川口先生のペットコラム
旭化成ホームズ株式会社
Profile
ゾウの先生 川口 幸男

1940年東京都伊豆大島に生まれる。上野動物園飼育課を定年退職後、エレファント・トークを主宰。講演や執筆をしている。講演依頼は、メール またはFax 048-781-2309にお願いします。
NHKラジオ番組夏休みこども科学電話相談の先生でもあり、本編では長年の経験を踏まえて幅広く様々な話題を紹介します。
わんにゃんドクター 川口明子

日本獣医畜産大学卒業、同大学外科学研究生として学び、上野動物園で飼育実習後、埼玉県上尾市にかわぐちペットクリニックを開業する。娘夫婦もそろって獣医師で開業しており、一家そろって動物と仲良くつきあっている。
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おもしろ哺乳動物大百科126 菅歯目ツチブタ科 2016.8.1

管歯目

  管歯目は1科(ツチブタ科)1属(ツチブタ属)1種(ツチブタ)で構成される非常に特異な目です。
  門歯と犬歯はなく、前臼歯(4対)と臼歯(6対)があります。これらの歯は小さな六角形の柱の集合体で出来ていて、その柱の中央に穴が開いていて管状になっていることが“管歯目”の名前の由来となっています。1科1属1種なので形態ならびに生態などの特徴などの詳細は種の解説の項を参照してください。

126)ツチブタ

  ツチブタはアフリカのサハラ以南の砂漠を除くほとんど全地域に分布しています。
  生息地はおもに開けた疎林、低木林、サバンナ、草地、そして、エチオピアでは標高3,200mでも見られています。稀に多雨林に生息しますが岩場には生息していません。生活場所は主食となるアリとシロアリのいる地域に限られています。夜行性で昼間は地下の巣穴で休憩し、夜間にえさを探しに出て行きます。巣穴は強い前肢で地面を掘り、後肢で土を後方にかき出しながら掘り進み、5~20分で素早く掘ることができます。大きさは入口は狭く直径40~50cm、ふつうは長さが2~3mで奥に広い部屋がひとつあり、穴から外に出る時もそこで方向転換して頭から先に出てきます。さらに大きな巣穴では長さが13mもあるトンネルが発見されています。この場合にはトンネルの奥の部屋や出入口も複数あります。およそ100×300mの面積の中に集中して掘られ60ヶ所の出入口がある例が報告されています。自分で掘る以外に、同じ地域に住むシロアリの巣を利用することもあります。皮膚が厚いためシロアリに咬まれても平気です。
  巣穴は以下の3つの目的に使われます。
  (1)アリやシロアリを探す。
  (2)避難所として使い行動圏のいたるところにある。
  (3)子どもを産む場所。
生息地は年に何回か水害に遭いますが、泳ぎも上手で安全な場所に避難できます。また、浅い穴で排泄して上から土を被せます。
  オスは単独で暮らしていますが、交尾期になるとメスと一緒に過ごします。子どもは次の繁殖期まで母親と一緒にいます。メスは一定の行動圏内を巡回して餌を探していますが、オスは放浪しています。
  主に夜行性で活動時間のピークは夜8~12時で、一晩に歩く距離は10~30kmですが、他にも2~5km、ウガンダでは一晩に14kmの移動、などの報告があります。通常、外敵を察知すると穴を掘って逃げ込んだり、走って逃げたりします。おっとりしているように見受けられますが、実際には動作は敏捷で力も強く、追い詰められると後肢で立ち上がり、前足で叩き、また仰向けになって前肢の爪で引き裂こうとします。
  行動圏はオス、メス共に共に平均すると3.5km2で、南アフリカのカルー盆地の内陸部の調査によれば、1.3~3.5km2でした。眠るときは丸まって鼻を後肢と尾で被ってガードしています。
  視覚は貧弱ですが、聴覚と嗅覚は優れており、シロアリが群れで移動する音を察知しています。

  体は何となくブタに似ていますが、土を掘る能力がすごいんです。
体は何となくブタに似ていますが、土を掘る能力がすごいんです。
写真家  大高成元氏 撮影
   

体の特徴

  体長100~158cm、肩高60~65cm、尾長45~60cm、体重50~70kg、82kgの記録があります。
  成獣のメスはオスよりわずかに小さいのですが、子ども期には性的二形はありません。このため動物園ではDNAで子どものオスとメスの判別をしたと報告しています。皮膚は厚く、頭部は灰白色か淡黄白色、あるいは灰褐色から灰黄色で尾は白色が強くなります。メスの方が体色はやや薄くなる傾向があります。毛の長さは1.79±0.36cmで、頭と尾の毛は短く、四肢は長めでしばしば黒い毛が生えています。首は短く顔は細長くて、背がアーチ形に湾曲しています。口先は管状で、先細りの長い鼻は良く動きます。先端はブタに良く似た形状で2.5~3.0cmの毛が鼻孔のまわりに生えており、さらに鼻孔を閉じることができるので、ゴミや土が中に入ることはありません。また、目や鼻の周囲など顔に生えている毛は触毛の働きをしています。大顎腺(唾液腺)が発達し頸部から鎖骨にかけて長く伸びています。粘液性の強い舌は口から30cmも出すことができ、餌のアリを簡単に舐めとることができます。耳は長さが15~21cmもあってロバの耳と似て聴覚に優れています。穴にもぐるときは折りたたむことができるため土や砂の侵入を防ぐことができます。前肢は太く短くて力が強く、前肢に4本、後肢に5本の指があります。指には大きなさじ状の鋭い爪があり、アリ塚を壊すときに使います。半蹠行性で指の下には小さな肉趾がついています。尾の基部は太く先端に行くにしたがって細くなります。カンガルーは立ち上がるときに尾を支柱にしますが、ツチブタもまた同様にして立ち上がり他個体とじゃれ合います。胃は単胃で、十二指腸につながる幽門部近くに強い筋肉があって消化を助けています。オス、メス共に肛門腺があり強い匂いの黄色い分泌物を出します。また、ペニスの基部には分泌腺(臭腺)の襞(ひだ)があります。さらに双角子宮で、乳頭は腹部に1対、鼠蹊部(後肢の付け根)に1対あります。体温は32.2~34℃です。
  管歯目は主食のアリを採食するために特化した歯を構成しています。臼歯は中央に穴が開いた6角形の管状の柱が集まって出来ています。臼歯の象牙質はエナメル質ではなく周囲をセメント質で囲まれています。歯根はなく一生伸び続けます。歯式は、門歯0/0、犬歯0/0、前臼歯2/2、臼歯3/3で合計20本です。

えさ
  主食はアリ(ハチ目アリ科)とシロアリ(ゴキブリ目シロアリ科)です。前肢の強力な力でアリ塚を叩き壊し、舌で舐めとって、ふつう嚙まずに飲み込みます。南アフリカで最もよく食べられているアリの種類はAnoplolepis custodiens(アフリカ南部に生息するアシナガキアリのなかま)で約70%を占めます。シロアリの種類は主にHodotermes mozambicus (アフリカ南部に生息するシュウカクシロアリのなかま)及びTrinervitermes trinervoides(アフリカ南部に生息するシロアリのなかま)です。その他にバッタやイナゴ、コウチュウ目のコガネムシやカブトムシの幼虫、その他の昆虫、乾季にはキノコ類(fungi)からカミンマウス(Steatomys pratensis アフリカ南部に分布する小型のマウス)まで採食しています。胃の中に入っているのは食べ物の他に土、砂、小石などがあり、内容物の47%に及んだと報告されています。餌は生息環境や乾季、冬季でも変わり、乾季はアリが多く、雨季にはシロアリが多くなります。夜間、アリを探すところを観察すると、およそ30mの幅を平均約10km、最高30kmにわたり、耳を地面に向け鼻面を地面に付けるようにしてジグザグに歩くことから、聴覚と嗅覚を使ってアリを探していると考えられています。1万匹以上のシロアリが長さ40mに渡り移動している様子を、音と匂いから見つけて探し当て、舌で一度に数百匹のアリを飲み込むこともあります。
  動物園で育てた人工哺育の餌は、馬肉のミンチ、ドッグフード、卵、トマト、パン、煮イモを混ぜ合わせたものですが、他の品目としてミルワーム、炊いた米、ミルクなどあります。

繁殖
  発情時には性器が腫脹しますが、その腫れは時々消失することがあります。妊娠期間は飼育下での記録(6例)によると平均243日(235~258日)でした。出産期は生息地によって異なり、コンゴ民主共和国(旧ザイール)では10~11月、南アフリカ5月~7月、ボツワナ5月~8月です。飼育下では1年中繁殖が見られますが、ピークは2月、3月、6月でした。妊娠すると腹部が増大し、乳首が腫脹し、出産1ヶ月前になると、乳をしぼることができます。1産1子ですが稀に2頭生まれます。目は開いて生まれ、成獣の皮膚は固いのですが、子どもの皮膚は柔らかく毛は生えていません。生まれたばかりの子どもの体重は平均1.7kg(1.3~1.9kg)です。生後3日齢で白い毛が生えはじめ、生後1ヶ月齢で臀部と頭部は白く、他は黒みがかった灰色になりました。 生後1.5ヶ月齢で体重5.35kg、体長55cm、尾長28cm。生後3ヶ月齢の体重は9kg、体長93cm。生まれて2週間までは子は巣穴で過ごします。生後14週齢でアリを採食し、生後16週齢で離乳します。生後6ヶ月齢で自分の巣穴を掘ることができます。さらに、生後7ヶ月齢で体重が33kg、体長120cmになりました。
  国内で初めて出産に成功した浜松市日本平動物園の記録よれば、出産時の体重1.65kg、体長39cm、尾長23cm、体毛はほとんどなく皮膚は皺が多く色は淡赤色と報告されています。
  性成熟は約2年。飼育下における若い出産例では3歳の報告があり、2歳5ヶ月齢で妊娠したと考えられます。16年間で11頭の出産記録があります。

長寿記録
  アメリカのワシントン州タコマにあるポイントデファアンス動物園で1975年1月27日に生まれて、2004年11月19日に死亡した個体(メス)の29歳9ヶ月という記録があります。

外敵
  大型肉食獣のライオン、ヒョウ、リカオン、ハイエナ、アフリカニシキヘビに捕食されます。アフリカではしばしば、ブッシュマンやホッテントット族によって肉用や皮革のために捕獲されるほか、狩猟の対象にもなります。

絶滅危機の程度
  国際自然保護連合(IUCN)発行の2016年版のレッドリストの評価によれば軽懸念種(LC)に分類され、絶滅のおそれもなく、近い将来絶滅に瀕する見込みが低い種である、としています。
  ツチブタはアフリカの広範囲にわたり分布していることや、夜行性で昼間は巣穴で生活していることから十分な生態研究がされていません。このため野生における生息数は不明です。
  また、主食がアリのため人間の生活に被害が少なく競合対象としての被害は少ないのですが、豚肉と似ているともいわれる肉を得るために捕獲されています。また、皮膚、丈夫な爪や特殊な歯などの各部位は骨董品や伝統的な薬用に利用しています。狩猟機器が昔より格段に発達した現代では、見つかれば容易に捕獲されため、生息数が減少している地域もあるのでこれからも注意が必要です。
アフリカのモレ国立公園、ムワビ野生動物保護区、マシャトウ野生動物保護区などにおいて他の動物と共に保護されています。

亜種
  研究者によって15~18種に分類されますが、今泉吉典先生はまだ全体に調査不足ではっきり分類できないとしています。

分類   管歯目(ツチブタ目)  ツチブタ科   ツチブタ属
分布   アフリカのサハラ以南のほぼ全土(砂漠地域を除きます)
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

100~158 cm
50~70 kg(82kgの記録あり)
60~65 cm
45~60 cm


主な参考文献
R.J.ヴァン・アーデ   ツチブタ  In 動物大百科 4. 大型草食獣  D.A.マクドナルド(編)  今泉吉典  (監修)   平凡社  1986.
斎藤  勝   ツチブタの分類    In世界の動物  分類と飼育 [4]奇蹄目+菅歯目+ハイラックス目+海牛目  (財)東京動物園協会  1984.
今泉吉典  (監修)   世界哺乳類和名辞典    平凡社  1988.
林  壽朗   標準動物図鑑全集  動物Ⅰ  保育社1968.
川畠  実・八木  智子   ツチブタの人工哺育   どうぶつと動物園  Vol.41 No.10  ㈶東京動物園協会  1989.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore. 1999.
Shoshani,J.Goldman,C.A.andThewissen,J.G.M.   Mammalian Species.No.300,Orycteropus afer. The American Society of Mammalogists. 1988.
大津  晴男   1.ツチブタの飼育  In世界の動物  分類と飼育 [4]奇蹄目+菅歯目+ハイラックス目+海牛目  (財)東京動物園協会  1984
田隅  本生  (監修)   朝日=ラルース  週刊世界動物大百科59 貧歯目、有鱗目、管歯目  朝日新聞社  1972
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.

 
おもしろ哺乳動物大百科125 ハイラックス目ハイラックス科 2016.7.1

ハイラックス目

  アフリカから中近東まで広く分布する草食性の原始的な有蹄獣で、ゾウに近い動物と考えられています。1科3属11種に分類されます。

ハイラックス科

  ハイラックス科はキノボリハイラックス属、イワハイラックス属、ハイラックス属の3属に分類され、合わせて11種が生息しています。体重は1.5~5.5kgとウサギほどで、体つきがタヌキに似ているところから別名イワダヌキと呼ばれています。しかし、骨格化石や体のつくりがゾウと似ていることから分類上はゾウに近い仲間とされ、近年のDNA分析結果からも証明されています。
(1)キノボリハイラックス属
  ミナミキノボリハイラックス、ニシキノボリハイラックス、ヒガシキノボリハイラックスの3種に分類されます。アフリカの南東部、東部、中央部、西部に分布しています。乳頭数は鼠蹊部に1対で稀に胸部にもある個体がいます。餌は葉食が主食ですが昆虫も採食します。他のハイラックスと違い夜行性です。ニシキノボリハイラックスはもっとも原始的なハイラックスで、唯一樹上で生活します。
(2)イワハイラックス属
  アハガルイワハイラックス、コンゴイワハイラックス、キボシイワハイラックスの3種が知られています。アフリカ中部から北部にかけて分布しています。昼行性で岩場や崖、木の洞を利用してねぐらにしています。体色は背側に淡灰色で黄色の斑点があり、下部は白色です。乳頭数は胸部に1対、鼠蹊部に2対あるものと、胸部にはない種がいます。
(3)ハイラックス属
アフリカ全土、アラビア半島東部、シナイ半島からレバノンまでハイラックスの仲間で最も広い範囲に分布しています。今泉吉典先生と齋藤勝氏は次の5種に分類しています。種ごとに体色は若干違いがあります。a.ケープハイラックス  b.シリアハイラックス  c.サハラハイラックス  d.カオコベルトハイラックス  e. ジョンストンハイラックス。この中から日本の動物園でもなじみの深いケープハイラックスを紹介します。

125)ケープハイラックス

  南アフリカ、ボツワナ、ジンバブエ(旧ローデシア)、マラウイ南部の各地に分布しています。サバンナ地帯の岩場、イネ科の生える草原、低木林などに生息して、砂漠や半砂漠のような乾燥した環境を好みます。巣穴は岩の下や割れ目、自分で掘った穴を利用して群れで生活しています。1頭が岩場の頂上で見張りをして危険が迫ると声をあげ避難させます。巣穴として利用する割れ目の深さは14cm程度あればよく、わずか1m2の場所に成獣の5頭がくっついていたと報告されています。また、巣穴の入口の広さは外敵となる動物の大きさと関係が深くあります。ヒョウのような大型動物が外敵となっている場所では入口が狭く、ヒョウが入り込むことができないようになっています。基本的に家族単位で2~26頭の群れで生活しています。その社会構造は生息地の大きさによって変わります。4,000m2以下の所では、1頭のなわばりを持つオスと3~7頭の血縁関係のある成獣メス、周辺部のオス、亜成獣のオスとメスで構成されて、なわばり内に侵入してくるオスを激しく攻撃しています。また、成熟したオスは次の4つのタイプに分類できると報告されています。(1)なわばりを持つオス  (2)周辺部にいるオス  (3)前期はなれオス(生後16~24ヶ月齢の若オス)(4)後期はなれオス((3)より1年遅れのオス)です。最優位のなわばりオスがいなくなると、単独で生活している周辺部のオスの中でいちばん順位が高いオスがメスの群れを引き継ぎます。活動する時間帯は昼行性で7時30分~9時30分と15時30分~18時30分の2回ピークがあり、月明かりのある時は夜間も活動します。一日のうち90%以上は休憩しています。ハイラックスは他の多くの哺乳動物に比べ体温の調整能力が乏しく、変温動物のように外気温に左右されます。そのために夏と冬、時間帯、天候などの変化によって活動量が変わります。寒いときは日光浴したり、お互いにくっつきあったりして暖を取り、雨天の時は巣穴から出ません。反対に暑いときは巣穴で休息しています。危険が迫るとこれらの巣穴に逃げ込みます。決まった場所に排泄するため炭酸カルシュウムの結晶が堆積し岩肌が白くなっています。視覚、聴覚ともに鋭く素早く動きます。鳴き声は21種類が報告され、仲間同士のコミュニケーションとして、警戒、不安、脅しなどに使います。クックックッやピーピー音、あるいはブタのようにキーキーが良く聞かれます。歩く時は、前足は足の裏を地面につけて歩く蹠行性ですが、後ろ足はつま先だけで踵は地面に付けずに歩く指向性です。

  分類学的にはゾウに近い種類ですが、外見上は大違い。大きさはウサギくらいのかわいい動物です。
分類学的にはゾウに近い種類ですが、外見上は大違い。大きさはウサギくらいのかわいい動物です。
写真家  大高成元氏 撮影
   

体の特徴

  体長は30.5~58cm、体重3.6~4.0kgで、雌雄の体格はほぼ同じです。
  体色は茶を帯びた灰色で、毛は短くて硬く、体には長い毛がところどころに生えていて感覚毛として働いています。口先は短く、耳は丸くて小さく毛が生えています。尾は1.1~2.4cmと短く外見上見えません。四肢は短く前肢に4指(第1指はありません)、後肢には3本の指(第1指と第5指はありません)があり、前肢と後肢の第2指以外の指には蹄と似た平爪がありますが、後肢の第2指だけは鋭い鉤爪となっています。この鉤爪と下顎の門歯(切歯)はセルフグルーミングをする時に使われます。肢の軸は第3指を通ります。前肢はゾウに似て、手根骨の構造が同じく上下2列に並び、上列と下列もきちんと並んでいます。足裏はやわらかで凸凹があり岩場を歩くのに適しています。活動するときには足裏にある分泌腺から分泌液が出て滑り止めとなり、垂直に近い岩山や木にも登れます。背に分泌腺の背腺(はいせん)裸出部があり黒色の長い毛で囲まれ、発情期には黄色の液体が出ます。背中に分泌腺があるのはペッカリー(北アメリカ南部から南アメリカに分布するイノシシのなかま)と似ています。胆嚢(たんのう)はありません。胃は単一でバクやウマに似ていますが、一対の盲腸のほかに結腸の一部に一対の盲嚢膨大部があり植物の消化を助けています。腎臓が効率的に働くため、水は少量で足ります。歯式は、門歯1/2、犬歯0/0、前臼歯4/4、臼歯3/3で合計34本です。上顎の門歯(切歯)は1対少なくなっています。また、上顎の門歯は無根で一生伸び続け、先端はエナメル質があって堅いものをかじるのに適しています。臼歯の表面は歯冠が高く、畝(うね)があってかたいイネ科植物を食べることができます。乳頭は胸部に1対、鼠蹊部に2対で計3対(6個)です。
  体の特徴は遺伝的には原始的な有蹄類に近いことがわかっています。

えさ
  巣穴から50~100mの場所で一日に約1時間採食しますが、多くの草食獣のように門歯(切歯)を使って植物をかみ取るのではなく臼歯を使います。草や樹皮のほか、木の葉や実、果実や花、地衣類、苔類など、季節に応じて様々な植物質を食べます。主にイネ目イネ科が主食でキビ属(ギニアグラス)、雑草のハルガヤ属、メガルガヤ属、チカラシバ属、マダケ属、マツバシバ属です。その他、ユキノシタ目ベンケイソウ科マンネングサ(セダム)属、キク目キク科ウスユキソウ属や樹木のマメ目、マメ科、キンモクセイ属及びアカシア属、キク目モクセイ科オリーブ属がリストアップされています。また、有毒なキク目キキョウ科キキョウ属・ミゾカクシ属、ロベニア属なども採食しています。
  飼育下の餌として、ニンジン、サツマイモ、リンゴ、バナナ、パン、穀類、青草、乾草、動物用のソーセージ、コオロギなどが給与されています。また、アカシアの葉、カシの新芽、バナナを先に食べると報告しています。

繁殖
  南アフリカでは交尾期は2月から3月で出産期は9月と10月です。発情周期は約13日ですが、しばしば7週間になることもあります。交尾する個体の多くはなわばりを持っているオスと成獣のメスです。発情中は鳴き声が非交尾期より頻繁になり、なわばりに侵入する他個体を上顎の門歯(切歯)を使い激しく攻撃することもあります。妊娠期間は212~240日間で、1産1~6子、普通は2~3子を出産します。小型の草食獣としては妊娠期間が長いのは、ハイラックスの祖先が今よりはるかに大型であった時代の名残ではないかと考えられています。初産の産子数は1~2頭ですが、2~8歳では産子数が増え、老齢個体は減少します。出産直後の子どもは目が完全に開き、毛も生え揃った状態で生まれます。出産時の体重は170~240gで母親の体重の10.8%でした。生後2日齢で高さ40~50cm跳びあがり、生後3~4日齢で少しずつ食べ物を採食し始めます。最初の数日間はおよそ1.5時間間隔で授乳します。生後2週齢で固形物も摂取できます。離乳は生後3ヶ月齢です。性成熟はオス、メスともに通常は28~29ヶ月齢と言われています。オス、メスともに3歳ほどで親と同じ大きさになります。
  飼育下の長寿記録としては、1987年3月15日にアメリカのバージニア州のバージニア動物公園で死亡した個体(メス)の飼育期間14年10ヶ月という記録があります。野生では8.5歳、10歳の記録があります。

外敵
  肉の利用のために狩猟をする人間は最大の敵ですが、野生動物の外敵はヒョウ、ジャッカル、リカオン、サーバルキャット、ライオン、マングース、エジプトコブラ、パフアダー(毒ヘビ、クサリヘビ科 、全長約1m 、胴が太い)、コシジロワシ、サメイロワシ、ゴマバラワシやフクロウなどが挙げられています。

生息数の現状と絶滅危機の程度
  地域によっては肉を目的とした狩猟がおこなわれていますが、分布が広く生息数も安定しているので、現在のところは絶滅のおそれも低い種であるとして、国際自然保護連盟(IUCN)発行の2015年版レッドリストでは低懸念種(LC)になっています。

分類   ハイラックス目(イワダヌキ目)  ハイラックス科
分布   南アフリカ、南西アフリカ、ボツワナ、マラウイ、ジンバブエ(ローデシア)。
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

30.5~58.0 cm
オス  平均  約4.0 kg      メス  平均  約3.6 kg
20~30 cm
1.1~2.4 cm(外見上見えない)


主な参考文献
G.E.ベロフスキー   ハイラックス  In 動物大百科  4 大型草食獣 D.A.マクドナルド(編)  今泉吉典  (監修)  平凡社 1986.
今泉吉典   世界哺乳類和名辞典  平凡社  1988.
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
林  壽朗   標準動物図鑑全集  動物Ⅰ  保育社1968.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ   The Johns Hopkins University Press, Baltimore. 1999.
Olds, N. & Shoshani, J.   Mammalian Species.No.171, Procavia Capensis The American Society of Mammalogists. 1982.
Parker,S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
斎藤  勝   1.ハイラックスの分類  In世界の動物  分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ  ㈶東京動物園協会  1988.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
三浦愼悟   小学館の図鑑  NEO  新版  動物  ハイラックス目  2014.
イアン・レッドモンド  川口幸男  (日本語版監修)   ビジュアル博物館  象  同朋舎出版  1994.
滝沢晃夫   イワハイラックスの飼育経過  In世界の動物  分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ  ㈶東京動物園協会  1988.
山根健一、福永年博、原本  章、大津晴男   イワハイラックスの飼育と繁殖  In世界の動物  分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ  ㈶東京動物園協会  1988.

 
おもしろ哺乳動物大百科124 偶蹄目(クジラ偶蹄目)
プロングホーン科
2016.6.1

プロングホーン科

  プロングホーン科は北アメリカだけに分布して1属(プロングホーン属)1種(プロングホーン)で構成される科なので、体の特徴などは種の解説で紹介します。

124)プロングホーン  (別名  エダツノレイヨウ又はアメリカレイヨウ)

  カナダ南部、アメリカ合衆国西部及びメキシコ北部に分布しています。開けた草原、低木林、半砂漠、稀に針葉樹に生息しており、標高3,353mで見られたとの報告もあります。
  本種は群れで生活しますが、季節によって群れのメンバー数が異なります。5月上旬から発情が終わる10月にかけての繁殖期には少数のグループに分かれます。オス同士で優劣を競い、闘いに勝ったオスは広さ0.23~4.43km2のなわばりを作り、15~30頭のメスとハーレムを形成します。なわばりの境界には排便や排尿で匂いつけをして、侵入してくる他個体に対し、にらんだり大声を出したりして威嚇するほか、時には角や頭を突き合せて戦います。メスは1~2歳の子どもと一緒になわばりの中にいますが1つのなわばりに留まることはなく、他のオスのなわばりも渡り歩きます。ハーレムを築けない成獣のオスは単独で過ごし、2~3歳のワカオスはハーレムの周辺部で過ごします。えさが豊富にあり、水場も近くにある条件の良い場所は、強いオスがなわばりで押さえているため、ワカオスの行動圏はえさとなる植物の質は劣っています。交尾の30~40%は最も条件の良いなわばり内で行われ、最優位のオスはふつう4~5年間なわばりを守るため、同じ個体と交尾し、年間15~30%のメスを受胎させます。一方、同年齢の50%近くは出産しないと報告されています。行動圏はメスと子どもの場合は6.35~10.50km2、ワカオスでは5.1~12.9 km2、ワイオミング州の夏と初秋の行動圏は2.6~5.2km2でこの中にいくつかなわばりがあると言われています。妊娠中のメスは4月下旬に群れから一時離れて単独生活となり、出産後再び群れにもどります。
  秋から冬にかけては年齢、性別に関係なく集まり、1,000頭もの大群になったこともあります。このような大きな群れが走る時はメスがリーダーで先頭を切り、1頭のオスが最後部につきます。昼夜問わず活動しますが、主な活動時間帯は日没直後と日の出前です。稀に眠るのが報告される程度で、あとは採食と反芻を繰り返しながら24時間を過ごします。日中の移動距離は春と夏が0.1~0.8km、秋、冬が3.2~9.7kmで、夏から冬にかけての総移動距離は約160kmに及ぶと報告されています。時速64~72kmで6~7kmの距離を走り続けることができ、最高時速85kmの記録があります。このように長距離を高速で逃げることで肉食獣から身を守っています。シカと同様に危険が迫ると群が一斉に臀部の白い毛を逆立てメンバーに知らせ、開けた草原や半砂漠では人でも約4km離れたプロングホーンを確認できます。寒いときには毛を伏せていますが、砂漠のような暑い場所では毛を逆立て皮膚に冷気を入れます。泳ぐのも上手です。
  冬の大きな群れから分散し再びハーレムを築くことができたオスは元のなわばりに戻ります。視力と嗅覚が優れており、外敵の発見は主に視覚に頼るために視界の悪い地域は避けます。声によるコミュニケーションは親子間のブーブー音、小鹿のようなメーメ―音、オスが攻撃するときのうなる声が聞かれます。

  レイヨウの仲間は1本角が多いのですが、本種の角は二又に分れ、毎年角芯を残して鞘の部分は抜け落ちます。
レイヨウの仲間は1本角が多いのですが、本種の角は二又に分れ、毎年角芯を残して鞘の部分は抜け落ちます。
写真家  大高成元氏 撮影
   

体の特徴

  体長(頭胴長)100~150cm、肩高81~104cm、尾長7.6~17cm、体重は36~70kg。メスはオスより約10%小型です。
  体形はずんぐりして頭部はやや細長く、目は大きく直径約5cmあり、横に突出て眼窩環(がんかかん)で保護され360度の範囲を見ることができます。耳は長さ14.2cm、三角形で先端が尖っています。肢はすらりと細長く、蹄は先端部が尖り2つに別れていて、ひと跳びに3.5~8mの跳躍する時のショックをやわらげるのに役立っています。親指は欠如し、第3指と第4指が発達し、側蹄となる第2指と第5指はありません。長いまつ毛は日光よけの役割を果たしています。オスは皮脂腺が9ヶ所(耳下腺2、腰腺2、尾腺1、蹄間腺4)、メスは6カ所(蹄間腺4、腰腺2)あります。耳下腺の分泌物はなわばりや発情の印となります。眼下腺はありません。体毛は3色に分かれ、背中は赤味を帯びた褐色、四肢の外側と顔面は褐色、腹部、肢の内側、両肩の間の三角形の部位、尻、喉の盾形・三日月形は白です。顔面とオトナオスの耳下腺は黒くなっています。毛は折れやすく、頸背部の毛は長くたてがみのようになり、頭部は冠のような前髪となっています。
  本種の特徴の1つに、目の上方から出ている黒くて変わった形状の角があります。オスの角は40~50cmあり、二又に分かれ上側の枝は先端が後ろにカギ状に曲がって、下方の枝は太く前向きに尖っています。角芯(骨の部分)は1本で、上にかぶさっている角鞘の部位が二又に別れます。角芯は毛の生えた皮膚に覆われており、1年の間に角質化し、外側の角鞘を押し上あげて鞘の部分だけが脱落します。メスの角は短く14~15cmで二又に分かれず、無角の個体もいます。角は毎年10月から11月にかけて脱落します。角ができあがるとその先端が黒く光るようになるまで角を木にこすり続けます。角は5歳まで伸び続けます。ウシの洞角は角芯の上に角質の角が被さり一生抜け替わることはありませんが、オスジカの角は頭骨の角坐(角が生える頭のつけ根)から脱落して頭部には低い台座が残るのみで、プロングホーンのように長い角芯はありません。これらのことからウシとシカの中間型と言われています。絶滅したプロングホーンの仲間には、いずれも枝に分れず真っすぐに2本が伸びた種や、4本角、6本角等の種類がいました。
  歯式は門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。口吻は細長く、ウシ科と同じように頬歯(前臼歯+臼歯)の歯冠部(根ではない部分)は高くなり(長冠歯)、咬合面(かみ合う部分)は半月歯になっていて硬い草をたべるのに適応しています。乳頭は4個(2対)あります。

えさ
  イネ科以外の雑草(広葉草本)が主食ですが、イネ科は春に良く採食し、雑草は夏の間の主食となり、秋から冬にかけては低木の小枝が主な餌となります。雑草は多くの種類を採食しますが、ヨモギ(キク目キク科ヨモギ属)は好物の1種です。その他砂漠に生息するグループはサボテン類を採食し、栽培植物も採食します。雪の下にある植物は前足で掘り起し採食します。臼歯は成長し続けて硬い植物をすりつぶすのに適合しています。青草が豊富な時期には、草の水分をとることで水は飲まなくても大丈夫ですが、夏には水を飲みに行きます。ワイオミング州のレッドデザートにおける調査によれば、5月の一日あたりの飲水量は0.3ℓ、8月は4.5ℓでした。水場までの距離は5~6km以内が普通ですが、成獣のオスは約10kmと遠くなっていました。また、反芻獣特有の塩分が含まれる地域が好まれます。

繁殖
  発情期は生息地により異なり7月から10月初旬の間ですが、ふつうは8月下旬から9月上旬にみられ、2~3週間持続します。ハーレムを率いるオスはこの間に交尾をします。妊娠期間は240~252日です。出産のときメスは群れを離れてふつう目立たないように草のかげに出産します。出産時期は生息場所により違いが見られますが、5月下旬から6月上旬が普通で、初産の産子数は1頭ですが、2回目以降は2頭、稀に3頭を出産します。オスは新生児の面倒は見ません。生まれたばかりの子どもの体重は2~4kgで、波状の美しい灰色の毛で被われています。生後2日齢でウマより早く走ることができますが、群れと一緒に長距離を走ることはできません。出産後、母親は授乳の時だけ子どもを訪れ、1日に20~25分間の間に授乳したり、毛づくろいをしたりして過ごします。生後2週齢になると外敵に追いかけられても群れの仲間と一緒に逃げることができるようになります。そのため、子どもは生後21~26日齢までは草や木の陰に隠れています。生後3週齢ころから植物を少しずつ食べます。新生児には8月下旬まで授乳しますが、離乳はメスよりオスの方が攻撃的な習性が発現するため2~3週間早いと、言われています。成長は早く生後3ヶ月齢で親と同じ体色になります。メスはふつう生後15~16ヶ月齢で性成熟に達します。子どもは母親の交尾期の間は一時的に母親から離れ、子どもだけの小さな群れを作りますが、翌年の春から夏までには再び母親と一緒になります。オスは2歳で性成熟に達しますが、交尾が成功するのはハーレムの形成に成功したオスだけで、ふつう5歳くらいになってからです。初夏に生まれた子どもは7月下旬に雌雄共に角が萌芽します。最初は円錐形の突起ですが、12月になると2~5cmの長さになり、成長が止まり落角します。第2回目(1歳)の角は最初と同様の形ですが12~13cmになっています。第3回目(2歳)で初めて角が楕円形になり先端が二又に分かれます。そして6月になると完全に伸び切りますが、太さが親と同じになるのは5歳になってからです。

長寿記録
  カナダのアシニボイン公園動物園で1985年4月21日に生まれて、2000年11月8日に死亡した個体(オス)の15歳6ヶ月という記録があります。

外敵
  外敵としては、主に若い個体が稀にコヨーテ、ボブキャット、オオカミなどがあげられます。

主な減少原因
  本種の生息地において、農地の開拓、都市化、および鉱山の拡張が進み、森が分断され生息域が減少したことに加え、狩猟によるものです。

絶滅危機の程度
  2015年発行のIUCN(国際自然保護連合)レッドリストでは、放牧地の復興や家畜の放牧、道路、フェンス、違法な狩猟を禁止した結果、生息数が増え、種としてはLC(軽度懸念Least Concern)に指定され、近い将来絶滅に瀕する見込みが低い種です。しかし、亜種の一つソノラプロングホーンは、アメリカ合衆国絶滅危惧種保護法により絶滅の恐れが非常に高いとして絶滅危惧種(EN)に指定されています。また、メキシコの個体群はワシントン条約では付属書Ⅰ表に掲載され、商業取引を禁止しています。

以下の4亜種に分類されています。
Antilocapra americana americana  アメリカプロングホーン(カナダ南西部、アメリカの大部分)
A.a.peninsularis.  カリフォルニアプロングホーン(メキシコのカリフォルニア半島)
A. a.mexicana.    メキシコプロングホーン(メキシコシティの北部、アメリカのニュ-メキシコ南部、
アリゾナ中部)
A.a.sonoriensis.   ソノラプロングホーン(メキシコのソノラ地方西部、アメリカのアリゾナ南部)

分類   偶蹄目(クジラ偶蹄目)  プロングホーン科  プロングホーン属
分布   カナダ南西部、アメリカ合衆国西部、メキシコの北部
大きさ  
体長(頭胴長)
体高(肩高)
尾長
体重

100~150 cm
81~104 cm
7.6~17 cm
36~70 kg


主な参考文献
D.W.キッチン   プロングホーンIn 動物大百科 4 大型草食獣 D.A.マクドナルド(編)  今泉吉典  (監修)  平凡社 1986.
今泉吉典   偶蹄目総論  In世界の動物  分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ ㈶東京動物園協会  1977.
今泉吉典   プロングホーンの分類、プロングホーンの生態  In 世界の動物 分類と飼育  偶蹄目=Ⅱ、(財) 東京動物園協会  1979.
今泉吉典  (監修)   世界哺乳類和名辞典  平凡社 1988.
林壽朗   標準動物図鑑全集  動物Ⅱ  保育社 1981.
古賀忠道   「プロングホーン」、  「つののいろいろープロングホーンのつのー」 In 朝日=ラルース「週刊  世界動物大百科」52号  朝日新聞社  1972.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
O’Gara,B. W.   Mammalian Species. No.90, Antilocapra americana. The American Society of Mammalogists. 1978.
Parker,S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.( ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.

 
おもしろ哺乳動物大百科123 偶蹄目(クジラ偶蹄目)ウシ科 2016.5.1

123)ターキン

  インドのアッサム、ミャンマー、ブータン、中国のスーチョワン(四川)、ユンナン(雲南)、カンスー(甘粛)、シャンシー(陝西)の高山に分布しています。
分布が不連続的で分布域ごとに体色が異なることなどから、分類は研究者によって違いがみられ、3~4亜種あるいはそれぞれを独立種とする場合がありますが、今泉吉典博士は次の3亜種に分類しています。
(1)アッサムターキン(Budorcas taxicolor taxicolor)
アッサム東部からミャンマー、およびブータンに分布し、標高1,200~3,500mに生息しています。体の上面は淡灰色か黄色を帯びた灰色、あるいは灰褐色です。
ブータンに生息する個体群を別亜種とする場合はブータンターキン(Budorcas taxicolor whitei)となります。
(2)スーチョワン(四川)ターキン(Budorcas taxicolor tibetanus)
スーチョワン(四川)、チョンツー(成都)、ユンナン(雲南)の標高1,500~3,000mの山地に生息しています。オスの体上面の冬毛は赤みの強い黄金色で、濃い灰色の不規則な形の雲型斑がありますが、メスでは黄金色の部分が灰色です。Tangjiahe Nature Reserve(自然保護区)では、51の群れが観察されています。
(3)シャンシー(陝西)ターキンBudorcas taxicolor bedfordi
カンスー(甘粛)、シャンシー(陝西)の標高1,500~3,600mの急峻な産地に生息しています。北方に生息するものは明るく黄色から金白色になります。メスはベージュ色から濃茶色ですが、オスの成獣はとりわけ冬毛に日光が当たると黄色に輝くことから別名ゴールデンターキンと呼ばれています。

  針葉樹と常緑広葉樹のシャクナゲなどの低木や竹が密集した場所や、急勾配の傾斜地に生息しています。夏は標高2,400~4,250mの高地森林限界付近の草地に移動して100~300頭の大きな群れになります。群をつくることで繁殖行動をスムースにしたり、外敵のトラやツキノワグマなどの捕食動物を避けたりしていると考えられています。冬季には10~35頭に分散し草の多い谷間に降ります。
  スーチョワン(四川)ターキンの大部分の群れはメス、幼獣、亜成獣、それに数頭のオスからなる混成群で、群れのサイズは10~35頭でした。1頭または数頭のオスが複数のメスを率い、外敵から群を守りながら生活しています。年老いたオスは単独で生活しますが、8~9月の繁殖期はしばしばメスと一緒に過ごします。
  シャンシー(陝西)ターキン(ゴールデンターキン)の群れの平均サイズは10.8頭、最大で59頭でした。50%以上が15頭より多く、53%に1頭以上の成獣のメスがいました。1例のみオスだけの群れが観察されています。オスとメスの比率は49頭のオスに対してメスが100頭でした。行動圏は夏が19.5km2、秋が22km2、冬が11km2でした。若メスの行動圏は成獣のメスの行動圏よりも広いと言われています。1年の間に季節によって4回移動しています。夏(6~8月)は2,200~2,800mの高地、冬(12~3月)は1,900~2,400mに低地に移動します。さらに春(4~5月)と秋(9~11月)には1,400~1,900mの低地に短期間ですが移動しています。
  ふつう活動時間帯は早朝と夕暮れ時ですが、ブータンでは冬季でも終日断続的に採食しています。移動の際は岩から岩へ跳び移ったり、ゆっくり移動したりしながら定期的にえさ場となる草地や塩なめ場に行きます。
  危険を察するとウマのような咳払い、鼻を鳴らす、ラッパ音、鋭いホイッスルのような警戒音を発し、群れのメンバーは安全な藪の中に急いで避難します。
(現在は、動物園で検索すれば、インターネットとで録音したターキンの鳴き声を聞くことができます)
発情時にはオスは前肢や胸に自分の尿をスプレー状に飛ばし、一方メスは尾を体に密着して排尿し長い尾の毛を濡らします。このような状態でオスはメスの外陰周辺部を舐めることで、発情の兆候を察知していると考えられます。

  顔を見るとウシに似ていますが、全身に油性の臭腺が分布しベタベタしているそうです。そのためこんな雪の中で生息できるのでしょう。
顔を見るとウシに似ていますが、全身に油性の臭腺が分布しベタベタしているそうです。
そのためこんな雪の中で生息できるのでしょう。
   

体の特徴

  体長は170~220cm、肩高 オス100~130cm, 尾長10~20cm、体重 240~350kgでオスの方がメスよりひとまわり大きくなります。
  太く短い角は雌雄共にありますが、オスの角はメスより長く、頑丈になります。はじめは基部から上に伸びると急角度で外側に曲がり次に後方に曲がりながら上方に伸び長さが約63cmあります。オスの角の先端部は左右で58~91cmに広がっています。根元の周囲は20~32cmです。肢が短く体は全体にがっしりとしています。後肢より前肢が特に頑強蹄が大きくなっています。飼育下の子どもはヤギのように活発に岩場を駆け登りますが、2つに分れた蹄が岩場を動き回るのを助けます。目は頭部の上方、鼻口部から離れ、角の近くについています。鼻鏡は小さく左右の鼻孔の間に毛が生えています。体毛の長さは横腹が3~5cm、背中は7.5~10cm、頸部は約7cm、あごひげは約12cmです。幼獣や成獣の冬毛の下毛には羊毛状の毛が生えます。たてがみはありません。鼠径腺、眼下腺、蹄間腺など臭いつけを行う特定の分泌線はありませんが、臭腺は全身に分布しており、年中強い臭いがする油状の物質を分泌しているので体中がベタベタしています。生息する地域は湿気が高いのでからだに露が付着するのを防止するためと考えられています。乳頭は2対(4個)で鼠蹊部にあります。歯式は、門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。

えさ
  ターキンの採食する餌の種類は広範囲で、草、木の葉、竹の葉、タケノコ、豆類の葉、ニレの樹皮などがあります。
  日中は茂みに隠れ、主に朝夕活動しますが、曇天の時は日中も生息地に点在する灌木や草を採食します。夏の主食は低地に生えているイネ科以外の草(広葉草本)で、茎、花や実も採食します。冬は竹林やシャクナゲの繁った森で竹、ヤナギの芽、シャクナゲの葉や小枝などを主に食べています。直径8~10cmの若木は押し倒して若葉を採食します。
  ウシ、ウマ、ヒツジなどの家畜には有毒なキク科セネシオ属の植物も採食しています。後肢で立ち上がると2.5~3mまで届くので、小型の有蹄獣が採ることができない枝や葉を幅広で柔らかな唇で選択しながら採食しています。移動の途中に離れた場所にある塩なめ場や塩分を多く含む沼地に立ち寄り塩分補給をしています。
  一般に草食獣は餌にしている植物がナトリウムや塩化物をあまり含んでいないためミネラルと塩分をする必要があり、ターキンもまた、その場所で数日間過ごし採食と塩分補給をしています。
  採食する植物数はスーチョワン(四川)ターキンが70種の低木を含む130種類、ゴールデンターキンでは161種類の植物が報告されています。
飼育下の餌は、青草、牧乾草、草食獣用ペレットのほか、樫(カシ)の小枝や葉は好物の一つです。その他、甘藷、ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、穀類、エンバクなどを適宜与えています。

繁殖
  発情期になると成獣のオス同士は正面から頭部でぶつかり合い激しく戦い順位を決めます。発情周期(排卵周期)はよこはま動物園の記録では平均23.3日と報告されています。スーチョワン(四川)での交尾期は7月下旬~8月上旬、出産は翌年の3月から5月で、生後2ヶ月齢で肩高60cmになりました。角芯はまだありませんでした。シャンシー(陜西)では4月が交尾期で出産は翌年の2月から3月でした。
  妊娠期間は飼育下で200~220日、平均で210日です。妊娠中は活動が不活発になり休憩する時間が長くなります。出産はメスの群れの中で行われ、母子は一緒にいます。生まれた時の子どもの体重は5~7kg。一産一子で稀に双子が生まれます。子どもは産後約30分以内に起立し、乳を飲みます。生後3日齢以内で母親とどこにでもついて行くことができます。生後1ヶ月齢で濃い茶色の体色が明るくなってきます。生後1~2ヶ月齢で固形物(草)の採食量が増加すると授乳回数が減りました。多摩動物公園での繁殖例では生後1週間ごろ落ち葉や乾草を口に入れたり、土を舐めたりしたとの報告があります。生後2ヶ月齢で肩高60cmになりました。多摩の例では生後5ヶ月齢で角が萌芽しました。
  性成熟はオス、メスともに平均3.5歳ですが、オスが実際に交尾できるのはさらに数年後になると思われます。若オスより年上のオスのほうが種オスになる確率が高くなります。
  なお、多摩動物公園の観察によれば、母親は採食中に近づいてきた子どもを追い払うしぐさを見せたそうです。野生では他の個体と一緒に採食しないようなので、自分の子どもとて例外ではないのでは、と報告しています。しかし、危険を察知すると即座に子供を守る行動も見せるとも報告しています。
  長寿記録としてはベルリン動物園で1983年2月17日に生まれ、2005年1月現在も飼育中の個体(メス)の飼育期間21年10ヶ月があります。

外敵
  外敵として、ヒョウ、ドール、トラ、ユキヒョウ、ハイイロオオカミ、東アジアに生息するクロクマ(ツキノワグマ)などがいます。しかし、一番の外敵は人間と言われています。

主な減少原因
  野生の生息地は高地ですが森林伐採が進み生息域が減少しています。加えて食用や薬用、毛皮を得るために続いてきた密猟により生息数が減少しています。現在は中国、ブータンなどいずれの原産国でも手厚く保護されています。

絶滅危機の程度
  国際自然保護連合(IUCN)発行の2015年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅱに掲載し、国同士の取引を制限しないと将来絶滅のおそれがあるとして、輸出入に際しては輸出国の輸出許可証が必要としています。
  ブータンにあるジグメ・ドルジ国立公園は東ヒマラヤ地区で最も生態系が豊かな場所で、温暖な広葉樹林から北西の国境にある氷河と永久氷原まで広がり、そこに生息するターキンも保護されています。そして、中国ではターキンをジャイアントパンダと並んで、国家第一級の保護動物に指定して保護しています。

分類   偶蹄目(クジラ偶蹄目)  ウシ科  ターキン属
分布   インドのアッサム、ブータン、ミャンマー、
中国 [スーチョワン(四川)、ユンナン(雲南)、カンスー(甘粛)、シャンシー(陝西)] の高地
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

オス  210~220 cm メス  約170 cm
オス  300~350 kg メス  240~280 kg
オス  110~130 cm メス  100~110 cm
15~20 cm


主な参考文献
1) V.ガイスト   ヤギ、ヒツジの仲間  In  動物大百科 4. 大型草食獣
D.A.マクドナルド編  今泉吉典  (監修)     平凡社  1986.
2) 今泉吉典   ターキン属  ウシ亜科の分類  In世界の動物  分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ  ㈶東京動物園協会  1988.
3) 林  壽郎   標準動物図鑑全集  動物Ⅰ  保育社1968.
4) Neas, J. F. & Hoffman, R. S.   Mammalian Species. No.277, Budorcas taxicolor.
The American Society of Mammalogists. 1987.
5) Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ
The Johns Hopkins University Press, Baltimore. 1999.
6) Parker, S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
7) Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. ( ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.

 
おもしろ哺乳動物大百科122 偶蹄目(クジラ偶蹄目)ウシ科 2016.4.1

122)オグロヌー

  アフリカのケニアからタンザニア、モザンビーク、ジンバブエ、ザンビア、アンゴラ、南アフリカ共和国北部、そして、カラハリ砂漠を含むボツワナ草原と草が豊富な広い湿地や開けた林地の低地から標高約1,000mまで生息しています。
  雨季(1月~4月)にはどこでも草が豊富で、ヌーたちは暑さを避けるため乾いた高地に移動していますが、やがて9月頃乾期になり(ケニアの乾季:5月~9月)草が乏しくなると低地の草場へ移動します。(ヌーの移動は通常5~6月下旬ころから始まり11月頃まで高地に向けておよそ半年間の移住生活になります)。移動時期は毎年気候の変動で若干の違いがみられます。ヌーはシマウマやトムソンガゼルと共に周期的に草を求めて移動するものと、餌や水が豊富にある地域では年間を通じて留まっている群れがいます。タンザニアのセレンゲティ国立公園(約15,000km2)には双方がいて、約40万頭が移動し、1万頭が留まっています。タンザニアのセレンゲティ国立公園からケニアのマサイマラ国立公園まで移動しますが、この間の総移動距離は約1,500kmあり、両国の国境を流れる蛇行して流れるマラ川をヌーは大群で渡らなくてはなりません。その都度、溺死やワニに捕食されています。ヌーは時速65kmから80kmで走ることができます。のちに入植した人々が古くから続いていたヌーたちの移動ルート上を開発し畑にしたり、牧場を作ったりしたため、ルートを変更せざるを得なくなり混乱を招いていると推測する学者もいます。
  乾季の間は性別に関係なく、すべての年齢層の巨大な集団が形成される場合もありますが、通常はメスと幼獣は10頭から1,000頭以上の別の群れの中にいます。そのような群れはたえず歩き回っているか1km2ぐらいの決まった行動圏を持っています。
  オスは1歳になると群れから離れてオスグループに入り、3~4歳でグループから出て単独になり、自分のなわばりを持つようになりますが、なわばりをもたない成獣のオスもいます。オスのなわばりは直径約30mで、メスの群れがどこかに行ってしまった後も守り続けるものもいます。なわばりを持つオス同士の距離はふつう100~400mですが、好条件の場所ではわずかに約9m、悪条件の場所では1,600mと離れています。また、移動中に休止すると、発情しているオスは一時的に小さななわばりを作りますが、10時間以上維持されることは稀との報告もあります。
  主な活動時間帯は早朝と午後遅くで日中の極暑の時間帯は休憩しています。1日の各行動の時間配分は、53%が休息(32%横臥、21%は起立、反芻も含みます)、33%は草を採食、12%が移動(99%は歩く)。1~1.5%社会行動の報告があります。涼しさを保つために時々泥浴びをします。
  ナミビア北部にあるエトーシャ国立公園には、エトーシャパンとよばれる塩類を多く含む低地と半砂漠地帯が含まれ、乾季でも涸れない水場があるため野生動物が集まり、群れの平均サイズは34頭でした。一方、南アフリカ北西部にあるピラネスバーグ国立公園やインド洋に臨む南アフリカ東部のクワズール・ナタール国立公園やクルーガー国立公園では13~15頭で、行動圏は2.5km2と報告されています。
  なわばりでは威嚇と服従や防御と服従の際に誇張したディスプレイを行います。多くの場合、短距離を一気に走ったり鼻を鳴らしたりします。また、人が500m以内に近づいたときやライオンなどの外敵を察知すると、尾をぴんと立てたり、頭を持ち上げ蹄で地面をかいたりして群れの仲間に危険を知らせ、足で地面を蹴ったりして威嚇することもあります。

  ヌーの大群が川を渡る様子は壮大で一枚の絵のようですね。
ヌーの大群が川を渡る様子は壮大で一枚の絵のようですね。
   

体の特徴

  体長(頭胴長)170~240cm、体高(肩高)115~145cm、尾長45~56cm(先端の房を含まない)、体重140~290kg。オスの方がひとまわり大きくなります。
  全体的にアフリカスイギュウをほっそりさせた体形ですが、がっしりと肩部が盛り上がり力強さを感じさせます。鼻孔が大きく下部はかたい毛が生えていますが、上側は狭い毛のない部位があり鼻鏡となっています。前肢は2つに分かれた割れ目の長い蹄に蹄間腺がありますが、後肢にはありません。側蹄も発達しています。眼下腺はオスのほうが大きく分泌液は透明です。
  黒いたてがみが頸部から肩部にかけてあります 。スイギュウに似た角は側方に下向きに湾曲してから上方と内側へ向かい、長さはオスが55~80cm、メスは45~63cmでオスのほうが太く長くなります。尾は長くウマに似ており先は黒く長い房状になっています。体の色は灰褐色か灰黒色で、多くは黒っぽい横縞があります。顔は黒色、目の下に鼻面を横切る白い横帯があるものと、ないものがあります。メスと若い個体の前頭部は茶色や赤がより強くなります。嗅覚が優れています。
  歯式は門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/2、臼歯3/3で合計32本です。乳頭は鼠径部に4個(2対)あります。

えさ
  サバンナに生息する奇蹄目やクジラ偶蹄目の仲間は大方が同じ植物を採食しています。例えば、主食となるイネ科は成長過程により、背丈の高い部位をシマウマ、次にオグロヌー、そして、芝生のようになったところをトムソンガゼルが採食するため競合しません。
  オグロヌーは特に野火で焼けた場所や雨の後に生えてくる高さが10~15cmの短い青草を好んで食べますが、多肉植物(サボテン、トウダイグサ、ベンケイソウなど多量の水分を含む植物)や南アフリカの乾燥地帯の叢林では木の葉も採食しています。南アフリカのクワズール・ナタール州の北部では餌の90%が草です。雨季には谷間に生えるイネ目イネ科パニカム属、イネ科のヒメシバや斜面に生えるメガルカヤ(湿地に生え、高さ約80cmになるイネ科の多年草)を食べ、乾期になるとイネ科のギョウギシバに替わります。採食時間帯は朝夕が主ですが、月夜には夜間も昼と同様に採食し、休息や移動が少なくなります。気温が35度以上に達すると木陰で休憩し、草を食べているのは17~18%に過ぎません。オスのほうがメスや子どもより多く採食します。雌雄や母子の混合した群れよりオスグループのほうが多く食べます。水はあれば朝夕に飲みますが、なければ2~5日間飲まないでも平気です。

繁殖
  雨季から乾期への移動の途中に交尾期を迎え、次の雨季の初め草が一斉に萌芽する時期に出産期を迎えるので母親は十分な餌を採食でき授乳することができます。
  南アフリカでの発情期はクルーガー国立公園で4月から6月上旬、クワズール・ナタール州では4月にピークがあり8月にもう一度弱いピークがあります。発情中はオスグループとなわばりの持つオスの間で絶えず小競り合いがあります。なわばりを持つオスたちは眼下腺や蹄間腺のタールのような匂いがする分泌物を地面や藪、木の幹にこすりつけてなわばりを主張し、前足でひざまずいて互いに頭部をぶつけ合って戦います。なわばりをもつオスだけがその中にいるメスと交尾できます。発情中のメスは異なったオスのなわばりを渡り歩き交尾をします。
  妊娠期間は8~8.5ヶ月で、出産のピークは雨季の初めの2~3週間の間に集中しています。この時期は南アフリカでは11月~1月、タンザニアのセレンゲティでは1~2月にあたります。大群が一斉に出産するため、多少肉食獣やワニに捉えられてもかなりの数が生き残ることができます。出産するときは群れから離れて出産します。新生児は早熟で5分以内に立ち上がり、群れと合流して歩くことができます。生後14日以内に草を食べ始めますが、授乳は約8ヶ月齢まで続きます。出産時の子どもの体重は約22kg、新生児の体色は淡黄褐色で、顔は暗色、背面に黒っぽい縞があります。メスの性成熟は1歳半から2歳半で、普通毎年出産します。角は生後3ヶ月になると額の中央部に突起物があらわれ、最初はまっすぐに伸び、生後8ヶ月齢で外側に曲がり始めます。他のレイヨウのように環状の節はなく、根元がイボ状になるのは2歳以上です。また、左右の根元は近接していますが、成長に伴い外に広がり湾曲しスイギュウと似た形になります。

ヌーの長寿記録
  飼育下ではアメリカのヒューストン動物園で1977年5月31日に生まれて、2001年9月27日にアメリカのフォッシル・リム野生動物センターで死亡した個体(メス)の24歳3ヶ月があります。

別名について
  ヌーという名前の由来はその鳴き声からきたとも考えられています。顔は細面でウシとカモシカの特徴を合わせた形からウシカモシカ、頸部から肩にかけて横縞があることからマダラヌー、その他、ワイルドビースト、ウシレイヨウ、ツノウマなどの異名があります。

外敵
  外敵としては、ブチハイエナ、チーター、リカオン、ライオン、ヒョウ、ジャッカル、ワニがいますが、狙われる個体の多くは幼獣、老齢、ケガや病気の単独個体です。

生息数の現状と絶滅危機の程度
  乱開発による生息地の減少、スポーツハンティングや肉用の狩猟などにより一部の地域では生息数は減少しています。しかし、最近の調査によると全生息数は約155万頭と比較的安定しているので、2015年発行のIUCN(国際自然保護連合)レッドリストでは、現在は絶滅する危険性は少ないとして低懸念種(LC)になっています。

亜種
今泉吉典博士はオグロヌーを以下の5亜種に分類しています。
① クロヒゲオグロヌー(ケープオグロヌー)Connochaetes taurinus taurinus
② シロオビオグロヌー  C.t.johnstoni
③ ザンビアオグロヌー    C.t.cooksoni
④ シロヒゲオグロヌー   C.t.albojubatus
⑤ ゴマシオオグロヌー   C.t.hecki

オグロヌーの近縁種 ― オジロヌー
  ヌー属にはオジロヌーとオグロヌーの2種がいます。オグロヌーよりもひとまわり小形のオジロヌーは、かつてはアフリカ南部の草原や半砂漠にすんでいましたが、19世紀末までには野生のものは絶滅したのではないかと言われていました。しかし、幸いにも個人の農場に半野生状態で残っていることがわかり、この個体群をもとに保護に努めた結果順調に数がふえ、最近の調査では国立公園に約11,000頭、個人の農地や保護地に約7,000頭までに回復しました。

分類   偶蹄目(クジラ偶蹄目)  ウシ科  ヌー属
分布   南アフリカ北部からケニアまで
大きさ  
体長(頭胴長)
体重
体高(肩高)
尾長

オス  180~240cm    メス  170~230cm
オス  165~290kg    メス  140~260kg
オス  125~145cm    メス  115~142cm
35~56cm(先端の房を含まない)


主な参考文献
小森  厚(監修)   オグロヌー  In 朝日=ラルース「週刊  世界動物大百科」48号  朝日新聞社  1972.
P.D.ムーア&B.D.ターナ   Inサバンナ草原、動物大百科18 動物の生態  D.A.マクドナルド(編)、今泉吉典(監修)  平凡社  1987.
M.G.マレー   大型アンテロープ  In 動物大百科 4  大型草食獣  D.A.マクドナルド(編)  今泉吉典(監修)  平凡社  1986.
今泉吉典(監修)   世界哺乳類和名辞典    平凡社  1988.
今泉吉典   ブルーバック亜科の分類  In世界の動物  分類と飼育  7  偶蹄目=Ⅲ  ㈶東京動物園協会  1988.
Estes, R.D.   The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
Nowak, R. M.   Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker,S.P.(ed)   Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed)   Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
今泉忠明  他   動物の生態図鑑  学研  2004.

 
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