川口先生のペットコラム
旭化成ホームズ株式会社
Profile
ゾウの先生 川口 幸男

1940年東京都伊豆大島に生まれる。上野動物園飼育課を定年退職後、エレファント・トークを主宰。講演や執筆をしている。講演依頼は、メール またはFax 048-781-2309にお願いします。
NHKラジオ番組夏休みこども科学電話相談の先生でもあり、本編では長年の経験を踏まえて幅広く様々な話題を紹介します。
わんにゃんドクター 川口明子

日本獣医畜産大学卒業、同大学外科学研究生として学び、上野動物園で飼育実習後、埼玉県上尾市にかわぐちペットクリニックを開業する。娘夫婦もそろって獣医師で開業しており、一家そろって動物と仲良くつきあっている。
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おもしろ哺乳動物大百科121 偶蹄目(クジラ偶蹄目)ウシ科 2016.3.1

121)アメリカバイソン

  かつて北はカナダのアルバータ州東部、マニトバ州、アメリカのアラスカ州南部からミネソタ州、ミシガン州、ペンシルバニア州、テキサス州、ネブラスカ州、カンサス州、フロリダ州、ニューメキシコ州をへて南はメキシコ北部のチワワ州まで広く分布していましたが、今では一部の地域に保護されているだけです。コロラド州、ワイオミング州、モンタナ州の標高3,200~3,900mの高地や草原からメキシコやアメリカ大陸南部では半砂漠の草地にも生息し、東部のカナダでは森林から川辺や湿地、そして冬には雪のある地域では-30℃の寒さに耐えるなど様々な環境に適応していました。
  群居性で、性別、年齢、季節、生息地で群れ構成は違います。群れは次の3タイプに分けられます、①母系グループ:メスと子ども、大部分の2~3歳とやや年長の数頭のオスで構成。メスがリーダー ②混合繁殖グループ:繁殖期にメスとオスが一緒になるもので、発情時には群れは大きくなります ③オスグループ:成獣のオスだけが集まるグループ。
  イエローストーン国立公園では母系グループの平均的な大きさは10~63頭で混合繁殖グループは19~480頭でした。メスと繁殖オスとの関係は2~3年続きます。
  行動圏は小さな群れは夏季が約30km2、冬季に約100km2でした。カリフォルニア州のサンタカタリナ島ではメスは29.5~70.5km2、ユタ州のヘンリー山地では平均で52km2でした。秋と春に定期的により良い餌場を求めて数百kmも移動しながら生活し、長期間水なしでも耐えることができますが、氷を頭で割って水を飲むこともあります。一日の移動距離は季節や生息地により違いますが1.9~3.2kmで若干の差があり、最高速度は時速60kmで走ります。泳ぐのは上手で、移動中に流れの早い幅約1kmの川を泳いで渡ることができます。泥浴びや木に体をこすりつけて寄生生物を落とします。基本的に昼行性で、昼間は移動、採食、休息、反芻をしていますが、時々夜間にも採食や移動をすることがあります。
  聴覚は鋭く、嗅覚に優れ外敵を臭いで発見したり、メスの発情を察知したりします。視覚はウマのような大型のものであれば約1km先で判り、動くものならば2km先のものを認識できます。声はブウブウ音、鼻を鳴らす音が近くならば聞こえます。発情時のオスの独特のうなり声や吠え声は5km近く届きます。

  バイソンは逞しさと凄みを備えています。かつて6,000~7,000万頭生息していたと推定されていましたが、さぞかし壮観だったでしょうね。
バイソンは逞しさと凄みを備えています。かつて6,000~7,000万頭生息していたと推定されていましたが、さぞかし壮観だったでしょうね。
写真家 大高成元氏 撮影
   

体の特徴

  オスは体長(頭胴長)304~380cm、肩高167~195cm、尾長43~60cm、体重460~998kg。
メスは体長 210~350cm 肩高150~180cm 尾長43~60cm 体重は360~544kg。
半家畜化したオスの体重では1,724kgの記録が報告されています。
  アメリカ大陸における最大の動物で、大きな頭部は肩から一段と低く、肩部の盛り上がりが大きく上半身が発達し、背の稜線は肩から尾に向かい傾斜しています。頸部と胴は太く、四肢は細目で比較的短くて、また、尾は踵に届きません。頭部がグッと下がっているので起立したままで地面に生えている草を採食できます。蹄は小さくて丸く、直径12~13cmで黒く、蹄底は133.5cm2あります。毛の色は赤褐色ないし黒褐色、頭頂と耳介の毛の色は他の部位より暗色です。前半身の毛は長く、ヨーロッパバイソンとは異なり耳介は長い毛の中にかくれて見えないのが特徴の一つです。毛の長さは横腹と背面が2.5cm、臀部が5~9cm、肩と背中のこぶが6.5~16cm、顎15~19cm、あごひげが約30cm、オスの前頭部は15~21cmです。
  冬毛と夏毛の換毛の変化がはっきりとしています。上野動物園での観察例によると、冬毛は11月頃から生えはじめ翌年3月中旬まで冬毛です。3月中旬に夏毛に変わり始めますが、5~6月ではまだ完全に冬毛が抜けきれずボロ毛布をまとったような姿になります。
  舌、唇、鼻は黒く濡れています。額は中凸、眼窩は筒状に突出し、左右の眼は広く離れています。オスの角は太く短く、メスは細く内側に向いています。
  歯は草食動物特有の臼歯は長冠歯(草食動物の臼歯は摩耗が激しいため歯冠の形成が長く続き、その間は歯根が発生しない特徴があります)と半月歯(咬合面のエナメル質の輪郭が半月に似ているのでこの名がつけられました)、で長時間の咀嚼に耐えることができます。最初の永久歯のM1は1歳で萌芽し、5歳ですべての永久歯が生え揃います。歯式は門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。匂いをつけるための眼下腺と蹄腺はありません。
  乳頭は鼠径部に4個(2対)あります。体温は平均で38.7℃です。

えさ
  アメリカバイソンはヨーロッパバイソンより草食性が強く95%を草類が占めています。年間を通してイネ科の草とスゲ類(イネ目 、カヤツリグサ科 スゲ属で、大部分が多年生の草本で草原、森林、海岸その他、さまざまな環境に生息する種がある。湿ったところに生育するものが多く、湿地や渓流沿いに集中する傾向がある)を採食しています。半砂漠地方の草が少ない地域では小枝やイネ科以外の雑草を採食します。冬季積雪のある場合は頭で雪をかき分けて草を探し採食しています。

繁殖
  発情期は7~9月で北米北西部のモンタナ州の場合、7月下旬から8月上旬に約90%が交尾期になります。オスの中にはメスの群れと1年を通じて一緒にいるものもいますが、その他のオス特に成熟オスは単独でいるか、発情期がくるまで2~6頭の交尾相手のいないオスの群れの中にいます。種オスとしての最盛期は6~9歳で、発情期間中オスは頭と頭を突き合わせて優劣を決めます。勝者は数日メスと一緒に過ごし、他のオスは8m以内に近づく事ができません。発情周期は約21日で9~28時間持続します。妊娠期間は平均285日、ヨーロッパバイソンは260~270日です。北方地方では南方地方より約2週間発情期が遅くなります。メスは出産のときに一時群れから離れて出産場所に行き、分娩後子どもが十分歩けるようになると群れに戻ります。出産は4月中旬から5月で、ふつうは一産一子ですが、まれに双子のこともあります。生まれたばかりの子どもの体重は15~30kg、生後3時間で走ることができます。
  上野動物園の繁殖例によれば、出産後まもなく起立して乳を飲み、生後4日齢で放飼場に出すとすぐに歩きました。新生児は成獣が近づくと放飼場の中央の樹木保護柵の中に入り成獣と直接接するのを回避しました。
  出産した子どもの10例によれば、分娩後10.9分と32.2分で起立し乳を飲み、生後5日齢で草を採食しようとしました。1週齢で水を飲み、1ヶ月齢で草を反芻して消化しました。新生児は生後2~3週齢の間、2~15頭で群れを形成しています。メスたちは子どもたちを外敵から守っていますが、オスは関与しません。また、生後7~8週齢で孤児になった子どもも生きのびることができたとの報告があります。授乳は7~8ヶ月齢から遅くても1歳まで続きます。3歳で親とほぼ同じ大きさになります。
  新生児の毛色は生後2ヶ月齢までは赤褐色ですが、その後頭部から肩、背中と黒くなりはじめ約生後4ヶ月齢で大人と同じ毛色になります。体重は生後8~9ヶ月齢で135~180kg、20~22ヶ月齢で225~315kgになります。
  オスグループはメスを守るので遠く離れることはありません。メスが群れから離れて出産場所に行くと、オスは周辺部を外敵のコヨーテなどに襲われないように歩き回ります。メスは2歳で交尾し3歳で初産、その後は12~15歳の間に3年に2頭の割合で出産します。オスは2~4歳で性成熟に達しますが、実際に交尾できるのは6歳ぐらいになってからです。

長寿記録
  野生での寿命は20歳以下と考えられています。飼育下の長寿記録としては、アメリカニューヨーク州のキャツキル・ゲームファームで1946年に生まれ、1980年6月27日までペンシルバニア州のポコノ野生動物ファームで飼育された個体(オス)の飼育期間33年6ヶ月以上があります。そのほかにイリノイ州立ぺオリア野生生物プレーリー公園で1974年10月16日に飼育を始め、2004年4月現在も飼育中の個体(メス)の飼育期間29年6ヶ月があります。

外敵
  外敵として挙げられるハイイロオオカミ(シンリンオオカミ)は、主にメスや子どもを襲います。カナダのウッド・バッファロー国立公園での1962年調査では、ハイイロオオカミの冬の獲物は65%がバイソンでした。その他に若い個体や病気やけがをした個体がコヨーテ、ボブキャット、ピューマ、アメリカヒグマなどに捕食されます。

主な減少原因
  かつてアメリカバイソンは北米大陸の草原に6,000~7,000万頭が生息したと推測されています。アメリカ先住民は槍や弓矢を使ってバイソンを狩り、肉や血は食料に、皮はテントや衣料、骨と角は弓と矢じりに加工して余すことなく使っていましたが、長い間バイソンの生息数は極端に減少することはありませんでした。ところが銃器を持った白人の入植者が入り、先住民もまた火器を使い始めるとたちまち減少し、乱獲により19世紀末までに絶滅寸前にまで追い込まれ、20世紀初頭にはアメリカの西部とカナダの森林に数百頭が生き残るだけになりました。しかし、アメリカ合衆国第26代大統領セオドア・ルーズベルトの尽力で、1894 年にアメリカバイソンを保護する法律が制定されました。現在は、アメリカでは元大統領の偉業を称えてその名を冠した国立公園や保護区、カナダやメキシコの保護区、国立公園に3ヶ国で合計約3万頭の純粋なアメリカバイソンが生息しています。

アメリカバイソンの衰亡の歴史
① 1730~1830年 ミシシッピー川東部のバイソンが絶滅。
② 1830~1874年 アメリカの開拓の時代で大陸横断鉄道が通じ、近代銃器の開発とアメリカ先住民の主食であったバイソンを捕ることで、西部開拓の労働者の食料を確保し、肉以外の皮や骨は鉄道で東部へ運ばれ、さらに草原は家畜のウシを飼う牧場へと替わりました。
③ 1876~1883年 ハンターは北部に進出し、ついに1894年にはイエローストーン国立公園の奥地で20頭、カナダでも約250頭が見つかるのみとなりました。

絶滅危機の程度
  2015年発行のIUCN(国際自然保護連合)レッドリストでは、すぐに絶滅する危険性は小さいが、将来的に絶滅する危険性があると判断され、準絶滅危惧種(NT)に指定されています。また、亜種モリバイソン(下記亜種の項参照)はワシントン条約付属書Ⅱ表にリストアップされ、輸入にさいしては輸出国の輸出許可書が必要です。

亜種
アメリカバイソンは以下の2亜種に分類されています。
① ヘイゲンバイソン Bison bison bison
耳介は褐色・オスは頭部、顎の下部、四肢、尾は暗褐色で先端のみ褐色で、残りの部位は淡褐色です。頭部は大きくモリバイソンより低く下げています。
② モリバイソン Bison bison athabascae
ヘイゲンバイソンより体が大きく、角は細長くヨーロッパバイソンに似ています。体毛は密で絹状、明るい褐色ないし暗褐色で、頭の上部と四肢はほぼ黒食、耳介と尾の先端も黒褐色です。

雑種
  アメリカバイソンとヨーロッパバイソンはともに家畜化されませんでした。ただし、正田陽一博士によれば、19世紀終わりにアメリカバイソンのオスとヘレフォード種やアバディーン・アンガス種のメスと交配させてキャタロ種という雑種を作ったそうですが、遺伝的に固定することができませんでした。

ヨーロッパバイソン
  アメリカバイソンの近縁種です。かつてはヨーロッパの西部、南部から東はコーカサス、シベリアのレナ川まで分布していました。1800年当時、生き残っていた地域は、ポーランドとロシア国境にあるビャロビエジャの森とロシアのコーカサス地方のみでした。そして、1917年 帝政ロシアが革命により崩壊すると権力のシンボルであった亜種コーカサスバイソンも1921年2月19日野生の1頭が射殺され、動物商が飼育していたオスも1925年2月26に死亡し絶滅しました。一方もう一つの亜種リトアニアバイソンも1921年に野生のものは絶滅しましたが、ヨーロッパの動物園などに飼育されていたものを一ヵ所に集めて繁殖させ、現在はポーランドのビャロビエジャ国立公園などに野生復帰させた個体と飼育下にあるものを含めて約5,500頭が残っています。

分類   偶蹄目(クジラ偶蹄目) ウシ科 バイソン属
分布   アメリカのアラスカ、カナダからメキシコ北部までの一部
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

オス 304~380cm  メス 210~350cm
オス 460~998kg  メス 360~544kg
オス 167~195cm  メス 150~180cm
オス、メス 43~60cm


主な参考文献
浅倉繁春(監修)   朝日=ラルース「週刊 世界動物大百科」50号、偶蹄目ウシ科ウシ亜科 朝日新聞社 1972.
D.F.ロット   バイソンの繁殖 In 動物大百科 4 大型草食獣 D.A.マクドナルド(編) 今泉吉典(監修) 平凡社 1986.
中村好伸   アメリカバイソンの飼育 In 世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅱ ㈶東京動物園協会 1977.
石川智洋   アメリカバイソンの繁殖 猛太郎の思い出  In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅱ ㈶東京動物園協会 1977.
今泉忠明   絶滅野生動物の事典 東京堂出版 1995.
今泉吉典   ウシ科について In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅱ ㈶東京動物園協会 1977.
今泉吉典(監修)   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
Meagher, M.   Mammalian Species. No.266, Bison bison.The American Society of Mammalogists. 1986.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker,S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
プロジェクトチーム(編) WWF Japan (監修)   失われた動物たちー20世紀絶滅動物の記録 広葉書林 1996.
正田陽一   バイソンと家畜牛  In 偶蹄目総論 世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅱ ㈶東京動物園協会 1977.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.

 
おもしろ哺乳動物大百科120 偶蹄目(クジラ偶蹄目)ウシ科 2016.2.1

ウシ科

  ウシ科には大型のバイソンやガウル、中型のヌーやオリックスなどのアンテロープの仲間、そしてヤギの仲間のシロイワヤギ、ジャコウウシ、バーバリーシープなどが含まれ、さらにニホンカモシカもシカと命名されていますが、ウシ科に分類されます。このように多種類が含まれるため、生息域も広くアフリカに生息するアンテロープの仲間は熱帯に、ジャコウウシは北米のツンドラで極寒の地域に生息し、寒さに順応して65cmにもなる長い体毛で寒さを凌ぎます。
  ウシ科の共通した特徴の一つに角がありますが、シカ科のように毎年抜け替わることはありません。洞角と呼ばれ角質の鞘と骨の芯から成り、鞘の内側から毎年新しい鞘ができ押し上げて少ずつ長くなります。そして、多くの種類で雌雄共にあります。第2指と第5指は不完全でふつう側蹄だけですが、ない種もいます。門歯は上顎にはなく、前臼歯と臼歯は多くの種で歯冠部が高くなっています。上顎の犬歯はありません。多くの種に胆嚢があります。角の形状はらせん状を呈するクーズーやマーコルがいますが、他にも左右にカーブしている種がいます。
  現在、野生のウシ科はマダガスカルを除くアフリカ及び、ヨーロッパ、アジア、北アメリカ、東南アジアの島々に分布しています。
  なお、今泉吉典博士はウシ科の仲間を7亜科(ウシ亜科、ニルガイ亜科、ブッシュバック亜科、ダイカー亜科、ブルーバック亜科、ブラックバック亜科、ヤギ亜科)に分類しています。

120)ボンゴ

  現在は大別すると、アフリカの2ヶ所に生息しています。一つはアフリカ西部(ギニア、シエラレオネ、リベリア、コートジボアール、ガーナ、トーゴー、ベニン)及びアフリカ中央部(カメルーン、ガボン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国、南スーダン南西部)の低地熱帯雨林、もう一つはケニア中央部の標高2,100~4,300mの密生したジャングルや竹林です。1年を通じて森林で生活し、基本的に長距離を移動することはありませんが、ケニアの山地に生息する個体群は2月から3月の乾季に高地の竹や樹木の多い場所に、雨期になると低い場所に移ります。中央アフリカ共和国のザンガ=ンドキ国立公園の場合、ボンゴの移動ルート沿いの生息環境は混合林が83%、Gilbertiodendron属(マメ科ジャケツイバラ亜科、アフリカに分布する高さが20~40mの常緑樹)の森林が10%、森林内の樹木のない場所が1.6%、そして、塩なめ場はわずか0.02%以下で夜間定期的にナトリウム補給のため訪れます。胃の中にはセルロースを分解してくれる共生微生物が無数にいて、自ら発する酸で死滅するのを防ぐため、唾液のアルカリ性によって中和しています。そのアルカリ源としてナトリウム(塩分)が必要となるからです。
  交尾期以外は成獣のオスは単独生活ですが、メスと子どもは平均9.1頭の群れで暮らしています。出産後の1~2ヶ月間はこれらの小集団がいくつか集まって50頭位になります。大きな群れは雌雄、年齢に関係のない集団で、出産後のメスや子どもたちを守るために集まる、と考えられます。夜行性といわれていますが、活動のピークは夕方と明け方です。ザンガ=ンドキ国立公園の場合、10時30分から16時の間は森林で休息しながら反芻していました。また同公園における2つの群れの行動圏は19km2と49km2でした。近縁のエランドは草原にすみ視力が発達していますが、耳は小さく、一方、ボンゴは大きな耳で音を拾い、聴力と嗅覚が発達しています。木々の密生する森林では視界が悪く、生活環境によって発達している部位が異なりそれぞれ外敵の接近を察知している、と考えられます。

  体中にある模様はジャングルの中で迷彩服のようになります。大きな耳で常に周囲の状況を伺っています。
体中にある模様はジャングルの中で迷彩服のようになります。大きな耳で常に周囲の状況を伺っています。
写真家 大高成元氏 撮影
   

体の特徴

  体長170~250cm、肩高110~130cm、尾長45~65cm、体重オス220~405kg、メス210~270kg。
体毛は全体的に短く、体色は輝くような赤栗色で腹部は黒色、横腹に9~15本の白い横縞があり、その姿は美しく、オカピと並び称されています。この白色の横縞は、1972年に上野動物園で飼育していた個体では右側が12本、左側が14本と左右が不対象でしたので個体によって違いがあると考えられます。また、地色の赤褐色は色が落ち、体表を撫でるとチョコレート色に手が染まり、雨にぬれるとコーヒー色のしずくが滴たったと報告されています。余談ですが、この個体は約1.5mの柵を助走なしで飛び越えて通路に飛びだし、飼育係を驚かせたことがあります。前頭部は褐色か黒色、目の間に三日月形の白斑、頬にも白斑が2~3個あり鼻づらは黒色です。前胸には細い白帯があり、4肢の外側は黒色に近く、内側は白くまだら模様です。これらの鮮やかな模様は森林の中では保護色になり気配を消すと見つかりにくいのです。オスは加齢とともに体色が濃くなります。尾は長く先端に毛の房があります。背筋には短いたてがみ状の毛の房があります。
  角はオス、メス両方にあり、一回転、あるいは一回転半ねじれながら外側に開き伸びて、前面のカーブに沿って最長100.2cmの記録がありますが、ふつう60~100cm、平均83.5cmです。角の長さはオスとメスであまり差がありませんが、オスの角の方がメスよりがっしりしています。長い角は森林の中ですばやく走るときに邪魔になると思いますが、頭部を上にあげ角を後ろに伏せることでこの問題を解決しています。
  乳頭は2対4個です。歯式は、門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。匂いをつけるための眼下腺、鼠蹊腺、蹄腺はありません。

えさ
  ボンゴはおもに木の葉を食べていますが、そのほかに小枝、樹皮、木の根、竹の葉、果実、ハーブ、花、シダ、スゲ、二次林の植物、キャサバ(イモノキ)、タロイモの根、サツマイモの葉、イネ科植物の先端など農園の植物まで採食していて非常に変化にとんでいます。南西スーダンに生息するボンゴの場合、森林の双子植物のうち116種を採食した報告があります。中央アフリカのザンガ=ンドキ国立公園 では乾燥帯の森林はアオギリ科やニレ科の木々が茂り、林冠は開けています。その低木層はしばしばクズウコン科やショウガ科などの植物が見られ採食されています。138種類の植物の中で97種類の若葉を採食しましたが、このうち好んで食べるのは26種類でした。その内訳はツル植物が45.7%、灌木が42%、樹木が6.2%でした。この他にミネラルが多く含まれる土を食べるために、特定の場所を訪れます。水も必要で泥水でも飲みます。
  ふつうに立ったまま採食する他に、前足を木の幹にかけ立ち上がって高さ2.5mの木の葉をとって食べます。また角を上手に使って枝をひねり採ったり、根を掘り起こしたりして採食します。

繁殖
  野生ボンゴの繁殖に関する情報は少ないのですが、ケニアの山地における繁殖期は6月~9月、及び10月~1月との報告があり、飼育下では12月、4月、8月に出産例があります。中央、西アフリカではもう少し範囲が広いかもしれません。繁殖期には他のウシ科動物と同様に雌雄共に攻撃的になり、成獣オスの間でメスを巡る闘争で負傷して致命傷を負うこともあります。メスの発情周期は21~22日で3日間続き、交尾の間中オスは鳴き声をあげています。出産間隔は466日、525日、3例の妊娠期間は282~287日でした。一産一子で稀に双子が生まれます。出産時の子どもの体重は平均19.5kgでした。体の模様は成獣と同じですが黄褐色が明るく鮮明です。飼育下の2頭は生後27ヶ月齢と31ヶ月齢で妊娠しました。授乳は半年続き、その後、雌雄ともに2~2.5歳で性成熟します。
  名古屋東山動物園では6頭のボンゴが繁殖し繁殖賞を受賞しています。(繁殖賞とは、日本動物園水族館協会が規定している表彰の一つ。協会に加盟する園館で、飼育動物の繁殖に成功し、かつ、それが日本で最初であったものに与えられる)
  1968年、1973年にオスのボンゴとメスのシタツンガの間で繁殖能力のある異種間のハイブリッドが生まれています。シンシナティ動物園では1984年に体外受精でボンゴの受精卵をエランドに移植して出産に成功しています。
  長寿記録としては名古屋市東山動物園で1989年2月25日に生まれ、2011年12月25日に老衰のため死亡した個体(メス)の22歳10ヶ月があります。

外敵
  外敵として成獣はヒョウとブチハイエナ、幼獣はゴールデンキャット、大型のニシキヘビに狙われます。

生息数の減少と絶滅危機の程度
  人口増加と家畜のための牧草地の開墾による生息地の消失、スポーツハンティングによる被害、イヌによる被害、ウシの放牧による牛疫の伝染により生息数は減少していますが、低地に生息するボンゴの約60%は保護区で生息し、生息数は約28,000頭と推測されます。そのためにIUCN(国際自然保護連合)発行の2015年版のレッドリストでは、種としては現在のところはすぐに絶滅する恐れは少ないとして近危急種(NT)になっています。しかしケニアの高地に生息する個体群は、現在生息数が75~140頭に減少しているので、絶滅の恐れが極めて高い絶滅寸前亜種(CR)に指定されています。

亜種:今泉吉典先生は次の3亜種に分類していますが、学者によっては2亜種にする場合もあります。
① リベリアボンゴ: シエラレオネ、リベリアからカメルーン、ガボンにかけて分布。
② コンゴボンゴ: コンゴを中心に分布。
③ ケニアボンゴ: ケニアの高地に分布。

分類   偶蹄目(クジラ偶蹄目) ウシ科 ブッシュバック属
分布   アフリカ西部からアフリカ中央部、アフリカ東部(ケニアの高地)
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

オス 170~250cm
オス 220~405kg  メス 210~270kg
110~130cm
45~65cm


主な参考文献
D.A.マクドナルド編 今泉吉典 (監修) G.E.ベロフスキー著   動物大百科4 大型草食獣 ウシ亜科23種 平凡社 1986.
今泉吉典   ウシ科について In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅱ ㈶東京動物園協会 1979.
今泉吉典   ウシ科の分類 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ ㈶東京動物園協会 1988.
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
林 壽朗   標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
中川志郎   ボンゴー密林の珍獣―  どうぶつと動物園 Vol.24 No.9 ㈶東京動物園協会 1972.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore.  1999.
Ralls,K.   Mammalian Species. No.111, Tragelaphus eurycerus The American Society of Mammalogists. 1978.
Parker,S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.

 
干支「申:サル」にまつわる話(番外編) 2016.1.1

  新年明けましておめでとうございます。
旧年中はお世話になりましたが、本年もよろしくお願い致します。

  今年は申(サル)年ですが、サルと一口に言ってもその種類はおよそ200種類、さらに細かく分類する学者もいます。このうちの1種がニホンザル、別名スノーモンキーとも呼ばれ、青森県の下北半島の群れは最北端に生息するサルとして世界的に有名です。冬がくれば極寒の下北半島や白山(日本百名山の一つ。北陸地方の岐阜と石川にまたがり標高2,702mの山)では雪帽子をかぶったサルがくっつき合って暖をとり、また、長野県の地獄谷野猿公苑では露天風呂の温泉に気持ちよさそうに入っています。サルの種類が多いアフリカや南米では見られない独特の光景です。
  ニホンザルは2亜種に分類され、一つは北海道を除く本州に広く分布するホンドザル、もう一つは屋久島に生息するヤクザルでホンドザルに比べ少し小型で、体毛は太く長めで密度が低く、生息地に順応した体になっています。屋久島は亜熱帯に位置して平地で年間平均気温約20度と温暖で、山岳部で冬季は積雪のあるときは低地に移動します。青森県から屋久島までおよそ2,000kmの距離があり、青森県に生息するサルは体毛の密度が高く、皮下脂肪も厚く防寒に備えた体ですが、屋久島は暑さに耐えるため反対の傾向が見られます。ニホンザルの主食は木の実、果物、雑草と呼ばれるハコベ、 ナズナ、タネツケバナ、センダングサ、ヨモギなどの新芽を採食し、生息地や四季によって採食する種類が違います。サル山の横にある大島桜が春満開になったあと花びらがヒラヒラと山の中に舞い落ちると、下に待ち受けていて花びらを採食します。野生ではニセアカシアの花や、野イチゴ、柿やクリ、ヤマモモなど春から夏にかけ豊富な花や果物の恵みを満喫しますが、冬はこのような美味しい食物はなくヤマザクラの冬芽、コナラの樹皮、金華山では秋から冬にかけケヤキとイヌシデの実が約70%を占めます。この他、昆虫類も好物で、私はサル山にセミが飛び込んでサルの近くに着地した瞬間に捉えて口に放り込むのを偶然見たことがあります。昆虫は貴重なタンパク源で、イモムシ、アオバハゴロモの幼虫、イナゴ、クモ、さらに海辺に生息する群れはカニやサカナ、ホンダワラやアマモなどの海藻、あるいはキノコやコケまで採食し総種類数600種類以上にのぼり、1つの群れでもおよそ100種類を採食しています。

  さて、私は上野動物園在職中(1959~2000年)およそ40年間サル山のニホンザルの担当で、初代から数えると1999年に生まれた中には6代目の子ザルがいました。狭いながらも何世代もの親と兄弟姉妹の他にも親族が同じ空間で自由に生活する、動物園では稀有な存在でした。愛称が付けられサルたちの個体識別ができて観察するようになると一層愛着が湧き、日誌に個体情報を記載することで担当者全員が健康状態を把握して管理ができるようになりました。加えて、親子関係や家族同士の関係、ボスザルの行動など社会行動も判ってきました。
  それでは今ではすっかり代替わりしたサル山のサルたちを偲んで、古き良き時代にタイムスリップしてエピソードをいくつか紹介しましょう。

  長野県地獄谷温泉ですっかりいい気持ちで、ついウトウトする親子。初夢を見ているのかな?
長野県地獄谷温泉ですっかりいい気持ちで、ついウトウトする親子。初夢を見ているのかな?
写真家 大高成元氏 撮影
   

動物たちの愛称
  学術論文ならば50頭サルがいても、No1からNo50までの記号で表せば良いのですが、動物園の場合、愛称があった方が一般の方々も親しみ易いのです。同じサルでも類人猿のゴリラやオランウータン、チンパンジーなどは来園するとすぐに名前を公募していました。ゴリラのブルブル、チンパンジーのビル、オランウータンのモリーなど名前を聞くだけでその姿が目に浮かびますが、小型のサルは命名していないサルも多かったのです。
  サル山のサルに名前をつけるようになったのは1952年頃のことです。当時上野の獣医師・浅倉繁春先生(のちに5代目上野動物園長)はサルの繁殖行動、大島増次先生はサルの言葉(音声学)研究を行うに際して、調査しやすいようにサル山に飼育されていたメス5頭、オス7頭、合計12頭のうち子どもを除いた8頭のニホンザルに個体の外見上の特徴を巧みに捉えて命名をしました。

最初に命名されたメンバー
  メスは以下の5頭でファウンダー(創始個体)となりました。
1.オオババア : 最年長のサル。初代のメスガシラ。屋久島。
2.ハンガク  : ヤクザルで両小鬢(頭の左右前側面の髪)の毛が抜けている。
                    3代目メスガシラ 屋久島。
3.モモコ   : 毛艶が良く一番の美女。2代目メスガシラ。幸島。
4.ベソ    : ホンドザルだが順位が低く、ベソをかいたような顔。幸島。
5.アカ    : 顔がいつも赤く目立つ。幸島。

  オスは以下の7頭です。
1.団十郎  : 歌舞伎俳優の市川団十郎さんのように見た目も良かった。初代のボス。
2.ノッポ   : 当時推定9歳でしたが腰が悪く年下のタロウが先にボスになった。
3.タロウ   : 団十郎が1957年に死亡すると2代目のボスになりましたが、わずか1ヶ月半で
                  死亡しました。
4.~7.   : この4頭はまだ名前のないオスの子どもで、タロウより低い順位でした。

  このように、名前を見ただけでもサルの特徴がなんとなく判ります。

  ちなみに群れの動物を個体識別して調査する方法は、京都大学の今西錦司教授のグループが宮崎県幸島の野生のサルに餌付けをして1頭ずつ個体識別をしたのが我が国では初めてでした。

メスガシラの変遷
  オオババアは初代メスガシラで1957年に亡くなりましたが、シコメとチビコの2頭の娘を産んでいました。長女はシコメ(醜女)というあまり芳しくない名前が付けられました。春から夏にかけて毛が抜け、9月から10月にかけて冬毛に換毛します。冬毛の場合はきれいな毛でおおわれますが、夏毛は地肌が見えるほど毛が抜けてヤクザルは余計みすぼらしいのです。シコメにはシロー、シラハマ、シサシの3頭の息子たちがいました。このうちシローは小柄で両鬢の毛が抜けたモヒカンルックのへア-スタイルで屋久島系の特徴が良く現われていました。性格は温和で子どもたちに人気があり、遊び相手になっていたのでメスたちの印象が良いらしくメスにグルーミングされていました。
  私が担当になった1960年、オオババアが死亡して、代わってメスガシラになったのは美女の誉れ高い宮崎系ホンドサルのモモコでした。それまで権勢を誇っていた屋久島系のハンガクやシコメやチビコはいわば不遇の時代を迎えたのです。メスガシラの地位はサル山のような狭い閉鎖空間では観客が放り込む食べ物を先取りすることができるので垂涎の的です。病気で長期間留守にしたり、死亡したりするたびにその座を巡り激しい闘争が繰り広げられたのです。のちにメスガシラのモモコが負傷し入院中にハンガク一族がメスガシラの座につき、退院してきたモモコは反撃を試みましたがハンガクと娘のハサン親子に完膚なきまで攻撃され2度とメスガシラに復帰できませんでした。メスガシラのモモコがその座を追われると、長女のモヒチは子どもたちの頭髪を1本ずつ抜いて頭の三分の一くらいパッチ状のはげにしてしまいました。私たちはモヒチがハンガク一族のいじめに対するストレスから子どもの毛を無意識に抜いているのだろうと、と推測していました。

個体識別の効果
  このように個体識別ができると健康管理が行き届くことが最も重要な効果ですが、さらに、名前がついたことで日々の変化を擬人化して発表すると、報道関係者の方々が次々と取材するようになり動物園の宣伝になりました。キリンやカバは動きが少ないので一目見れば終わりですが、サル山では母親が子どもを抱いてあやしたり、お辞儀をして食べ物をねだったり、遊びや喧嘩も絶えず繰り広げられています。まるで人間社会の縮図のようなドラマチックなシーンを見て、動物園の中で一番観客の滞留時間が長い動物になっていました。記者クラブのデスクは暗いニュースばかりの時や記事のないときは上野動物園に行って探してくるように記者に指令したそうです。もっとも人気のあった話題の一つはボスの交代で、1960~1980年代の歴代総理大臣が変わるたびにサル山のボスと比較したものです。時の総理大臣をサルと一緒に例えるのは失礼な話でしたが、読者も相手が動物なので明るい例え話として受け止めていたのでしょう。

ボスの交代劇
  ボス交代劇のもっとも印象が深い事件は1971年2月6日に起きました。その昔、日本史で有名な二・二六事件(1936年(昭和11年)2月26日から2月29日にかけて、青年将校らが下士官兵を率いて起こしたクーデター未遂事件)にひっかけて、サル山の二・二六事件 として発表しました。
  事件のきっかけは、そもそも十四年間ボスに君臨していたオスのノッポが死亡し、その後任にメスガシラのハンガクの娘ハサンが就任していました。しかし、メスのボスは発情期がくるとオスに交代することが多いのです。非発情期にはおとなしかったオスたちも、発情期にはいると発情ホルモンが分泌され気分が高揚して、今まで弱気だった個体までが急に強気になります。2月に入り、本格的な発情期の突入と共に、若者や成獣のオスたちが虎視淡々とボスの座を狙い、なんとなく殺気立っているようです。
  私たちはオスの候補を以下の7頭と推測して注意深く観察していました。
(1)シラハマ (2)シロ- (3)シサシ (4)アイク (5)モモタロウ (6)ベコン (7)マサ
  7頭の中にはハンガクの子どもたち、シローの兄弟が候補として挙げられていました。この3頭中、年齢では長兄のシローが有力ですが小柄で体力的に無理がある、と見られ候補から洩れました。つぎに次兄のシラハマは大柄で顔も貫祿があって一番ボスに近い存在と予測され本命視していました。3男のシサシは可も不可もなく兄の2頭を飛び越えてボスになることはないだろう、と推測していたのです。その他にアイク、モモタロウ、若者のマサとベコンの二頭がリストアップされていましたが、モモタロウは体重が20kg以上の肥満体で動きが鈍く、アイクは母親の順位が低くバックアップしてくれる親族がいません。ベコンとマサはメスガシラのハサンのお気に入りなので、ダークホース的な存在でした。
  さて、1971年2月6日の朝、いつものようにサル山を観察しはじめるとなんとなく全体に騒然とした雰囲気です。サルたちは落ち着かずせわしげに歩き、弱いオスは岩陰に潜み戦々恐々としていました。山の裏側から橋の下にかけて血痕があり闘争のあとが歴然として事件が起きたことを物語っています。すると、シサシが尾を背に付くほどピンと上げて悠然と闊歩しています。そして、順番に個体をチェックしていくとマサとベコンの姿が見えません。隠れていそうな場所を順に探していくと、2頭ともかなりのダメ-ジを受けたらしくてうずくまっているのが発見されました。昨日までメスガシラ・ハサンのお気に入りとして庇護を受けて着々と順位を上げていた2頭でしたが、成獣たちは密かにチャンスを狙っていたのかもしれません。たった一夜にしてこんなに群れ全体の雰囲気が変わることはかってないことでした。マサとベコンは重傷のようなのでこのままで放置しておいては2頭の命が危ないと思い、飼育係の応援を頼みサル山に入りました。サル山の群れは一切馴致していないため普段は飼育係が山に入ってもサルは飼育係に近寄りませんが、なんと満身創痍のベコンが近くに寄って飼育係に助けを求めたのです。ただちに入院させ治療をしたのでした。
  シサシのボス誕生劇は昨夜から今朝にかけてのことでしょうが、兄弟以外の競争相手だった若者のベコンとマサ(共に6歳)が重症を負ったことで一件落着したのです。初代ダンジュウロウと二代目タロウがボスになった事情は知りませんが、恐らく実力でボスの座を勝ちとったのはシサシが初めてであったろう、と考えます。シサシはボスになったもののハサンとどのように接するか戸惑っていましたが、シサシは熾烈な戦いの中から飛び出しただけに自信にあふれ、日を重ねるに連れて態度に貫祿が出て名実と共に6代目のボスと認められたのです。2頭の兄たちを差し置いてシサシがボスの座に就いたのですが、長兄のシロ-は母親似の小柄で子供たちに人気があり、中央にある小屋が彼の定位置で0才児から2歳の遊び相手をしていました。年を経るに従ってその傾向は強くなり好々爺という感じがしたものです。次兄のシラハマは頬が丸みを帯び、そばかすが点在し、両鬢がちょっと薄く人相(猿相)が時代劇に登場する悪役のような印象を受け、今回のボス候補では本命でしたが弟のシサシに先を越されたのです。改めてシサシを見ると三兄弟の中で一番体格が立派であるばかりでなく、顔も男前?で凛々しく非のうちどころのないサルでした。

ボスザルの呼称について
  今では野生のニホンザルにリーダーやボスと呼ばれるサルはいない、と言うことは定説となっています。野生のニホンザルの生態は、今西錦司先生や伊谷純一郎先生、ほか京都大学の先生方が幸島で餌付けをして、砂浜に出てきたサルの調査を行い社会構造を明らかにしていました。砂浜は広い平面なので順位に従って中心部から周辺部に広がっている様子はとても判りやすかったのですが、これに異を唱える先生が登場しました。その一人、宮城教育大学名誉教授、伊沢 紘生(いざわ こうせい)先生が1984年に上野動物園で講演した時に拝聴したのですが概略は次のとおりです。
  「野生のニホンザルは、群れで生活しているが群れを統率するリーダーやボスは存在しない。その例として、山で椎の実や柿が実るときにボスが許可するまで採食しないで待っているサルはいない。繁殖期は決まっているので複数の個体が一斉に発情するため、強いサルが複数の個体を独占することはできない。繁殖期にはメスを巡って激しい闘争もあるが、弱い個体は逃げようと思えば障壁がないので大方は逃げることができる。外敵に対しての対応を考えた場合、日本にはヒョウやハイエナなどのような大型の肉食獣が生息せず、最大でもニホンツキノワグマがいるが、サルのように簡単に木に登ることができないので人間以外に外敵はいない。群れが移動するときにはリーダーまたはボスが先頭に立って誘導することはなく、誰かが移動を始めるとそれについていくことが多い」というものでした。説得力がありなるほどそうか、と納得しました。
  そこで、早速卒業論文で動物園に実習に来ていた学生さんにリーダーが存在するという前提で「リーダーの役割と権利」と言うテーマで論文を作成することにしました。

  ・その役割とは
(1)群れの誘導
(2)外敵に立ち向かう

  ・権利とは
(1)餌の先取特権
(2)好条件の場所の確保
(3)発情期のメスの独占

  役割の一つ、群れの誘導は野生の場合ねぐらから餌場に移動しますが、飼育下では群れの誘導はありません。次に、外敵として強いて挙げれば飼育係がサルを捕獲するときに捕獲網を持ってサル山に入るのですが、この時、彼らは飼育係を外敵と捉えているかもしれません。こんな時に一番先頭に立って向かってくるのはボスとは限りません。他のメンバーと一緒になって向かってきます。
  権利として、サル山には観客が食べ物を投げ入れる頻度の高い場所があり、その下で待っています。また複数のサルがいる間に食べ物が投げ込まれると、特にメスガシラはにらみを利かし食べ物をとります。物乞いに有利な場所を好きな時に占めることができるので先取特権があるといえます。発情期については、一度に複数の個体が発情するときは、さすがにすべてのメスの相手はできず時々追い払って嫌がらせをしていました。
  このころ私自身はまだボスという表現を使っていました。その理由は、サル山のような閉鎖空間で飼育すれば順位がついてボス化する個体がいるからです。人間でもボスと言う表現は良く使っており、それは半ば暴力的な表現ですが、サル山のニホンザルの中で一番強いサルが胸を張り闊歩するサルにぴったりの形容と思っていたからです。しかし、動物園も野生動物の本来の社会構造を伝えるようになってきました。その一環としてニホンザルについても餌付けをしていないサル社会を紹介することになり、1995年5月29日より、ボスから第一位のオスまたはケンカの一番強いサルと呼ぶことに改めたのです。

  現在は私たちがサルの仲間と共通の祖先から生まれたことは周知の事実です。近年の霊長目の分類では、ヒト、ゴリラ、オランウータン、チンパンジーは同じヒト科に含まれています。事実、チンパンジーと人のDNAは98.5%同じです。ヒト科の中で人間の人口は2015年現在、72億9000万人で断トツに多いのですが、他の種はすべて絶滅危惧種です。科学の発達は目覚ましく月や火星にまで人工衛星を打ち上げ、ロボット産業が進む一方で、近代兵器も次々と開発を続け世界のどこかで戦争が途切れることなく勃発しています。
  私たちはサルの仲間のなかで確かに知能は優れていますが、いまのところ戦争を止めさせることができません。平和な世界を作るためにどうすれば良いか、サル知恵を絞って一歩一歩実行していきたいものです。

現在連載中の「おもしろ動物大百科」N0.41でニホンザルのお話を掲載していますので、そちらも合わせてごらんください。


ニホンザルのことをもっと詳しく知りたい人は次の本も参考にしてください。
伊谷純一郎、徳田喜三郎、古谷義男、加納一男、秦雄一   高崎山ニホンザル自然群の社会構成 勁草書房 1964.
長谷川真理子   野生ニホンザルの育児行動 海鳴社 1983.
井澤絋生   下北のサル どうぶつ社 1981.
川口幸男   上野動物園サル山物語 大日本図書 1996.
正高信夫   ニホンザルの心を探る 朝日選書462 1992.
丸橋珠樹 山極寿一 古市剛史   屋久島の野生ニホンザル 東海大学出版会 1986.
和 秀雄   ニホンザル 性の生理 どうぶつ社 1982.
大島増次著 三井高孟編   In サルの話言葉 猿の四季 四季社版 1957.
大高成元 川口幸男 中里竜二   もっと知りたい! 十二支のひみつ 小学館 2006.
杉山幸丸   人とサルの違いがわかる本 オーム社  2010.

 
おもしろ哺乳動物大百科119 偶蹄目(クジラ偶蹄目)シカ科 2015.12.1

119)トナカイ

  ヨーロッパ、アジア、北アメリカの寒帯に分布し、高地の樹木限界線近くの草原、開けたタイガ(高緯度地域の針葉樹林帯)、ツンドラの標高2,700~3,000mまで生息し、最低温度はマイナス50~60℃、積雪は60~80cmある地域にも耐えることができます。
  トナカイはトナカイ属に属する唯一の種ですが、広範囲に生息しており、生活圏によって体形や食性、生活などに差異があり生息地ごとに8~10亜種に分類する学者もいます。
  今泉吉典博士は生息地の特徴から9亜種とし、以下の2つの大きなグループに分けています。
1)シンリントナカイ(3亜種を含む)
  シンリントナカイはカナダ中部に多く生息していますが、その他に、フィンランド、ロシア、シベリア中南部、カムチャッカ半島南部、サハリン中部、アムールバイカル湖南端まで、ニューファンドランド・クインシャーロット島などに広く分布しています。森林地帯の湖や川が多い針葉樹林帯に生息し、1年中森林内に留まるものや、春と夏は涼しい山頂や海岸まで50~100kmの距離を移動するものもありますが、ツンドラトナカイのような長距離の季節的な移動はしません。
2)ツンドラトナカイ(6亜種を含む)
  ノルウェー北部からシベリア北部、ノバヤゼムリヤ・スッピツベルゲン・ノボシビルスキエ諸島、アラスカ、カナダ北部、北極海諸島、グリーンランド西海岸に分布し、季節的に群れで移動しています。基本的な社会単位は、メスと子どもの家族グループで、オスたちは小さいバンド(群れ)を作ります。冬の間は雪の少ない針葉樹の森林の端で10数頭の小さな群れで過ごしています。春になるとこれらの小群が集まって50,000~500,000頭の大群を形成し北上を始め、餌の豊富なツンドラをめざします。群れの先頭は妊娠中のメスが多く、雪解けの数週間前までにきまった出産場所に到達します。夏季には北シベリアとアラスカ北岸諸島の広い低地のツンドラに集まり、ここで出産をし、雪どけ後に出た青草を十分に採食します。そして秋には再び春とほぼ同じルートを南下し、雪の少ない森林の北端にやってきてシンリントナカイの生息地に入りますが、シンリントナカイはさらに奥地に入るので出会うことはほとんどありません。主に昼間活動し、ほとんど一定の速さで最高時速60~80kmで移動し、時速11kmで泳いだ報告もあります。 移動距離はタイミル半島(シベリア北部)では1,000~2,000km、ヤクート(シベリア北東部)では600~700km、1989年の1年間にアラスカとカナダのユーコン準州を5,055km移動したと報告されています。
  トナカイが季節的な移動をする主な要因として以下の3点を挙げる学者もいます。
1.大量発生する吸血双翅類(蚊,ハエほか)から逃れるため。
2.寒さに適応した体は暑さには弱いので、夏は気温の低い地方で過ごす。
3.ツンドラの餌の方が栄養分に富んでいる。
  ツンドラで生活している間の方が森林で生活する間より栄養状態がよい。

  まだ袋角ですが、太くてがっしりとした角ですね。メスは立派な角を持つオスに魅了されるようです。
まだ袋角ですが、太くてがっしりとした角ですね。メスは立派な角を持つオスに魅了されるようです。
写真家 大高成元氏 撮影
   

ヴィエールトナカイについて
  ヨーロッパに生息するトナカイの中には4肢が短く高緯度北極に生息するグループがいます。このなかまはヴィエールトナカイと呼び、シンリン型とツンドラ型の中間のような体形をしていることから別に区分する学者がいます。

体の特徴

  体長120~220cm、肩高87~150cm、尾長7~20cm、体重60~318kg。
トナカイは耳が小さくてまるく、首は長く喉には長い毛が生えています。寒さに対応するため、体毛は長さ2.5~2.8cmで上毛と下毛の2重になり、上毛は硬く、下毛は羊毛のように柔らかく、鼻鏡まで毛が生えています。体の色はさまざまですが、最も一般的な色は夏毛は褐色から黒褐色ですが、冬毛は長く白っぽくなります。蹄はまるくて幅が広く、側蹄は大きくて軟らかい沼地や雪の上を歩くのに対応しています。体は生息地により小型から大型までさまざまです。
  シカ科のなかでは唯一オスだけでなく、多くのメスにも角があります。角は目の後方から生え、たいてい左右が不相称です。一番下の枝(眉枝)は頭の上に垂れ下がり、ふつう手のひらのように扁平です。落角の時期はオスとメスで異なり、オスは交尾時期が終わる秋から冬にかけて落角し、6月中旬に袋角が生え9月には角化します。メスは初夏出産後に落角し、6月初旬に袋角が生えはじめ、9月下旬には袋角の皮がむけて角化が終わります。大きな角を持ったオスは交尾の優先権があります。角が落ちたオスはメスより弱くなるため、育児中にオスから攻撃されることはありません。オスの角は長さが90~120cm、最大級で140~150cmですが、メスは30~45cmしかありません。体重が230~240kgオスの場合、角の重量は15kgになります。
  換毛は春先から初夏にかけて夏毛に換毛し、9月から12月初旬に冬毛になります。多摩動物公園で飼育していた記録によれば、オスはメスよりはやく、2月初旬から5月中旬にかけて夏毛となり、メスは約1ヶ月遅れて3月初旬から6月下旬頃に換毛したと報告されています。
  眼下腺と蹄間腺の分泌腺があり、発情期に匂いつけをします。視力は弱いようですが聴力と嗅覚は優れており、餌や外敵を臭いで識別できます。
  臼歯は生後4~26ヶ月齢で萌芽します。歯式は、門歯0/3、犬歯1/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計34本ですが、亜種によっては上の犬歯がありません。
乳頭は下腹部に2対あります。

シンリントナカイ
  体は大型で四肢が長く、体毛はふつう暗いチョコレート褐色で、頬は白色です。角は暗褐色で主軸は扁平で、円筒形のツンドラトナカイと違います。ふつう基部から2番目の枝角は後方に向かって伸びます。メスの30~40%には角がありません。
ツンドラトナカイ
  体は小形かあるいは中型で、四肢は短く、毛は長く軟らかで頬と四肢は淡い色をしていて首は白色です。角はオスだけではなくメスにもあり、淡褐色ないしは黄白色で、主軸は円筒形です。左右の大きさが違い、左側が大きく扁平になる傾向があります。

えさ
  えさは四季により変化し、春はいろいろな植物の新芽、夏は青々としたスゲやワタスゲ(いずれもカヤツリグサ科の多年草)、ヤナギ(ヤナギ科ヤナギ属)カバノキ(カバノキ科カバノキ属)の青葉、秋は地衣類、キノコ、常緑樹の葉、そして冬になると小枝や雪の下にある地衣類がえさの中心になります。
  トナカイの生息地には厚さ1mぐらいの地衣類が一面に広がっていて、特に他のえさが乏しくなる冬には貴重なえさとなりますが、雪の下にあるので豪雪地帯では前足の蹄で1m近く雪を掘りおこし採食しています。
  えさとして利用されるその他の植物としてはツツジ科のツルコケモモ、イネ科のナガハグサ、キンポウゲ科のキンポウゲなどがあります。
  草食動物の中で最も肉食傾向が強いとされるトナカイは小魚、レミング、鳥類の卵を採食します。またアヒル、ガチョウ、オオライチョウの糞を採食し、尿を飲むことも知られています。これらの珍しい習性は窒素化合物の不足を補うためとの説もあります。飲み水を雪に依存する割合が高いので、塩分が不足するために海岸に出て海草を食べ、海水を飲み、潮泡(しおあわ;海水のあわ)を舐めます。ツンドラトナカイはシンリントナカイよりも肉食が多く見られると言われています。

繁殖
  発情期は9月~10月で、発情周期は10~24日です。この間の12~24時間にオスを受け入れます。ツンドラのオスは5~15頭のメスのハーレムを築き、できる限り多くのメスと交尾しようとするため、体重が20~25%減少します。10月に交尾し、妊娠期間は221~237日です。出産は5月から6月の初夏で、群れの先頭を移動してきたメスたちは一斉に出産し、3週間後に遅れて来たメスたちと合流し、餌が豊富な場所に移動します。産子数はふつう1産1子ですが、双子の例もまれに報告されています。出産時の子どもの体重は4~9kgです。生まれたばかりの子どもには斑点がありません。生後1時間で、母親の後をついて歩きます。乳成分は、水分64.7%、蛋白質10.3%、脂肪22.5%、炭水化物2.5%で栄養価の高い乳を飲んで子どもは急成長します。ちなみにウシの乳成分は水分88.5%、蛋白質3.2%, 脂肪3.7%. 淡水化物 4.6%, ウマでは水分90.3% 蛋白質 2.1%, 脂肪 1.3%. 炭水化物 6.3%です。1年後には親とほぼ同じ体格になります。通常は生後17~41ヶ月齢の間に性成熟に達しますが、環境にめぐまれた生息地では6ヶ月齢ぐらいで発情するメスもいます。多くのメスは生後28~29ヶ月齢で初めて妊娠します。ツンドラトナカイはシンリントナカイよりも繁殖時期が遅いと言われています。
  多摩動物公園における繁殖記録(1968年)によれば「オスは7月頃からフレーメンが始まり、10月中旬になると、角を木に擦りつけ、口をパクパクさせたり、うなり声を出したりしながら飼育員にも攻撃する気配がみせ、11月18日には交尾を確認。メスは4月に下腹部の毛の中に乳首が見えはじめ、4月下旬には乳房が肥大し、5月15日に出産した。生まれた子どもは生後約1時間で起立、2~3時間後に歩行、1週間で4肢がしっかりしてこの頃になると固形物のパン、モヤシ、キャベツを採食。生後17日齢では柔らかい青草を採食。授乳は生後29日齢以降観察されず。生後34日齢でサツマイモ、ニンジンも採食。生後29日齢で角坐がこぶ状に出る。生後34日齢で袋角が出始めた」と報告されています。
  野生での平均寿命は4.5歳、最高寿命15歳という報告があります。飼育下の長寿記録としては、シカゴのブルックフィールド動物園で1956年11月15日から1978年7月28日まで飼育された個体(メス)の飼育期間21年8ヶ月という記録があります。

外敵
  群れで攻撃してくるオオカミはトナカイにとって最も恐ろしい外敵となります。クズリはイタチ科の最大種で、成獣の体重は20~30kgですが、大きな掌で森林の雪の中上を軽々と舞うように動き、トナカイを捕らえます。中国黒竜江の北部のトラはトナカイを餌にしていたとの報告もあります。この他、リンクスやヒグマ、アメリカクロクマ等大型の肉食獣はすべて外敵となりますが、多くは若い個体や傷病個体を狙います。

絶滅危機の程度
  IUCN(国際自然保護連合)発行の2015年版のレッドリストでは軽度懸念(LC)に挙げられていますが、トナカイの個体数がこれ以上減少しないようにさらに監視し、保護する必要があります。
またワシントン条約では現在は規制されていません。

分類   偶蹄目(クジラ偶蹄目) シカ科 トナカイ属
分布   ヨーロッパ、アジア、北アメリカの寒帯
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

120~220cm
60~318kg
87~140cm
7~20cm


主な参考文献
今泉吉典 (監修)   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
G.E.ベロフスキー( D.A.マクドナルド編 )今泉吉典 (監修)   動物大百科 4 大型草食獣 シカ 平凡社 1986.
今泉吉典   シカの分類 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ ㈶東京動物園協会 1977.
F.E.ゾイナー ( 国分直一.木村伸義 訳 )   トナカイ In家畜の歴史 法政大学出版部 1983.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker,S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Flindt, R. (浜本哲郎訳)   数値でみる生物学 シュプリンガー・ジャパン株式会社2007.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
山下輝光   トナカイの繁殖と飼育 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ  ㈶東京動物園協会 1977.

 
おもしろ哺乳動物大百科118 偶蹄目(クジラ偶蹄目)シカ科 2015.11.1

シカ科

  シカ科の仲間はウシ科に次いで種類が多く、今泉吉典博士はヘラジカ属を含め13属に分類しています。最大種はヘラジカで、体重が800kgを越える例も報告されていますが、最少種のプーズー(南米に住む小型のシカ。角は枝分かれしません)は体重が6~8kgしかありません。臼歯は短く、上顎の犬歯は種によってはなく、下顎の犬歯は門歯と同じ形で門歯に接しています。多くの種でオスは枝分かれした角(枝角、トナカイは例外的にメスにも角がある)を持ち、発情期が終わると落角してその後再び生えてきます。原始的な種と考えられているキバノロとジャコウジカは、オスに角がなく、代わりに上顎の犬歯が発達して牙となり武器にもなります。
側蹄(第2、5指の蹄)はふつう地につきません。中手骨と中足骨がある点はマメジカ科に似ていますが一部分は退化してなくなっています。多くは眼下腺があり、涙骨に涙孔が2個あります。ジャコウジカ以外は胆嚢がありません。

118)ヘラジカ

  生息地が以下の二つのグループに分かれるので、それぞれ別種扱いにする学者もいますが、ここでは今泉先生の説に従い同一種とします。
1.ヨーロッパ北部からシベリア西部(エニセイ川まで)
2.シベリア東部(エニセイ川より東部)、アジアのモンゴル、中国東北部、北アメリカ北部のカナダ、アラスカ、アメリカ合衆国の北東部、ワイオミング州
  生活圏は毎年雪におおわれる北向きの森林で湿度が高く、針葉樹林や広葉落葉樹のヤナギ、ポプラの樹木が多い北方気候を好みます。夏はアルタイ山脈の標高1,700mの高地やアラスカのツンドラなど気温が14℃~15℃以上上昇しない地域で過ごします。やがて晩秋になり、雪が降り始めると山を降りて低地に向かい、春、暖かくなると今度は高地への移動が始まります。移動するときは通常時速10~30kmですが、時速56~60kmで走ることができ、移動距離は北米で200km以上、シベリアでは300~500kmに及びます。行動圏は季節ごとに利用する先では2.2~16.9km2ですが、年間を通じればさらに広くなります。また、移動しない個体は2~90km2という報告もあります。冬季は日中も活動しますが、ピークは朝夕の薄暮の時間帯です。なわばりは交尾期に一時的にできますがふつうはありません。繁殖期になると単独生活をしていたオスたちも集まり、その中で優位になったオスは複数のメスとハーレムを形成します。交尾期以外のオスとハーレムを築けないオスは単独で過ごします。子どもは母親に次の子が産まれると追い出されます。五感の中で視力は良くありませんが、見通しの悪い森林では視力はそれほど役立たないためと考えられます。代わりに聴力と嗅覚が優れています。ヘラジカの名前を表す幅広の角は音の集音に役立っていると考えられ、大きな耳の補助機関として働いています。音声によるコミュニケーションは、発情期のオスはしわがれたガーガーという声を発しながら集まり、母と子の間ではブタのようにブーブーと鳴きます。嗅覚は発達しており、とりわけ交尾期には肢の分泌腺や角を木にこすり付けて匂いつけをします。泳ぐのも上手で、湖や川で採食するために潜る姿も観察されています。

  背が高く巨大なシカの仲間です。角が袋角状ですが、ヘラのような形から命名されたようです。
背が高く巨大なシカの仲間です。角が袋角状ですが、ヘラのような形から命名されたようです。
写真家 大高成元氏 撮影
   

体の特徴

  体長240~300cm、肩高185~210cm、尾長12~16cm、体重280~600kg。
シカの仲間で一番大型の種類で、オスの体重が825kgの記録があります。短い頸に大きな頭部、肩は筋肉で盛り上がり、喉には50cmにもなる肉垂れがあってベルと呼ばれています。上唇はラクダと同じように垂れ下がり、鼻鏡は非常に小さく無毛です。冬季のマントのような上毛は長さが約25cmあり、下毛はウールのように柔らく冬の寒さに対応できます。四肢は長く側蹄が大きいことで湿地帯や湖、雪の上を歩くときに足が埋もれないようになっています。高い背は木の若芽を採食するときに有利です。また夏季に水草を餌にするときに長い顔を水中に入れて水草を採ります。大きな角は12月頃落角し、4月頃には新しい袋角が成長をはじめ、8月から9月には立派な角になります。角の形状ははじめ後方に伸び、次に前後2又に分かれ、さらにそれぞれ分岐しています。多くの種類の角は棒状ですが、ヘラジカの場合、名前の示す通りヘラのように平らに幅広の角を形成して、7~11歳で完全な大きさになります。ヨーロッパのヘラジカの角は広げた間隔が平均105cm、重量10kg、(最大記録・145cm、18.5~20kg)、アラスカでは平均145cm、重量20kg、(最大記録・205cm、30~35.8kg)が報告されています。体色は夏季の方が濃くなり、上部は黒から黒褐色、赤褐色、灰褐色で、腹部は明るくなり、冬季はより灰色の度合いが増します。眼下腺及び中足腺があります。寒帯で生活するので外気を大きな鼻に入れて鼻腔内で温めて取り込んでいます。
  歯式は、門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。乳頭は会陰部に2対あります。

えさ
  生息環境の森林が針葉樹林、広葉樹林の潅木なのでこれらに依存しています。夏季と冬季では採食する植物の種類も異なり、夏季はシラカバ(カバノキ科カバノキ属)、ハンノキ(カバノキ科ハンノキ属)、ヤナギ(ヤナギ科ヤナギ属)その他の低木などの新芽、葉のほかに背の高い草と川や湖に生えている水草や底に生えている草の根も食べます。冬季は小枝や樹皮、雪の下に埋もれているコケや地衣類も大きな蹄でかき分けて採食します。アラスカのキナイ半島では冬季にはコケモモ(ツツジ科スノキ属)のような地上の植物を多く採食します。USSR(旧ソ連)での調査によれば355種類がリストアップされていますが、この中で主食として利用している種類はわずかに40種と報告されています。成獣は1日10~30kgの植物が必要ですが、採食量は生息地と季節により差があります。
  帯広動物園では餌にヤナギを与えていますが好んで食べ、ほかにニンジン、リンゴ、ジャガイモ、乾草などの植物の他、カルシウムや鉄分などのビタミン剤も与えている、と報告しています。

繁殖
  交尾期は9~10月、ピークは9月下旬から10月初旬です。メスの発情周期は20~28日(平均24日)で7~12日間続き、この間にオスを受け入れる期間はふつう24時間(15~26時間)以内です。オスはツンドラ地帯では単独で生活していますが9~10月の交尾期になると三々五々集まってきます。集まったオスたちは角を見せ合い、あるいは角を突き合わせて優位になったオスは複数のメスとハーレムを形成します。発情したオスは大きな鳴き声を出しメスを誘い、角を木に叩きつけたり擦りつけたりするほか、肢で地面を掘ってくぼみを作り、排尿し、転げまわったり、おびただしく涎を流したりします。発情したメスはオスが掘ったくぼみや印をつけた穴に近づき、ハーレムのオスと交尾をします。
  妊娠期間はスウェーデンでは226~244日(平均234日)、北米では240~246日で若干の差があります。出産時期は翌年の5月下旬から6月初旬です。ふつう1産1子ですが、2子の割合は1978年の報告によれば地域により幅があり11~33%でした。3子の例はまれですが、アラスカのキナイ半島で報告されています。新生児の体重はヨーロッパで10~12kg、アラスカ州で14~18kgで、通常11~16kgです。新生児の体色は赤褐色で斑点はなく、胸部、4肢、下腹部は灰色から黒く、鼻、蹄、目の周り、耳も黒っぽい色です。母親は出産後5~7日間は、子どもから50m以内にいます。授乳回数は出産当日で7~9回、50日齢まで1日4回です。 2~3週齢で固形物を採食し、生後1ヶ月齢で餌となる植物の大半の種類を採食します。授乳期間は生後5ヶ月齢迄続き、成長は早く生後5ヶ月まで体重は1日あたり約1kg増加します。1歳まで母親と一緒に過ごし、次の子が生まれると追い払われます。最もよく繁殖する年齢は4~12歳ですが、18歳での出産記録もあります。体重の増加はオスの場合8歳まで続きます。寿命はふつう16~19歳ですが、オス・21歳、メス・25歳の記録の他、飼育下の長寿記録で27歳の報告があります。

外敵
  外敵としては、生息地の大型の肉食獣やクマのような雑食獣が挙げられます。アラスカ州のキナイ半島でアメリカクロクマにラジオテレメトリ―を付けた調査によれば、初夏にヘラジカの子どもの34%が殺されましたが、ヒグマとオオカミに殺された割合はいずれも6.4%(1979年の報告)でした。キナイ半島ではヒグマが一番の外敵ではありませんでしたが、他の地域ではヒグマは主要な外敵でヘラジカの雌雄や年齢を問わず殺していました。地域によって外敵となる動物の種は違い、トラ、ピューマ、クズリなどがあげられています。

絶滅危機の程度
  IUCN(国際自然保護連合)発行の2015年版のレッドリストでは、LC(軽度懸念)に指定されて、近い将来絶滅に瀕する見込みが低い種となっています。またワシントン条約では規制されていませんが、家畜伝染病予防法でBSE(牛海面状脳症)などの検疫の規制対象動物のため輸入できません。

分類   偶蹄目(クジラ偶蹄目) シカ科 ヘラジカ属
分布   ヨーロッパ北部、シベリア東部、及びアジア北部(モンゴル、中国東北部)、 カナダ、アラスカ、アメリカ合衆国の北東部
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

オス 250~300cm メス 240~290cm
オス 300~600kg(最大825kgの記録あり) メス 280~460kg
オス 190~210cm   メス 185~200cm
12~16cm


主な参考文献
今泉吉典 (監修)   世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
D.A.マクドナルド編 今泉吉典(監修)   動物大百科 4 大型草食獣 G.E.ベロフスキー著 ヘラジカの採食行動 平凡社 1986.
今泉吉典   シカの分類 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ ㈶東京動物園協会 1977.
Franzmann, A .W.   Mammalian Species. No.154, Alces alces. The American Society of Mammalogists. 1981.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker,S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
浦野明央   第9回 哺乳類の移動と回遊 (ネット)
http://www.press.tokai.ac.jp/webtokai/kaiyuwatarikisou09.pdf

 
おもしろ哺乳動物大百科117 偶蹄目(クジラ偶蹄目)ラクダ科 2015.10.1

ラクダ科

  同じ偶蹄目のキリンやシカより古く出現し、ラクダ亜目に分類されています。現生のラクダ科はラクダ属とラマ属、ビクーナ属の3属に分類され、ラクダ属にはヒトコブラクダとフタコブラクダの2種がいます。両者は背中にある大きなコブの数がひとつかふたつかで容易に見分けられます。コブは大きいもので約100kg、小さいものでも約30kgの重さがあります。
ラマ属はグアナコ、ラマ、アルパカの3種、ビクーナ属はビクーナ1種がいずれも南米の南部と西南部の高山に生息しています。大型のラクダ属に比べ、ラマ属は肩高130cm以下で、耳介が大きく、背中にコブはありません。尾は短く先端に毛の房もありません。
前足、後足ともに指は第3指と第4指の2本で、他の偶蹄類と違って指が地面に着く指行性です。足の底は幅が広くなっています。ラクダより後に出現した同じ偶蹄類のキリンやシカ、イノシシ、ウシは足の指を立てて歩き、指先の周りを蹄で包んでいますが、ラクダの指の骨はほとんど水平で、地面に接する部位に硬いパッドがあり、砂漠などの環境に適応しています。爪は人間と同様に指の上側だけをおおう扁爪です。胃は4つに別れていますが、第3胃が小さく第4胃と境界がはっきりしていないため、過去には3室と考えられていました。盲腸は短く、胆嚢はありません。
このように偶蹄目の中でラクダ科は肢や胃に独特な形態をもち、砂漠のような過酷な環境に適応し生きてきました。

ラクダ属

  大型で肩高160cm以上、耳介は小さく上唇は大きく垂れ下がっています。尾はやや長く先端に毛の房があります。前胸、肘、手根部、後肢の膝にそれぞれ「タコ」あって、座るときにこのタコのお蔭で熱い砂漠の上でも耐えることができます。足の指は2本ですが、指の幅が広く足底ではほぼ繋がってハート形を呈して砂地にめり込まないようになっています。砂漠の船と形容されるように、背中のコブは水を貯めていて、砂漠で水分不足の時に水に換えて使うと長い間信じられていましたが、実際は脂肪組織です。体の脂肪をコブに集中することで、他の部位の脂肪を少なくし、熱を逃がしたり日光を遮断したりしています。休憩するときに太陽に向かって座ることで、日光の照射を最小限に体に受けています。さらに、外気温に合わせて体温を34℃から42℃の間で上下することができます。この結果、日中、砂漠の気温が上昇したときは体温を上げることによって40℃以上になるまで汗をかきません。ふつう動物の水分は血液や筋肉などの体組織に含まれ、汗は血液中の水分を主に使いますが、ラクダは組織の中の水分を使うため血液中の水分は一定に保たれています。多くの動物は体重の約15%の水分を失うと脱水症状を呈しますが、ラクダは約30%の水分を失っても耐えることができます。脱水状態後に、体重202kgの若いメスが1度に66.5L、235kgのオスが104L、他にも一度に130Lの水を飲んだ例が報告されています。第一胃が貯水槽として働き、12分間に体重の30%の水を飲んでも血液の浸透圧は正常値より少し下がる程度で済みます。そして、このように急激に大量の水を飲めば、他の動物では赤血球が壊れてしまう危険がありますが、ラクダの場合は赤血球の数が多いことや、形が細長く血液が流れやすいために膨張しても血管が破裂することはありません。また、体の水分を無駄なく使うために、血液中の水分を排泄する前に腎臓で再吸収して濃い尿として排泄し、大腸でも水分を吸収するので、糞は乾燥した状態で排泄します。ウシの呼吸数は平常時約20回で、高温になると60~80回になるのに比べ、ラクダは20回程度と暑くなってもあまり変わりません。反対に寒いときには体温を下げることによってエネルギーをおさえています。

117)ヒトコブラクダ

  原産地は北アフリカとアラビアの砂漠と考えられますが、野生のものはすでに絶滅し、家畜化したラクダが北アフリカ、インド、ヨーロッパ南部、カナリー諸島で飼育され、その後南アフリカ、アメリカ合衆国、オーストラリアなどに移入されました。特にオーストラリアでは移入されたものが逃走して、野生化し広大な砂漠に大群が生活しています。現在ヒトコブラクダは全世界で約1400万頭生息しているといわれていますが、このうちオーストラリアで野生化しているものは約100万頭と推測されます。
野生時本来の行動はわかりませんが、以下は主にオーストラリアで野生化したラクダの生態を参考にして紹介します。
ヒトコブラクダは暑くて乾燥した土地で乾季と短い雨季があるような環境を好み、湿気が多く寒さの厳しい地域では飼うことが難しい動物です。暑い時には群れ同士が一か所に集まって、外から高い温度が流入するのを防ぎます。夏(10~3、4月)にはメス中心のグループ、冬(4、5~9月)には繁殖グループが見られます。ふつうは家族単位の群れで生活し、1頭のオスと複数のメス、その子どもたちからなる2~20頭で、一夫多妻のハーレムを築きます。ハーレムに入れないオスは、オス同士で群れを作ります。移動するとき、リーダーのオスは後方からメスたちに指示を出し、一列縦隊 になって砂の中を歩いていきます。ラクダの歩き方は体の左右の同じ側にある脚を同時に前に踏み出す「側対歩」と呼ばれる歩き方をします。ふつう1分間に40歩、時速約5kmで歩きますが、時速7~25kmで歩くことができます。日中は休み、朝夕に移動します。短期間の行動圏は50~150km2ですが、年間では5,000 km2に及びます。また、泳ぐのも上手です。サハラでの調査例では“においつけ行動”は観察されませんでしたが、イスラエルの場合、オスが後頭部からの分泌物を特定の場所にこすり付けたと報告されています。
座るときは初めに前脚を折り曲げ、膝の上に体を乗せます。次に後ろ足を折り曲げて体の後ろ部分を地面に下ろします。

  この写真を見ると、カバの子どもと見まちがえるかもしれませんが、これでも立派なコビトカバの成獣です。体重はカバの十分の一くらいです。
本当に首と肢が長いですね。この体形が極暑の砂漠に対応する秘密の一つです。
写真家 大高成元氏 撮影
   

体の特徴

  体長220~340cm、体高180~200cm、尾長45~55cm、体重400~600kg。
頭部と首は長く、上に伸ばすと365cmの高さになり、遠方の植物や水を視覚と鋭い嗅覚で発見できます。背は山のように盛り上がり一つのコブ状の山型を形成し名前の由来となっています。毛皮は細かい毛がびっしり生え断熱効果が高く、体毛はヒツジの毛のようで、頭頂、頸部、喉、肩、背中のコブで長くなっています。冬の長い被毛は春に抜け替わり、夏季には短くなります。体色は薄い茶色で腹部は薄く色も白っぽく、地面からの反射熱を防いでいます。顔に分泌腺はありませんが、オスでは後頭部に分泌腺(後頭腺)が発達しており、発情中は黒い粘液を分泌します。4肢は細長く、地表から腹部が離れることで、砂漠の熱い反射熱を防ぎます。足底の大きさは前足が長さ18cm、幅19cm、後ろ足は長さ16cm、幅17cmで、いずれも幅広で丸く、踵の厚いパッドで体重を支えています。大きな目は視力が発達して、虹彩は楕円形で細長く、太い眉毛と2列に生えた長いまつ毛で保護され、哺乳類では珍しく瞬膜があり、砂嵐の時でも砂が入るのを防ぎながら見ることができます。聴覚も発達し、自在に動く小さな耳の耳孔は細かい毛が密集し、鼻孔も開閉でき、ともに砂漠の砂嵐にも耐えることができます。鼻の粘膜の表面積は広く、砂漠で乾いた熱い空気を吸い込み水分が蒸発すると、その気化熱で鼻の粘膜が冷やされ、同時に血液も冷やされます。大きく硬い唇は、中央でウサギのように分かれていることで、唇を左右別々に動かし、器用に棘のある枝を折ったりむしりとったりすることができます。
ラクダは家畜の歴史が古いため、歯の萌芽状態が良く調べられていて、年齢を決める時の一つの指標としています。歯の萌芽状態から成長を見た場合、8歳までに下顎切歯6本(左右各3本)と下顎犬歯2本(左右各1本)が生えてオトナとします。9歳では、さらに上顎の切歯2本(左右各1本)と犬歯2本(左右各1本)も生えて、完全なオトナとしています。15歳をこえると歯が抜けはじめ採食が困難になる、と報告されています。歯式は門歯(切歯)1/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯3/3で合計34本です。乳頭は鼠径部(そけいぶ)に2対あります。

繁殖
  繁殖期は冬で雨期と重なりますが、サウジアラビアではオスは年中交尾可能です。モロッコで12月中旬から5月、エジプトでは3月から4月、インドでは11月から2月、オーストラリアでは6月から9月です。発情周期は平均28日、発情は2週間続きます。発情後2日目くらいにメスが座って交尾します。オスは発情期になると後頭腺から盛んに分泌物をだし、肩の部分や柱などになすりつけます。また、泡を吹きながらピンクの口蓋を膨らませ口から出します。時にはオスの間でメスをめぐる戦いが行われ、低い声を出して威嚇したり、噛みついて相手を倒そうとしたりします。発情中のオスは気が荒くなり飼育員も咬まれて大けがをした例が各地で報告されています。メスは交尾の刺激によって排卵し受胎します。妊娠期間は平均377日、ケニアでは360~411日、インドの平均390日、その他に336日前後など報告があり幅があります。出産間隔は2年に1回(ケニアでは平均20.2ヶ月)です。普通は1産1子ですが、まれに双子の例もあり、その割合は0.4%程度と言われています。出産時の子どもの体重は、チュニジアでは平均で25.8kg、インドで平均37.3kg(26.4~52.3kg)と差があります。生まれた日に歩くことができます。そのほかの行動が初めて観察されたのは次のように報告されています(生まれてからの時間)。ものを噛む:10分後、歯ぎしりと頭振り:18分後、地上で体の向きを変える:74分後、強烈な吸引力で吸い込む:100分後、蹴る:156分後、欠伸をする:160分後、排尿:185分後、尾でたたく:198分後、母親の頸部に体をこすり付ける:294分後、身震いする:304分後。
初発情は生後4.5~10ヶ月齢に見られます。9~11ヶ月齢まで授乳しますが、家畜のラクダで乳を利用する場合、2~3年授乳させながら搾乳します。2歳までは母親と一緒にいます。メスの性成熟は3歳ですが、ふつうは4~5歳で交尾をさせます。ケニアでは初産は45.6~71.3ヶ月齢(平均54.2ヶ月齢)でした。20歳ぐらいまで繁殖可能です。オスも3歳ぐらいで発情をはじめますが、実際に繁殖可能になるのは6~8歳になってからです。
約1000年もの間、トルクメニスタン、イラン、アフガニスタンなどで、フタコブラクダのオスとヒトコブラクダのメスを交配させて雑種が作られています。この雑種はオスでも発情期に凶暴になることがないので、使役に広く使われていますが、繁殖能力がないと言われています。
長期飼育記録としては、アメリカのフィラデルフィア動物園で1914年4月4日から1942年9月5日まで飼育された個体(オス)の28年5ヶ月があります。

えさ
  基本的に木の新芽や葉を採食するブラウザーで、首を上に伸ばすと高さ350cmの木の枝や葉を採食できます。サハラ砂漠では潅木やイネ科以外の広葉草本が冬で70%、夏は90%混じっていました。他の草食動物が利用しないような栄養価の低いものでも、食べられる植物は何でも食べることで有名で、サハラでの調査ではアカシアやアカザ科などトゲのある植物や塩分を多く含む植物332種類(1984年)がリストアップされています。一日のうち8~12時間を採食時間に費やし、一口に40~50回咀嚼し、植物の栄養分を余すことなく吸収しています。

分類   偶蹄目(クジラ偶蹄目) ラクダ科 ラクダ属
分布   東南アジア、北アフリカ、オーストラリア
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

220~340cm
400~600kg
180~200cm
45~55cm


主な参考文献
D.A.マクドナルド編 今泉吉典(監修)   動物大百科 4 大型草食獣 R.A.ペルー著 カバ 平凡社 1986.
今泉吉典 (監修)   偶蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
K öhler-Rolleson, I U.   Mammalian Species No.375 Camelus dormedarius.
The American Society of Mammalogists 1991.
小森厚・小泉満冶   ラクダの飼育  In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ ㈶東京動物園協会 1977.
堀内 勝   家畜の文化史 三日月書店 1986.
増井光子(訳・監修)   ラクダ ズー・ブックス 誠文堂新光社 1985.
坂田 隆   砂漠のラクダはなぜ太陽に向くか  講談社 BLUE BACKS1991 .
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Weigl, R.   Longevity of Mammals in Captivity; from the Living Collection of the World , Vertriebsverlag. 2005.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World.2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions

 
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