敷金トラブルや更新料をめぐる裁判など、賃貸物件にまつわる数々のニュースが報道されています。家賃滞納者に対する強引な取り立てなども問題視されており、不動産賃貸業全体に対しての信頼が問われています。そこで新たに「賃貸住宅管理業登録制度」が施行されました。賃貸住宅管理業者を登録制にして明確なルールを義務付けることで、入居者・賃貸オーナー・管理会社のトラブルを防ぐための制度です。この制度が必要になった背景や、制度の大まかな内容について見てみましょう。
2011年12月、国土交通省より施行された賃貸住宅管理業者登録制度。賃貸住宅管理業に登録制度が設けられ、その業務内容にも一定のルールが義務化されます。同制度が設立された背景の一つは、国民生活センターに寄せられる次のようなトラブル事例です。
「滞納した家賃を保証会社が支払った。保証会社から14%の金利を乗せた請求を受けているが、この金利は妥当なのか?」「契約更新しないと連絡したのに、申し出が遅いから更新済みとみなされ1カ月分の家賃を請求された」(※国民生活センターのホームページの掲載事例から抜粋)など、家賃や更新料に関するトラブルが目立ちます。さらに管理会社や保証会社の強制的な家賃の取り立ても問題になっています。「支払い期限に遅れたら保証会社から強引な口調で督促された」「保証サービス会社から、家賃滞納を理由に部屋の鍵をロックされた」など、法的に問題となり得る事例も寄せられています。
古くからアパートを経営してきた賃貸オーナーなら「大家と言えば親も同然、店子(たなこ)と言えば子も同然」という言葉をご存じの人は多いでしょう。「不景気な世の中だから家賃が少々遅れるのは仕方ない。払える時まで待ってあげよう」。そんな姿勢を今なお持ち続けている賃貸オーナーもいますが、そのような昔気質の賃貸オーナーは少数派となりつつあります。
現在、日本の民間賃貸住宅は約1770万戸(総務省統計局2008年度資料より)。そのうち8割強は個人所有で、個人所有者のうちの8割は業務の全体あるいは一部を管理会社に委託しています。つまり現在の日本の多くの賃貸アパートや賃貸マンションが、賃貸オーナー個人ではなく、管理会社という事業者によって運営・管理されています。その管理会社の一部に悪質な企業があり、不動産賃貸管理業全体の信用も問われています。
現在は賃貸住宅管理について全国的な行政ルールがありません。賃貸借契約書には家賃の支払い期日についての項目はありますが、家賃を滞納した場合には何カ月以内に退去するなどのような細かな点までは触れていないものが多く見られます。借り手の中には「遅れた家賃は以前のアパートなら3カ月以内に支払えばよかった。しかし今のアパートでは早急に一部でも支払いがなければ鍵を取り替えると言われている」など、管理会社の対応の差も借り手に混乱や不信感を与えています。
そこで賃貸住宅のトラブルを防ぎ、管理業者の業務内容に一定のルールを定めるのが「賃貸住宅管理業登録制度」です。登録の対象となるのは「家賃・敷金などの受領事務」「契約更新事務」「契約終了事務」のいずれかを行う事業所。賃貸物件の中には賃貸オーナーが個人で管理しているアパートやマンションもありますが、今回の制度では法人個人を問わず登録でき、登録料不要の方向で議論が進められています。登録事業者には一定のルールが義務付けられ、現在行われている「重要事項説明」は今後ますます必要性が高まります。
例えば、敷金精算時の入居者負担については書面での交付が必須となるでしょう。また登録事業者から国土交通省へ業務状況や財産の分別管理状況を、毎年1回報告する義務も課せられます。これらのルールに違反する登録事業者には指導や勧告が行われ、場合によっては登録を抹消されます。
賃貸住宅管理業登録制度によって、管理会社にはこれまで以上に書面の交付など多くの業務が課せられることになりそうですが、あくまでこの登録制度は任意の加入です。ただし、賃貸住宅管理における統一ルールがあることで管理会社の業務がよりスムーズに行えるメリットはあるでしょう。登録制度の施行後は、登録事業者には登録業者マークなどが配布されます。一般の人々にそのマークの意味が周知されるのには時間がかかるでしょうが、賃貸オーナーから見れば、所有するアパートやマンションの仲介・管理を委託する業者選びの基準にできます。
賃貸物件の借り手となりやすい若い世代の人口減少や、それによって生じている高い空室率などを考えると、やはり「安心して部屋を探せる不動産屋」が借りる人にも、そして賃貸オーナーにとっても安心でしょう。