神聖化して崇めていました。実際には、双頭(頭が2個ある)のヘビは世界各地で生存が確認されていますが、5個や8個の頭部をもつヘビは物語の中だけでしょう。

〇ヘビは人間に役立っているのでしょうか
1)ペットで人気上昇中
ヘビを怖いと思う人々が多いのは確かですが、最近ではペットとして無毒で小型のヘビを飼う愛好家もいます。ミルクヘビなどは世界的に人気の高い種類ですが、帰宅すると足音で飼い主がわかる個体もいるそうです。国内では残念ながら人々の多くはヘビを怖いと思っているので、ペットとして飼う場合、同居している方や周囲の方々の十分な理解が必要です。動物病院も爬虫類を診療する医院は限られていますから、予め健康診断を受けて健康時のデータを記録しておくと良いでしょう。病気になった時、比較して診断できます。

  本土に生息する美しい毒ヘビ、ヤマカガシです。
本土に生息する美しい毒ヘビ、ヤマカガシです。
写真家 大高成元氏 撮影
   
ミルクヘビはアメリカに広く生息し、地域によって大きさや体色に違いがあります。体長は50~200cmで白または黄色、黒、赤の三色の模様をもった美しいヘビです。名前の由来は、ウシやヤギの乳を飲むため大切な家畜の乳が出なくなったと汚名を着せられた結果のようです。もちろんヘビはミルクを飲みませんし、それどころか家畜の納屋に住むネズミを食べるために侵入した益獣なのにとんだ濡れ衣です。
すべての毒ヘビと無毒でも大型のアナコンダやニシキヘビ他いくつかの属は特定動物(人の生命、身体又は財産に害を加える恐れがある動物として政令で定める動物)に指定されており、飼養又は保管しようとする場合は、都道府県知事、政令市の許可が必要となりますので注意してください。

2)古民家の守り主
ネズミを主食とするアオダイショウは春から秋までの活動期に成体ならば1頭当たり100頭以上も食べるそうです。古来より日本の住宅は木造住宅が多く、アオダイショウは天井裏に通じる1~2cmの隙間があれば入り込んでいました。一方、彼らの主食となるネズミも同じくらいの隙間があれば潜り込めるので、アオダイショウが1頭いれば、天井裏や蔵に忍び込んでくるネズミはたちまち餌食となります。そのため、地方によってはフクムシ、あるいは守り神とも呼ばれて大切にされていました。暖かくなりアオダイショウが活動する季節になっても、毎晩ネズミが天井裏で運動会のように駆けっこをしていると、アオダイショウがいなくなったと察した家主は、わざわざ捕まえてきてそっと天井裏や蔵に放したと言います。しかし、近代建築になり住宅はネズミが入り込む隙間がないとヘビも住めなくなります。ヘビが苦手な方は退治をするのではなく、餌となる動物を住まわせないことです。

3)人々の貴重な食料や革製品の利用
以前ラジオを聞いていたところ、タイの方からの電話で『先日、家の中にヘビが入ってきて家族がみんなで大騒ぎでした』と話していました。アナウンサーが、それは大変でしたね。それでどうしましたか、と尋ねると、『お父さんが捕まえて、夜みんなで食べて美味しかった』と話していました。ヘビが多く住んでいる地方では貴重な蛋白源で、料理店ではメニューに載っていますし、家庭でも料理し、また干物にして保存食として年中食べる地域もあります。原産地でニシキヘビやアナコンダなど大型のヘビも捕えることができれば貴重な食料になることでしょう。私も半世紀も前ですが、おじいさんがマムシを捕り、串に刺して囲炉裏でカリカリに焼いたものを少し食べた記憶があります。アジアや南米などヘビが生息する地域ではスープ、から揚げ、あるいは炒めるなどして食べており、また毒ヘビは薬用としても使われています。 この他、ヘビ革製品はハンドバック、バンド、服などに利用されているのはご存じのとおりです。

4)ヘビ毒の利用
ヘビ毒には2種類のタイプがあり、1つは神経系に作用する神経毒と、もう一つは循環器系に作用する血管毒があります。いずれの種の毒にも複数の毒素成分がふくまれていますが、神経毒をもつ熱帯産のガラガラヘビは、その一つにニュートロキシンがあり、神経からとくに横隔膜や呼吸に関係する筋肉に伝達する経路を遮断する作用があります。マムシやクサリヘビの毒素成分は白血球溶解素やプロテオリジン、血液凝固阻害成分などで血液の溶血作用があります。さらに、コブラやウミヘビのように両方の毒を併せ持つ種類もいます。多様な毒成分がどのように作用しているか解明することで人間の病気の治療に応用しています。たとえば、ヘビ毒成分の一部は高血圧症薬、鎮痛薬、抗凝血薬、抗ウイルス剤として、また心血管疾患や神経系のパーキンソン病、視神経疾患他多くの疾患に活用されています。今後も主に免疫学、生理学や生化学などの分野では、さらに毒の成分の解析や作用について基礎的な研究を進めることが期待されています。

〇巨大なヘビの記録
いまから20~30年も前の話ですが、体長10mのヘビを見つけたら懸賞金1000万円支払っても良い、と言う話がテレビ局であったそうです。動物ギネスの記録によれば過去の最大記録としてアミメニシキヘビとアナコンダについて10~11mの記録を載せています。私も最大の動物には興味津々なので、2002年にスマトラ島で体長15m弱の巨大なニシキヘビが見つかり動物園で飼育している映像がテレビで流されたのを見た時には興奮しました。私はこのニュースが流れた翌日タイ国に滞在しており、友人と共に2度とこんな巨大なヘビは見られないだろうから、予定を変更して帰りにジャカルタの動物園に行くことにしました。タイでもこのニュースは流されており、すぐにこの話題になりましたが、タイの動物園関係者はさすがに誰もその話を信じていません。8m級のニシキヘビは全員見た経験がありますが10mはないそうで、15mなんてとんでもないというのです。もちろん、このニュースは世界中を駆け巡り、現地の動物園にいち早く調査に出向き、そのヘビが7m級であることが判明してわずか数日で一件落着となりました。2013年版のギネス記録の動物版で認定している最大の生存個体は、北米ミズリー州で飼育しているアミメニシキヘビで体長7.5m、体重130kgと報告されています。私自身は1989年にニュヨークのブロンクス動物園で見た7m級のヘビが最大です。担当者の説明によれば、寄贈された時5.5mでしたが、その後成長し7m前後になったそうです。とぐろを巻いた状態でしたが4~5mの個体の倍くらいありそうな胴回りで圧倒されました。そして野生の大物は捕獲しても餌付けが難しいと話していました。その後、同園では1993年にボルネオから搬入した体長6.5m、体重70kgのニシキヘビが、8年後(2001年)の計測で全長7.9m、体重125kgになったということです。上野動物園では1936年(昭和11年)に死んだニシキヘビが体長6.45m(21尺3寸)で体重101.5kg(27貫100匁)の記録が残っています。長寿記録としてはフィラデルフィア動物園で、来園時亜成体だったボールニシキヘビを47年間飼育した記録があります。ふつうヘビの寿命は20~30年と言いますからかなりの長寿となります。

〇 ヘビの種類
現在世界中にいるヘビの総種類数は2700~3000種と推定され、このうち450~500種が毒ヘビで、ウミヘビは全て有毒です。日本には約40種が生息していますが、大半は暖かい南西諸島に生息しています。九州以北に生息するのは、(1)タカチホヘビ、(2)シロマダラ、(3)アオダイショウ、(4)ジムグリ、(5)シマヘビ、(6)ヒバカリ、(7)ヤマカガシ、(8)ニホンマムシの8種で、(7)(8)の2種が毒ヘビです。そのほかに南西諸島の沿岸と日本近海に8種ほどのウミヘビが生息しています。 毒ヘビに噛まれた場合は、なるべく安静にして早く病院に行き血清を打ってもらうことが肝要です。この場合、ヘビの種類によって血清が違うのでヘビの特徴をよく覚えておき、本州ならばマムシかヤマカガシか医者に教えなければなりません。マムシはふつう成体で体長およそ50cm位ですが、ヤマカガシは1m前後です。両種共に体色はさまざまな変異がありますが、マムシは茶褐色から赤褐色で暗褐色の銭型の班紋があり、ヤマガカシは赤と白、黄色が複雑に混り、幼体や生息地で変異があります。ヤマカカシの毒牙は口の奥にあるため奥歯で咬まれると危険です。

ヘビも一生、蛞蝓(なめくじ)も一生と言うことわざがありますが、人の一生もまた賢愚の違いや境遇が違っても一生に変りはないようです。
マイペースで今年もよろしくお願い致します。

次号は1月中旬に『おもしろ動物大百科 No.93 ピューマ』にもどります。

おもしろ哺乳動物大百科92(食肉目 ネコ科) 2012.12.10

ネコ科
ネコ科の分類は学者によって異なりますが、本シリーズは基本的に今泉吉典博士の分類に従い、ネコ属32種、イリオモテヤマネコ属1種、ヒョウ属5種、ウンピョウ属1種、チーター属1種、合わせて5属40種類とします。
ネコ科の動物はオーストラリアと南極大陸以外はほとんど世界中に分布しています。分布域は低地からおよそ3,000mの高山まで、また、砂漠、草原、森林、山間部、伐採林、叢林などで、生息域によって種ごとに体のつくりに特徴が見られます。スナネコは足裏に厚い毛が生えていて暑さから足を守り、スナドリネコは前足に小さな水かきがあり泳ぐのが得意で水中まで潜ってエビや魚をとらえます。チーターは俊足を駆って獲物を追いつめ、ウンピョウやマーゲイは木登りが上手で樹上にいる獲物をそれぞれ捕えることができます。多くの種の体はしなやかで、通常前肢に5本、後肢には4本の指があり、出し入れのできる(チーターを除く)鋭い鉤爪をもち、獲物を引っかけて捕えることができます。顎の筋肉が発達し、強力な犬歯は獲物を仕留めるために使いますが、上顎の第4前臼歯と下顎第1臼歯は鋭く尖り、肉を裂くときに使い裂肉歯と呼ばれています。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、小臼歯2-3/2、臼歯1/1で合計28~30本、普通は30本ですが、オオヤマネコ、サビイロネコ、イリオモテヤマネコなどは28本あり、前臼歯は進化と共に減少傾向にあります。舌の表面には乳頭突起があり触るとヤスリのような面に感じられますが、骨についた肉を舐めとるときや毛の汚れを舐めとるときに役立つと考えられています。長い尾がある種類では方向転換時にバランスを取り、寒暖の厳しい地域では放熱や体に巻きつけることで暖を取るときなどに役立っています。聴覚は鼓膜の中の振動を増幅する聴胞が発達しているのでわずかな音でも聞くことができます。ネコ科の動物は夜行性の動物が多いのですが、眼底にある反射板(タペータム)で光を増幅するので、わずかな光でも獲物を見つけることができ、とりわけ動体視力に優れています。肛門嚢(のう)も発達しており排泄物に付着した匂い成分から発情の情報などをで得ています。繁殖期以外はほとんどの種は単独生活をしています。

ネコ属
今回はこれらの中から(1)ベンガルヤマネコ(2)ピューマ(3)オセロット(4)サーバルキャットの4種について紹介していきましょう。

92)ベンガルヤマネコ
北は中国中部、ヒマラヤから南はインド、マレー半島、フィリピン、ボルネオ、ジャワ、バリ、タイワンなどの東南アジア諸国に広く分布しています。ヒマラヤの3,000m級の高地から海岸まで広い高低差の森林、低木林、低地のジャングル、丘陵地、山地に生息しています。水場を好み泳ぐのも巧みで水中にすむ生物も餌となり、木登りも上手でタイではおよそ20mの樹上でも観察されています。基本的に夜行性で夕暮れから明け方まで活動しますが、タイの山中では昼間の活動も報告されています。ふつう日中は巣穴としている樹洞、岩の隙間、大木の根元などで休んでいますが、ボルネオでは、繁殖時にのみ利用するとの報告もあり、生息環境により違うかもしれません。足が短く深い雪の中を移動するのに向いていないので、雪の深さが10cmをこえる地域には生息していないと言われています。行動圏についてはラジオテレメトリーの調査によれば、タイのフワイ・カーケン野生生物保護区では1.5~7.5km2(平均 4.33km2)、ボルネオ島サバ州のタビン野生動物保護区では4頭のオスが2.64~3.8km2、2頭のメスは1.93km2と2.25km2でした。タイでの4頭のラジオテレメトリーによる調査では、1日の移動距離は0.5~1.0kmでした。タビン野生生物保護区では乾季には1晩でオスは平均1.72 km、メスは1.27 km移動しましたが、雨期にはオスが1.06 km、メスは0.87 kmと狭くなっていました。声によるコミュニケーションについて、人工哺育の報告例によれば、イエネコのように頻繁に鳴くことはなく、オス、メスともに小さな声で鳴き、発情中オスが一声「アオ―」と鳴いたと報告しています。
分布が広いために、地域によって体の大きさや斑紋などに大きな差があるので9亜種程度に分類されています。

  >思わず『ペットにしたい!』 と言いたいですね。
思わず『ペットにしたい!』 と言いたいですね。
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
体の上部は明るい黄茶色で腹部は白色で、体全体に斑点があります。耳は大きくて先端は丸く、背面には白い虎耳状班があります。前額部から両肩にかけて4~5本の暗色の縞がありますが、背の途中で斑点に変ります。北方に生息する個体は長毛が密に生え全体に淡い色をしていますが、南方の個体は粗く短い毛が生え、黄色や茶褐色が濃くなります。瞳孔はイエネコと同様に縦長で楕円形に収縮し、虹彩は黄褐色です。メスよりオスの方が大きく、ボルネオなどの南方産の個体より北部の個体の方が体は大きくなります。全体的にみると体長は45~55cm、尾長23~29cm、体重3~5kgです。前肢には5本、後肢には4本の指があり引っ込めることのできる鉤爪をもっています。足裏には肉球があり、獲物に音を立てないで近づくことができます。雌雄ともに肛門嚢(のう)があり、とくに発情中のオスは頻繁に匂いつけを行います。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、小臼歯3/2、臼歯1/1で合計30本です。乳頭数は2対です。

えさ
クマネズミなどのネズミのなかまや、トガリネズミ、ノウサギからリスやシカの子ども、モグラ、オオコウモリなど小型の哺乳類、地上性の鳥類と卵、カエル、トカゲやヘビ、魚類、カニ、時には死肉を食べることもあります。

繁殖
繁殖期はアジア南部の個体は年中繁殖しますが、北部では5月に繁殖しています。国内における飼育下の繁殖例では、3月に4日間の発情がみられ数回交尾し5月出産予定でしたが流産、その後9月に再び4日間の発情中に交尾して11月に3頭を出産した、と報告しています。妊娠期間は63~66日、ふつう1産で2~3頭です。生まれたばかりの赤ちゃんは体重が75~130gで、綿毛が生えており生後1.5ヶ月齢で成獣の毛に変り始めます。子どもは目が閉じて生まれ、生後10日~15日齢で目が開きます。生後2週齢で体重が出産時の2倍になり、生後3ヶ月齢で1.5kg前後になります。乳歯は生後3~4週齢で生えはじめ、生後4~5ヶ月齢で永久歯に代わります。固形物の肉は生後約4~5週齢で食べ始めます。性成熟は飼育下では生後8ヶ月という早い記録もありますが、野生では通常2~3歳です。
長寿記録としては1984年8月16日にドイツのライプチヒ動物園で生まれ、2001年4月19日に死亡した個体(メス)の16歳8ヶ月、1978年5月9日にシンシナティ動物園で死亡した個体(メス)の飼育期間13年4ヶ月、推定年齢17歳があります。

外敵
人間の他には、野生の天敵として、ヒョウ、シマハイエナ、オオカミ、ドールなどがいます。

日本に分布する野生ネコ
我が国には西表島と対馬に次の2種が分布しています。

〇イリオモテヤマネコ属
イリオモテヤマネコ
沖縄県の西表島のおよそ標高200m以下の河川やマングローブ林、農耕地などの近くに水場がある地域に多く、山岳部には少数がいます。体色は背が濃茶色、側面に灰褐色の地に暗褐色の斑紋が散在し全体的に濃く、腹面は淡色です。繁殖期以外は単独で生活し、基本的に夜行性で、朝と夕方に活動のピークがあります。ネズミ類、イノシシなどの哺乳類、鳥類がおもな餌ですが、そのほかにトカゲ、ヘビなどの爬虫類、カエルなどの両生類、昆虫類も食べます。849個の糞の分析結果から95種類の食物が見つかったとの報告があります。行動圏はオスで2~3km2、メスが1~2km2でした。オス、メスともに排尿によるマーキングで匂いつけをしているのが見られるので、行動圏となわばりが同じではないかと考えられています。体長は50~60cm、尾長23~24cm、体重3~4kgです。
1967年に新種記載され、1972年に国の天然記念物、1977年に特別天然記念物、1994年に国内希少野生動植物種に指定にされています。1994年に生息数が100頭前後と推定され、その後大きな変化は認められていません。
西表島は90%以上が森林に覆われ森林生態系保護地域が設定されていますが、主な生息地である東部から北部の低地部が含まれていないとの指摘もあります。現在、1995年に開設された西表野生生物保護センターが中心となり調査研究、保全活動を進めているほか、林野庁と民間団体も共に保護活動や啓発活動を行っています。

分類について
イリオモテヤマネコは第3~5頚椎の棘突起が痕跡的で、前頭洞がなく、肛門嚢(のう)が肛門側方の裸出部に開く点など他の現生ネコと違うと考えられることから、ここでは独立種として扱いました。しかし、近年ミトコンドリアDNA鑑定結果からベンガルヤマネコと近縁とする判定結果が得られ、環境省もこの説に従いベンガルヤマネコの日本固有の亜種としています。 環境省が2012年に発表した最新のレッドリストでは、ごく近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高いものとして、絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。

〇ネコ属
ツシマヤマネコ
ここでは独立種としましたが、環境省はミトコンドリアDNA鑑定結果に基づきベンガルヤマネコの1亜種と認定しています。長崎県対馬、朝鮮、中国東北部、アムール川流域に分布しています。体長は60~83cm、尾長25~44cm、体重3.5~6.8kgです。体色は灰褐色で、暗褐色の不明瞭な斑点が全体についています。日没から数時間と17時~21時に活動のピークがあると言われています。主にネズミ類やリス、ウサギのほかに水鳥、カエル、ヘビ、昆虫類などを食べています。5頭のメスと1頭のオスの行動圏は平均0.83km2でした。 長崎県対馬には1997年時点で70~90頭が生息し、国内希少野生動植物種に指定され、飼育下繁殖を含む保護増殖事業等が進められています。年々減少傾向が続いていますが、その原因は過去の生息地の落葉広葉樹林が伐採され、植生が針葉樹に代わり主食となっていたネズミ類が減少したことが挙げられます。この他開発により道路が整備されると交通事故や、イエネコからの病気感染などが挙げられます。
環境省は2012年に発表した最新のレッドリストで、ごく近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高いものと判断して絶滅危惧IA類(CR)に指定しています。

分類   食肉目 ネコ科
分布   中国中部、インド、ヒマラヤから南は南アジア諸国
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
45~55cm
3~5kg
23~29cm
絶滅危機の程度   ベンガルヤマネコは分布域が広く、個体数も多いことから、現在のところは絶滅の恐れは少ないと判断され、IUCN(国際自然保護連合)発行の2012年版のレッドリストでは低懸念(LC)種にランクされています。インド、バングラデシュ、タイ国産はワシントン条約付属書I表、他の国のものも付属書Ⅱ表に該当し商取引の輸出入の規制対象動物となっています。

主な参考文献
林壽朗   標準動物図鑑全集 動物I 保育社1968
今泉吉典 監修   野生ネコの百科  データハウス 1993
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
Nowell, K. & Jackson, P.(ed)   Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan― IUCN 1996
ジョン・ボネット・ウェクソ編
増井光子訳・監修
  ライオン/ネコ 誠文堂新光社 1985
成島悦雄   ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育 □2 食肉目:今泉吉典 監修、 ㈶東京動物園協会 1991
那波昭義   ヤマネコの繁殖について どうぶつと動物園 Vol.18 No.2㈶東京動物園協会 1966. 
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009.
絶滅危惧種情報(動物)イリオモテヤマネコ   http://www.biodic.go.jp/rdb_fts/2000/74_063.html
絶滅危惧種情報(動物)ツシマヤマネコ   http://www.biodic.go.jp/rdb_fts/2000/74_085.html

おもしろ哺乳動物大百科91(食肉目 ハイエナ科) 2012.11.26

シマハイエナ属
1属2種、カッショクハイエナとシマハイエナがいます。カッショクハイエナの概略とシマハイエナについて紹介しましょう。

カッショクハイエナ
アフリカ南部に分布していますが現在は南端部にはいません。乾燥した岩の多い草原やサバンナの低木林などが主な生息場所です。ブチハイエナとシマハイエナの中間の大きさで、体長は110~140cm、体重35~50kgになり、オスの方が10%前後大きくなります。頸部にはおよそ25cmのたてがみがあり、背中には長く粗い毛が生えています。4肢には縞がありますが背にはありません。1頭の優位オスと劣位の3~4頭のオス、4~6頭の成獣メスとその子どもでクランをつくり、雨期のなわばりは約170km2です。ブチハイエナとシマハイエナは肛門腺の分泌成分は同じですが、本種は左右で異なる2種類の分泌液を出して匂いつけをするところが特徴の一つです。夜行性で、主食は腐肉のため単独で探しに出かけ、大きな食物は藪の中に隠します。妊娠期間は約3ヶ月、繁殖期は8月~11月、1産に2~5頭です。母親は他個体の子どもにも授乳し、成獣のメスは餌を巣穴まで持ち帰り分配します。共同育児をすることでクランを形成すると考えられています。国際自然保護連合(IUCN)発行の2012年版のレッドリストでは、すぐに絶滅する恐れは少ないが、将来的にはその恐れがあると判断され準絶滅危惧種(NT)にランクされています。

91)シマハイエナ
ハイエナの仲間でアフリカ以外にも生息する唯一の種類です。アフリカのサハラ砂漠以北、アラビア半島、中東、コーカサス地方、インド、ネパールにいたるまで広く分布しています。生息環境はカッショクハイエナと類似しており、乾燥した地域、岩場のある草原、開けた雑木林、サバンナの森林などで、イランでは標高2,250m、インドでは標高2,500mパキスタンでは標高3,300mの高所でも見られます。砂漠は避け、10km以内に水場が必要です。夜行性で餌はふつう1頭で探しに出かけますが、主食が他の動物が殺した動物の余りや小動物のためにこの方が有利なのかもしれません。社会構成の詳しい研究は少ないのですが、基本的に単独生活をしており、繁殖期にのみ、つがいや親子の小グループの存在が報告されています。同じ群れの仲間の行動圏は85%が重複していましたが、他の群れとは22%のみでした。セレンゲティの行動圏の調査ではオスが約72km2、メスが約44km2で、他にも8頭のメスの平均が71km2、12頭のオスでは平均82km2などがあります。なわばりについての報告もまた少なく、行動圏内にある繁殖用の巣穴のまわりの草、木の幹、石に肛門腺からのペースト状の分泌物を塗りつけるほか、排便後指間腺のある前足で土を掻き回し匂いをつけるので、なわばりと考えられています。この他行動圏内の餌探しのルートにも時々匂いつけをしますが、それがなわばりか否か明確ではありません。セレンゲティの調査で、餌を探すために一晩で平均およそ19km移動しましたが、この時の速度は最低時速2~4km、小走りで時速約8km、最高速度は時速約50kmでした。アフリカの場合、他の肉食獣との力関係はヒョウと同じ程度で、アフリカ以外ではトラが天敵ですが、トラの子どもはシマハイエナが天敵となります。挨拶行動の1つに個体が出会った時は、肛門嚢(のう)を5cmくらい裏返して相手に見せる行動や背中の毛を逆立てながら相手の頭部や背の匂いを嗅ぐ行動が見られます。攻撃姿勢ではたてがみや尾を起立させて威嚇します。個体間で交わす鳴き声はブチハイエナのような大きな笑い声ではなく比較的静かで、低いうなり声や鼻を鳴らす声、母親が子どもと交わす声があります。死肉や他の多くの種類の餌を探すために必要な視覚、聴覚、嗅覚はそれぞれ優れています。

  シマハイエナも子どもたちと一緒で幸せそうですね!
シマハイエナも子どもたちと一緒で幸せそうですね!
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
体の大きさはハイエナ亜科の中で最も小型ですが体形はがっしりとしています。体長は100~120cm、体重25~55kg、尾長は25~45cmで、オスの方がメスよりも少し大きくなります。頸部は長く、4肢は細めで後肢に比べ前肢が長いため頭部から腰部にかけて傾斜しています。各肢には5本の指があり、耳は大きくて先端が尖っています。体色は灰色から明るい褐色、赤味のかかった色まで多様で、胴部と4肢には黒い横縞があります。黒色の長いたてがみは起立させると外見を30%大きく見せることができます。喉部の黒いパッチ部の皮膚は厚く毛が密に生えています。たてがみは13~25cmありますが、他の部分の毛の長さは4~10cmです。夏毛は短く下毛が消失します。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/3、臼歯1/1で左右上下合わせて34本です。乳頭数はふつう2~3対あり、メスの外部生殖器はブチハイエナのように特殊化していません。肛門腺と指間腺が発達しており、匂いつけや挨拶行動のときに使います。

えさ
主食は死肉を中心とした雑食性で、ブチハイエナ、チーター、ヒョウ、ライオン、リカオン、トラなどが食べ残した死肉や、小型の脊椎動物、小型のワニ、鳥、卵、昆虫、メロン、ナツメヤシ、モモなどの果物、草、冬眠中のカメも掘り出し強い臼歯で甲羅も砕き食べることができます。他の肉食獣が食べない骨の部位も食べ有機物として補い、消化できない蹄、角、骨はペリットとして吐き出します。余った餌は一時藪や土の中、巣穴に隠します。この他、家畜のヤギやヒツジ、ロバも襲うことがあります。原産国ではスカベンジャー(腐肉食動物)とも言われ、ごみを家屋の外に出しておき処理させることもありますが、このことが人間と接触する機会を増しトラブルの原因ともなっています。

繁殖
年間を通じて繁殖しますが5月から9月が多くなっています。発情周期は40~50日との報告もあり、発情は1日間だけで、まれに2日間続きます。妊娠期間は88~92日。野生の産子数は1~5頭、平均2.4頭です。新生児の体重は約700g、耳と目は閉じて生まれ、目は生後5~9日齢で開き、歩行は8日齢頃からです。食肉目の仲間の多くは母親が性器を舐めて排泄をさせますが、シマハイエナも同様で自分で排泄できるのは生後26日齢頃です。生後30日齢で社会的な遊びを始め、この頃肉を食べ始めます。歯は生後33~36日齢で生えそろいます。巣穴から2週齢ころ出るようになりますが、授乳は1歳過ぎまで行われます。子どもは巣穴で母親が単独で育てます。性成熟は2~3才、早いものでは生後18ヶ月齢の場合もあります。出産前にメスは巣穴をより激しく掘るようになります。岩の割れ目やほかの動物の使った穴を使うことは稀です。巣穴の1つは入口の直径が40cmで、長さ4mのトンネルが高さ1.4mの小部屋に通じていて、ここからさらに5ヵ所の小部屋に通じており、各室には食べた骨が散らばっていました。イスラエルでは長さ約27mの巣穴もありました。出産後20~21日に次の発情が始まります。
国内では次の動物園でシマハイエナの繁殖例が報告されているのでその概略を紹介します。
〇多摩動物公園の繁殖:1964年8月9日出産。生まれたばかりの赤ちゃんは柔らかな白い毛が生え黒い縞があり、体長25cm、体重590gでした。生後9日齢で目が少し開き生後13日齢で見えるようになりました。生後76日齢で煮魚から鶏頭を与えはじめ、生後110日齢で離乳し、鶏頭、馬肉、煮イモ、小魚などに切り替えました。体重は生後150日齢で13kgになりました。
〇羽村市動物園の繁殖:1981年6月7日4頭出産。生後2日齢(6月9日)の1頭の体重は650gでした。生後5日齢で左目が少し開き、生後11日齢には両眼とも開きました。体重は生後48日齢で2.8kgになりました。生後48日齢で初めて肉を15g食べ、生後87日齢で離乳させて鶏頭と馬肉を主食に切り替えました。
長寿記録としては、エジプトのギザ動物園で1924年3月当時に生存していた個体(メス)の飼育期間22年11ヶ月、推定年齢25歳があります。

外敵
人間が最大の敵ですが、人間以外の野生動物の外敵としては、ライオン、トラ、ヒョウ、ブチハイエナがいます

亜種
生息地、大きさ、体色から次の5亜種に分類する学者もいます。
(1)インド (2)北西アフリカ (3)北東アフリカ (4)アラビア半島 (5)中東、コーカサス地方及びアジアの一部

分類   食肉目 ハイエナ科
分布   サハラ砂漠以北、アラビア半島、中東、コーカサス地方からインド、ネパールまで
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
110~120cm
25~55kg
25~45cm
絶滅危機の程度   過度の開発による生息地の破壊、家畜や農場を守るための毒餌やワナ、銃による駆除、その他に薬用や食料としても捕獲されてきました。このため、モロッコ、アルジェリア、チュニジアでは生息地の減少と肉食獣から追われて減少し、高所の一部に限定されています。野生の生息数は全体で5,000~14,000頭と推定されています。
各地で生息数は減少していますが、生息域が広大であることから、国際自然保護連合(IUCN)発行の2012年版のレッドリストでは、すぐに絶滅する恐れは少ないが、将来的にはその恐れがあるとして準絶滅危惧種(NT)にランクされています。

主な参考文献
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
今泉吉典 監修   動物大百科 食肉類 平凡社 1986.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
川口幸男   ハイエナ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目:今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991.
桑原久   シマハイエナの人工哺育 どうぶつと動物園 Vol.17 No.3, ㈶東京動物園協会 1965.
Rieger,I.   Mammalian Species . No.150, Hyaena hyaena. The American Society of Mammalogists 1981.
坂本一則   シマハイエナの人工哺育 どうぶつと動物園 Vol.34 No.9, ㈶東京動物園協会 1982.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009.

おもしろ哺乳動物大百科90(食肉目 ハイエナ科) 2012.11.08

ハイエナ亜科 
ハイエナ亜科は2属3種に分類されます。ブチハイエナ属はブチハイエナ1種、シマハイエナ属はカッショクハイエナとシマハイエナの2種がいます。最大種はブチハイエナで体長95cm~165cm、体重40~86kg、最小種はシマハイエナで体長100cm~120cm、体重25~55kgです。両属は体格以外に生態や雌の外性器など種によって違いがありますが、合わせて3種のため順次概説していきます。

ブチハイエナ属
1属1種でアフリカのサハラ以南にブチハイエナが生息しています。

90)ブチハイエナ
アフリカの赤道周辺の低地の熱帯降雨林と高地を除き、サハラ以南に広く分布しています。生息環境はサバンナ、半砂漠、沼沢地、森林、藪があり岩の多い場所を好み、海抜約4,000mの高所でも見つかっています。ハイエナの仲間では最大になり、メスの方がオスより体重が重く大型で社会的に優位です。南アフリカのカラハリでは、パックと呼ばれる家族を中心としたメンバーは平均でわずか3頭、パックがいくつか集まったクランでも8頭、なわばりは生息地が半砂漠を含むため広く1,095km2の調査報告があります。一方、東アフリカのセレンゲティやゴロンゴロでは35~80頭の大きなクランになります。ゴロンゴロ・クレーターは広さが約265km2あり、ブチハイエナのなわばりは約30km2でした。ケニアで1日の移動距離を調査したところ平均すると約12km、1時間に約1kmで、オスはメスより広い地域を徘徊していました。ゴロンゴロでは年間を通じて同じ地域にとどまっていますが、セレンゲティでは年間の半分は餌となる草食動物を追って1日に30~40km移動します。獲物は追跡して捕らえますが、トップスピードは時速約60km、さらに数kmを時速40~50kmで走り続けることができます。ブチハイエナは大型でアフリカの肉食獣の中で、チーター、ヒョウ、シマハイエナ、カッショクハイエナ、ジャッカル、リカオンより優位で唯一ライオンより劣位ですが、クランでいるときはライオンより優位となり獲物を横取りするときもあります。夜行性で活動時間帯のピークは夕暮れ時で、次は明け方となります。クランのメンバーはお互いに認識しており、出会ったときはお互いの性器を見せて挨拶をしますが、劣位の個体が先に見せます。声によるコミュニケーションも行い、挨拶、威嚇、攻撃、求愛など12種類が知られています。なわばりの境界線には肛門腺から排出するクリーム状のペーストを1つだけ草の茎に付け、糞場では排便後、前足で土をかきむしり指間腺の分泌物をこすり付けます。聴覚、嗅覚、視覚が発達しており、夜間でも遠くまで良く見えるようです。

  頸部から頭部にかけて太く、迫力満点でいかにも強そうですね。
頸部から頭部にかけて太く、迫力満点でいかにも強そうですね。
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
ハイエナの中で最も大型で、体長は95~165cm、体重40~86kg、尾長は25~36cmで、雌が雄より体重が4~12%重いのが特徴となっています。4肢は細めで各肢には4本の指があります。体毛は羊毛状で粗く短い毛が生え、地色はくすんだ黄色でこげ茶から黒の不規則な斑紋があります。色調と模様は多様で加齢と共に班紋数が減少します。短いたてがみがあって起立させることができます。がっしりとした前半身は頭部が大きく、他の大型食肉獣が噛み砕くことのできない大きな骨と厚い皮を強い歯で噛み砕くために、小臼歯が他の食肉目の仲間より大きく顎の筋肉が発達しています。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/3、臼歯1/1で左右上下合わせて34本です。犬歯は強力で、獲物を仕留めるだけでなく、肉を切り裂き噛み切るときにも使われます。乳頭数はふつう1対、まれに2対です。ブチハイエナの特徴は外部生殖器が雌雄で類似しており外見上区別できない点です。メスのクリトリスは勃起することができ、オスのペニスほど大きく排尿、交尾、出産がクリトリスを経て行われます。さらに1対の睾丸のような嚢(のう)がありますが、内部は繊維組織で外見上オスの陰嚢に似せるためにあるようです。肛門腺と指間腺から分泌液を排出し、なわばりの境界線に匂いつけをします。

えさ
大型のシマウマ、ヌー、トピ、ゲムズボック、ガゼルなどの多くの有蹄獣が主食ですが、生息地により獲物の種類の割合に違いが見られます。他に、魚類、カメ、シロアリ、ヘビ、センザンコウからサイ、ライオンの子ども、腐肉、果物も食べます。一度に自分の体重の25~30%を食べることができ、18kgの肉と骨を1時間で食べた記録があります。主に死肉を食べると考えられてきましたが、実際はその割合は三分の一以下で、自分で捕らえる獲物が60~95%に及び、体重20kg以上の哺乳類が90%以上で、20頭のクランが1歳の体重約100kgのヌーをおよそ13分で食べた報告があり、早食いでも有名です。獲物は水中に一時蓄え、後で食べることあります。水は少量しか飲まず1週間飲まなくとも大丈夫です。他の肉食獣が食べない骨の部位も食べ、有機物として補い、消化できない蹄、角、骨はペリットとして吐き出します。

繁殖
年間を通じて繁殖しますが、ピークは2月から3月で、この時期はサバンナで有蹄獣の出産が多い時期と一致しています。メスの発情周期は14日間で1~3日間続きますが、オスには発情周期はありません。メスは1回の発情の間に1~4頭のオスと交尾し、妊娠期間は約110日、産子数はふつう1~2頭、25~30%が双子でまれに3頭生まれます。新生児の大きさは1~1.5kgで、目は開いて生まれますが視力はありません。前肢で這うことはできます。歯はすでに犬歯と臼歯が生えそろって生まれるため、同性の場合他の子どもを殺すことがあります。新生児の毛色は黒の単色で、生後5~6週齢から変わりはじめ、成獣と同じ斑紋に変るのは生後4~5ヶ月です。出産はクランのいる巣穴とは離れた母子だけの巣穴で行われ、2~5週齢になるとクランの巣穴に移動します。クランの巣穴には誕生日の違う20~30頭の子どもが過ごしていますが、ふつうは自分の子どもの面倒をみて他の子どもが近づくのを拒みます。生後8~12ヶ月齢迄ここで過ごし、その後餌探しに母親と共に同行します。母親は巣穴に肉を持ち帰ることがあり、子どもは生後2.5ヶ月齢で食べ始めますが、定期的に食べるのは生後7~8ヶ月齢です。子どもへの授乳は3ヶ月齢までは1日におよそ6回おこなわれ、血縁関係がある場合は他の子どもに授乳することがあります。授乳期間は長く、通常は生後13~14ヶ月齢まで続きますが、劣位のメスから生まれた双子の場合では約2歳まで授乳します。このころには子どもはほぼ成長しています。子どもの死亡率は離乳後急速に上昇し、成獣になる前に50%が死亡します。子どもは1.5歳頃から狩りに参加します。性成熟はオスが約2年、メスの最初の出産年齢は2~6歳と幅がありますが、ふつう3~4歳で繁殖が始まります。
長寿記録としては、ベルリン動物園で1965年8月6日に死亡した個体(オス)の飼育期間41年1ヶ月があります。

外敵
人間以外の野生動物の外敵として存在するのはライオンのみですが、子どもは他の肉食獣に狙われるだけでなく、成獣のブチハイエナのオスにも狙われ命を落とすことがあります。


分類   食肉目 ハイエナ科
分布   アフリカ東部と北東部、及び南アフリカ
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
95~165cm
40~86kg
25~36cm
絶滅危機の程度   生息域が広く食物が人間と競合しないため現在のところは絶滅の恐れは少ないと判断され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2012年版のレッドリストでは、低懸念種(LC)にランクされています。

主な参考文献
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
今泉忠明   動物の狩りの百科 データハウス 1995.
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修   動物大百科 食肉類 平凡社 1986.
林壽郎   標準原色図鑑全集 動物II 保育社 1981.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
川口幸男   ハイエナ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目:今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009.

おもしろ哺乳動物大百科89(食肉目 ハイエナ科) 2012.10.25

ハイエナ科
ハイエナ科は3属4種と分類する学者と、アードウルフ亜科1属1種とハイエナ亜科2属3種に分類する学者がいますが、最近では2亜科に分類する説が主流となっています。アードウルフは食性が他のハイエナの仲間と異なり、シロアリや昆虫の幼虫が主食のため、歯はハイエナ亜科と若干違いますが、解剖学的特徴や染色体、血液蛋白質の組成が類似しているためハイエナ科に分類しています。分布はサハラ以南のアフリカ、トルコからアラビア半島にいたる中東、ソ連南西部、インドに達しています。大型の種類ではブチハイエナが体長95~165cm、体重40~86kgに対し、最小のアードウルフは体長55~80cm、体重約9~14kgなので大差があり、体の縞模様も異なります。アードウルフに比べ、ハイエナの仲間は頭部と前額部が大きく後躯は貧弱です。乳頭は1~3対あります。アードウルフは繁殖期には1夫1妻で育児していますが、餌探しは単独で行います。ハイエナ亜科の仲間は母系集団で生活し、群れの大きさは種によって違いが見られます。夜行性で日中は自分で掘った穴のほかに、ツチブタなど他の動物が掘った穴や岩場の隙間などを利用して休憩します。繁殖期は決まっていませんが、種ごとにピーク時があります。出産はふつう年1回で1~5頭が生まれ、授乳期間は12~16ヶ月間続き、生後3~6ヶ月齢から離乳食を食べ始めます。雑食性で哺乳類及びその死肉、腐肉、鳥と卵、果物や草など肉や腐肉まで食べます。顎の力が強く他の大型の肉食獣が食べることができない骨を噛み砕き、髄を食べることができます。消化できない角、蹄、骨はペリットとして吐き戻します。ハイエナ科の仲間の歯式は全種とも基本的には門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/3、臼歯1/1で左右上下合わせて34本です。
ハイエナ亜科は群れ社会を形成し、交尾を他の群れのオスと行うことから少数で飼育した場合、繁殖が難しいとされています。

アードウルフ亜科 アードウルフ属
1属1種なのでアードウルフについて紹介します。生息域により東部と南部に生息する仲間を別亜種として2亜種に分類しています。

89)アードウルフ
アフリカの2つの地域に別れて分布し、1つは東部、及び北東部のタンザニア中部からスーダン北東部、他方はアフリカ南部のアンゴラ、ザンビア南部から喜望峰にかけて生息しています。乾燥した地域を好み、年間雨量が100~800mmの半砂漠の草原や潅木林、サバンナなど餌となるシロアリの生息する地域にいます。群れは雌雄とその子どもで構成され、両親は共同して育児と外敵の防衛を行います。ふつう、つがいの絆は強くて2~5年間続きます。夜行性で日中は自分で掘った穴やツチブタ、トビウサギ、ヤマアラシが使った巣穴、岩の隙間を利用し、出産や休憩場所としています。活動時間は南アフリカでは夏季が8~9時間、冬季3~4時間で、夏季には日没後1時間以内に巣穴を出て1~4時間餌を探し、日の出前に戻ります。行動圏は1~4km2で、この中に0.5~1km2のなわばりをもっています。なわばりの中には約3,000個のシロアリの塚があり、それぞれのアリ塚には平均55,000匹のシロアリがいると考えられています。また、なわばり内には10カ所以上の巣穴とほぼ同数の糞塚があります。南アフリカにおける1晩の移動距離は平均4kmで、餌探しをしない時は時速2.3km、餌探しのときは時速約1kmで歩行していました。なわばりの防衛は雌雄共同で行い、セグロジャッカルのような外敵や隣接したアードウルフの侵入に対して、たてがみを立てて大声を上げて威嚇したり、突進したりして撃退します。なわばり内では肛門腺からの分泌液を草の茎に5mm程度付着させます。匂いつけはなわばりの境界線では回数が多くなり、とりわけ交尾期には回数が多く、50m毎に2時間に120回付けた記録や1晩に約200回の記録があります。ふだんは静かな種類ですが、9種類の声によるコミュニケーションが知られています。おもに外敵から子どもを守るために発する威嚇や攻撃、交尾期の求愛、親子間の甘え声などです。

  他のハイエナの仲間よりスマートです。黒い鼻が目立ちます。
他のハイエナの仲間よりスマートです。黒い鼻が目立ちます。
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
体の模様はシマハイエナと似ていますが、大きさは半分ほどしかなく全体的に華奢な印象です。体色は黄灰色、黄褐色、黄白色、赤褐色まであり、胴と4肢に黒い縞模様があります。頸部から背を通って尾の付け根までたてがみのような長い毛があり、興奮すると逆立てることができます。鼻面には毛がなく黒色です。上毛は剛毛で、頭部が約7cm、肩部が約20cm、尾部が約16 cmあります。下毛は長さ1.6~2cmの柔らかい毛で被われています。尾はハイエナ亜科の仲間より長くびっしりと毛が生えており先端は黒色です。頸部は長く、前肢は後肢より細長くて、指は前肢に5本、後肢には4本あり、爪は引っ込めることができません。歩行はイヌやネコと同じように踵をあげて指骨を地面に付けて歩く指行性です。体長は55~80cm、体重9~14kg、尾長は20~30cmで、雌雄の性差はありません。耳は細長の三角形で約8cm です。顎の筋肉は強く、犬歯は細く鋭くなっていますが、これは外敵のセグロジャッカルやなわばりをめぐる闘争の時に使います。肛門腺は雌雄ともに肛門の上部にあって、匂いつけをする際は肛門嚢(のう)を体外に出して黄赤色の分泌液を出します。舌はオオアリクイのように細長くはなく、ヘラのように大きくて長く、表面には多くの小乳頭突起があります。また、大量の粘液性の唾液を出す顎下腺がありシロアリを効率よく舐めとることができます。嗅覚と聴覚が優れ、大きな鼓胞でシロアリの出す音を聞きとることができます。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/3、臼歯1/1で左右上下合わせて34本です。犬歯は強力ですが臼歯は縮小し、広い隙間があき成獣は24本まで減少するケースが多く見られます。乳頭数は2対です。

えさ
基本的にシロアリが主食で、他にも昆虫とその幼虫、小型の哺乳類、ヒナ、腐肉、ウジなども食べます。ふつう各地域で1種類のシロアリを食べていますが、いない時は、約10%を他のシロアリやアリ、甲虫、ガなどで補います。シロアリたちの出す音を感知して風下から近づきますが、このほかに鋭い嗅覚も、シロアリが分泌する匂いを探知するのに役立っていると考えられています。東アフリカでは1ヵ所で20~28秒間、南アフリカの場合平均で11秒間食べていました。調査区域や乾季と雨期及びシロアリの種類によって大きさが違うので、採食量に幅がありますが、一晩に6時間の餌探しで20~30万匹を採食すると推定され、重量に換算すると1~2kgになります。また、年間1億500万匹食べるという報告もあります。シロアリ1kgと赤身肉750gがほぼ同等の栄養価があると分析結果が出ています。水は通常はシロアリの表面についた水分で補えますが、シロアリが少ない地域では水場を探すことがあります。

繁殖
繁殖期は春から夏で、発情は1~3日間持続します。妊娠期間は90~110日で2~4頭出産します。基本的には1雌1雄ですが、交尾期の間にはいわゆる“つがい外交尾”がしばしば起き、南アフリカではその割合が40%になります。南アフリカのケイプ州北部では6月初旬の2週間に交尾し、毎年10月初旬に出産します。生まれた時の子どもの体重は200~350gで、目は開いています。生後約1ヶ月齢まで巣穴に留まり、4~6週齢で短時間親がそばについて外に出ます。6~9週齢になると巣穴からおよそ30m以内で遊び、9~12週齢では巣穴から約100m以内を親と一緒にシロアリを探しに出掛けます。12週齢から4ヶ月齢では、なわばり内を親と共に餌探しに出かけ、4ヶ月齢頃に離乳します。メスが採食に巣外に出ている間はオスが巣穴に残って子どもの面倒を見ますが、メスは採食に約6時間離れるのにくらべオスはわずか2~3時間しか離れません。子どもの成長は早く、親と同じ体重になるのは生後3~6ヶ月齢です。生後7ヶ月齢で独立し、最初は親のなわばり内で一緒に過ごし、次の子どもが巣穴から出て餌を食べる頃には親のなわばりを離れます。ケイプ州における生後12ヶ月齢までの子どもの生存率は1981~1984年の間で68%でした。しかし、1984年の冬季の厳しい旱魃時には55%が死亡したとの報告があります。性成熟は約1.8歳です。交尾期には週1回程度オス同士で闘います。
長寿記録としては、フランクフルト動物園で1986年5月27日に死亡した個体(メス)の飼育期間18年11ヶ月、推定年齢20歳があります。

外敵
野生の主な外敵はセグロジャッカルですが、その他にライオンやヒョウなどの大形の肉食動物があげられます。オオミミギツネとケープギツネは餌が昆虫食で競合しています。また、同種内のなわばり争いで死亡する例もあります。


分類   食肉目 ハイエナ科
分布   アフリカ東部と北東部、及び南アフリカ
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
55~80cm
9~14kg
20~30cm
絶滅危機の程度   農地や住宅地のために過度の開発が進められた結果、生息域が減少しています。また、ジャッカルを駆除するために農場などで撒く毒餌で成獣と子どもが犠牲になるほか、食料にするための狩猟、夜間の交通事故も減少原因となっています。しかし、幸いなことに彼らの主食がシロアリや昆虫などで人間と競合せず、生息数が比較的安定していることから、現在のところは絶滅の恐れは少ないと判断され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2012年版のレッドリストでは、低懸念種(LC)にランクされています。

主な参考文献
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修   動物大百科 食肉類 平凡社 1986.
林壽郎   標準原色図鑑全集 動物II 保育社 1981.
Koehler,C.D. & Richardson,P.R.K.   Mammalian Species . No.363, Proteles cristatus. The American Society of Mammalogists 1990.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
川口幸男   ハイエナ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目:今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009.

おもしろ哺乳動物大百科88(食肉目 マングース科) 2012.10.09

シママングース属
本属にはガンビアマングースとシママングースの2種類がいます。
ガンビアマングースは、西アフリカのガンビアからナイジェリアのサバンナに生息しています。体長は32~35cm、体重0.6~1.8kg、尾長19~21cmでシママングースとほぼ同程度ですが、模様に違いがあります。本種にはシママングースの背面にあるような横縞がなく、喉部に淡黄色がかった白色がある点と、頸部の両側に狭い黒い帯があることで区別ができます。昼行性で主に早朝や夕暮れに活動します。
今回は動物園でもよく見かけ、また最近は特定外来生物としても関心を持たれているシママングースを紹介します。

88)シママングース
アフリカのサハラ以南のコンゴ及び南西アフリカを除く、セネガル、ガンビア東部から東はエリトリア、ソマリアにかけてと南はアンゴラ、ナミビア、南東アフリカに広く分布します。生息地によって17亜種に分類されています。パックと呼ばれるふつう10~20頭、まれに40頭にもなる家族を中心とした群れで生活しています。メンバーは成獣の雌雄と子どもで構成されておりメスよりオスの方が優位です。まばらで棘のある低木の藪、岩地、水のあるサバンナ周辺を好みますが、時には水のない場所にもいます。森林地帯、町や村でも見られますが、砂漠や半砂漠地、山岳地帯、高地には生息していません。昼行性で夜間は巣穴としてアリ塚など他の動物が作った穴、岩陰、樹洞、溝を利用します。日中の活動時間は7時から8時ころに巣穴を出て数時間餌を探し、日中の暑い時間帯は日陰で休憩し、それから再び採食をして日没前に巣穴に帰ります。巣穴には1~9ヶ所の出入り口があって、中央に1~2m3の寝室、他にもいくつかの部屋があります。各グループは行動圏の中に約40ヶ所の巣穴を持ち、大抵数日間すごすと他の巣穴に移りますが、授乳中の子どもがいるときは同じ巣穴に長く留まります。行動圏は一部重複し、ウガンダのクイーンエリザベス国立公園では約0.9km2、ルエンゾリ国立公園の行動圏は0.38~1.3km2、タンザニアのセレンゲティでは4km2以上などの報告があります。また、1日の移動距離はウガンダの2~3kmからセレンゲティの約10kmと生息地による違いがあります。群れはふつう長さ60m、幅40mに満たない場所一面に広がって、チイッ、チイッと鳴きながらゆっくりと前進して、岩の間や植物の間で食べ物を探しますが、狩りは共同ではおこないません。群れ内の絆は固く、お互いのグルーミングやオスは肛門腺からの分泌物をこすり付け合い、あるいは巣穴の入口に匂いをつけます。声によるコミュニケーションも盛んで、警戒、威嚇、親子間の呼び声などが知られています。外敵に対しては共同で防衛し、空からの猛禽類と地上の外敵を警戒して両後肢に尾を加え3点支柱で立ち上がり、敵が近づくと警戒音を発し穴の中にメンバーを避難させます。外敵以外にも、パックの巣穴は隣接しているため、お互いに激しく抗争することもあります。

  勝気そうな顔をしてますね。鋭い犬歯と頑丈な爪が武器です。
勝気そうな顔をしてますね。鋭い犬歯と頑丈な爪が武器です。
写真家  大高成元氏 撮影
   

からだの特徴
頭部は長くキツネ顔で、胴は長く体長が30~45cm、尾長18~25cm、体重は0.9~2.3kgです。4肢にはそれぞれ5本の指があり、指間に小さな水かきが付いています。前足の爪の長さは親指が短く約0.8cm、他の指は約2cmで後肢の爪の2倍ぐらい長く強力です。体の色は上面が灰褐色、肩部から尾の基部までに10~15本の暗褐色の横縞があります。頭部の上毛は短く約0.6cm、臀部は約4.5cm、西部に生息する個体は約3.5cmと短く、下毛はうすく短いです。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/3、臼歯2/2で左右上下合わせて36本です。犬歯は特に強く、上顎ではわずかにそして下顎でははっきりと内側に曲がっています。裂肉歯は切り取るより押しつぶすのに適応しています。外側の前歯は内側より大きくなっています。乳頭は3対です。視覚、聴覚、嗅覚はいずれも優れています。

えさ
雑食性で主食は甲虫とその幼虫、及び他の昆虫とヤスデなどの多足類、クモ類、サソリで、その他に小型の哺乳類、爬虫類のヘビ、トカゲ、両生類のカエル、貝類、鳥類とその卵、地下茎、果実も食べます。アフリカゾウの糞を餌にする大型のフンコロガシは、格好の餌となります。地面を嗅ぎまわり昆虫を見つけると飛びついて捕り、地中にいるものは長い前足の爪を使って掘って捕まえます。卵のように割りにくいものは地面や岩に叩きつけて割ります。水かきもあり泳ぎも上手なので水中に生息する節足動物や甲殻類も食べると推測されます。動物園では、馬肉、鶏頭のほか、バナナなどをあたえています。

繁殖
繁殖期は北部では春、南アフリカでは春から夏(10月から3月)ですが、雨期に多く乾季の方が少ない傾向があります。発情は出産後6~7日以内に始まるので授乳しながら妊娠し、年間4~5回の出産が可能となります。発情は1週間ぐらい続き、この間は群れ内の優位なオスはメスをガードして、ひそかに交尾をしようと近寄ってくる劣位のオスを追い払います。しかし、メスはこのガードから逃れて群れ内のあるいは他群のオスとも交尾し、その結果グループのメスの約75%が出産します。妊娠期間は約60日です。パック内の出産は同じ巣穴でほぼ同じ日に見られます。産子数はふつう2~3頭、まれに6頭で、生まれたばかりの赤ちゃんは体重が約20~50g、短い毛が生えており、目と耳は閉じています。目は生後約10日齢で開きます。子どもの成長ははやく、生後5ヶ月齢で体重は親とほぼ同じの1.75~2.2kgに達します。授乳期間は生後3~4週齢まで続きますが、この間は他のメスからも授乳されます。パックのメンバーが採食に出かけるときはオスのベビーシッターが巣穴に残りますが、この役割は毎日変わります。子どもが巣穴から出るときはオスがエスコートして、外敵から守り、餌の捕り方を見せて学ばせます。ウガンダにおける生後1ヶ月間の死亡率は約20%で、成獣まで生き残るのはわずか18%です。性成熟はメスが生後9ヶ月齢、オスが生後約1年です。野生における寿命は10歳くらいですが、飼育下では12歳を超えた報告もあります。
長寿記録としては、イギリスのコツワルズ野生生物公園で2002年7月7日に死亡した個体(オス)の飼育期間17年5ヶ月があります。

外敵
アフリカハゲコウ、ゴマバラワシ(マーシャルイーグル)などの大型猛禽類、ナイルオオトカゲ、アフリカニシキヘビ、セグロジャッカル(ジャッカル)、ヒョウなどの肉食獣です。他にも、隣接するパックとの抗争で殺されることもあります。

日本に移入したマングース
シママングースは、現在、国内において未定着となっており、ジャワマングースのような外来種として生態系、農業、畜産業へ被害はありません。しかし、現在国内各地の動物園で飼育していることから、今後定着した場合被害が予測されるので、2010年2月1日から、特定外来生物に指定されました。
ジャワマングースは、かつて日本には、沖縄や奄美大島でハブによる被害が多く、コブラやハブの天敵として知られていた同種を1910年(明治43)に沖縄本島や渡名喜(となき)島に移入しました。しかし、ハブ以外の希少種であるアマミノクロウサギやヤンバルクイナなど在来生物が捕食され、養鶏被害や農作物への被害も出て生息数が大幅に増加しました。このため環境省から特定外来生物の指定を受け、鹿児島県奄美大島及び沖縄島北部地域(国頭村、東村及び大宜味村)について、平成18年~平成27年にかけて、当該地域からの完全排除及び当該地域への再侵入の防止を目指しています。


分類   マングース科  シママングース
分布   サハラ以南のアフリカ(アフリカ南西部を除く)
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
30~45cm
0.9~2.3kg
18~25cm
絶滅危機の程度   生息域の開発が進められた地域では生息数が減少していると推測されます。しかし、環境への適応性が高いので多くの地域で生息数が安定しています。また主食が昆虫類や多足類など人間と競合しないことから、養鶏のニワトリや卵、及び作物に被害が出ない限り駆除されません。そのため現在のところはまだ絶滅の恐れは少ないと判断され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、低懸念種(LC)にランクされています。

主な参考文献
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修   動物大百科 食肉類 平凡社 1986.
林壽郎   標準原色図鑑全集 動物II 保育社 1981.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
祖谷勝紀・伊東員義   ジャコウネコ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目: 今泉吉典 監修, ㈶東京動物園協会 1991.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009.

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