川口先生のペットコラム
旭化成ホームズ株式会社
Profile
ゾウの先生 川口 幸男

1940年東京都伊豆大島に生まれる。上野動物園飼育課を定年退職後、エレファント・トークを主宰。講演や執筆をしている。講演依頼は、メール またはFax 048-781-2309にお願いします。
NHKラジオ番組夏休みこども科学電話相談の先生でもあり、本編では長年の経験を踏まえて幅広く様々な話題を紹介します。
わんにゃんドクター 川口明子

日本獣医畜産大学卒業、同大学外科学研究生として学び、上野動物園で飼育実習後、埼玉県上尾市にかわぐちペットクリニックを開業する。娘夫婦もそろって獣医師で開業しており、一家そろって動物と仲良くつきあっている。
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おもしろ哺乳動物大百科105(長鼻目 ゾウ科) 2014.8.25

105) アジアゾウ
  アジアゾウはインド、インドシナ、マレーシア、インドネシア、中国南部、スリランカ島、スマトラ島、ボルネオ島に分布しています。
  生息場所は草原、熱帯、亜熱帯の常緑や半常緑、湿潤な落葉樹、乾燥した落葉樹、乾性有刺林、耕作地、二次林など、通常人間が利用している地域以外の山地林や藪地で生息していましたが、最近では農耕地付近にも出没しています。インドでは雨期の始めはイネ科の草が繁茂する落葉樹林に、雨期の後半には開けた棘のある森林、そして乾季には川辺林、湿地、常緑林に移動します。標高で見ると、ミャンマーでは約3,000mの竹林に、ヒマラヤ東部、インド東部の一部で夏には約3,000mまで移動します。私(川口)が実際に見た環境をいくつか紹介すると、ミャンマーの山地でみた場所は、竹林の中にまばらにチーク材の大木が生えており、ゾウは竹を主食としていました。ミャンマーは他の生息地に比べ未開発の地域も多く多種類の植物を採食していますが、訪れた場所がたまたま竹林だったのでしょう。インド北部アッサム州の野生保護区では深い森林があり下草の草本類は少ないようでしたが、管理官の話によれば水場付近にはイネ科植物が繁茂している地域があるそうです。ボルネオ島ではキナバタンガン川から川沿いに生えているヨシを採食するおよそ30頭の群れをボートから見ました。タイのカオヤイ国立公園の面積は東京都に匹敵し、約2,200km2あって世界自然遺産に登録され85%が森林に覆われています。森林は優勢植物タイプが湿生常緑樹林で公園の70%、その他は乾生常緑樹林、乾生混合落葉樹林、そしてカオ・キアオ尾根の標高1,000m以上を覆う高山常緑樹林となっています。カオヤイを訪れるとかつては他の生息域も竹やヨシばかりでなく、様々な果実が実る豊かな森と水場の植物を採食していたと連想されます。生息域が変化してきた背景には、ゾウが過剰に増えすぎたり、人間に追いやられたりして森から外に出たゾウたちは条件の悪い半砂漠や高山、湿地帯、竹林などに生息範囲を広げていったと推定されます。アジアゾウは現在13ヶ国にわたり生息しているので地域差がありますが、南インドの行動圏は100~500 km2です。生息域が分断されている国はこれより狭くなっていると考えられます。
  群れ構成は基本的にアフリカゾウの群れ構成と同じと考えられています。母と子どもの2~3頭が核となり、母子グループがいくつか集まり血縁関係のある3~15頭の群れを作ります。雨期になり食物が豊富な時は、昔は何百頭から約1,000頭の大集団になりましたが、現在はそのような大群は見られません。群は年長メスがリーダーとなり行動圏を巡回しています。私がタイで出会った最大の群れは、約25頭で目の前の道路を横断して行きました。ボルネオ島では15~40頭の報告もあります。
  睡眠時は群のすべてのメンバーが横臥して眠ることはなく、不寝番を残して夜中に3~4時間、日中の暑い時間に休憩をかねてまどろみ、子どもは横臥して休みます。アジア大陸にはトラやドールなどゾウを襲う外敵がいるので警戒する必要があります。動物園の睡眠調査によれば、一晩に2~4回、1回あたり1~2時間横臥して眠り、合計すると4~7時間でした。野生ゾウの歩行速度は時速5〜7kmとの報告があります。動物園で数取器を使って調査したところ、1時間に3,000〜3,600歩行しました。歩数に歩幅(オス 約200cm、メス約160cm)を掛けると肩高が約320cmの成獣オスゾウは時速6〜7.2km、肩高250~260cmのメスゾウは時速4.8〜5.8kmとなり、野生ゾウの歩行速度とほぼ類似した結果となりました。
  ゾウの知見でこの30年間におけるトッピクスのひとつは、ゾウたちが人間では聞くことのできない低周波音で交信していることを解明したことでしょう。きっかけはコーネル大学の研究員・キャサリン・ペイン(Katharine Payne)さんが1984年に米国のワシントンパーク動物園でゾウを観察中、鼻のつけ根の部位が時々膨らむと他のゾウが何らかの行動を起こすことから低周波の可能性を考えました。ゾウが低周波を使っていることは1983年にサンディエゴ野生動物公園の動物学者・ジュディス・ケイ・バーグ氏が触れているので予備知識としてあったのでしょう。そこでアフリカで低周波音の交信を実証するための実験場を作り、他の研究者と共に調査した結果を1989年8月号のナショナルジオグラフィックが掲載したのです。人の可聴周波数範囲は約20 Hz(ヘルツ)から20,000Hzですが、ゾウの発する周波数は、14Hzから12,000 Hzで、とりわけ14 Hzから34 Hzの低周波で数キロ離れた個体とコミュニケーションを取り合っていることが明らかになりました。低周波音は森林や草地があっても音は通り抜ける特性があり、移動中に群れは時々立ち止り、耳を澄ませて低周波音をひろう行動が見られます。さらに、2004年にはスマトラ沖で大地震があり津波が発生しましたが、ゾウはいち早く高台に避難しており、1頭も被害にあいませんでした。彼らは地面を伝わる振動を足裏からいち早く察知し避難したと推測され、その仕組みは骨伝導によるもので、低周波音よりさらに遠方の情報をキャッチできると考えられています。
  コミュニケーションの手段としては、声以外に鼻で各部位を触ったり、口の中に鼻を入れたり、押し合い、追いかけっこなど触れ合い行動も頻繁に見られます。視覚は視野が広く、夜は良く見え、色の識別もいくらかできるようです。嗅覚に関しては、口中の硬口蓋に大豆くらいの大きさの鋤鼻器(ヤコブソン器官)があって、化学的コミュニケーションの受容器として排泄物から発情や周囲の情報を得ています。オスゾウは鼻先でメスの陰部や尿に触れて、発情中のメスにのみ含まれる誘発物質に反応してフレーメンを呈します。

  ゾウが水場にやってきました。野生のゾウに会うと感動します。
ゾウが水場にやってきました。
野生のゾウに会うと感動します。
写真家 大高成元 氏撮影
   

からだの特徴
  体格は頭胴長がオスで550~650cm、メスは500~600cm(鼻端から仙骨の関節までの長さ。鼻の長さ約200cmを含みます)、肩高はオスが250~330cm(最高380cm)、メスが240cm(最高260cm)、体重はオスが2,500~6,000kg、メスは2,000~4,500kgです。スリランカ東部の低湿地帯に生息するゾウは巨体で肩高が320cmに達し、腹部と4肢の基部はピンクの斑点が多く見られます。
  4肢はアフリカゾウに比べると太くて短く、指骨は前後肢共に各5本ありますが、蹄は前肢に5個、後肢に4個です。外見上人間と同様に足裏全体を地面に付けている蹠行性動物に見えますが、骨格で見ると指先を地面に付けるイヌやネコと同様に趾(指)行性動物です。しかし、ゾウの仲間をウシやウマと同じ蹄行性動物とする場合もあります。ゾウの爪先立っている踵は脂肪層がありクッションの役割を果たしています。足底は広く前足は丸く直径約30cm、後肢は楕円形で短径が約30cm、長経が約40cmあります。肋骨の数は亜種間で差があり、スリランカゾウとスマトラゾウは20対、インドのベンガル地方の個体は19~20対です。ゾウの耳介は巨大で約70cmあり、広げて集音器のように使い、また裏側に走行している太い血管の血液温度を下げ体温調整の役割も果たします。動物園で採血するとき、夏季で外気温が高いときは血管が怒張しており簡単に採取できますが、冬季には血管が収縮し苦労することからも判ります。水浴びしたあと泥浴びをしますが、気化熱で体温を下げたりアブやハエ、ダニ、シラミ、ノミなどの害虫から皮膚を守ったりする役割を果たしています。鼻全体を伸縮することもでき、鼻先の部位の約50cmは皺が多く滑らかで自在に曲げることができます。鼻端は大人の握りこぶし程度で短い剛毛は触覚の役割を果たし、上側に指のような突起が1個あって草1本でもつまめます。水を飲むときは一度鼻で水を吸い上げて貯め、鼻を口に入れて注ぎ飲みます。一回に成獣メスは7~8ℓ、大きなオスでは約10ℓ吸いあげます。常時水があれば冬期は1回、夏季には数回飲み、一回に10回前後飲みますから、一日に70~100ℓ飲んでいることになります。
  歯は乳臼歯と永久歯が各3本上下左右に生え、上顎の第二切歯(側切歯)は伸びて牙となります。牙は2歳くらいまでに乳歯から永久歯に代わります。人間の場合、乳歯の真下から永久歯が萌芽するので垂直交換と言います。ゾウは一度に6本萌芽せずに約40年間の間に1本ずつ奥の方から前の方に移動しながら萌芽するので水平交換と言います。6本の臼歯は体の成長に伴い少しずつ大きくなり、最初の乳臼歯はマッチ箱程度ですが、40歳頃に萌芽する6番目の第3臼歯は長さが、20~30cm、重量は歯根部まで含めると1本で3~4kgになります。上下左右合わせた歯の重量は12~16kgになるため, 強力な顎の骨格と筋肉が付いています。咀嚼は下顎を前後に長円形を描くように動かし、他の動物では咬むことのできない堅果も噛み砕くことができます。歯の咬合面はエナメル褶曲(しゅうきょく)と呼ばれ、一見するとつぶれた輪のような形です。長い牙はオスだけにあり、通常メスは10~30cmの細い牙で樹皮を剥がすときや、何かに引っかけて自分で折ってしまうためごく短いか外からは見えません。オスゾウの牙についての調査では、かつてスリランカゾウ452頭の調査によれば95%に牙がなく、東部の低湿地に生息している個体は片方の牙が長い、と報告されています。最長の牙はタイ国、バンコックの国立シャム博物館が所蔵している牙で、301cmと274cmです。最重量は、一対が146kg(長さは267cmと260cm)で、現在は大英博物館にあります。歯式は下記の通りです。

乳歯    103    永久歯    1003
003 0003

  乳頭は前足の間に1対あり、乳首は外側を向いて新生児が吸い付きやすくなっています。

えさ
  野生ゾウの採食時間は日中の暑い時間帯を避けて朝夕や夜間が主です。餌となる食物は主にイネ科、ヤシ科、マメ科、ボダイジュ目などの樹木、樹皮、果実、根、草、蔓などです。雨期には8~10%のタンパク質を含むイネ科の草を採食しますが、乾季にはタンパク質が3%以下になるため灌木や木の葉を採食します。タイのエレファント・キャンプの係員にどんな植物を食べるか聞いたところ、森を指して「みんな食べる」との返答でしたが、200種類以上採食すると推測されています。飼育下の食べ方を観察していると、咀嚼している間につぎの食べ物を鼻で一口大に器用にまとめ、嚥下すると同時に、あるいは途中で捕足しながらゆっくり絶え間なく採食しています。ゾウは体重の8%植物を採食する、との報告もあり、4,000kgの体重のゾウならば1日320kgを採食することになります。後腸発酵動物として知られ、食物の腸内通過時間は14時間から72時間で、果物など柔らかい食料は早く排泄され、多くの場合17時間から25時間で排泄されます。果物以外ではイネ科の植物でマコモ(イネ科の大形多年草。水辺に群生。稈(かん)の高さ約150cm、葉は長さ約1メートルの線形)は好きな食物のひとつです。

繁殖
  発情周期は10~16週間で、オスゾウはメスの糞や尿の匂い、鳴き声、メスの外陰部に触れて雌が発情中であることを知るとフレーメンを呈します。発情は雨期の後半と乾季のはじめが多くなり、乾季には栄養状態が悪くメスの排卵が止まり、回復に1~2ヶ月必要となる、と報告されています。メスの性成熟は14~15歳ですが、飼育下では8歳から12歳での出産例も報告されています。妊娠期間は18ヶ月から22ヶ月と幅がありますが、通常は21~22ヶ月です。月別の出産例を見ると、402例の出産例で多い月は、2月:62例、1月:55例、3月:49例、反対に少ないのは夏で8月:8例、7月:14例、6月:22例で雨期に多く乾季に少ない傾向があります。出産間隔は妊娠期間と哺乳期間が長いので、通常は5年に一度ですが、栄養状態が悪い場合は間隔が伸びます。また、動物園などで早く離乳させれば、この期間は短縮され、4年に一回の場合もあります。ミャンマーでの最も高齢の出産例は55歳、最多出産頭数は10頭の報告がありましたが、インドでは、11回出産し、そのうち1回は双子で、12頭目は62歳という最多、並びに最高齢出産記録があります。成獣オスにはマストまたはムストと呼ばれ,非常に攻撃的になる特有の時期があります。マストは雄性ホルモン量の増加で起こり,数週間から3ヶ月間持続します。野生のアフリカゾウはマストになったオスがオスの間で優位となり交尾相手としてメスに好まれると、報告されています。アジアゾウの場合もミャンマー、タイ北部では3~5月がマストのピーク時と信じられ、オスは発情メスを獲得するときに最優位になるとしています。ただし、飼育下のメスゾウはマストのオスに気を使い、またオスもマストの時に格別メスに興味を示さない、との報告もあり、矛盾点もあるため今後の野生ゾウにおける正確な調査が待たれるところです。飼育下での新生子の体重は60~170kgと幅があります。子どもは4ヶ月齢まではほぼ母乳だけを飲み、4~5ヶ月齢で母親の食べ物をとって口に入れます。6ヶ月齢を過ぎる頃、主食となる青草を消化するのに必要な微生物を取り込むために母親の糞を採食します。8ヶ月齢以降はバナナや柔らかい食物を採食し、10~12ヶ月齢で固めのものを採食します。1歳くらいまでは母乳が主体ですが、その後は母乳から植物質の餌に変わっていきます。動物園では2歳でほぼ離乳していますが、タイなどでは3歳になり母親が子どもの哺乳を拒むときに離乳させています。米国のポートランド動物園では生後11ヶ月齢で体重が1,000kgに達したと、報告していますが、自然界では無理でしょう。通常は3~4歳で離乳した頃に体重の増加が加速すると考えられます。15歳以降になると成長速度は低下しますが、その後も死ぬまで成長し続けます。オスは思春期以降20~30歳で急激に成長する時期があります。
  人工授精は1975年頃から試みがはじまり、実際に成功したのはそれから24年後の1999年11月26日、米国のディッカーソン動物園で初めてアジアゾウが誕生しました。それほどゾウの人工授精は困難な研究といえるでしょう。ちなみに、このときの新生子は体重が171kgあり、これまでの新生子の最重量でした。その後は、翌2000年にインディアナポリス動物園でアフリカゾウの人工授精に初めて成功しました。以降、欧米、オーストラリア、アジア(タイ)で続々と成功例が報告されています。さらに2013年に世界で初めて凍結した精子を使ったアフリカサバンナゾウの人工授精が、オーストリアのシェーンブルン動物園が成功したので、アジアゾウでも近い将来の成功が期待されています。
  世界における長寿記録は2003年に台北動物園で死亡したオスゾウ(林旺:リンワン)が推定85歳とされています。国内では東京都井の頭文化園で飼育中の「はな子」が67歳で2014年現在、生存中です。

天敵
  ゾウの天敵としてトラやドールなどがいますが、成獣を襲うことはなく、病弱個体や幼獣、単独でいる若い個体が狙われます。そのほかキングコブラなど大型の毒ヘビはゾウも倒すといわれます。

生息数減少の原因
  野生ゾウの生息するすべての国で、人口増加による焼畑農耕の間隔が以前は20~25年だったのが3~5年と短くなり裸地化したことや、ダムの建設、鉄道・道路の開発による生息地の消失と分断、戦争と内乱、象牙をとるための密猟が減少の主な原因となっています。

亜種
  アジアゾウは、かつてスリランカゾウ(基亜種)、スマトラゾウ、インドゾウ、マレーゾウの4亜種に分類していましたが、近年アジア大陸に生息するゾウをマレーゾウも含めて一括してインドゾウとして3亜種にする学者が大半を占めています。また、スマトラゾウの中にボルネオゾウを含むか、それとも別亜種にするか学者の意見が分かれています。

分類   長鼻目  ゾウ科
分布   スリランカ、インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、ラオス、バングラデシュ、中国、ベトナム、タイ、マレーシア、スマトラ島、ボルネオ島
大きさ  
体長
体重
耳長
尾長
オス  550~650cm  メス  500~600cm
オス  2,500~6,000kg メス  2,000~4,500kg
50~80cm
120~150cm
絶滅危機の程度     アジアゾウの生息数は1995年には35,490~49,985頭、2000年は34,594~50,998頭、IUCN(国際自然保護連合) は2013年現在、35,000~45,000頭が13カ国、約500,000 km2の生息域内に生息しているとしています。
  一世紀前にはおよそ10万頭いたと言われるタイの野生ゾウの生息数は、現在わずか1,500頭前後と推定され、実に98.5%も減少したことになります。1993~1996年の推定頭数上位4ヶ国は、インド=25,500頭、ミャンマー=5,000、インドネシア=4,250スリランカ=2,500頭です。一方、飼育下のアジアゾウの頭数は1983~1996年の調査では約16,000頭で、このうち上位3ヶ国はミャンマー約3,400頭、タイが約3,800頭、インドが約3,000頭となっています。
  ミャンマーでは使役ゾウを雨期の6月15日から2月まで山仕事を半日行い、あとは野山に放して自分で採食させる習慣がわずかに残っています。一般に飼育下においた動物を野生に戻すには、膨大な手間と費用が必要ですが、ゾウが自力で餌を取ることができれば、野生復帰の手間が省けます。そのためには自然環境がある程度残っていなければなりません。最近ミャンマーもまた近代化が進み、道路が山奥まで開通しつつあり、この方法も頓挫する危険があります。私たちはミャンマーのようにゾウが野生復帰できる環境と管理方法をバックアップしていかねば未来は危ういのです。
このような現状からアジアゾウは国際自然保護連合(IUCN)発行の2014年版レッドリストでは、絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定され絶滅が懸念されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。

主な参考文献
Fowler,M.E. & Mikota,S.K   Biology,Medicine and Surgery of Elephants.Blackwell  2006.
イアン・レッドモンド(リリーフ・システムズ 訳)   ビジュアル博物館「象」監修 川口幸男、同朋舎出版 1994.
今泉吉典   アジアのゾウ 動物分類講座 どうぶつと動物園 Vol.17 No.7 (財) 東京動物園協会  1965.
D.W.マクドナルド編 今泉吉典 監修   動物大百科4 大型草食獣 平凡社 1986.
Lair, R. C. ed.(加藤由美子 訳)  監修 樫尾 正一   アジアゾウ飼育・健康・管理マニュアル
アジア産野生生物研究センター 2006.
川口幸男   ゾウ科の分類 In世界の動物 分類と飼育3長鼻目 ㈶東京動物園協会 1991.
川口幸男・中里竜二   動物園 [真] 定番シリーズ③「ゾウ」 監修 エレファント・トーク In アジアゾウの基礎知識 CCRE 2008.
大西信吾   ミャンマー動物紀行  新風舎 2002.
Sukmar, R. (伊藤嘉昭 訳)   アジアゾウー生態と保護 どうぶつと動物園 Vol.42, No.2 (財) 東京動物園協会  1990.
Shoshani, J.   Elephants. Rodale Press, Emmaus, Pennsylvania 1992.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed.)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.2 Hoofed Mammals,Lynx Edicions 2011.
安間繁樹   ボルネオ島 アニマル・ウオッチングガイド 文一総合出版 2002.
Lair, R. C. (加藤由美子 訳) Gone Astray (行方不明)   FAO Regional Office for Asia and the Pacific(RAP), Thailand 2005.

 
おもしろ哺乳動物大百科104(長鼻目 ゾウ科) 2014.7.31

104) アフリカサバンナゾウ(ヤブゾウ)
  アフリカサバンナゾウ(以下サバンナゾウ)はサハラ以南、主にアフリカ南部と東部に生息しています。国別で見るとカメルーン北部とチャド南部から南スーダン、エチオピア、エリトリア、アンゴラ、ザンビア、マラウイ、モザンビーク、ジンバブエ、ナミビア、ボツワナ、スワジランド、そして南アフリカまで、アフリカ西部ではギニアビサウとセネガル(いずれも絶滅の可能性があります)からニジェールにかけて分散して分布し、アフリカ54ヶ国中36ヶ国に生息しています。
  生息場所は主に低木、潅木、疎林、森林を含む草原で、3,000m級の高山や半砂漠でも餌となる植物があれば生息しています。ゾウの群れは大量の餌が必要なために広い行動圏をゆっくりと移動しながら採食しています。移動と行動圏は相関関係にあり、一度採食した地域の草や木が再生する期間が必要となるため、乾季と雨季の季節の変わり目が一つの区切りになります。餌が少ない地域では1年間かけて行動圏を巡回し、反対に餌が豊富にある川のほとりや水辺に行動圏のある場合は、半年や3ヶ月間の短い周期で移動します。生活は雨季と乾季及びサバンナでも半砂漠か低木林や森林が近くにあるかなどの地理的条件や人間が生息域近くに移住しているかなどにより変化します。中央アフリカではマルミミゾウと分布域が重複しています。

  サバンナゾウは開けた草原に生息することが多く、調査が行い易いため野生の生態調査が研究者の間で行われてきました。その中の1人ヘンドリックスの調査報告(文献2)はわかりやすいので、順次新しい数値も交えて紹介しましょう。
  群れ構成は雌雄と乾季と雨季で異なります。

A オスとメス
1. メスの群れ構成
  ゾウの群れは女系集団と称され、群れの基本は母と子どもで構成されています。
1) 母と子ども1頭、又は複数の子で、家族グループ1~3頭。
2) 1)の家族グループがいくつか集まり5~20頭の群れになります(4~14頭、3~25頭、平均は8~10頭の報告もあります)。
ふつう、メスの子どもは成獣になり、自分の子どもが自立するまで母親と一緒に過ごします。母親の子どもが多くなり、乾季など餌が不足したときに一時母親と別れます。
・群の家長(リーダー)はふつう年長のメスがあたり、移動時には家長が先導し、次に年長の個体が最後尾を務めます。年長のメスが家長になるのは青草や水場などの場所、及び好物の果実が熟す頃を知っており、群れを誘導できるためと考えられます。繁殖期には一時的に成獣オスを伴う時もあります。
2. オスの群れ構成
  オスは12歳くらいになると群れから離れ単独生活かオスだけのグループに入ります。
・オスグループは12歳から50歳位まで、2頭から8頭で構成されています。高年齢のオスの多くは単独生活です。
B 乾季と雨季
1) 乾季
  メスと子どもたちは10~20頭の小グループ、または30~60頭、平均約30頭で移動します。
2) 雨季
  小グループが集まり平均280頭になります。この周辺部には単独のオス成獣、オスグループがいます。
・餌が豊富にある雨季や生息している地域、休息時間や夜間の寝る時間は家族グループがいくつか集まって過ごしますが、餌の少ない乾季などには分散しています。

  行動圏は生息地により差が大きく、砂漠が含まれるアフリカ西部のマリ地方では30,000km2以上と広大ですが、アフリカ東部のタンザニア北部にあるマニャーラ湖国立公園は地下水があり、森林と豊かな草原が存在するため50 km2、ツァボ・イースト国立公園では約100 km2、餌と水が豊富ならば平均750 km2、と言うように行動圏の差が顕著です。行動圏が狭い理由の一つは、本来はもっと広かったのが生息域の分断や人々の進出、密猟などで狭い地域での生活を余儀なくされており、本来の自然界での生活環境と異なっている点が挙げられます。一日の移動距離は平均してメスよりオスの方が多く、ふつう1日に5~13kmですが、マストのオスは10~17kmと少し広範囲になります。最高ではオスが約60km、メスが約55kmの報告があります。活動時間帯は早朝と夕方及び夜中で、睡眠は朝3時頃に2~3時間、暑い日中に1~2時間昼寝をしますが、えさを探し17時間以上歩くこともあります。人間と生活域が同じ場合、日中は人を避けて日陰で休みます。干ばつの時、水場を探すためツアボの国立公園の半不毛地域において15kmほど歩くのは珍しくありませんが、ジンバブエでは約25km以上探すこともあります。
コミュニケーションの方法は鼻端を相手の口の中に入れ、頭部や体の各部を触って匂いを嗅ぎ合う。耳をパタパタして相手の体に触れる、頭部や体をくっつけ合う、脚で蹴る、尾で触るなどの接し合う行動があります。音声を使う方法として、鼻から出すラッパ音、喉から出すキイキイ音、低い唸り声、人間は聞くことのできない低周波音、鼻を地面にたたきつけて出す威嚇音、人間には聞こえにくいゴロゴロ音など多様です。ラッパ音や低周波音は約1km先の個体識別や、2.5km先の個体と交信ができ、条件が良ければ音声はさらに遠方まで届きます。1頭の発する声から100頭以上の個体識別をしていると考えられています。

  強そうなお母さんですね。子どもが前足の脇から顔を入れて、お乳を飲んでいるのがかわいいです。
強そうなお母さんですね。
子どもが前足の脇から顔を入れて、お乳を飲んでいるのがかわいいです。
写真家 大高成元 氏撮影
   

からだの特徴
  サバンナゾウは現在陸上で最大の動物で、アメリカスミソニアン博物館に展示されている個体は1955年狩猟で捕えられ、横臥した状態で体長1,010cm、肩高が401cm(立ちあがった時は5%減少とすれば381cmと推測)、体重10,886kgと推定されています。現在はこのような巨大な個体は生存していないと考えられ、通常は頭胴長が600~750cm(鼻端から仙骨の間接部まで)、鼻長は200~220cmです。肩高は成獣のオスが平均320cm、メスで平均260cm、体重はオスが平均6,000kg、メスは平均2,800kg、尾長は100~150cmです。体重で雌雄を比較するとメスはオスの半分程度しかありません。
  横から見ると背中の中央部がへこみ頭部が一番高い部位となります。骨格で見ると21対の胸椎(肋骨)の背側に棘突起があり、その稜線に沿って背が形成されています。耳はアジアゾウに比べると大きく耳の下葉(下の垂れ下がった部分)は細く尖っています。耳の大きさは生息地により特徴があり、アフリカ中央部に位置するスーダンやチャドに生息する個体は三角形で下葉が細長く下方に伸びて、長さが190cmに達します。しかし、大方の場合、扇状で広げると片方の横幅がおよそ150cmあり、両耳と顔の幅を合わせるとオスゾウでは400~450cmの横幅になります。大きな耳は集音器として働くばかりでなく、威嚇するときにも使い、広げて大声を発しながら頭部を左右に振って脅し、それでも相手がひるまない場合は突進します。また、耳の裏側には太い静脈が走行して暑い日は怒張しているのがわかり、泥や水をかけることで血液温度を5度程度下げることができ、体温調整の役割を担っています。
  サバンナゾウの頭部はアジアゾウと違い頭頂に2つの山形はなくシャープに傾斜して鼻に続いています。顔は大きな牙を収めるために上顎が下顎より前方に突出て長く、成獣のオスの前頭部は丸みを帯びてがっしりしているのに対し、メスは角張り平たくなっています。頭部は長い鼻と大きな耳、重い歯の基部として強力な筋肉組織を付けるのに役立っています。
  皮膚はマルミミゾウやアジアゾウに比べると明るく灰色を帯び、赤土の多い土地では赤く染まります。体全体に深い皺があり水浴びした後、泥浴びをして腹部や背中まで体全体に塗ったあと、高低差のある木や岩に腹部から背中、頭頂まで隈なくなく擦り付けます。深い皺の間に濡れた泥が詰まることで強力なツェツェバエ(体長が5~10mmの吸血性のハエで人畜共通伝染病を媒介します)に刺されるのを防ぐとともに、乾くときの気化熱で体温を下げ、熱い陽射しから身を守ります。
  鼻は全長の3分の2は先端部より皮膚が厚く、粘土層のように力強く感じられます。先端部約50cmは皺が細かくなり自由自在に曲げることができるのは他の2種と同じです。鼻端の突起は上下に1対あって物をつかむときに使い、太い毛は触覚の役割を果たしています。健康な時は湿っていますが体長が悪いときは乾きます。
  4肢はがっしりとして陸上の哺乳類の中で最も太く、前肢に4本、後肢に3本の蹄があります。足裏はほぼ平らで成獣の場合直径30~40cmありますが、骨格ではつま先だった状態で、踵の部位に10cm程度の脂肪組織があり、クッションの役割を果たしています。注意して見ると足に体重がかかった時に踵がへこむのが判ります。
  アフリカゾウは雌雄ともに長い牙がありますが、ゾウの場合、犬歯ではなく、上顎の第2切歯(門歯)が長く伸びたものです。アフリカのサバンナには子ゾウを狙うライオンやブチハイエナ(大型の種でふつう群れ生活し、大きなオスの体重は約80kgになります)の群れが生息し、彼らに対抗するための武器として牙が大きな役割を果たしていると考えられます。そのためメスゾウにも立派な牙があり、一生伸び続けます。最大の牙は長さ3.5m、重量130kgの記録があります。
  採食した餌は大腸内の腸内細菌の発酵作用によりセルロースを分解しています。このため後腸発酵動物ともいわれ、奇蹄類と共に栄養価が低く手に入りやすい植物を多量に採食しています。乳頭は前足の間に1対あります。

えさ
  ゾウは草、小枝、茎、根、蔓、果実、種など植物のあらゆる部分を巧みに取り、年間では約150種類にのぼると報告されています。ただし生息地により主食となる植物は違い、草原での場合70%が草となり、木の密生した森林では木の芽や小枝が主食となります。マーチソン・フォール国立公園近くで射殺された47頭の胃の内容物を調査した結果、91%は草、8%が木と潅木、1%がその他でした。採食した草のうち青草は十分の一で残りは枯草でした。林と草原が混ざっているサバンナでは雨季と乾季で変わり、草は雨季で60%、乾季では5%に減少し、木の枝や枯れた草の根を掘り起こして採食します。ツァボ国立公園における6時~18時30分の調査報告では、草は乾季の方が雨季より多く、木は乾季と雨季の差がほとんどない、とそれぞれ違った報告がありますが、これは乾季と雨季、及び生息地の環境による差と考えられます。
野生状態の報告で一日に14~18時間採食する、との報告が多いのですが、この時間数は豊富にある草や木の枝を14時間以上連続して採食しているわけではありません。動物園で10kgの青草を与えて食べる時間を調査したところわずか10分足らずで食べます。これを野生ゾウに充てて考えると3時間でおよそ150kgは採食できるでしょう。広大なアフリカは地域により植物相に特徴があり、川や沼地、湖などで生活するゾウは水草を口いっぱいに頬張っているのに比べ、乾季で青草が枯れ、足で根を掘り起し、あるいは小枝から葉だけしごいて採食したりしている様子が見受けられます。雨季や餌となる植物が豊富にある場所では、おそらく手当たり次第に300kg以上食べ、草が不足する場合、一口に頬張る量が半量となり、一日量で100kg前後に下がるのではないか、と考えられます。採食時間と排便回数は密接に関係していると思いますが、野生での一日の排便回数7~29回と幅がありますが、動物園で行った調査では24時間の排便回数は8~10回でした。野生の場合、ふつう20回前後なので動物園の2倍排便していることになります。このことは動物園に比べ野生状態の採食時間が長いことを意味している、と思います。また草本と木本植物、果実では咀嚼回数と腸内通過時間が違います。

繁殖
  マストとはオスが非常に凶暴になる時期がありこの時をマスト(ムスト)と呼んでいます。ふつう年に1回、数週間から3ヶ月間マストになり降水量の多い時期に発現します。兆候として、側頭腺からの分泌、頻尿、予期しない攻撃、テストステロンの増加などの症状が現れ、群れの中で優位個体となります。12歳位の若いオスの場合も、母親から別れるときにマストのような状態が見られますが、本当のマストは20~25歳以上とされています。
  発情は雨季の後半と乾季のはじめが多くなり、発情期のメスはマストになった35~40歳のオスを交尾相手として選ぶ、と報告されています。メスの性成熟は12~15歳ですが、飼育下では8歳から12歳までの出産例があります。発情周期は15~16週間、 妊娠期間は約22ヶ月です。青草が豊富にあり餌が十分食べられるときに生まれるケースが多く、栄養状態が悪い乾季にはメスの排卵が止まり、回復に1~2ヶ月必要となるため、発情のピークは雨季の後半から乾季の始めとなります。1産1子でごく稀に双子があります。出産は4~5年に一度ですが、栄養状態が悪い場合さらに間隔が伸びます。メスの繁殖のピークは25~45歳です。新生子の体重は60~150kgです。子どもは4ヶ月齢まではほぼ母乳だけを飲み、5ヶ月齢で母親の食べ物をとって口に入れます。6ヶ月齢を過ぎる頃、主食となる青草を消化するために必要な微生物を取り込むために母親の糞を食べます。8ヶ月齢以降はバナナや柔らかいものを食べ、10~12ヶ月齢で固めの餌を食べます。1歳くらいまでは母乳が主体ですが、その後、植物質の餌に変わっていきます。雌雄ともにフルサイズになるのは35~40歳です。
  死亡率は通常ならば子どもが年間に10%、5歳から40歳の間が20%と推定されていますが、干ばつや間引き、密猟で大量に死亡した年の統計で大きく変わるときがあります。反対に野生ゾウの増加率も南アフリカのアドブッシュでは10%前後と推定され、死亡率を上回り個体数が増加しています。現在はタンザニアやケニアの自然公園の一部が自然の状態で保全されていますが、内戦や象牙の商取引を解禁すればたちまち減少するでしょう。
  アフリカゾウの人工授精は、アメリカ・インディアナ州にあるインディアナポリス動物園で2000年に初めて成功後、北米、欧州、イスラエル、オーストラリア、タイなどで続々と成功例が報告され、2013年9月には凍結精子を使ってアフリカゾウの人工授精にウィーンのシェーンブルン動物園が成功し話題になりました。今後人工授精を希望する動物園は、メスゾウの発情期を特定し、オスからの採精やメスに人工授精するための訓練など、ゾウならではの解決すべき難問をクリアーして絶滅危惧種の保護に寄与する必要があります。

分類   長鼻目  ゾウ科
分布   アフリカサハラ砂漠以南
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
肩高
尾長
600~750cm   (体長は鼻端から尾の付け根まで)
オス 平均320cm   メス 平均260cm
オス 平均6,000kg   メス 平均2,800kg
100~150cm
絶滅危機の程度     国際自然保護連合(IUCN)は、1986年にサバンナゾウをレッドリストの「絶滅の恐れが高い危急種(VU)」に指定しました。その後、1996年に絶滅の恐れが非常に高い「絶滅危惧種(EN)」に指定していたのですが、2004年に危急種(VU)に戻され、最新の2014年版でもやはり危急種(VU)となっています。
  アフリカゾウはワシントン条約附属書第1表に掲載されており、アフリカゾウの商取引は、一部地域(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカは第Ⅱ表)を除き禁止されています。
  アフリカ大陸全体の生息数は2012年の報告では433,999~684,178頭と推定されています。アフリカの野生ゾウは1980年代の10年間で134万頭から62万頭に70万頭も減少しました。しかし、ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカの4カ国は、ゾウの保護・管理がコントロールできているという理由で象牙取引を以下の条件で、2008年の1回に限り象牙の消費大国である日本と中国に許可しました。国際取引が認められた象牙は、附属書IIに掲載されている個体群のものです。以後9年間を「象牙の国際取引を認める提案が締約国会議に提出されない」ことも決定しています。

主な参考文献
Fowler,M.E. & Mikota,S.K   Biology,Medicine and Surgery of Elephants.Blackwell  2006.
Hendrichs, H. & Hendrichs, U. (柴崎篤洋 訳)   ディクディクとゾウ 思索社 1979.
イアン・レッドモンド(リリーフ・システムズ 訳)   ビジュアル博物館「象」監修 川口幸男、同朋舎出版 1994.
今泉吉典   アフリカのゾウ 動物分類講座 どうぶつと動物園 Vol.20 No.5(財) 東京動物園協会 1968.
D.W.マクドナルド編 今泉吉典 監修   動物大百科4 大型草食獣 平凡社 1986.
川口幸男   ゾウ科の分類 In世界の動物 分類と飼育3長鼻目 ㈶東京動物園協会 1991.
中村一恵   海を渡る象―その不思議な世界を探る インツール・システム 2012.
中村千秋   アフリカで象と暮らす 文春新書 文藝春秋社 2002.
小原秀雄   ゾウの歩んできた道 岩波ジュニア新書412 岩波書店 2002
Shoshani, J.   Elephants. Rodale Press, Emmaus, Pennsylvania 1992.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed.)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.2 Hoofed Mammals,Lynx Edicions 2011.

 
おもしろ哺乳動物大百科103(長鼻目 ゾウ科) 2014.6.30

103)アフリカマルミミゾウ
  長鼻目の祖先は、北アフリカで約5,000万年前に発掘された化石から、ブタくらいの大きさのメリテリウム(=モエリテリウム)と考えられていました。しかし、2009年に新たに北アフリカのモロッコで約6,000万年前頃の地層から発掘された下顎の化石が、長鼻目の歯の特徴を備えていることから長鼻目の祖先の可能性が高い、とする学者もいます。この化石は、フォスファテリウム(学名Eritherium azzouzorum)と命名され、発見場所の環境から水場の浅瀬に半水生で生息し、体格は体長が約60cm、体重が約15kgと推定されています。現在化石種を含めた長鼻目の種類数は学者によって様々ですが、150種以上(161種や175種とする学者もいます)と考えられ、この中で現存するのはゾウ科の3種のみです。ゾウ科の祖先はおよそ800万年前に出現し、さらに500万年前以降になると、私たちにもなじみの深いナウマンゾウ属、アフリカゾウ属、アジアゾウ属、マンモスゾウ属の仲間も出現してきましたが、ナウマンゾウ属とマンモス属はすでに絶滅しています。長鼻目の化石は日本各地で10種類が発見されており、長野県野尻湖ではナウマンゾウをはじめ多くの動物の化石が発掘されていることで有名です。マンモスはさまざまな環境に適応し、生息地により北方のマンモス、温帯のマンモス、南方のマンモスに分けてみることもできます。氷河期に寒帯で生息していたマンモスの仲間で、2010年にシベリアの永久凍土で発見されたケナガマンモス(ケマンモス)は12,000年~10,000年前に生息し、体毛は羊毛のような柔らかい下毛と皮膚を守る上毛におおわれ、皮下には約9cmの脂肪層があり、耳は小型で寒さに適応していました。さらに、鼻や毛、内臓まで冷凍保存された状態のため貴重な発見となりました。ゾウの化石はオーストラリア大陸と南極以外は世界各地で発見されています。最大級のゾウの仲間は肩高が4~5mに達し、茨城県自然博物館に展示してある松花江マンモス(ユーラシア大陸の中国東北部を流れるアムール川支流のひとつ)のレプリカは肩高が約5mあります。また日本では1918年三重県で発見されたステゴドン属・ミエゾウの肩高は約4mあり、ゾウの仲間では最大級のマンモスと肩を並べています。一方、最小の種類では肩高が1m級のかわいいゾウの化石が、ジャワ島や他の島々で洪積世(10数万年前~数万年前)の地層から発見されています。
  現存する2属3種は、アフリカゾウ属がアフリカマルミミゾウとアフリカサバンナゾウの2種です。アフリカマルミミゾウについては、種と亜種いずれにするか分類学者によって意見が分かれるところですが、本稿では2種として紹介しましょう。アジアゾウ属は1種(アジアゾウ)3亜種スリランカゾウ (基亜種)、インドゾウ, スマトラゾウ(ボルネオゾウを含む)ですが、ボルネオゾウを別亜種として4亜種にする学者もいます。
  次にゾウ科で共通した特徴をいくつか紹介しましょう。
  ゾウの最大の特徴は鼻にありますが、そのつくりは一般に鼻と呼ばれる部位と上唇が一緒に伸びたもので、中には骨や軟骨は存在しません。骨格で見ると、鼻の付け根の部位は空洞になっており、この部位に長い鼻がつき、組織はすべて筋肉で構成され、その数は5万以上(学者によって約10万、約15万などの説があります)です。上口蓋には豆粒ほどのヤコブソン器官の鋤鼻器(じょびき)の穴が2個あります。鼻端に付着した匂いの粒子を口の中に入れて、ヤコブソン器官の部位につけて匂いの分析をしています。鼻の役割は多岐にわたり、先端の50cm位は皮膚の皺が狭く、細かい動きができ、人間の手の役割を果たしています。授乳以外は水を一度鼻に吸い込み、鼻端を口に入れて水を放出して飲みます。泳ぎも得意で川や海を泳いで渡りますが、深い場所では鼻を水面に出して呼吸をします。他個体の体の各部を撫でてスキンシップでコミュニケーションを図り、威嚇や攻撃で振り回せば武器になることもゾウは認識しています。長い鼻から勢いよく息を吹き出すとラッパのような大きな音になり、音は数キロメートル先まで届き、威嚇や仲間の信号となります。
  歯の交換の仕方にも特徴があります。哺乳類の大半は乳歯から永久歯に代わるとき、乳歯の下から永久歯が萌芽して換わるので垂直交換といいます。一方、ゾウは一生の間に乳臼歯が3本、永久歯が3本、計6本の臼歯が順次、後ろから前方に押し出されて一生の間に6回交換します。最後の永久歯は40歳頃に交換し、死ぬまで使うことになります。また、水平に移動して交換することから水平交換といいます。牙は他の動物のように犬歯ではなく、切歯(門歯、第二切歯=側切歯)が長大化したもので、1~2歳の間に乳歯から永久歯に代わります。乳歯と永久歯の関係をはっきり表すために小沢幸重博士は下記の歯式を使っています。
  ゾウの歯式

乳歯    103    永久歯    1003
003 0003

歯の咬合面も種類ごとに違い、考古学者は歯からおよその年齢や上下左右の歯を判定することができます。咀嚼様式は下顎を前後に動かし、乾草ならばゆっくりと約25回、リンゴなど果実は15回程度咀嚼します。
  ゾウの頭部は体重の12~25%あります。大脳の重量はおよそ5,000gで周囲を蜂の巣のような含気骨でおおい頭部重量を軽くしています。頭部がおおきい理由のひとつとして、巨大な鼻や歯、耳を動かす筋肉を付けるスペースとなっていることが挙げられます。背の形はアジアゾウの場合、背中が緩やかな山形か平らですが、アフリカゾウは反対に凹んでいます。骨格で見ると肋骨の上部に棘突起がついており、この長さで背の曲線が変わっています。
  消化器はウマに類似して単胃で、発酵は大腸で行うため消化吸収率は約44%で良くありません。胆嚢はなく、胸膜腔は若い個体は認識できますが成獣になると消失します。オスの精巣は降下しないで終生腹腔内に留まっているため陰嚢はなく、ペニスは排尿と交尾、マストの一時期のみ露出します。乳頭は左右の前肢の間に1対あり、子宮は双角性で胎盤が帯状となっています。側頭腺は目と耳のちょうど中間点に長さ1cm位の開口部が線状になっています。ふだんは閉じていますがマスト時や興奮して走ると粘液が滲み出てきます。

  アフリカマルミミゾウはこれまでアフリカサバンナゾウの1亜種として分類する学者が多かったのですが、近年DNAを複数の地域に生息する個体から試料採取して調査した結果、別種扱いが妥当とする学者が増加してきました。本論では別種扱いで解説します。
  主な分布域は中央アフリカのコンゴ盆地でカメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、赤道ギニア共和国、ガボン、コンゴ共和国などが挙げられますが、他にも西はコートジボワール、ガーナ、トーゴ、東はウガンダ、南はアンゴラのガビンタでも少数が見られると報告されています。
  生息場所は赤道付近に位置する中央アフリカの熱帯雨林が主要な生息場所ですが、草原と隣接している森林地域では草原にも出ていることが判ってきました。しかし、草原に出ていくのはメスと未成獣の子どもで、成獣のオスは森林内に留まります。1970年代に入り性能の優れた銃が簡単に手に入ると、密猟者は草原で生活する大きな牙のあるゾウを狙い撃ちしてきたので、オスゾウは人間の脅威から身を守るために見つかりにくい森林内に留まるようになったのでは、と推測されています。
  群れ構成は、母親と子どもたち1~2頭で3~4頭の母子が基本単位集団で、餌となる植物が豊富なときは、血縁関係にある基本グループがいくつか集まります。この他、乾季に水場やミネラル分を多く含む場所に100頭くらい集まるときもあります。オスは10歳くらいになると群れから少しずつ離れ、12~14歳で母親から離れ単独生活に入りますが、肉体的に成長するまでしばらく母親の近辺で過ごし、オス同士の群れは作らないと、報告されています。活動時間は一日に約20時間で、睡眠は日中にも見られますが、主に夜中に寝ます。果実の実る樹を求めて移動し、時にはサバンナゾウと同じ場所で採食しますが、時期や時間が違います。行動圏はふつう約500km2で、一日の移動距離2~3kmです。行動圏の広さを調査するためにGPS(全地球測位システム)で調査した結果、生息場所の環境により大きく変わり、コンゴ北部の母子の行動圏の1例は約2,300 km2ありましたが、ガボンのロアンゴ国立公園における母子1例の調査によれば52 km2と報告されています。この調査結果は今後マルミミゾウの保護地域を検討する上で貴重な資料になると考えられています。

  写真は安佐動物公園のメス12歳(2013年)です。小型の体と耳、下方に向いた牙の特徴がわかります。
写真は安佐動物公園のメス12歳(2013年)です。小型の体と耳、下方に向いた牙の特徴がわかります。国内には広島市安佐動物公園と秋吉台サファリランドで計3頭飼育しています。
写真家 さとうあきら氏 氏撮影
   

からだの特徴
  体長(鼻端から仙骨の関節まで)は、600~750cm、尾長100~150cm、肩高オス160~286cm、メス160~240cm、体重2,700~6,000kgです。体重の最高記録は1906年にコンゴのアビで射殺された個体で、肩高が285cm、体重は推定6,000kgとされていますが、1例報告なので、通常のオスは4,500kg程度と考えられます。性差が大きく体重ではメスはオスの半分程度しかありません。体形は後躯が大きくて、背の稜線で腰部が一番高くなっています。皮膚はサバンナゾウより滑らかで全体的に暗褐色を帯び森林に適応しています。全体的にアフリカサバンナゾウと似ているため、比較して良く観察しないと、外見上で2種を判断するのは難しいと言われています。
  前肢は後肢に比べ長く柱のように頑丈で、蹄の数はアジアゾウと同様に前肢に5本、後肢は4または5本あります。アフリカサバンナゾウの蹄の数は前肢に4本、後肢に3本と少なくなっています。蹄が少なくなった背景として、ウマなどの進化の過程をみると、進化した種類の方が指の数が少なくなりました。ゾウについても両種のDNAが違う点と共に、ウマの進化と同様に、森林に住んでいたマルミミゾウが草原に進出し、蹄の数が少なくなった、と考えられます。耳は森林生活に適応して、サバンナゾウより上下に短く前後に長く後葉は丸く、その形からマルミミゾウの由来となっています。耳の大きさ形状には個体差が見られます。牙は雌雄ともにあり、サバンナゾウより細く、地面に向けて伸びます。乳頭は前肢の間に1対あります。

えさ
  果実、樹皮、小枝、根、蔓、草本など植物のすべての部位を採食します。種類数はおよそ300種以上あって、アフリカサバンナゾウやアジアゾウに比べて著しく多くなっています。森林には果実の実る樹木も多く、熟す時期を家長のメスは知っており群れを誘導して連れて行きます。ゾウは果実を移動しながら採食し、未消化で排泄した実はゾウの糞と共に植物の肥料となり発芽を促し、あるいはサルや鳥、その他多くの動物や昆虫によって採食されています。中央アフリカ共和国の湿地にはミネラル成分を豊富に含んだ場所があり、100頭ものゾウが集まることが知られています。好物は果実の他に、単子葉植物で高温多湿を好むクズウコン科の植物を採食します。

繁殖
  メスの性成熟は14~15歳、発情周期は15~16週間、発情は雨期の後半と乾季のはじめに多く見られます。ゾウの場合、成獣オスにはマストと呼ばれる非常に攻撃的になる時期があり、1年の間に数週間から3ヶ月間続きます。マストになったオスは性ホルモンのテストステロンの値が上昇し、特有の声を出し、頻尿となり食欲も減少します。マストのオスはオスの中で優位になりますが、発情期のメスは交尾相手としてマストになった30~40歳の成獣を選ぶことが多い、という研究者の報告があります。妊娠期間はおよそ22ヶ月で通常1産1子、生まれたばかりの子の体重は60~150kgです。子どもは生後4ヶ月齢まではほぼ母乳だけを飲み、生後4~5ヶ月齢頃から母親の食べ物をとって口に入れて固形物も少しずつ食べ始めます。1歳くらいまでは母乳が主体ですが、その後は母乳から植物質の餌に変わっていきます。出産は4~5年に1度ですが栄養状態が悪い場合は間隔が伸びます。
  コンゴ民主共和国とスーダン国境に広がるガランバ川一帯を含んだガランバ国立公園ではサバンナゾウとマルミミゾウのハイブリッドが生まれています。

分類   長鼻目  ゾウ科
分布   アフリカ西部のコートジボワールから、アフリカ中央部のコンゴ盆地を中心とした周辺国、及びウガンダとアンゴラの一部
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
肩高
尾長
(頭胴長)600~750cm (鼻の長さ約200cmを含みます)
2,700~6,000kg
オス 160~286cm  メス 160~240cm
100~150cm
絶滅危機の程度   アフリカマルミミゾウは2014年発行の国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「絶滅の恐れが高い危急種(VU)」に指定されています。
またワシントン条約では付属書の第Ⅰ表に該当し国際商取引の禁止対象種となっています。この背景には以下のような事情があります。
マルミミゾウが生息するアフリカ西部から中部にかけて最近の20年で開発が進み道路が縦横に通ってきました。野生動物にとって道路が通るのは生息地を分断されることになります。長い間ゾウの生活場所であった森林で伐採と開発が進み、人々が居住するようになりゾウの生息場所が縮小しているのです。人々がゾウの生息地にまで侵入してきた理由の一つは、アフリカで今も続く内戦を挙げることができます。内戦によって全てを失った住民は高性能な銃を手に入れ、密猟によりゾウを狩猟してブッシュミート(野生動物の肉)としてゾウの肉を利用し、牙を売って金を得るのです。ゾウの場合、象牙が古代より価値のある美術品として利用され、象牙目的でゾウを狩猟するケースも多いのですが、象牙取引はすでに1989年以降ワシントン条約で規制され全面禁止となっています。残念なことに象牙の最需要国は中国と日本で、密猟者の背後にはアフリカのテロ組織の関与も疑われています。
最近の20年間におけるマルミミゾウの個体数は半減したとの報告もあります。今、私たちにできることは、ワシントン条約で商取引が禁止されている象牙やゾウに関係した製品、あるいは違法に伐採された熱帯の木材を買わないことなど,自然資源の保全をサポートすることなどが求められています。

主な参考文献
Fowler,M.E. & Mikota,S.K   Biology,Medicine and Surgery of Elephants.Blackwell  2006.
イアン・レッドモンド   (リリーフ・システムズ 訳) ビジュアル博物館「象」監修 川口幸男、同朋舎出版 1994.
今泉吉典   アフリカのゾウ 動物分類講座 どうぶつと動物園 Vol.20 No.5(財) 東京動物園協会 1968.
犬塚則久   ゾウ科の分類 In世界の動物 分類と飼育3長鼻目 ㈶東京動物園協会 1991.
読売新聞東京本社(編)   特別展 マンモス「YUKA」. 監修 犬塚則久・小野昭, 読売新聞東京本社 2013.
川口幸男   ゾウ科の分類 In世界の動物 分類と飼育3長鼻目 ㈶東京動物園協会 1991.
川口幸男・中里竜二   動物園 [真] 定番シリーズ③「ゾウ」 監修 エレファント・トーク In アジアゾウの基礎知識 CCRE 2008.
小沢幸重   歯の形態形成原論ノート わかば出版 2011.
小原秀雄   ゾウの歩んできた道 岩波ジュニア新書412 岩波書店 2002
Shoshani, J.   Elephants. Rodale Press, Emmaus, Pennsylvania 1992.
Blake, S. (西原 智昭 訳)   知られざる森のゾウ 現代図書 2012.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed.)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.2 Hoofed Mammals,Lynx Edicions 2011.

今回はアフリカマルミミゾウの研究結果をまとめたすばらしい翻訳本を紹介しましょう。
ステファン・ブレイク著 西原智昭 訳
『知られざる森のゾウ・HIDDEN GIANTS 』 現代図書 2012 (参考文献No11.)アフリカマルミミゾウに興味のある方に一読をお勧めします。

 
おもしろ哺乳動物大百科102(食肉目 ネコ科) 2014.5.29

102)チーター
  かつてアフリカでは砂漠中央部と熱帯雨林地帯をのぞいたほぼ全域、アラビア半島から中近東を経てインド南部にかけて広く分布していました。しかし、インドでは1950年代に絶滅したと推測され、また他の多くの地域からも姿を消してしまいました。現在ではサハラ以南とアフリカ北西部・東部の一部、およびイランに分布しているにすぎません。
  アフリカや中近東では半砂漠からまばらな森林や開けた背丈のあまり高くない草原に生息し、インドでは繁みや森林でそれぞれ獲物を待ち伏せ、外敵から身を守るにも適した岩場などが好まれていました 。エチオピアでは標高約1,500m、アルジェリア南部では標高約2,000m地点で生息が確認されています。乾燥した環境にたいしても適応性があり、中央サハラの山地では小さな群れが生存しています。社会構成はなわばりをもち単独個体以外にグループをつくることが知られています。メスは、①成獣は単独でいる ②母と子で一緒にいる ③雌雄の混合グループをつくるという三つのタイプがあります。セレンゲテイでは複数のメスの親子が集まり10数頭の大きなグループ形成した例もあります。オスは、同じくセレンゲテイの調査で、①単独が41% ②ペアが40% ③3頭が19%の報告があり、複数のオスはふつう同腹の兄弟でした。オスは1頭でいる場合、なわばりを維持できるのは約4ヶ月、ペアは約7ヶ月、3頭では22ヶ月で、3頭の中にはなわばりを6年間守ったグループもいました。つねにライオンやハイエナなど大型の肉食獣の脅威に晒されているため、彼らからの自衛手段ひとつとして複数でグループとなり対抗していると推測され、お互いにグルーミングをしあい結束を深めています。通常は他個体のなわばりを避けて生活していますが、発情メスを巡って争い死亡することも多々あります。
  活動時間帯は基本的に昼行性で、午前中の7時~10時と夕方の16時~19時の朝夕の涼しい時間帯が多く、カラハリでは温度が下がる夜間に狩りをしたりライオンやブチハイエナがいるときは活動を控えたりします。行動圏はセレンゲテイにおける単独の雌と雄の行動圏は800~1500km2と広範囲で多くは重複し、オスグループのなわばりは狭く12~36km2を防衛し、まれに150km2になる程度です。トムソンガゼルが多い地域では成獣オスのなわばり争いが激しく死亡原因で50%を占めています。南アフリカのクルーガー国立公園では獲物となる動物が移動しないので行動圏は雌雄ともに変わりなく平均175km2でした。1日の移動距離はナイロビ国立公園における調査によれば、子連れのメスで約3.7km、成獣オスが約7.1kmの報告例があります。地上最速の動物で最高速度は時速11kmに達し、1秒で約29m走ると報告されていますが、このスピードは約500mしか続きません。しかも獲物の捕捉率は300m以内が多いことが判っているので、わずか10秒以内で決着をつける必要があります。チーターはひと跳びで約9mジャンプし、わずか2~3秒で時速60~90kmに達し、さらに最高時速からその場に急停止できる点は、他の動物や自動車でも不可能です。コミュニケーションは鳴き声、嗅覚、触覚、視覚、行動の五感を駆使していることが知られています。鳴き声はメスが子どもを探すときや交信相手に呼びかける際に使う、小鳥のさえずりのようなチーチー、チュウチュウ鳴らす声や、イヌの鳴き声のような高いキャンキャンする声で約2km先まで届きます。ワカモノはこの種独特のヒューという声や小刻みな唸り声を出します。その他、敵対する相手に対する威嚇の唸り声、友好的な挨拶として喉をごろごろ鳴らすことが知られています。
  嗅覚を使う行動は、なわばり内にある樹や倒木、アリ塚、岩に尿スプレイし、地面に寝ころんだり顔をこすりつけたりするほか、木や地面を引っ掻いて匂いつけをします。触覚を使う行動では顔や頬をこすり、あるいは舐め合います。狩りをするときは視覚に頼り、獲物を両眼視でしっかり捉えています。

  アップで見るとチーターもたくましい体形ですね。だから時速100kmで走れるんだ。
アップで見るとチーターもたくましい体形ですね。だから時速100kmで走れるんだ。
写真家 大高成元 氏撮影
   

からだの特徴
  チーターは餌となる獲物を捕らえるために早く走ることができるように体が進化してきました。他のネコ科動物のように強力な咬筋がないため頭部と顔は小さく丸くなり、そのため頭の骨や歯は軽く、咬む力が弱くて獲物の堅い骨を噛み砕くことができません。オスはメスより大きく、後躯は肩部の高さより低くなっています。体毛は細く滑らかで短毛、地色は黄褐色で腹部は白っぽくなって黒い小斑が体全体にありますが、ヒョウと違い梅花状ではありません。耳は小さくてまるく裏には小さな黒い斑点があります。首すじから肩にかけて短い毛がたてがみ状に生えています。目の内角から鼻の両脇を通り上唇にかけて顕著な涙状腺があり黒くなっています。瞳孔は丸く虹彩は黄褐色です。尾は長く先端三分の一には黒いリング状の帯があり、先端は白く房毛です。4肢は細く前肢より後肢の方が長く、前肢に5本、後肢に4本の指がありそれぞれ少し湾曲した短くしっかりした爪があります。チーターの子どもは生後10週齢までは爪をネコと同じように鞘の中に出し入れができ、木に容易に登ることができますが、その後は爪を引っ込めることができなくなります。チーターが早く走ることができる肉体的な特徴はいろいろありますが、短い爪はスパイクのように蹴り出すときに使い、指は急停止するときは広げ、また方向転換する側の指幅を縮めたり、長い尾を振ってバランスを取ったりしています。さらに犬歯と歯根が小さいので鼻腔が広がり呼吸が楽になるほか、肥大した気管支や内臓、柔軟な体と強い筋力などが総合的に働いて、このような高速走行を可能にしています。鼻腔の拡張は獲物を咥えて窒息死させるときに自身の呼吸も楽にして います。
  生後3~6週齢で乳歯が萌芽し生後約8ヶ月齢で永久歯に代わります。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯1/1で合計30本です。肛門腺が発達し、乳頭は12個です。アルビノと黒変種が記録されています。アフリカチーターの肩高はふつう約90cmありますが、サハラで捕獲された2頭のオスは約65cmで小型であったと報告されています。
  アフリカのジンバブエ地方にあらわれるキングチーターは、頸部と肩部は毛が長く約7cmあってたてがみ状になり、チーター特有の斑点がつながって帯状になって現れたもので、稀少な個体として動物園では人気者です。この帯状模様は常染色体上の毛色に関係する遺伝子の1個が突然変異をおこしたことにより生じます。チーターの通常の斑紋にたいして劣性で通常個体と繁殖した場合は帯状の模様は出ません。

えさ
  狩りは社会構成により単独やグループで行い、通常朝夕の日中が多く、視覚を使って行うため月夜や曇天には真昼でも行います。狙った獲物が逃げ出さなければ約30mまで近づいてから一気に追跡し、平均170m(200~300m)追いかけますが、もし仕留められない場合長くとも500~600mで諦めます。狩りの成功率は約50%で追跡が200m以内の場合が高くなります。獲物に追いつくと前脚でたたいて倒し、獲物の下側から喉に嚙つき窒息死させ、ノウサギのような小型の動物は頭を咬んで殺します。狩りを行う場合、単独個体とグループ、および成獣と若い個体ではそれぞれ狙う獲物が異なり、1頭で襲う場合は小型の動物を狙い自分の体重より重い相手は襲いません。グループで狩りをする場合は自分の体重より重いウシ科のクーズー(体重200~300kg)やヌー(体重150~200kg)も捕えます。セレンゲテイ国立公園での獲物の割合は、ノウサギが12%、トムソンガゼルが62%で、成獣のガゼルの捕捉率は約50%、幼獣では100%でした。生後3~4ヶ月の子ども連れの母親は35日間に31頭のガゼルと1頭のノウサギを捕らえました。ナイロビの国立公園の報告例では単独個体は25~60時間ごとに獲物を獲ります。一度に約14kgの肉を食べることができますが、ふつうは1日あたりの採食量は2~4kgです。4頭のグループはインパラ(体重45~60kg)を捕らえてからわずか15分間で食べました。獲物の食べる部位は後躯から食べ始め内臓や血液は好きですが、骨、皮は食べません。死肉は稀に食べる程度で、大きな獲物は2~10分間食べた後、近くの茂みや陰に隠して後で戻って食べることがあります。乾燥に強く水は4日に一度、ときには10日に1度しか飲まない時もあります。カラハリ砂漠では平均して82kmを移動すると水場がありますが、水以外に獲物の血液や尿、カラハリメロンから水分を取り込んでいます。セレンゲテイでは殺した獲物のうち約10%を主にブチハイエナやライオンに横取りされます。
  生息地毎の主な獲物を列挙すると、東アフリカでは、トムソンガゼル、グラントガゼル、ジェレヌク、インパラ、レッサークーズー、ディクディク。南アフリカでは、スプリングボック、インパラ、クーズー、キリン、アフリカスイギュウなどの子ども、リードバック、プーク、イボイノシシ。中央アフリカでは、ハーテビースト、オリビ、コーブ。有蹄類がいなければホロホロチョウなどの地上性の鳥類も食べます。サハラに生息する個体は稀にバーバリーシープやダチョウを獲ります。イランではノウサギを良く捕えます。インドではブラックバック、アキスジカその他、体重40kg以下の草食獣を捕らえていました。この他、家畜のヒツジ、ヤギ、子ウシ、ラクダの子どもなども含まれます。
  野生で死肉は稀に食べる程度と報告していますが、動物園では給与し食べています。

繁殖
  繁殖は年中ありますが東アフリカのピークは1~8月、ナミビアでは11~1月、ザンビアでは11~3月です。発情期に入るとメスは地面を転がったり、繁みや岩、木の幹に排尿したりして匂いつけをします。匂いを察知したオスは声を出しながら後を追い、メスも鳴き声で応え1~2日間一緒に過ごす間に交尾します。チーターも飼いネコと同様に交尾排卵と考えられています。発情メスの排尿を嗅ぐと複数のオスが反応し、優位オスと交尾して他の個体は周りをウロウロしています。発情は約12日間周期で見られ1~3日間続きます。妊娠期間は90~95日です。出産場所は草むらの中でひっそりと産みます。ひと腹の産子数は平均4頭(1~8頭)で、出産間隔は17~20ヶ月間です。生まれたばかりの子どもの体重は150~400gですが、飼育下では平均463g、体長約30cmの報告があります。目は閉じて生まれ、生後4~11日齢で開きます。子どもの毛は長くて柔らかく、青みを帯びた灰色で被われ、斑点は下毛の中にあり不鮮明です。3ヶ月齢以内は黒っぽく、口から背の正中線上に青灰色や銀白色のふわふわの長毛がマント状に生えていますが、マント状の毛は生後3ヶ月ごろにほぼ消えますが、1歳になってもその痕跡がまだ残っている場合もあります。母親は出産後数日ごとに隠れ家を変えます。生後5~6週齢で母親の後をついて歩けるようになり、生後8週齢ころになると固形物を食べ始めます。母親は捕えてきた生きた小型の獲物を子どものそばで放し、殺し方を覚えさせます。生後3~6ヶ月齢で離乳します。メスの子どもは生後17~20ヶ月齢で母親と別れ単独生活になりますが, 翌年まで母親と重複した行動圏で過ごします。オスは生後約15ヶ月齢で母親と別れてオスの子ども同士で一緒に過ごし、2歳弱で一人前になり単独生活かグループに入ります。性成熟は21~22ヶ月齢です。ナイロビ国立公園ではチーターの子どもの死亡率は43%と低いのですが、セレンゲテイのライオンが多い地域では125頭の子どものうち95%は死亡し、そのうち73%は肉食獣によるものでした。長寿記録は野生で14歳の報告がありますが、セレンゲテイのメスは平均7歳、グループでいるオスは単独生活のオスより長命です。飼育下のチーターの寿命は平均10.5歳、長寿記録としはフランスのロワイヤンにある、パルミール動物園で1966年8月から1986年11月まで飼育された個体(オス)の飼育期間20年3ヶ月、推定年齢20歳6ヶ月、ドイツのアルトハイデルベルク動物園で、1980年6月から1999年2月までの18年7ヶ月間飼育された個体(オス)の推定年齢20歳7ヶ月があります。
  人間が最大の外敵となっている点では他の動物と同じですが、野生動物では、ブチハイエナ、ライオン、ヒョウ、リカオン、稀にヒヒが名を連ねています。

生息数減少の原因
①チーターは広い行動圏をもっているため保護には大規模な保護区が必要ですが、牧草地や農地、住宅地のために生息地を過度に開発したことで、生息地の消失、分散がおき、生息環境が悪化しただけでなく、主食としていた草食獣が激減し、間接的に大きな影響を与えています。
②家畜を襲う害獣という名目で駆除されています(ナミビアの保護区の外では年間の家畜の損失がヒツジとヤギで10~15%, 子ウシが3~5%という報告があります)
③美しい毛皮のために密猟が続いています。

亜種
  チーター(Acinonyx. jubatus. )は今泉吉典博士によれば1属1種2亜種、アフリカチーターとアジアチーターに分類していますが、最近では5亜種とする分類学者もいます。
1. A. j. jubatus アフリカチーター
  1970年頃にはアフリカの25ヵ国に生息し、1991年の報告では9,000~12,000頭の野生のチーターがいましたが、2007年にはアフリカ南部で4,500~5,000頭、東アフリカで約2,500頭。アフリカ北西部に約250頭、合計約7,500頭が生息していると報告されています。
2.A. j. venaticus アジアチーター
  南西アジアのカスピ海周辺、さらにインドまで分布していましたが、インドでは1950年代に絶滅、他の地域でも相次いで姿を消し、現在生存が確実なのはイランだけで60~100頭残っていると推測されます。
古代からペットや狩猟用として飼われていたチーター
  メソポタミア南部に住んでいたシュメール人は5,000年前に、古代エジプト、スメリア、アッシリアでは4,300年前頃から飼育し、モンゴルの皇帝は3,000頭のあまりのチーターをペットや狩猟用に馴致し飼育していました。さらにインドとヨーロッパの豪族や貴族は1900年代に入ってもまだ飼育していました。

分類   食肉目 ネコ科
分布   アフリカのサハラ以南、北西部、東部の一部、中東のイラン
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
オス・メス  110~140cm
オス・メス  40~65kg
オス・メス   65~80cm
絶滅危機の程度     国際自然保護連合(IUCN)発行の2013年版のレッドリストでは、種としては絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されていますが、アジアチーターとアフリカ北西部に生息する個体群は絶滅寸前種(CR)に指定され絶滅が懸念されています。
  またワシントン条約では種として付属書の第Ⅰ表に該当し国際商取引の禁止対象種となっています。
  現在は国立公園や保護区、狩猟禁止措置で保護されていますが、狩猟も全ての生息域の国が禁止しているわけではありません。

主な参考文献
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
林 壽朗   標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
今泉忠明   野生ネコの百科 データハウス 1993.
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修   動物大百科 1食肉類 チーター 平凡社 1986.
Krausman, P.R. & Morales,S.M.   Mammalian Species . No.771, Acinonyx jubatus The American Society of Mammalogists. 2005.
成島悦雄   ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育2食肉目
(公財)東京動物園協会 1991.
野本寛治、唐沢瑞樹、伊藤武明、佐々木雄太、近藤奈津子   チーターの繁殖, どうぶつと動物園 Vol.64 No.4, (公財)東京動物園協会 2012
和田直己   チーターとは?「地上最速のハンター」の走行のしくみ、どうぶつと動物園、Vol.64 No.4, (公財)東京動物園協会、2012.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Nowell, K. & Jackson, P. (ed)   Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan IUCN 1996.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.1  Carnivores. Lynx Edicions 2009.

 
おもしろ哺乳動物大百科101(食肉目 ネコ科) 2014.5.1

101)ウンピョウ
ウンピョウは、ネパール、インド、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、ブータン、中国南部、インドネシナ、スマトラ、ボルネオに分布し、低地のマングローブ林から普通は標高2,500mぐらいまでに生息していますが、ヒマラヤでは標高2,500~3,720mの地点で、設置しておいた自動カメラにより撮影され生息が確認されています。
生活圏は常緑の熱帯雨林から二次林や伐採された森林、草原や雑木林、マングローブの沼地など多様な環境で見られています。目には夜間のわずかな光を増幅してみることができる反射板があることや尾が長く後肢だけで木の枝にぶら下がることができること、そして樹上から下を通る獲物に襲いかかったり樹上で昼寝をしていたりするのが目撃されていることから樹上生活者と考えられていました。一方、狩りは地上の方が多く、本来は地上生活だが暑さや外敵から逃れるために樹上にいたのが観察された、という報告もあります。タイにおいてラジオテレメトリーを付けて調査した結果、活動時間の割合は昼間が35~45%、日暮れ時は約85%、夜間は約60%で、日中(11時~14時)と夜明け前(2時~5時)はほとんど活動していませんでした。さらに設置した自動カメラに昼夜とも写っていたことから両者の割合に差があるものの昼夜ともに活動していると考えられます。行動圏の調査報告は少ないのですが、タイで捕獲した成獣メスにラジオテレメトリーを付けた追跡調査では33.3km2 、成獣オスは36.7 km2 でした。この2頭は休息には主に樹上を利用し、移動の時はほとんど地上を利用していました。他にも4頭に発信機を付けた追跡調査でメス2頭が25.7 km2 と22.9 km2 、オス2頭は29.7 km2 と49.1 km2 の報告もあります。群れで生活することはなく、繁殖期と子育て以外は単独生活をしています。ボルネオのサバ州やベトナムの小島では、泳いで獲物を追っている様子も観察されていることから泳ぎも得意のようです。飼育下の報告によれば、なわばりを主張する排尿スプレーと頭部を樹木にこすり付ける行動がみられ、また複数の鳴き声を出して個体間で交信することや発情期には特有の声を出すことが知られています。

  大きな口を開け、長くて鋭い牙(犬歯)を見せ威嚇のポーズです。
大きな口を開け、長くて鋭い牙(犬歯)を見せ威嚇のポーズです。
写真家 大高成元 氏撮影
   

からだの特徴
ウンピョウの名前は横腹に大きな雲形の班紋があることに因み命名されています。似たような班紋を持つネコ科動物にはマーブルキャット(マーブルネコ)がいますが、体重が2~5kgで半分にも満たない大きさで班紋も小さめです。頭部はチーターより一回り大きく長めでがっしりとし、鼻づらは幅広です。犬歯はネコ科の中では体の大きさに比較して最も長く3.8cm~4.5cmあります。
歯の特徴からウンピョウは、漸新世後期から更新世にかけて(2,500万年前~200万年前)生息していた、サーベルタイガーの子孫ではないかと言われたこともありますが、ウンピョウはヒョウ属に近縁で、サーベルタイガーとの関係は単なる収斂進化(種の系統が違っても、すむ環境や餌が同じ生物は姿や形が似通ったり、同じ機能を持ったりするようになる現象)であり直系の子孫ではないということです。
体毛は短く、体色は生息地により褐色から灰色、黄褐色と多様で、横腹に黒褐色に縁取られた雲形の大きな黒い斑紋があり、腹部にかけて白くなっています。中国南部やインドシナに生息する個体は頸部に6本の縞があり、外側のものは幅広になっています。ヒョウの黒変種であるクロヒョウと同様に黒色のウンピョウも見られます。丸い耳は背面が白く虎耳状斑となっています。目は頭部の前面に位置して獲物を立体視でき、瞳孔は縦長の楕円形に収縮し、虹彩は多くが淡黄色です。指向性で4肢は短く、前肢の掌は大きく掌底は堅くなっています。前肢に5本、後肢に4本の指があり、自由に引っ込めることのできる鋭い鈎爪をもっています。後肢の足首が柔らかく方向転換がスムースにでき、頭部を下方に向けて樹上から降りることができます。尾は毛が密生して黒いリング状の模様があり先端は黒くなっています。胴長短足で力強い4肢と大きな掌、長い尾は樹上生活するときにバランスを取るときに役立っています。体長(頭胴長)60~100cm、尾長60~90cm、体重16~23kgでオスの方が一回り大きくなります。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、小臼歯3/2、臼歯1/1で合計30本です。第1前臼歯は小さく、欠損している個体もいます。大型のヒョウ属のトラやライオンは舌骨の一部が伸縮自在の靭帯でできているので、咽頭を自由に上げ下げして咆哮します。ウンピョウ属やチーター属、ネコ属は舌骨が4対の骨の鎖でできており、喉をゴロゴロさせることはできますが吼えることはできません。
休息するときの姿勢は飼いネコと異なり、尾と前足を伸ばしてヒョウやトラと似た格好になります。ウンピョウはネコ科最大のヒョウ属(トラ・ライオン)とチーター属、そして彼らより小型のネコ属の中間と言われます。その理由は体格が両者の中間であること、休息の姿勢や長い犬歯は大型のネコ科に似ているものの、ライオンやトラのように大きな咆哮はできないことなど、両者の特徴を合わせ持っていることがその由縁でしょう。そして、ネコ科の中でウンピョウ属1種に分類されます。

えさ
主な獲物はサンバー(スイロク)の子ども、ホエジカ(インドキョン)、マメジカ、スイギュウの子ども、ヒゲイノシシ、テングザル、カニクイザル、ブタオザル、ラングール、スローロリス、ヤマアラシ、稀にオランウータン、インドシナシマリス、アジアフサヤマアラシ、マレーセンザンコウ、ニワトリ、ブタ、ヤギなどの家禽と家畜です。鳥類、卵、魚類の報告もありますが、他の肉食獣の食性を考えると、おそらく小型の爬虫類、両生類、昆虫なども食べると推定されます。飼育下では植物も与えている動物園もあります。

繁殖
飼育下の繁殖報告によれば、発情周期は約30日で6日間続き、交尾は6月と10月以外の月にみられ、最も多いのは12月でした。出産は12月を除き全ての月に見られ、3月がピークです。オスは交尾するときに攻撃的になり、メスの首筋に噛みつき殺してしまうことがあります。妊娠期間は93±6日(85~109日)で、産子数は1~5頭でふつう2~3頭です。生まれたばかりの子どもの体重は140~170g、目は閉じて生まれ、生後12日齢ころに開眼します。新生児は生後7~10週齢の間に固形物を食べ始めますが、授乳は11~14週齢まで続きます。生まれたばかりの子どもは全体的に黒色で、生後約6ヵ月齢頃に成獣と同じ模様に変わります。性成熟は生後20~30ヶ月齢です。
飼育下の長寿記録としては米国ヴァージニア州のフロントロイヤルにある、スミソニアン保全生物研究所で1982年2月24日に生まれ、2001年12月27日に死亡した個体(オス)の19歳10ヶ月があります。

生息数減少の原因
ウンピョウの生存に深刻な影響を与えている主要原因は、農業や牧畜のために生活圏である森林の開発を進めた結果、餌となる動物が減少したことが挙げられます。また鋭く長い歯と美しい毛皮、肉や骨を薬用にするために、現在も密猟が続けられていることも大きな原因の一つと考えられています。これらの現状を踏まえ原産国のバングラデシュ、ブルネイ、中国、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ネパール、タイ、ベトナム、台湾は狩猟禁止にしています。狩猟が規制されているのはラオス、ブータンですが、保護区以外は規制がありません。

分類   食肉目 ネコ科
分布   アジア大陸南東部、スマトラ島、ボルネオ島
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
60~100cm
16~23kg
55~90cm
絶滅危機の程度   ウンピョウはアジア大陸南東部からボルネオ島、スマトラ島と周辺の島、および台湾に広く生息していましたが、台湾では1960年以降少数の報告があったものの1988年、1991年の時点では誰もウンピョウの存在を実証できていないと報告され絶滅が懸念され、1996年の報告によると台湾ではすでに絶滅したとされています。ボルネオ島は天敵となる大型の肉食獣のトラやヒョウがいないため、人間の影響を受けない場所で少数が生息していると推測されています。その他、スマトラ島、中国南部の広範囲、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、インドの北東の一部に点在する森林保護区内でわずかに生息しています。
このような現状からウンピョウは国際自然保護連合(IUCN)発行の2013年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。

主な参考文献
林壽朗   標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
今泉忠明   野生ネコの百科  データハウス 1993.
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修   動物大百科 1 食肉類 平凡社 1986.
成島悦雄   ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育2食肉目:今泉吉典 監修、 ㈶東京動物園協会 1991.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition ,Vol.1,The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Nowell, K. & Jackson, P. (ed)   Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan IUCN 1996.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009.

おもしろ哺乳動物大百科100(食肉目 ネコ科) 2014.3.27

100)ユキヒョウ 
  ユキヒョウはヒマヤラ山脈、天山山脈、アルタイ山脈、ヒンズークシ山脈などの高山に分布し、これらの山脈があるチベット、中国、インド、ネパール、ブータン、アフガニスタン、パキスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタン、ロシア、モンゴルといった国が含まれます。
  生息地は標高1,500~6,000mの範囲に及び、獲物を求めて夏季と冬季でこの間を移動します。ヒマラヤ山脈では夏季は2,700~6,000mにいますが、冬季には餌となる草食獣が低い地域に移動するのに伴い標高1,800m位までおりてきます。生活圏は岩地の断崖や高山地帯の草地、ステップ(木のない大草原)の叢林、高山の針葉樹林です。日中は岩場の洞穴や割れ目で過ごし、早朝や午後遅くに狩りを行います。モンゴルにおけるラジオテレメトリーを装着した調査結果によれば、24時間のうち37%を活動し、活動時間帯が低いのは12時と18時の間、高いのは20時と朝4時の間でした。移動距離は直線で平均5kmでしたが、このうち18%は10km以上になりました。行動圏は平均18.6km2、(10.7~36.2km2)で、子づれの1頭のメスはわずか13.5km2、2頭のオスは61~141km2を徘徊していました。一方、ネパールの調査では、5頭の行動圏は12~39km2、雌雄で重複していましたが、一緒に行動することはほとんどなく、ペアーで移動しながら狩りをしているのが数例目撃されました。繁殖期以外は単独生活者で行動圏の境界線にあたる稜線や川辺は尿と排便および爪で引っかくことで匂い付けをして、なわばりのサインとしています。ユキヒョウは身が軽く傾斜度を利用してひと跳びで15~16mジャンプできると報告されています。鳴き声は単調な震えた声を発情時に多く発します。ライオンのように吼えることはできませんが複数の声が報告されています。また、飼いネコのように喉をゴロゴロさせます。

  ゆったりと横たわっていますが、雪山に生息する王の風格が感じられます。
ゆったりと横たわっていますが、雪山に生息する王の風格が感じられます。
写真家 大高成元 氏撮影
   

からだの特徴
  丸くがっしりした頭部、筋肉質で長めの4肢は指向性で前肢には5本、後肢には4本の指があり引っ込めることのできる鈎爪をもっています。足裏には肉球があって獲物に音を立てないで近づくことができます。大きな掌は接地面積が大きく、足裏をおおっている毛と共に冬季の積雪や岩地の生活に順応しています。良く発達した胸筋は強いジャンプ力をうみ、長く太い尾は足場の悪い岩場で狩りをするときバランスを取るために役立っています。目は頭部の前面に位置して獲物を立体視できます。網膜には光を増幅する仕組みがあり夜間でも獲物を見つけることができ、虹彩は黄色がかった灰色で、瞳孔は縦長の楕円形に収縮します。毛の地色は薄灰色からクリームがかったスモークグレイで、冬毛は明るく夏毛は濃くなります。背の正中線には1本の黒条が走り、頭部と4肢の下側は黒色ないし暗褐色の斑点が列をなしています。脇腹には黒、あるいは暗褐色で縁取られた褐色で大きな梅花状の斑があり、腹部にかけてわずかに白っぽくなっています。耳介の縁は黒色です。冬毛は長く背中が3~5.5cm、脇腹は約5cm、腹部は約12cm、尾は約6cmで、全体に羊毛状の下毛が豊富にありますが、夏毛は短く脇腹で約2.5cm、腹部と尾は約5cmです。体長は100~130cm、尾長は80~100cmで尾端は丸くなっています。体重はオスが45~55kg、メスは35~40kgで、オスの方が一回り大きくなります。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯1/1で合計30本です。乳頭数は3対です。

えさ
  主な獲物は、バーラル、ヒマラヤタール、マーコール、シベリアアイベックス、アルガリ、アジアムフロンですが、生息地によっては野生のロバ、ジャコウジカ、ヨーロッパイノシシ、ガゼルのなかま、マーモット、ナキウサギ、ノウサギ、マツネズミのなかま、キジ類などが挙げられ、夏は餌の約45%をマーモットが占め重要な糧となっています。このほか、家畜のヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヤク、イヌも対象となり、体重の3倍もある獲物を倒すことができます。糞の分析結果によれば、動物以外に、稀に南ヨーロッパからシベリア、中国の乾燥地にみられる落葉低木のギョリユウ(御柳)科の小枝も食べます。狩りをする時は峡谷に沿って稜線や川辺を歩き、襲うのに有利な傾斜面の上手から不意打ちに襲い、あるいは200~300m追いかけて倒します。倒した獲物のところには3~5日間かけて骨だけ残して食べきるまで留まっています。2頭の子どもを連れているメスは、成獣のバーラル(体重40~60kg)1頭を約2日間で食べますが、1頭の場合は3~5日間食べることができます。死体はカラスやハゲワシに横取りされないように動かして隠します。体格は大型のネコ類ですが、小型のヤマネコと同様に屈んだ姿勢で食べるのも特徴の一つです。

繁殖
  交尾期は1月~3月、発情は15~39日周期で通常2~12日間続き、鳴き声や匂いつけが増加します。飼育下の記録によれば、発情は5~8日間続き、このうちの3~6日の間に1日に12~36回交尾した、と報告されています。野生での出産場所は洞窟、岩の割れ目、樹木の洞などを利用して、母親の毛を敷いた所で行われます。妊娠期間93~105日、ふつう2~3頭の子どもを出産します。生まれたばかりの子どもは厚い羊毛状の毛でおおわれ、斑紋は明瞭でピューマの幼獣と似ています。体重は450±90g、頭胴長は23~23.7cm、尾長は16.8~18.1cmです。目は閉じて生まれ、生後約1週齢で開きます。出産後最初の1週間、母親は巣穴で一緒に過ごすか近くにいて、グルーミング、授乳、休息をします。子どもの体重はこの間に300~500g増加し、生後2ヶ月齢で約4kgになり、生後10週齢ごろ離乳し、体重は約6kgになります。固形物は生後約2ヶ月齢で食べ始めます。生後2~4ヶ月齢で子どもは母親の狩りについてゆきますが、この頃は母親の狩りの助けとなるより邪魔になっています。生後1年間は母親と一緒に狩りを行いますが、一人前になるのは生後約18ヶ月齢です。飼育下の場合、性成熟は2~3歳ですが、4歳前の繁殖は稀です。
  飼育下での長寿記録としては、フィンランドのヘルシンキ動物園で1974年5月12日に生まれ、1995年7月18日にアメリカのインディアナ州にあるコロンビアパーク動物園で死亡した個体(メス)の21歳2ヶ月があります。

生息数減少の原因
  大規模な農業や牧畜のために生息地が乱開発された結果、生息環境が著しく悪化するとともに、餌となる有蹄類が減少したことや捕食が簡単な家畜を襲う害獣として駆除されたことが大きな要因のひとつとなっています。また、美しく良質な毛皮や薬用としての骨、肉、爪などが高価に取引されるために、密猟が後を絶たないことも大きく関係しています。一方、生息地が軍事地域となっているアフガニスタンや周辺国では地雷や生息環境の破壊が大きな問題となっており、戦争当時国同士ではユキヒョウの共同保護政策がとれないのが現状です。
  世界の動物園はユキヒョウの血統登録を行い血統管理しながら種の保存に努めています。 国内の飼育状況(2013年10月) 9園館(円山動物園、旭山動物園、群馬サファリ、多摩動物公園、浜松市動物園、東山動物園、アドベンチャーワールド、王子動物園、熊本市動植物園)で合計25頭前後が飼育されています。

分類   食肉目 ネコ科
分布   中央アジアのヒマラヤ山脈、天山山脈、アルタイ山脈、ヒンズークシ山脈などの高山地帯
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
100~130cm
オス45~55kg メス35~40kg
80~100cm
絶滅危機の程度     野生における生息数は4,080-6,590頭と推定され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2013年版レッドリストでは、絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定され絶滅が懸念されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。

主な参考文献
福田愛子他   ユキヒョウの繁殖 どうぶつと動物園 Vol.60 No.4, ㈶東京動物園協会 2008.
Hemmer, H.   Mammalian Species . No.20, Uncia uncia. The American Society of Mammalogists 1972.
林壽朗   標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
今泉忠明   野生ネコの百科  データハウス 1993.
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
成島悦雄   ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育2食肉目:今泉吉典 監修、 ㈶東京動物園協会 1991.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition ,Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009.

 
おもしろ哺乳動物大百科99(食肉目 ネコ科) 2014.2.26

99)ヒョウ
ネコ科ヒョウ属には5種が含まれ、この中でヒョウは分布域が最も広く、アフリカのサハラ砂漠以南から北アフリカ、アラビア半島、中東、中部以南のアジア、極東ロシアまで分布しています。低地の森林や草原、雑木林、熱帯雨林から温帯落葉、高山針葉樹など全ての森林タイプに住み、餌となる動物が住んでいれば砂漠や寒冷な山地にも生息し、アフリカのキリマンジャロ山では標高5,638m地点で、ヒマラヤからパキスタンの山岳、カシミールにかけては標高5,200m付近で姿を見ることができます。インドでは常緑樹や落葉樹、竹林の混合林、マレーシア半島、スリランカなどでは、熱帯雨林をはじめ水路に沿った林や深い草むらに生息しています。そして、都市部の郊外にも生息し家畜の脅威となっています。夜行性ですが活発に活動するのは朝夕の時間帯が多く、日中も狩りをすることがあります。昼の暑い時間帯は樹上や、藪の中、岩の隙間などの日陰で休息します。生息環境の厳しいナミビア、サハラ、シナイ、アラビアなどの砂漠では日中の外気温が70℃に上昇しますが、穴や藪に入り暑さをしのぎます。乾燥にも強く10日間も水を飲まずに生きのびることができます。一晩の移動距離は25km程度ですが、環境が騒がしく落ち着かないところでは75km位まで、また短い例では、南アフリカとタイにおいてラジオテレメトリーを付けた調査で、わずか1~2kmの報告もあります。
行動圏の大きさはさまざまでセレンゲティでは、1頭のオスが複数のメスと同じ行動園にすみ、メスも又、少なくとも4頭のオスと関わっていました。アフリカのツァボ国立公園で10頭のヒョウにラジオテレメトリーをつけ、3年間調査したところ、9~6km2で、1度に行動圏の半分しか使わず、約70%が他個体と重複していました。一方、極東ロシアでは、メス2頭の行動圏がそれぞれ33km2と62km2、オスでは少なくとも280km2でした。餌となる動物が極端に少ない地域ではメスの行動圏は128~487km2、カラハリ砂漠ではオスで800km2に達すると推測されています。スリランカのウイルパツー国立公園における行動圏は8~10.5km2で、その中にオスはなわばりを持ち、鳴き声や境界線上の大きな樹の幹や地上から2~3mの太い枝を爪で引っ掻き、あるいは排泄物による匂い付けでなわばりを守っていました。繁殖期以外は単独で生活していますが、オスの中にはメスの出産後に一緒に狩りを行い、育児に手をかす個体もいます。コミュニケーションの一つは鳴き声で、子ども時代はネコと同じようにニャーニャーと鳴きますが、成獣になると短くしわがれた咳こむような声を数回繰り返しなわばりの主張を行い、直接闘争することはほとんどありません。通常、ゆっくりと歩きますが、狩りや外敵から逃げる際には、短距離ならば時速60kmで走ることができます。さらに水平に6m以上跳び、木登りがうまく獲物を咥えたまま垂直に3m跳びあがることができます。トラほどではありませんが泳ぐことも上手で視力と聴力も鋭く、嗅覚はトラより発達しているようです。

  なんともきれいな模様のおかげで、藪に入ると草食獣からヒョウの姿は見えないのです。怖いですね・・・。
なんともきれいな模様のおかげで、藪に入ると草食獣からヒョウの姿は見えないのです。怖いですね・・・。
写真家 大高成元 氏撮影
   

からだの特徴
体はしなやかで体幅は狭く胴長で4肢は短めでがっしりとして、頭部は横に広く頑丈な顎と長い犬歯を持っています。体の色と模様は変化に富み、地色はふつう淡黄褐色から淡褐色に黒い斑点が点在しています。頸部、肩部、下腹部と4肢の内側の地色は白色で黒斑があり、頭部と4肢の斑点は小形です。背中やわき腹は斑点が集まりバラ斑を作りますが中に黒点はありません。これらの模様は保護色となる一方で、動物を襲う際、周囲の環境に溶け込み気づかれずに接近することができます。尾は長くて頭胴長の半分以上あり、樹上生活や獲物を捕らえる時にバランスをとるのに役立っています。尾には黒色の縞模様や斑紋があり、先端の上側は黒色で下側は白色となっていて後ろからついてくる子どもの目印になると推測されます。被毛は2層で細く密な下毛と粗い上毛でおおわれています。寒い地方に分布する亜種は毛が長く下毛が密に生え、暑い地域の亜種は反対に短くて粗くなっています。耳は短く丸くて、後ろ側の基部は黒色です。口の周りと頬の毛は固くて長く鋭い感覚器官としての働きを持っています。指は前肢に5本、後肢には4本で、それぞれにかぎ爪があり自由に爪を引っ込めることができ、足底の肉球はとても柔らかく足音を立てずに歩けます。ヒョウ属は舌骨の一部がじん帯になっているので、咽頭を上下に動かすことが可能となり大きな声を出し、一方ネコのように喉をゴロゴロ鳴らすこともできます。頭胴長100~190cm、尾長70~95cm、体重28~90kgです。永久歯の歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯1/1で合計30本です。大きな肛門腺があり排泄の際匂いを付着させることで、なわばりの主張や発情のサインとなります。舌の表面には後ろ向きに乳頭突起があり肉を骨からそぎ取る役割を果たしています。乳頭は4個あります。
クロヒョウと呼ばれるのは、ヒョウの黒変種でインド南部やマレー半島、スリランカ、エチオピアなど高温多湿の地域に多く見られます。幼獣のときは黒斑が判りやすいのですが、成長につれてぼやけてきます。

えさ
主食は哺乳類で体重が5~45kgの小型から中型の有蹄獣、霊長類、家畜などですが、種類は生息地によって異なります。これらの大きな獲物を捕らえることができない場合、げっ歯類、ウサギ、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、節足動物まで餌とします。大型動物の場合は樹上や物陰で待ち伏せたり、足音を忍ばせたりして近寄り不意に襲い喉に食いついて窒息死させます。小型の獲物は背後から跳びかかり背骨を折ったり、頸部に咬みついたりして仕留めます。1回で食べきれない大きな獲物は樹上に引っ張り上げて枝に引っ掛けておきます。1頭のヒョウは、体重およそ125kgのキリンの子どもを5.7mの樹上に引っ張り上げました。樹上に引き上げることで外敵のライオン、ハイエナやリカオンから餌や子どもを守ることができます。アフリカのクルーガー国立公園ではインパラが主食で78%を占めており、平均して週に1回インパラを殺していましたが、もっと大きな獲物を倒したときは最長で19日間食べ続けました。南アフリカのロンドロジ保護区では330日間で10kg以上の体重の獲物を28回殺しました。カラハリでは獲物の65%がスプリングボックで、オスは3日に1回、子どものいるメスは1.5日毎に殺していました。自分の体重の2~3倍の有蹄獣を倒す一方で、小型の獲物も食べ、サハラ以南では獲物として92種類が知られています。1976年にケニアのツァボ国立公園で行われた調査では排泄物の分析結果から、げっ歯類35%、鳥類27%、小型のアンテロープ27%、大型のアンテロープ12%、ハイラックスとノウサギ10%、節足動物18%の報告もあります。大型動物の1例として体重が900kgに達するオスの成獣のエランドの記録もありますが、老獣か傷病個体かもしれません。霊長類もアフリカやアジアに生息する10~12種類が報告され、地上にいるヒヒの仲間やインドのハヌマーンラングールの名前が良く上がっています。その他、イスラエルのジュディアン砂漠における主食はイワハイラックスで、続いてアイベックスでした。バルチスタンでは主に若いラクダを襲い、トゥルクメニスタンでの主食はイボイノシシやトゥルクメニスタンヒツジです。生息域にすんでいる動物はほとんどが対象となるので中国ではジャイアントパンダやヒマラヤやアッサムに生息するやレッサーパンダも獲物の中に入っています。村の近くに住む個体はイヌ、ネコ、家畜のヒツジ、ヤギ、子ウシ、ブタも殺します。

繁殖
アフリカとインドの大部分では決まった繁殖期はありませんが、ユーラシアの北方地域では交尾期は12月から2月、出産期が3月から5月でした。南アフリカでは乾季の終わりに近い7月から10月に多くのオスとメスが一緒にいるのが観察されました。出産間隔は1~2年で平均15ヶ月です。発情周期は平均46日で、発情は6~7日続きます。妊娠期間は90~105日で、出産は洞窟、岩の割れ目、木の洞、繁みなど隠れた場所で行われます。1産1~6頭で通常2~3頭を出産します。生まれたばかりの子どもの体重は400~630g、目は閉じて生まれ5~10日齢で開眼します。生後2ヶ月齢頃から肉を食べはじめますが、授乳は生後3ヶ月齢まで続きます。子どもがひとりで狩りができるまで母親は一緒に行動します。子どもは最初のうちはハイラックス、ウサギ、小鳥などの小型の獲物を狙い、徐々に大きな有蹄獣やヒヒやサルを狙います。生後18~24ヶ月齢で母親と別れますが、しばらく母親の行動圏内に留まっています。初産は平均生後35ヶ月齢、オスの性成熟は2~3歳で、成獣の体格になるのは約3歳です。 国内の動物園における人工哺育の例によれば、2頭の新生児に肉をミンチにしてエスビラックに混ぜて与えたところ、1頭は生後32日齢、他の1頭は43日齢で少しずつ食べはじめ、60日齢頃から薄切り肉を食べた記録があります。
長寿記録としては、スペインのマドリード動物園で1976年7月14日に生まれ、2003年12月2日に死亡した個体(メス)の27歳4ヶ月という記録があります。

主な減少要因
過度の開発による生息地の消失と分断により、餌となる動物が減っただけでなく生息地の環境が非常に悪化したことが大きな原因と考えられています。その他に美しい毛皮をとるため、あるいはアフリカでは毛皮と犬歯がまだ伝統的な儀式で使用されるため売買されていること、西アジアでは、家畜のヒツジ、ヤギ、牛、ペットのイヌ、ネコを守るための密猟が絶えないことなども減少の原因にあげられます。

亜種
亜種の分類については諸説あり、今泉吉典博士は7亜種に分類していますが、その他9亜種、さらに細かく24亜種に分類する学者もいます。

分類   食肉目 ネコ科
分布   主としてサハラ以南のアフリカとアジア南部に分布し、その他に北アフリカ、アラビア半島、中東、極東ロシアに小さな個体群が点在しています
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
100~190 cm
オス 37~90kg  メス 28~60kg
70~95 cm
絶滅危機の程度   国際自然保護連合(IUCN)発行の2013年版のレッドリストでは、アムールヒョウは2007年の調査結果では成獣が14~20頭、幼獣が5~6頭で絶滅寸前種(CR)、ジャワヒョウとアラビアヒョウもやはり絶滅寸前種(CR)に、スリランカヒョウとペルシャヒョウが絶滅危惧種(EN)に指定されています。他の亜種は現在のところは絶滅のおそれは少ないとして近危急種(NT)に指定されています。クウェート、リビア、シンガポール、シリア、チュニジアではすでに絶滅したと報告されています。またワシントン条約では付属書の第Ⅰ表に該当し国際商取引の禁止対象種となっています。

主な参考文献
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
林壽朗   標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社 1968.
今泉忠明   野生ネコの百科  データハウス 1993.
今泉吉典 監修   世界哺乳類和名辞典 平凡社1988.
ジョン・ボネット・ウェクソ編 増井光子訳・監修   ライオン/ネコ 誠文堂新光社 1985.
Nowell, K. & Jackson, P. (ed)   Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan IUCN 1996.
成島悦雄   ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育2食肉目 ㈶東京動物園協会 1991.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
祖谷勝紀   ヒョウの人工哺育  どうぶつと動物園 Vol. 17 No.10 ,
(財)東京動物園協会 1965.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009.

おもしろ哺乳動物大百科98(食肉目 ネコ科) 2014.1.27

98)ジャガー
北はアメリカ南西部から南はアルゼンチン北部まで広く分布し、森林の水辺や沼沢地、植物に覆われた浮島などを好みますが、熱帯雨林、低い樹が密集した薮地、湿地のあるサバンナ、パンパス、砂漠などで生活しているのが報告されています。ブラジルではあらゆるタイプの植生を利用しています。標高1,000m以上の高地で姿を見るのはまれですが、コスタリカでは標高約3,800m、ベネズエラでは標高約2,000m、ボリビアでは標高約2,700mの高地でも発見されています。各地の開発が進んだ現在、残っている主な生息域はアマゾンの熱帯雨林です。繁殖期以外は単独生活で、洞屈や木の洞(うろ)、峡谷、人間が使う山小屋などを隠れ家や休息場所として利用しています。基本的に夜行性ですが、ラジオテレメトリーを使った調査によれば、活動のピークは明け方と夕方の薄暮の時間帯でした。ブラジルでの調査によると1頭のメスは1日の3分の2を活動に、残りの3分の1を休息に充てていました。歩幅は約50cmで、1晩の移動距離はメスが3~4 km、オスは約10 kmが普通ですが、時には18 kmや約65kmの報告があります。
行動圏の大きさは生息している場所、気候、獲物の密度などにより影響を受けます。メキシコ西部の熱帯雨林の場合、季節によりちがい乾季に25km2、雨期には65km2で、オスはメスの2倍以上の広さを移動し、ベリーズでの調査によるとメスは10~11km2、オスが平均で33.4km2でした。また、メキシコの別の調査例によれば、行動圏は2~5km2で100km2におよぶこともあり、ブラジルでは最大390km2の記録も報告されています。毎年繁殖する数頭の子どもが必要とする面積は約4,000km2と考えられています。オスはなわばりを持ち、1頭のオスの行動圏内には複数のメスが生息し、オス同士はなわばりの境界線辺りが重複しますが、糞や尿の匂いつけにより直接遭遇することを避けています。尿スプレイや、太い幹と厚い樹皮があるセコイアの樹幹をひっかいての爪とぎ、頭部のこすり付け、咆哮や甘え声などのさまざまな鳴き声でなわばりを主張しています。鳴き声は通常10種類ほどのパルス音を出しますが、これはジャガー、トラ、ユキヒョウ、ウンピョウに見られる独特のものです。成獣で最も目立つのは5~6種類の喉からかすれたような声を出します。飼育下の調査例によれば、平均睡眠時間は10.8時間で1回の睡眠時間は50~113分間、別の調査では1晩の睡眠時間は2.5~12.5時間でした。尾はヒョウより高く掲げ、木登りも上手ですがピューマほどではありません。泳ぎも上手で水中にすむ動物も獲物になります。

  体の斑紋がヒョウやチーターと違うところが判りますか。それにしても長い舌ですね。
体の斑紋がヒョウやチーターと違うところが判りますか。それにしても長い舌ですね。
写真家 大高成元 氏撮影
   

からだの特徴
新大陸にすむ最大のネコ科動物で、一見するとヒョウと似ています。しかし、頭部が大きく手足および尾が太く頭胴長の3分の1程度で全体的にずんぐりとした感じで明らかに違います。体色は淡黄色から黄褐色の地色に、黒い斑点を同じく黒い輪で囲む斑紋が特徴です。体の下部は白く黒い斑点があります。耳は小さくて丸く、トラと同様に背面に黒色で縁どられた白色の虎耳状斑があります。全身が黒色の黒変種もしばしば見られます。毛は短めで粗く喉部、胸部、腹部、4肢の内側は厚く生えています。虹彩は淡黄色から黄褐色で瞳孔は丸く収縮します。亜種により体格差が大きく違い、体長(頭胴長)は116~170cm、体重は31~121kg、尾長44~80cmでメスはオスより10~20%ほど小型です。ベネズエラでの調査では、体重がオス90~120kg、メス60~90kgの報告もあります。4肢は力強く、指向性で前肢に5本の指があり、第1指は小さく他の指より高い位置にあります。後肢には4本の指があり、それぞれに引っ込めることのできる鋭い鉤爪があります。70頭で調べた足跡の大きさは、前足の平均が長さ9cm、幅10cm、後足の平均は長さ9cm、幅9cmでした。永久歯の歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯1/1、合計30本ですが、乳歯は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、合計26本です。犬歯の長さは約2.4cmです。乳頭は2対あります。

えさ
トラやライオンは獲物を倒すときに喉部を咬んで窒息死させますが、ジャガーの場合、強烈な前肢のフックが相手のこめかみにヒットすれば頭部を陥没させることができます。獲物はほとんどの動物が対象となりますが、トラ以上に泳ぐのが上手で小島の間を泳いで渡り、水中にいるヘビも餌となります。カピバラも主食ですが、多くは4歳くらいまでの子どもを狙います。カメはほぼ全種が捕殺対象となり硬い甲羅も噛み砕くことができます。大きな獲物の場合はより安全な場所へ移動させる時がありますが、11の捕殺例では平均87mをくわえて引きずっていました。大型動物の場合、はじめは舌、頸部、前駆からを食べ始めて、それから心臓、肝臓、脾臓などの内臓を食べ、骨、皮、蹄、爪などほぼ全身を食べつくします。ジャガーは通常トラやピューマのように獲物を薮などに隠しませんが、食べ残した獲物を藪の中や少し離れたところに穴を掘って埋めて保存する時もあります。驚かされたり獲物が多い場合は食べないで、その場から離れる時がありますが、数時間で戻ってきたり、3日後に戻ってきた例も報告されています。
ジャガーの餌としては85種以上が報告されていますが、1kg以下の哺乳類が主食でした。他に爬虫類、両生類、鳥類、魚類、甲殻類、植物も食べます。おもな種類としては、ペッカリー、カピバラ、パカ、アグーチ、マザマジカ、ヌマジカ、バク、サル類、オセロット、ヤマアラシ、スカンク、キンカジュウ、オッポサム、ネズミ類、カワウソ、ナマケモノ、アルマジロ、アリクイ、イグアナ、メガネカイマン、アナコンダ、ボア、カメ、カエル、ナマズ、サカナ、カニ、他にも草、アボガドなどが挙げられます。ベリーズでは乾季には、雨季よりさらに多くの種類の餌を食べると報告されています。

繁殖
飼育下では繁殖期は決まっていませんが、生息域の北部や南部の一部では繁殖シーズンがあります。パラグアイでは主に11~12月、ブラジルでは12~5月、アルゼンチンでは3~7月、メキシコでは7~9月、ベリーズでは6~8月とそれぞれ違っています。発情周期は22~65日で平均37日、発情は6~17日間続きます。妊娠期間は93~105日で、1産に1~4子、23回の出産例で52%が2頭でした。生まれた時の子どもは柔らかく長い毛におおわれており、体色は淡黄色で濃い斑点模様があります。体長は約40cm、体重は700~900gで平均800gです。体重は生後50日齢まで1日に平均48g増加していきます。門歯は上顎が生後11~23日齢、下顎は生後9~19日齢、犬歯は上顎が生後約30日齢、下顎は生後36~37日齢で萌芽します。ふつう目は閉じて生まれ、3~13日齢で開眼しますが、出産当日開眼した飼育下の例も報告されています。生後数週間は甘え声ですが、生後3~6ヶ月齢になると、ガーガーと言う声を出すようになります。約1歳で繁殖に出す声以外ほとんどの声が発生できるようになります。授乳期間は生後5~6ヶ月齢までで、成獣になる2歳頃まで母親のもとに留まります。性成熟はオスで3~4歳、メスでは2~3歳です。長寿記録としてはフランスのロワイヤンにあるパルミラ動物園で、1966年3月1日から1992年8月15日まで飼育された個体(メス)の飼育期間26年5ヶ月、推定年齢28歳という記録があります。

外敵
死亡原因の多くは人間による捕殺ですが、幼獣はジャガーのオスにも殺されます。このほかピューマや大型のクロコダイル、アナコンダにも殺されます。

亜種
現在は生息地による違いから8亜種に分類するのが一般的ですが、遺伝学的にも形態学的にも亜種間の差がないとする説もあります。

分類   食肉目 ネコ科
分布   合衆国の南西部、中央アメリカ、南アメリカ
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
尾長
オス・メス  116~170cm
オス 37~121kg メス 31~100kg
オス・メス   44~80cm
メスはオスよりおよそ20%小さい。
絶滅危機の程度   現在はメキシコの大部分と中央アメリカの大部分、およびその境界線では絶滅しています。また、ブラジル東部のほとんどの地域、ウルグアイ、アルゼンチンの北部以外では大幅に減少しています。ジャガーの減少理由は、他の大型ネコ科動物と同様に、生息域の損失、分断、家畜を襲うための駆除、美しい毛皮や薬用目的の捕獲などがあげられます。
全体的にみるとジャガーは各地で大幅に減少していますが、生息地が広いことからIUCN(国際自然保護連合)発行の2013年版レッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れは少ないが、近い将来その恐れがあるとして、近危急種(NT)に指定されています。一部は国立公園で保護されていますが、密猟もあり将来が憂慮されています。

主な参考文献
林壽朗   標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968
今泉忠明   野生ネコの百科 データハウス 1993 (p128-133)
今泉吉典   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
成島悦雄   ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育2食肉目 ㈶東京動物園協会 1991.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Nowell, K. & Jackson, P. (ed)   Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan IUCN 1996.
Seymour,K.L.   Mammalian Species . No.340, Panthera onca, The American Society of Mammalogists. 1989.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009.

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