ハウスデザイナーからの手紙

ハウスデザイナーからの手紙vol5:窓をデザインする。

COLUMN

以前社内の設計の研修で、建築家の伊礼智さんに講師として来ていただいたことがあります。
その時印象的だった話の一つが、見ていただいた住宅の窓がどれも多すぎるというコメントをいただいたことです。
「40坪くらいの家なら窓の数は10個まで。」とおっしゃられていた気がします。
これは何も10個以上設けてはだめという話ではなく、本当に必要な物かどうかを考え、見極めなさいという意味だと思います。
その通りです。

また清家清さんは「現代の家相」という著書の中で日本の窓は「柱と柱の間の戸」としての間戸という意味であり、閉まっているのが常態の西洋の窓とは全く異なる概念であるといっています。
そういう意味で日本家屋の窓はモダニズム以降の開口部という概念に近いのだと思います。
写真のリビングの窓の作り方は、まさに柱と柱の間をすべて開口部にしているという点で日本的でもありモダンでもあります。
建物は鉄骨ですが。

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ここで窓の機能について考えてみます。
そもそも窓とは一体何なのか。
住宅を設計するということは、窓の位置や大きさ、開き方を決めていくことだといっても良いと思います。
窓とは外部と内部の接点であり、正確には点ではなく幾重にも重なる層としてとらえたほうが良いかもしれませんが、窓をデザインするということは外から何を取り込んで、何を取り込まないかを決めることです。

では具体的に内と外でやり取りしているものは何なのか、それがわかっていないと気持ちの良い住宅を設計することはできません。
取り込むものは気持ちの良さの素になるもので、制御するのはそれを阻害するものだと言ってしまえばそれまでですが、それは季節や時間帯で変化してしまうこともあるので、もう少し具体的に考えてみたいと思います。

これまでの話の中でも触れているように、真っ先に思いつくものは光です。
二つ目は熱。光を取り込む時に同時に入り込んでしまいます。
それが良いのか悪いかは季節によって変わってしまいます。
冬であればありがたいものが、夏には厄介者にもなってしまいます。
三つ目は風というか空気の流れ。
内と外で空気の入れ替えをするときにも、熱のやり取りが同時に行われます。
もっともそれが目的なので良いのですが。四つ目は景色というか視線です。
外が見えたり、逆に内部をのぞかれたりということです。

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窓外から取り込んだ桜の景色が、さらに室内のピアノに移りこんでいる。

海や山、公園の緑が見えたりしたら、余計なことは考えずに、それだけを取り込むようにすれば気持ちの良い家が自動的にでき上がります。
外から見られるような場合は窓を取りやめるか外からの視線をカットするような工夫が必要になります。
最後は物や人の出入りです。
住人やペットは玄関ドアや掃出し窓から出入りします。
夏だと蚊のような嫌な虫が入り込んだり、ありがたくないものの代表として空き巣や強盗なんていう人たちが侵入することもあるかもしれません。

このように窓から入ってくる代表的な物は五つあり、これをよく理解していれば良い窓のデザインができ、気持ちの良い住宅ができ上がります。

arakawa.jpgPROFILE荒川圭史/(旭化成ホームズ TOKYO DESIGN OFFICE 上席設計士)
1961年生まれ、東京都出身。
東京理科大学建築学科卒業後、同大学大学院工学研究科建築学専攻修士 課程終了。
1987年旭化成工業に入社以来、東京の城南エリアで邸別の設計業務に携わる。
へーベルハウスに地下室を作るための設計仕様、施工方法など基本的な仕様の作成も行う。
その後、住宅の外壁や外構部材のカラーコーディネイトを行うための仕組みを考えるプロジェクトをスタートし、システムとして特許を取得。
SHIBUYA DESIGN OFFICE(現在のTOKYO DESIGN OFFICE)を立ち上げる。
「フレックスレジデンス成城モデル」によるグッドデザイン賞など受賞多数

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HailMaryこちらのコラムはHailMary9月号に掲載されています。

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